文献情報
文献番号
201306018A
報告書区分
総括
研究課題名
難治性骨折(偽関節)に対するヒト骨髄細胞シートを用いた低侵襲治療手技の開発に関する研究
課題番号
H24-再生-若手-007
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
上羽 智之(公立大学法人 奈良県立医科大学 整形外科)
研究分担者(所属機関)
- 赤羽 学(公立大学法人 奈良県立医科大学 健康政策医学講座)
- 田中 康仁(公立大学法人 奈良県立医科大学 整形外科)
- 川手 健次(公立大学法人 奈良県立医科大学 人工関節・骨軟骨再生医学講座)
- 森田 有亮(同志社大学 生命医科学部 医工学科)
- 城戸 顕(公立大学法人 奈良県立医科大学 整形外科)
- 清水 隆昌(公立大学法人 奈良県立医科大学 整形外科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 再生医療実用化研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
4,165,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究課題では、患者腸骨から採取した骨髄細胞から細胞シートの効率的な作製方法を検討し、その骨形成能の評価を免疫不全動物で行う。また大型動物であるヒツジでも細胞シートが作製可能か検証し、人工骨と組み合わせることにより、人工骨に骨形成能を付与することが出来るかを検討する。
研究方法
細胞シート作製条件の検討では、27歳女性の腸骨より骨髄細胞を採取し、T75フラスコで2週間初期培養後、35㎜培養皿にデキサメサゾン、アスコルビン酸添加培地で14日間培養した。播種する細胞数(1×104cell/cm2あるいは0.5×104cell/cm2)とデキサメサゾン濃度(10・30・50・100nM)をそれぞれの組み合わせで検討した。生体内での検討は細胞数を0.5×104cell/cm2とし、100mmディッシュを用いてデキサメサゾン濃度を10・30・50・100nMの4種類で細胞シートを作製した。細胞シートで人工骨を包み背部皮下に移植し、2か月で標本を摘出し、組織学的および生化学的に骨形成量を評価した。生化学的評価はALP・OC・BMP2・SP7・Runx2のmRNA発現をリアルタイムPCRで定量した。ヌードラット大腿骨偽関節モデルへの細胞シート移植では、偽関節部に直視下および注入で細胞シート移植をおこない、偽関節部の骨形成および骨癒合の検討をおこなった。経時的にレントゲン撮影し、12週で大腿骨を摘出し組織学的、力学的に骨癒合状態を評価した。細胞シート注入法の研究では7週齢ヌードラット背部皮下へあらかじめ人工骨を移植し、生体内の骨形成の検討を行った。移植した人工骨に10㎝培養皿で作製した細胞シートを注入移植した。 移植後1カ月で標本を摘出し組織学的に骨形成を評価した。また生化学的評価としてリアルタイムPCR法で骨形成マーカーのmRNA量を測定した。ヒツジ細胞による細胞シートの骨形成能評価は2歳オスヒツジの上腕骨頭より骨髄細胞を採取し、初期培養後、10㎝培養皿に細胞播種濃度:0.5×104cell/cm2デキサメタゾン濃度:50nM、アスコルビン酸濃度:82μg/mlで6日間培養し細胞シートを作製人工骨と組み合わせ、骨髄を採取したヒツジの背部皮下へ移植した。2週間後摘出し、生化学的および組織学的に評価をおこなった。
結果と考察
In vitroでのそれぞれの培養条件下でおこなったPCR法で測定されたALP・OC・BMP2・SP7・Runx2のmRNA量はデキサメタゾン濃度依存的に上昇が見られた。通常の骨分化誘導を行った群はシート群と同様の傾向が見られ、ほぼ同等量のmRNA発現が見られた。播種細胞密度によるmRNA発現量はほぼ同じ傾向であった。細胞外基質のwestern blottingでは、collagen1はデキサメタゾン濃度で差は認めなかったが、Lamininはデキサメタゾン50nMと100nMの比較では50nMの方が高かった。実際作製したシートはデキサメタゾン濃度が低い方が丈夫で裂けにくく、ハンドリングが容易であろうと推測できた。人工骨と細胞シートを組み合わせた組織像ではデキサメタゾン濃度が高い方が良好な骨形成が認められた。mRNA量は人工骨単独群より有意に高値であり、デキサメタゾン濃度が高いほうが高値であった。以上により培養条件は播種細胞密度:0.5×104cell/cm2、デキサメサゾン濃度:50nM、アスコルビン酸濃度:82μg/mlで14日間の2次培養が好ましいと考えられる。偽関節部への直視下および注入移植では骨性架橋は認められなかった。組織像でも偽関節部は骨性架橋を認めず、繊維性組織が介在していた。3点曲げ試験による力学試験では、細胞シート群と偽関節モデルでは、偽関節の最大曲げ荷重に差は認められなかった。注入移植後1か月目に摘出したβTCPの組織像では人工骨内に骨形成を認めた。摘出した標本のmRNA量はβ-TCP単独で移植した対照群と比べ、骨形成マーカーは統計学的に有意に高値であった。ヒツジへ移植後2週で摘出した人工骨内に骨形成を認めALP活性値の上昇が認められた。今回、大腿骨偽関節部に直視下・注入のいずれの移植方法でも偽関節部に骨癒合は得られなかった。細胞シートの骨形成能が偽関節部を癒合させるほどの骨形成能を有していない可能性や、免疫不全動物を使っているために、偽関節部での骨形成機構がうまく働いていない可能性もある。偽関節部を骨癒合させるには、細胞シートの枚数を増やして移植したり、骨形成能を高めるために新たに何らかの骨形成因子を加えたりする必要があると考える。
結論
ヒト骨髄細胞と大型動物の骨髄細胞から骨形成能を有する細胞シート作製できることが確認できた。偽関節部に対しては癒合が得られなかったことに関してはさらに工夫が必要であると考える。
公開日・更新日
公開日
2015-03-03
更新日
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