高齢期における社会的支援とWell-beingの関係についての研究

文献情報

文献番号
199800180A
報告書区分
総括
研究課題名
高齢期における社会的支援とWell-beingの関係についての研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
前田 大作(立正大学)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
7,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
日本では、欧米諸国で最近さかんに取り組まれている高齢者の社会的支援について正面から取り上げた研究は非常に少ない。とくに社会的支援とWell-beingについての研究はほとんど手が着けられていない。また、これまでの日本における社会的支援についての研究の大部分は、主として健常な高齢者を対象としている。 われわれの研究では、在宅の要介護高齢者とその家族介護者を対象とすることにより、次社会的支援とWell-beingに関する分析を行うことを目的としている。 その際、今回の調査研究では、社会的支援とWell-beingに関する分析対象を家族の中で主に介護している人(主介護者)に絞ることにした。その理由は次のとおりである。要介護高齢者とその家族介護者を対象とした調査では回答者を主介護者とせざるをえない。他方、社会的支援に関する有効な変数は、先行研究に示されるとおり、「認知された支援の入手可能性」(perceived availability of support)であるため本人からの回答に基づく必要がある。
研究方法
(1)調査対象とデータ収集の方法 調査対象地域は、東京都N区である。N区の協力を得て、同区が介護保険事業計画のために行った「要介護高齢者の生活実態調査」の一部として、本研究のための調査を行った。調査の対象は、次の2つの方法で抽出された。調査時点は1998年7~8月である。1)区のサービス台帳記載者調査区の在宅サービス台帳記載者のうち65歳以上3,636人から、区が実施する調査と配分した結果、本研究の調査対象は1,863人となった。この調査は、訪問面接法で行い、回答者は原則として主介護者であった。有効票回収数は1,285人(回収率69.0%)、厚生省が介護保険事業計画のための調査に当たって示した「スクリーニング基準」に照らして「要支援・要介護」に該当した高齢者1,148人が選ばれた。2)2段階調査 上記のサービス台帳記載者以外の在宅高齢者の中にいると考えられる要支援・要介護高齢者を選ぶために、一般の在宅高齢者を対象にした第1次(スクリーニング)調査、および選ばれた高齢者を対象に、第2次調査としてサービス台帳記載者調査と同じ内容の調査を行った。第1次調査は、郵送法、第2次調査は訪問面接法(回答者は原則として主介護者)により行った。 第1次調査の結果、「要支援・要介護」に該当した高齢者が1,219人選ばれた。これをN区が実施する調査と配分し、最終的にこの研究のための第2次調査の対象は353人となった。第2次調査の有効票回収数は303人(回収率85.9%)、このうち「要支援・要介護」該当者は292人であった。(2)サンプルのウェイト付け上述のとおり、今回の調査は、2種類の方法でサンプルを選んでおり、それぞれ母集団に対する抽出率を異にしている。そこで、2種類のサンプルの間で抽出率を等しくするために、上記の2つのサンプルの間でウェイト付けを行った。またこの研究では、後述のP類型、M類型によるわれわれの基準に該当した「要介護高齢者」に限定したので、最終のウェイト付き分析対象は1,673人である。(1) 主要なスケール構成 1)要介護高齢者の身体的障害・精神的障害 要介護高齢者の身体的障害の総合変数として、P類型を構成した。この類型は、老人福祉サービスのニーズを把握するために名義尺度的に分類されたものであるが、「重度」「中度」「軽度」「障害なし」という順序尺度の性質ももっている。 一方、要介護高齢者の精神的障害の総合変数のM類型は、認知障害や問題行動の有無をたずねた16項目を用いて、「重度」「中度」「軽度」「障害なし」の4段階に分類した。 2)社会的支援スケール ここでは、「支援の入手可能性の主観的認知」を測定する方法を用いた。スケールの種類としては、「情緒的支援」、「手段
的支援」およびこれらを合計した「総社会的支援」を設定した。 3)Well-beingの変数 この研究では、客観的なWell-beingの指標として、①親戚・友人・近隣の人との交流頻度、②教養や趣味のためにさいている時間数、③町内会・自治会や宗教・趣味のグループ活動に出かける頻度、これら3変数を合成した総Well-being得点を計算した。
結果と考察
初年度の研究は、上述の研究目的に即した仮説構成を今後行うための予備的・探索的な分析を行った。(1)主介護者に対する社会的支援に関連のある変数 ここでは、社会的支援の総合変数である総社会的支援と有意な関連のある変数を示す。 関連があると想定された変数を分類すると、①介護の遂行に影響すると考えられる主介護者の状況(年齢、健康状態、就業)、②主介護者が介護に対して持っている負担感と利得感(身体的負担、社会的負担、精神的負担、介護利得)、③介護をめぐる家族協力度である。①は定性的変数、②および③は定量的変数である。 なお、主介護者の社会的支援の在りようが、要介護高齢者の障害程度に影響されると考えられるので、統制変数として高齢者の身体的障害の総合変数であるP類型、および精神的障害の総合変数であるM類型を投入する。 分析方法は、今後の仮説構成のための探索的方法として、上記の関連変数を一括投入する多元配置共分散分析をもちいた。なお、主介護者の状況に関わる定性的変数のうち、続柄は、年齢、健康状態、就業の有無と強い定性的関連があることが分かったため、これらと同時投入するといわゆる「抑圧」を起こすおそれがあるため、投入しないことにした。また、共変量である3つの介護負担感についても、社会的負担が精神的負担と.618という高い単相関があり同様に「抑圧」を起こすおそれがあるため、社会的負担を投入しないことにした。 まず、有意な変数をあげると、0.1%水準では家族協力度および主介護者の年齢が有意であった。5%水準では、主介護者の健康状態および身体的負担感が有意であった。 有意な関連の内容は、要因として投入した主介護者の年齢と健康状態については、年齢が高い方が、また健康状態が良くない方が支援入手可能性が小さかった。 一方、共変量として投入した身体的負担感と家族協力度については、身体的負担が大きい方が、また家族協力度が低い方が支援の入手可能性が小さいと受け取られる傾向が見られた。 なお、これらの要因と共変量を投入して行った共分散分析による説明率は、R=.549、R2 =.302で、この種の分析としてはかなり高いといえる。(2)主介護者のWell-beingに関連のある変数 ここでも、社会的支援の場合と同様の関連変数を多元配置共分散分析におい一括投入した結果を分析する。 まず有意な変数をあげると、0.1%水準では、精神的負担感、介護利得感、主介護者の年齢、および主介護者の就業の有無であった。1%水準では身体的負担感が有意であった。社会的支援に関しては有意であった家族協力度および主介護者の健康状態は、ここでは有意ではなかった。 有意な変数との関連の内容は、主介護者の年齢と就業の有無については、ほぼ年齢が高い方が、また有職の方がWell-beingの活動が少なかった。 一方、精神的負担感、身体的負担感、および介護利得感については、負担感が大きい方が、また介護利得感も大きい方がWell-beingの活動が少なかいという傾向が見られた。 なお、この共分散分析における説明率は、R=.310、R2 =.096で、この種の分析としても非常に低いと言える。
結論
本研究では、要介護高齢者の主介護者に対する社会的支援と彼らのWell-beingという、これまでわが国でほとんど取り組まれてこなかった研究課題を取り上げた。結果の要約と結論は次のとおりである。(1)社会的支援については、最終的には主介護者の年齢と健康状態、それに家族協力度と身体的負担感が有意な関連があった。主介護者が高齢であるほど、また健康状態が良くないほど支援の入手可能性が小さいという介護者ひいては要介護高齢者にとって非常に厳しい傾向が示された。 また、妥当な関連といえようが、家族協力度が弱いほど、さらに身体的負担感
が大きいほど、支援入手可能性が小さいという傾向が示された。(2)Well-beingについては、社会的支援の関連要因とはかなり異なることが明らかにされた。すなわち、社会的支援との関連では有意でなかった介護利得感および精神的負担感が有意な関連を示した。また、主介護者の状況に関する変数の中でも、主介護者の年齢は共通に有意な関連があるものの、社会的支援の場合有意であった主介護者の健康状態に代わって就業の有無が有意な関連があることが示された。なかでも、介護利得感が大きいほどWell-beingの活動は少ないという傾向などは解釈が容易ではないが、社会的支援との関連では見られない非常に注目される傾向である。(3)以上の分析を通して、主介護者に対する社会的支援と彼らのWell-beingとは、それぞれの関連要因を通して見る限り、共通する面とかなり異なる面があることが分かった。 しかし他方では、総社会的支援と総Well-beingの単相関係数が.227であることに示されるように、両者の関連はかなりあることも事実である。 したがって、今後はこの両者の関連の内容をさらに詳細に分析することが課題である。

公開日・更新日

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