福祉型交通システムの開発と運行システムの組織・経済の適正化に関する研究

文献情報

文献番号
199800179A
報告書区分
総括
研究課題名
福祉型交通システムの開発と運行システムの組織・経済の適正化に関する研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
秋山 哲男(東京都立大学大学院工学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 三星昭宏(近畿大学理工学部・教授)
  • 鎌田実(東京大学工学部・助教授)
  • 卯月盛夫(早稲田大学専門学校・教授)
  • 木村一裕(秋田大学資源工学部・助教授)
  • 藤井直人(神奈川県総合リハビリテーション事業団研究部・主任研究員)
  • 山田稔(茨城大学工学部都市システム工学科・助教授)
  • 飯田克弘(大阪大学工学部・講師)
  • 坂口陸男(日本道路株式会社技術研究所・主任研究員)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
7,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
高齢者の健康維持や社会参加のための移動・交通手段の提供を行うための
総合的な研究で以下の3つである。
(1)私的交通:・高齢者・視覚障害者に配慮した歩道用舗装材料:の歩行上の効果
や視覚障害者への誘導効果。・高齢者の外出活動上のバリアの多面的把握:高齢者が
外出行動上の問題を施設整備面、金銭負担、情報入手の観点から明らかにし、これら
の要因の相互の関係を考慮し、外出行動との関係をモデル化した。・車いす走行にお
けるバリアフリー度評価方法に関する研究:歩行空間を形成している交通抵抗要因に
ついて階層分析法(AHP)を用いて負担度モデルを構築し、様々な負担要因から構成
されている出発地から目的地までの任意の区間のバリアフリー度評価法の開発を行う
。・車いすの通行を考慮した歩道のあり方に関する研究:車いす使用者が歩道上の問
題点を把握し、また、車いすが実際の歩道に混入したとき、歩行者に及ぼす影響を分
析した。・高齢者が自立して生活できるための移動媒体の開発:高齢者が他人の手を
借りずに運転できる車両開発の方向を様々な観点から検討を行い、そのあり方につい
て方向性をまとめた。・交通不便地域の高齢者の送迎実態:公共交通の整備が十分で
ない地方都市において、高齢者の移動における送迎交通の実態を明らかにした。(2
)公共交通:・コミュニティバスの効果分析:日進市の公共施設巡回バスを利用者の
立場と計画論的立場から評価した。(3)運営組織と経済評価:・ハンディキャブの
運行特性と利用者の評価:高齢者・障害者の送迎団体の組織的、経済的な基盤の実態
把握とその利用者によるシステムの評価を行った。・ドイツの都市計画の市民団体の
役割:非営利団体の運営組織を明らかにした。
研究方法
(1)私的交通:・視覚障害者が杖を利用したときの歩行上の問題点や効
果を打撃音の調査により把握し、歩道および横断歩道に適用する場合の構造などを検
討した。・大阪府豊中市全域でアンケート調査を実施し個人の外出行動実態とその問
題点を把握した。・負担度モデルの構築、水準間の負担ウェイトを求め、負担度モデ
ルを構築し、負担度モデルの有効性について検証した。・車いす使用者を対象として
、歩道通行の問題点の意識調査と実際の歩道に車いすを走行させ、車いす使用者が快
適の歩道のサービスレベルについて検討した。・高齢者のライフスタイル・身体特性
・運転能力を明確化し、移動具としての車両の必要機能をまとめ、その試作と評価を
行なった。・茨城県日立市において高齢者を含む交通行動の実態と送迎に関する意識
調査を実施した。(2)公共交通:巡回バスの利用者に対するアンケート調査を実施
し、利用者からの評価と巡回バスの効果を分析する。(3)運営組織と経済評価:・
運行団体と利用者へのアンケート調査、・ドイツの非営利団体に関する文献調査とア
ンケート調査を行た。
結果と考察
結果と(1)私的交通:・視覚障害者:ゴム弾性舗装による白杖打撃音は通常
舗装より約20dB小さくなること、また通常舗装では80dBで視覚障害者が杖の打撃音
を頼りに歩行していること確認できた。・性別・年齢・職業の有無・障害者手帳の有
無などの要因が外出頻度および外出に対する満足度に影響していることが明らかにな
った。高齢者の外出行動には、施設整備に起因する移動負担だけでなく、金銭負担、
情報入手も障害となる。・負担度モデルと実走による負担度評価の一致度を比較し、
被験者全体の75%において順位の一致がみられた。・意識調査からは、車いす利用者
は道路上多く、人や自転車との錯綜に問題を感じていた。また、歩道調査では,車い
すの混入により、歩行者間の錯綜や歩行者速度に変化が見られた。・プロトタイプの
製作(別プロジェクト)と第1次評価実験を行い、高齢者の判断・応答能力から、低
速化した車両の必要性が示され、低速化による安全マージンを車両の簡易化につなげ
られることが分かった。・運転免許のない高齢者は、送迎は非常に利用が多く、また
70歳未満女性がより高齢の夫に送迎してもらう形態も多いことがわかった。(2)公
共交通:・利用者は運行日数や運行回数などに対しては満足していないが、全体とし
ては満足が確認できた。一般化費用の概念を用いた効果分析の結果、現況では運行費
用の7割程度の効果が出ている。巡回バスが他に代替交通手段の利用ができない人の
移動機会を保障するものとして評価されている。利用者1人当たりの利用回数が増え
れば運行費用に見合う効果となる。日進市の公共施設巡回バスは費用と効果のバラン
スが取れたものである。(3)運営組織と経済評価:・ハンディキャブの運行特性:
運行組織がボランティア組織が多いこと。また利用1回あたりボランティア運行でも
5000円かかること、利用者からの評価は予約など安定的に利用する点からは問題があ
る。 ・ドイツの都市計画:ドイツの非営利団体は、極めて簡便な手続きによって法
人格を得る事ができるため、幅広い領域にわたる多様な団体がある。非営利団体は、
市民にとって極めて身近な存在であり、多くの市民が参加していると同時に、サービ
スをうけている。
結論
(1)歩行空間:・弾性舗装と通常舗装および誘導用ブロックをうまく配置す
ることで視覚障害者に安全帯、危険帯といった場所情報、方向情報を与えられる可能
性がある。・高齢者の外出行動には、施設整備に起因する移動負担だけでなく、金銭
負担、情報入手も障害となる。
・本研究で構築したモデルは任意区間のバリアフリー度評価モデルとして妥当である
ことが検証された。・実際には問題点を把握し、歩道幅員・錯綜・車いす混入台数を
考慮した歩道サービスレベルを設定することができた。・高齢者向け移動具としては
、適正速度で快適性を有することが重要で、身体機能低下を補うような構造が望まれ
ることが分かった。・地方都市においては、高齢者が送迎されることの実態を明らか
にし、現状では重要性な手段であることが明らかになった。
(2)公共交通:巡回バスが他に代替交通手段の利用ができない人の移動機会を保障
するものとして評価されている。利用者1人当たりの利用回数が増えれば運行費用に
見合う効果となる。
(3)運営組織と経済評価:・STサービスは福祉部門だけの取り組みでは限界があ
ること、サービスの質の評価は行政が補助をする場合の重要な評価手法として有効で
あることが分かった。
・非営利団体は、行政サービスと市民ニーズを繋ぐ役割を果たすと共に、新たな公共
サービスを開発し、市民に提供することも可能である。非営利団体の存在は、市民参
加型社会のひとつの重要な手法である。

公開日・更新日

公開日
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更新日
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