自己骨髄間質細胞を用いた歯槽骨再生医療の臨床研究 

文献情報

文献番号
201306002A
報告書区分
総括
研究課題名
自己骨髄間質細胞を用いた歯槽骨再生医療の臨床研究 
課題番号
H23-再生-一般-002
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
各務 秀明(東京大学 医科学研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 長村 登紀子(井上 登紀子)  (東京大学 医科学研究所)
  • 東條 有伸(東京大学 医科学研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 再生医療実用化研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
30,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
自己骨髄間質細胞を用いた新たな歯槽骨再生治療法の安全性と有効性のエビデンス創出し、実用化を目指した第Ⅰ相/第Ⅱa相臨床研究を実施する。特に先行する臨床研究によって得られた課題について検討し、実用化に向けて改良された細胞調製法による歯槽骨再生の効果を先行する臨床試験の結果と比較する。 近年歯科用インプラントは長期的に安定した予後が得られるようになり、普及しつつある。しかしながら、実際にはインプラントを必要とする患者では、骨量が不足する患者が大半である。2010年に歯槽骨の再生が必要となる患者は、国内だけでも年間103,000人と推定される。 歯科領域での骨欠損は大きさが小さく形態が複雑であるために、複雑な形態の骨欠損に適合する顆粒状などの担体を用いる必要がある。しかしながら、顆粒状の担体と細胞の組み合わせによる骨再生の条件については十分に最適化されておらず、また先行臨床研究で問題となった細胞の個体差の影響を解決する方法についても知られていない。

研究方法
歯槽骨萎縮症患者を対象として、顆粒状の担体に対して最適化された自家骨髄間質細胞の培養、分化誘導条件を用いて、この移植材料(以下「培養骨」)の安全性と歯槽骨再生能を評価する。第Ⅰ相試験における主要エンドポイントは安全性、副次エンドポイントは骨生検における骨形態計測量、第Ⅱa相試験における主要エンドポイントは骨生検における骨形態計測量、副次エンドポイントは、安全性、頭部CT撮影画像から得られた骨形成量、インプラントのオッセオインテグレーション、インプラントの脱落とする。第Ⅰ相(15例)、第Ⅱa相として10例を含む25例で評価する。
結果と考察
第I相臨床研究として、口腔状態、歯槽骨の残存骨量、および全身状態など選択基準と除外基準に鑑み、平成24年度までの8例に加えて平成25年度には7名のエントリーが承認され、予定15例のエントリーと8例への培養骨移植を行い、第Ⅰ相15例への細胞移植が終了した。現在までに15例全例の骨生検を行ない、骨再生を確認した。現在細胞移植後2年間のフォローアップ期間中であり、第Ⅰ相 臨床研究のエンドポイントとして、安全性と骨再生の程度に関する評価中である。これまで細胞移植に関連が疑われる有害事象は発生しておらず、治療の安全性が示唆される。また、非脱灰標本を用いた骨占有率の評価では、標本作製が終了した11例までの評価で45%であり、これは比較対象である先行臨床研究と比較して、同等以上と考えられた。また、本臨床研究の課題の一つである個体差については、細胞増殖、骨占有率ともに大幅な改善を認めた。さらに、本研究期間中に先行臨床研究症例の長期フォローアップを行ない、5年以上の経過で安全性の問題が無いことと再生骨上のインプラントの脱落を認めないことを確認した。
結論
第Ⅰ相15例全例、24カ所の細胞移植と、先行臨床研究5例に対して細胞移植後5年以上の長期フォローアップ行い、細胞移植に関連する有害事象は認められなかった。したがって、本治療の安全性は高いと考えられる。また、15症例全例で骨再生が得られ、これまでに解析が終了し11例では骨再生の程度にも個体差が少なかったことから、実用化に向けて改良された本治療の有効性に関するエビデンスが得られた。

公開日・更新日

公開日
2017-08-01
更新日
-

文献情報

文献番号
201306002B
報告書区分
総合
研究課題名
自己骨髄間質細胞を用いた歯槽骨再生医療の臨床研究 
課題番号
H23-再生-一般-002
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
各務 秀明(東京大学 医科学研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 長村 登紀子(井上 登紀子)  (東京大学 医科学研究所)
  • 東條 有伸(東京大学 医科学研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 再生医療実用化研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
自己骨髄間質細胞を用いた新たな歯槽骨再生治療法の安全性と有効性のエビデンス創出し、実用化を目指した第Ⅰ相/第Ⅱa相臨床研究を実施する。特に先行する臨床研究によって得られた課題について検討し、実用化に向けて改良された細胞調製法による歯槽骨再生の効果を先行する臨床試験の結果と比較する。 近年歯科用インプラントは長期的に安定した予後が得られるようになり、普及しつつある。しかしながら、実際にはインプラントを必要とする患者では、骨量が不足する患者が大半である。2010年に歯槽骨の再生が必要となる患者は、国内だけでも年間103,000人と推定されている。 歯科領域での骨欠損は大きさが小さく形態が複雑であるために、複雑な形態の骨欠損に適合する顆粒状などの担体を用いる必要がある。しかしながら、顆粒状の担体と細胞の組み合わせによる骨再生の条件については十分に最適化されておらず、また先行臨床研究で問題となった細胞の個体差の影響を解決する方法についても知られていない。
研究方法
歯槽骨萎縮症患者を対象として、顆粒状の担体に対して最適化された自家骨髄間質細胞の培養、分化誘導条件を用いて、この移植材料(以下「培養骨」)の安全性と歯槽骨再生能を評価する。第Ⅰ相試験における主要エンドポイントは安全性、副次エンドポイントは骨生検における骨形態計測量、第Ⅱa相試験における主要エンドポイントは骨生検における骨形態計測量、副次エンドポイントは、安全性、頭部CT撮影画像から得られた骨形成量、インプラントのオッセオインテグレーション、インプラントの脱落とする。第Ⅰ相(15例)、第Ⅱa相として10例を含む25例で評価する。
結果と考察
本臨床研究については、平成23年3月15日厚生労働省での承認が得られており、平成23年4月に修正プロトコルに対する学内承認後、テストランを施行した。細胞調製および品質管理にかかわる人材を新たに雇用し、細胞調製施設の維持管理、細胞調製、評価に関するトレーニングを実施した。
平成23年6月24日に被験者募集を開始し、これまでに第I相臨床研究対象15症例全例のエントリーと細胞移植を終了した。細胞移植後3か月にて再評価を行ない、4-5か月後に骨生検とインプラント埋入手術を行なった第1相臨床研究対象者15例全例で骨再生を確認し、インプラントの埋入が可能であった。これまで細胞移植に関連が疑われる有害事象は発生しておらず、治療の安全性が示唆される。また、非脱灰標本を用いた骨占有率の評価では、標本作製が終了した11例までの評価で45%であり、これは比較対象である先行臨床研究と比較して、同等以上と考えられた。また、本臨床研究の課題の一つである個体差については、細胞増殖、骨占有率ともに大幅な改善を認めた。さらに、本研究期間中に先行臨床研究症例の長期フォローアップを行ない、5年以上の経過で安全性の問題が無いことと再生骨上のインプラントの脱落を認めないことを確認した。
結論
本研究の主な課題は、骨髄間質細胞を用いた歯槽骨再生治療の安全性の検証と改良版プロトコルの有用性の検証である。改良版プロトコルについては、細胞調製業務の簡略化とともに、得られる細胞の個体差の解消や骨再生速度に関する個体差を改善することが目的であった。本研究期間中に第Ⅰ相15例全例、24カ所の細胞移植を行い、また先行臨床研究5例に対して細胞移植後5年以上の長期フォローアップ行った。結果として、いずれにおいても細胞移植に関連する有害事象は認められなかったことから、本治療の安全性は高いと考えられた。また、得られた細胞の個体差は先行臨床研究と比較して大きく改善した。さらに、15症例全例で骨再生が得られ、これまでに解析が終了した11例では骨再生の程度にも個体差が少なかったことから、実用化に向けて改良された本治療の有効性に関するエビデンスが得られた。

公開日・更新日

公開日
2017-08-01
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201306002C

成果

専門的・学術的観点からの成果
平成25年度中に第Ⅰ相15例全例への細胞移植と骨生検を行ない、骨再生が得られた。これまでに細胞移植に関連が疑われる有害事象は発生しておらず、治療の安全性が示唆された。これまでの非脱灰標本を用いた骨占有率の評価では、先行臨床研究と比較して骨再生は同等以上と考えられた。なお、骨生検までの期間は先行臨床研究と比較して約3か月短縮しており、新たな骨再生治療の有効性が示唆された。本臨床研究の課題の一つである個体差については、細胞増殖、骨占有率ともに大幅な改善を認めた。
臨床的観点からの成果
これまでの結果から、歯槽骨再生治療の安全性と有効性に関する一定のエビデンスを得ることができた。重度の歯槽骨萎縮や腫瘍摘出後などで通常の義歯では十分な咀嚼力の回復が得られなかった患者に対して、現在では自家骨移植以外には治療法がない。咀嚼障害を持つ患者に対して、新たな治療法を提供することにつながるものと考えられる。一方、咀嚼力(良く噛めること)の回復は、口腔の健康のみでなく、認知症の発症を押さえ、全身活動性の維持に有効であるなど全身の健康状態の改善に大きく寄与することが期待される。
ガイドライン等の開発
本臨床研究を通じて、歯槽骨再生治療の安全性と有効性のエビデンスが集まりつつあり、今後骨再生治療が新たな医療技術や製品として承認されることが期待される。本研究では、再生医療用細胞の新たな品質管理基準の策定にも取り組んできた。品質管理指標として用いているALP活性の測定方法の改善を行なった結果、個体差の影響を受けにくく、安定した骨分化能の指標としてALPインデックスの妥当性が示された。本研究の結果は、再生医療用細胞の品質管理に関してのガイドライン作成に、有用な情報を提供するものである。
その他行政的観点からの成果
従来の義歯では十分な咀嚼力が回復できなかった重度の歯槽骨萎縮症や腫瘍摘出後などの骨欠損症例に対し、低侵襲な骨再生治療を行なうことで、天然歯と同程度の咀嚼機能の回復が可能となる。歯槽骨の再生が必要となる患者は、国内だけでも年間10から20万人と推定されている。一方、骨粗鬆症による骨折治療や難治性骨折に対しても骨再生技術は応用可能である。本研究の成果を歯槽骨以外の骨疾患へと広げることで、特に高齢者に問題となる疾患に新たな治療法を提供し、国民の健康長寿へ貢献することが可能である。
その他のインパクト
本研究と研究実施のための診療部門の新設について、平成23年4月にプレスリリースを行ない、読売新聞および東京新聞にて報道された。平成26年度厚生労働科学研究事業研究成果発表会のなかで,再生医療事業化研究分野として2課題中の1課題に選ばれ講演を行った.歯槽骨再生に関する英文著書の分担執筆と、国際誌からの依頼により総説を発表した。本研究の結果から初代培養の自動化が可能となり、自動培養装置を用いた新たな臨床研究の承認を得て、2018年に届出が受理された。この新たな培養システムは中日新聞等で報道された。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
57件
その他論文(和文)
3件
その他論文(英文等)
4件
学会発表(国内学会)
53件
学会発表(国際学会等)
20件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
4件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
4件

特許

特許の名称
歯槽骨再生用生体吸収性3次元メンブレンの製造方法
詳細情報
分類:
特許番号: 5463496
発明者名: 各務秀明、縣秀樹、堀祐輔、大島聡志
権利者名: 国立大学法人東京大学、株式会社TESホールディングス
出願年月日: 20091203
取得年月日: 20140131
国内外の別: 日本
特許の名称
培養細胞の評価方法
詳細情報
分類:
特許番号: 5701614
発明者名: 各務秀明、縣秀樹、堀祐輔、大島聡志
権利者名: 国立大学法人東京大学、株式会社TESホールディングス
出願年月日: 20100122
取得年月日: 20150227
国内外の別: 日本,台湾
特許の名称
顆粒型培養骨用培養容器
詳細情報
分類:
特許番号: 5099781
発明者名: 各務秀明、縣秀樹、堀祐輔、大島聡志
権利者名: 国立大学法人東京大学、株式会社TESホールディングス
出願年月日: 20091203
取得年月日: 20121005
国内外の別: 日本
特許の名称
顆粒型培養骨の製造方法
詳細情報
分類:
特許番号: 5565587
発明者名: 各務秀明,縣秀樹,堀祐輔,大島聡志
権利者名: 国立大学法人東京大学,株式会社TESホールディングス
出願年月日: 20081203
取得年月日: 20140627
国内外の別: 日本,台湾

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Kagami H.
The potential use of cell-based therapies in the treatment of oral diseases
Oral Diseases , 21 (5) , 545-549  (2015)
10.1111/odi.12320.
原著論文2
Hirokazu Akiyama,1 Asako Kobayashi,2 Masaki Ichimura,et al.
Comparison of Manual and Automated Cultures of Bone Marrow Stromal Cells for Bone Tissue Engineering
J Bioeng Biosci , 120 (5) , 570-576  (2015)
10.1016/j.jbiosc.2015.03.011
原著論文3
Akiko Hori1, Hideki Agata1, Megumi Takaoka et al.
Effect of cell seeding conditions on the efficiency of in vivo bone formation
J Oral Maxillofac Imp , 31 (1) , 232-239  (2015)
10.11607/jomi.4729
原著論文4
Yiming Zhang, Xianqi Li, Takahiro Chihara et al.
Comparing immunocompetent and immunodeficient mice as animal models for bone tissue engineering
Oral Diseases , 21 (5) , 583-592  (2015)
10.1111/odi.12319.

公開日・更新日

公開日
2015-05-26
更新日
2018-05-22

収支報告書

文献番号
201306002Z