高脂肪食による非侵襲性マイクロミニピッグ脳梗塞・心筋梗塞モデルの開発 

文献情報

文献番号
201307003A
報告書区分
総括
研究課題名
高脂肪食による非侵襲性マイクロミニピッグ脳梗塞・心筋梗塞モデルの開発 
課題番号
H23-創薬総合-一般-003
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
谷本 昭英(鹿児島大学 大学院医歯学総合研究科)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
6,800,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
循環器疾患の克服のため,動脈硬化の病態を解明し,治療法・予防法を開発するための動物モデル開発は不可欠である.従来のモデル動物はヒトとの類似点が乏しく,とくにマウスは低LDLコレステロール動物であり本来は動脈硬化を来しにくい.よりヒトに類似した動物モデルが求められており,近年はブタがヒトとの生理学・解剖学的な類似性から注目されている.我々は世界最小・超小型マイクロミニピッグ(MMPig: Microminipig)に高脂肪・コレステロール食を給餌し,持続的高コレステロール血症と動脈硬化症を誘導した.MMPigのサイズはビーグル犬程度であり,一般のミニブタに比べ実験コストが安価で、取扱が容易である.MMPigは高LDLコレステロール動物で,食性や睡眠行動などヒトとの類似点も多く,食事制御のみでヒトに類似した動脈硬化病変を誘発できる.一方,睡眠障害はヒトの動脈硬化の危険因子として注目されており,MMPig動脈硬化モデルに睡眠障害を負荷することにより,短期間で動脈硬化病変を進行させ,非侵襲性脳・心筋梗塞モデルの確立を目指した.
研究方法
 平成23年度には,高脂肪食8週間の食餌性投与を行った.従来,高脂肪食投与においてはコール酸を添加するが,今回はコール酸添加の必要性の検討とともに,高コレステロール血症と全身の粥状動脈硬化の誘導に必要な高脂肪食の組成条件を決定した.平成24年度には,比較的低濃度の高コレステロール食負荷で誘導される高脂血症に対するHMG-CoA reductase (スタチン) の阻害剤の効果を検討した.1年以上の長期飼育での観察においては,エコーによる頸動脈などの動脈硬化病変の経時的観察に成功した.平成25年度には,引き続き、長期間にわたり高脂肪・コレステロール食を給餌し,心筋梗塞や脳梗塞の自然発症の有無を検討する研究が行われた.第2には,8週間投与モデルを用いて,スタチン投与による高脂血症および粥状動脈硬化についての詳細な解析が行われた.第3には,睡眠障害モデルの作出と,睡眠ストレスの負荷による心筋梗塞や脳梗塞の自然発症の有無を試みた.第4には血管リングを用いた薬理学的研究を行った.
結果と考察
 コール酸無添加の飼料でも投与2週間以後には安定した高脂血症が見られ,生化学的検討では,コレスロール代謝に関わる分子の肝での発現パターンはヒトときわめて類似していた.8週目の解剖では大動脈や全身動脈にヒトと同様の粥状動脈硬化を形成することを確認した.8週間の実験において,スタチンは有意に高脂血症を改善し,大動脈の粥状動脈硬化病変の抑制にも効果が見られた.マウスよりヒトに近い解剖・生理を有する MMPig において,臨床使用薬剤の効果を示した意義は小さくはない.長期飼育とエコーによる血管病変の経時的観察は,小型動物であるマウスでは観察困難な手技であり,MMPig において初めて可能となった.ブタの寿命は10年以上であり,今後さらに長期間の飼育とエコーによる病変観察が可能になる.睡眠障害ににより,心筋梗塞の自然発症は見られなかった.薬理学的な血管の脳底動脈の反応性から,MMPigが霊長類およびイヌ等に代わる実験動物になる可能性を示した.

結論
 MMPigが動脈硬化モデルとして非常に優れていることを証明する基盤的な研究成果が得られた.

公開日・更新日

公開日
2015-03-03
更新日
-

文献情報

文献番号
201307003B
報告書区分
総合
研究課題名
高脂肪食による非侵襲性マイクロミニピッグ脳梗塞・心筋梗塞モデルの開発 
課題番号
H23-創薬総合-一般-003
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
谷本 昭英(鹿児島大学 大学院医歯学総合研究科)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
循環器疾患の克服のため,主因である動脈硬化の病態を解明し,治療法・予防法を開発するための動物モデル開発は不可欠である.従来のモデル動物はヒトとの類似点が乏しく,とくにマウスは低LDLコレステロール動物であり本来は動脈硬化を来しにくい.よりヒトに類似した動物モデルが求められており,近年はブタがヒトとの生理学・解剖学的な類似性から注目されている.我々は世界最小・超小型マイクロミニピッグ(MMPig: Microminipig)に高脂肪・コレステロール食を給餌し,持続的高コレステロール血症と動脈硬化症を誘導した.MMPigのサイズはビーグル犬程度であり,一般のミニブタに比べ実験コストが安価で、取扱が容易である.MMPigは高LDLコレステロール動物で,食性や睡眠行動などヒトとの類似点も多く,食事制御のみでヒトに類似した動脈硬化病変を誘発できる.一方,睡眠障害はヒトの動脈硬化の危険因子として注目されており,MMPig動脈硬化モデルに睡眠障害を負荷することにより,短期間で動脈硬化病変を進行させ,非侵襲性脳・心筋梗塞モデルの確立を目指す
研究方法
平成25年度には,分担研究者の川口らにより、長期間(1年)にわたり高脂肪・コレステロール食を給餌し,心筋梗塞や脳梗塞の自然発症の有無を検討する研究が行われた.第2には、分担研究者の川口らにより、平成24年度までに確立された8週間投与モデルを用いて,スタチン投与による高脂血症および粥状動脈硬化についての解析が行われた.第3には、分担研究者である堀内らにより,睡眠障害モデルの作出と,睡眠ストレスの負荷による心筋梗塞や脳梗塞の自然発症の有無を試みた.第4には,分担研究者である宮本らにより,血管リングを用いた ex vivo の薬理学的研究を行った.
結果と考察
高脂肪食・高コレステロール食の長期投与試験において,高脂血症と粥状動脈硬化の発症は見られたが,経過中に心筋梗塞や脳梗塞の自然発症は見られなかった.しかしながら,頸動脈の動脈硬化病変をエコー観察により経時的に観察することに成功した.大動物を含めて実験動物において動脈硬化の所見を経時的に観察した報告はほとんどなく,今後の活用が期待された.スタチンは高脂血症を改善し,大動脈の粥状動脈硬化病変の抑制にも効果が見られた.現在は大動脈の組織学的解析が進行中である.投与されたスタチンはヒトの臨床投与量であり,MMPig動脈硬化モデルがヒトの臨床薬にたいしても十分な反応を示し,今後の薬効試験に有用であることが示唆された.光を操作することによって睡眠障害は生じたが,動脈硬化進展への影響は強くなかった.しかしながら,ヒトと睡眠パターンが酷似しているMMPigにおいて,睡眠障害モデルの作成に成功したことは,今後の脳の高次機能などの研究に活用できる可能性が考えられた.薬理学的な血管の脳底動脈の反応性から,MMPigが霊長類およびイヌ等の実験動物に代わる実験動物になる可能性を示した.

結論
平成25年度は,MMPigが動脈硬化モデルとして非常に優れていることを証明する基盤的な研究成果が得られた.

公開日・更新日

公開日
2015-03-03
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201307003C

成果

専門的・学術的観点からの成果
動脈硬化の研究においては,従来よりマウスを主体とした遺伝子改変動物が疾患モデルとして汎用されている.しかしながら,マウスは脂質代謝においてヒトと大きく異なり,ヒトにより類似した疾患モデルの開発が必要とされている.今回開発したマイクロミニピッグは,世界最小のミニブタであり,脂質代謝や解剖生理がヒトと近似している.マイクロミニピッグはマウス,ラットや霊長類に代わる新規のヒト型動脈硬化のモデルとなり,創薬における開発ツールのひとつとなる可能性を示した。
臨床的観点からの成果
 ヒト型動脈硬化のモデル動物であるマイクロミニピッグにおいて,高脂血症改善薬(スタチン)の抗高脂血症および抗動脈硬化の効果の可能性を提示した。臨床使用薬に十分な反応を示したことから,本疾患モデルの創薬開発への具体的な有用性を証明したことになる.また,長期飼育下の長期高脂肪食投与においては,経時的に頸動脈の血管病変をエコーで観察することに成功した.大型動物でのみ可能な手技と長期間の観察であり,エコー開発や薬効試験など多方面への応用が期待される.
ガイドライン等の開発
該当なし
その他行政的観点からの成果
該当なし
その他のインパクト
第43回日本毒性学会学術年会シンポジウムにて発表

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
11件
その他論文(和文)
2件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
10件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Hiroaki KAWAGUCHI, Tomonobu YAMADA, Naoki MIURA et al.
Reference Values of Hematological and Biochemical Parameters for the World Smallest Microminipigs
J Vet Med Sci. , 74 , 933-936  (2012)
原著論文2
Tsuyoshi YOSHIKAWA, Yoshihiro TAKAHASHI, Hiroaki KAWAGUCHI et al.
A Dermal Phototoxicity Study Following Intravenous Infusion Administration of Ciprofloxacin Hydrochloride in the Novel Microminipigs
Toxicol Pathol. , 41 , 109-113  (2013)
原著論文3
Naoki MIURA, Hiroaki KAWAGUCHI, Tomoka NAGASATO et al.
Coagulation Activity and White Thrombus Formation in the Microminipig
In Vivo , 27 , 671-680  (2013)
原著論文4
Hiroaki KAWAGUCHI, Tomonobu YAMADA, Naoki MIURA et al.
Sex Differences in Serum Lipid Profile in Novel Microminipigs.
In Vivo , 27 , 617-621  (2013)
原著論文5
Akioka K Kawaguchi H Kitajima S et al.
Investigation of Necessity of Sodium Cholate and Minimal Required Amount of Cholesterol for Dietary Induction of Atherosclerosis in Microminipigs.
In Vivo , 28 , 81-90  (2014)
原著論文6
Kawaguchi H Yamada T Miura N et al.
Rapid Development of Atherosclerosis in the World's Smallest Microminipig fed a high-fat/high cholesterol diet: A Useful Animal Model Because of its Size and Similarity to Human Pathophysiology.
J Atheroscler Thromb. , 21 , 186-203  (2014)
原著論文7
Yamada S, Kawaguchi H, Yamada T, Guo X, Matsuo K, Hamada T, Miura N, Tasaki T, Tanimoto A.
Cholic Acid Enhances Visceral Adiposity, Atherosclerosis and Nonalcoholic Fatty Liver Disease in Microminipigs.
J Atheroscler Thromb.  (2017)
原著論文8
Miyoshi K, Kawaguchi H, Maeda K, Sato M, Akioka K, Noguchi M, Horiuchi M, Tanimoto A
Birth of cloned microminipigs derived from somatic cell nuclear transfer embryos that have been transiently treated with valproic acid.
Cell Program. , 18 , 390-400  (2016)
原著論文9
Noguchi M, Ikedo T, Kawaguchi H, Tanimoto A.
Estrus synchronization in microminipig using estradiol dipropionate and prostaglandin F2α.
J Reprod Dev. , 62 , 373-378  (2016)
原著論文10
Noguchi M, Miura N, Ando T, Kubota C, Hobo S, Kawaguchi H, Tanimoto A.
Profiles of reproductive hormone in the microminipig during the normal estrous cycle.
In Vivo. , 29 , 17-22  (2015)
原著論文11
Miura N, Kucho K, Noguchi M, Miyoshi N, Uchiumi T, Kawaguchi H, Tanimoto A.
Comparison of the genomic sequence of the microminipig, a novel breed of swine, with the genomic database for conventional pig.
In Vivo. , 28 , 1107-1111  (2014)

公開日・更新日

公開日
2015-05-26
更新日
2017-06-19

収支報告書

文献番号
201307003Z