超音波モータを用いたアクティブひざサポータの開発

文献情報

文献番号
199800177A
報告書区分
総括
研究課題名
超音波モータを用いたアクティブひざサポータの開発
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
遠山 茂樹(東京農工大学工学部)
研究分担者(所属機関)
  • 梅田倫弘(東京農工大学工学部)
  • 桑原利彦(東京農工大学工学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
11,900,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
現在、高齢や障害などの要因により行動が不自由な人々は、車椅子に代表されるような補助器具を使用している。また、高齢化社会を迎えようとしている日本において、健康な高齢者であっても、ひざに障害を持つ人は多く、円滑な日常生活を送ることに困難をきたす人が多い。そのため、より自然に、かつ使用者に負担をかけずに簡潔に装着でき、使用できる補助器具の開発が望まれている。そこで、本研究では上記の問題を解決できるアクチュエータを補助器具に組み込むことにより、ひざにかかる負担を軽減し、自由に歩行ができるアクティブひざサポータの開発を目的とした。
研究方法
アクティブひざサポータを開発するにあたり、まず、開発するうえでの要点を確認するために、まずは既存の電磁モータと減速機構を用いてアクティブひざサポータの試作を行った。この試作により電磁モータを用いた場合には、減速機構を必要とするためにアクチュエータ部分が非常に大きくなってしまい、また、電磁モータの慣性力や、減速機構に用いる歯車のバックラッシにより、応答性が悪いということが指摘された。応答性が悪いと、日常生活の中での突発的な事故に対して、本来ならば行動を補助する目的であるひざサポータが、抵抗になってしまう可能性がある。これらの問題点を解決できるようなアクチュエータとして超音波モータが挙げられる。超音波モータは摩擦駆動により減速機構を必要とせず、小型軽量化が可能であり、高い応答性も持つ。超音波モータのトルク面においては、同様の超音波モータをサンドイッチ構造に配置することにより、ほぼ同体積でトルクを大きくすることができることがこれまでの研究から明らかになっている。この新たな構造のモータを制御するためにはモータ特性を把握することが必要であるため、実際に駆動させて試験した。ここで、人体に装着して使用することから、安全性を考慮し、低電圧で高い応答速度を得られるような超音波モータのステータを試作することとした。ここで低電圧化を実現する手段として、ステータの表裏両面に圧電素子を貼りつけることを提案した。超音波モータのステータは、制作するのに多くの時間を必要とするために、多種多様のステータを試作することは、コスト的にも時間的にも大きな問題である。そこで有限要素法解析ソフトウエアを用いてステータモデルの共振解析及び動解析を行い、実際にステータを試作したときの示す挙動を把握することで、ステータの最適設計を行うことができ、開発にかかる時間を短縮することができる。本研究では、ステータのディスク部の厚さ、分離帯の長さ、分離帯の厚さを変更した数種類のモデルを作り、有限要素法解析によって高さ方向変位の時間変化と、駆動部の描く楕円軌道を比較することによって、それぞれのパラメータが及ぼす影響を推察することにより、新たなステータの設計を行った。実際に設計、試作を行ったステータは、ステータ単体での性能評価を行う必要がある。性能評価の方法として、両面に張り付けられた圧電素子に片側ずつ電圧を印加し、その時の回転数を測定した。印加電圧を変えていったときの回転数の関係から、低電圧で高い応答性が得られるかを評価した。また、高出力を得るため、ロータ材とステータ材の検討を行った。これは多種の材料でロータを試作し、その中から実用トルクを得る事が期待できる材料を取り上げ、摩耗特性と温度上昇の観点から駆動試験を行い、ロータ材の評価を行った。
結果と考察
本研究では、アクティブひざサポータ用の新たな超音波モータの設計、試作を行うことが重要項目であり、そのために有限要素法を用いたス
テータの振動解析を行った。有限要素法解析により次のような結果が得られた。ステータの形状においてもっとも振動状態に影響を与えたものが、ステータディスク部の厚さであった。ディスク部の厚さが厚くなるほど、駆動部の高さ方向変位は小さくなる。これはステータ全体の剛性が高くなり、振動しにくくなったためであると考えらえる。そのため、大きな振動を得ようとするならば、ディスク部の厚さを薄くする事が効果的であると思われるが、解析により、薄くしすぎると大きな振動が得られたとしても、駆動部は安定した一定形状の楕円軌跡を描かないことが分かった。ディスク部の剛性が低いために振動はしやすくなるが、振動しやすくなったために目的とする振動モード以外の波が発生しやすくなったためであると考えられる。超音波モータは進行波の波頭の楕円運動にロータを押し付け、そのときの摩擦により駆動している。そのために駆動部の描く楕円軌跡が安定していることが重要である。ディスク部はある程度の剛性を確保しておくことが必要であることが分かった。次に分離帯の及ぼす影響について以下のことがわかった。分離帯部分の長さが長くなると高さ方向の変位は大きくなる傾向にあると言える。ここで重要なことは、分離帯の長さが長くなると振動しやすくなるために、目的とする振動モードの近傍に、異なる振動モードが存在するようになる。近傍に別モードが存在していると、その波が現れてくる可能性があり、安定した振動を得られない可能性が大きくなると思われる。そこで、共振周波数の近傍に別モードが存在しないように分離帯の長さを決定する必要がある。これらの解析結果を基にして新たにステータの設計、試作を行い、ステータの性能評価を行った。同じ形状のステータを用意し、それぞれを単体で駆動させたときの回転数を測定した。これまでの片面貼り付けのステータは、印加電圧が160Vpp以上で使用してきたが、今回新たに試作した両面貼り付けのステータは、40Vppからの低い電圧で駆動することができた。また、100Vpp以下でも高い回転数を得ることに成功している。モータ特性の試験より、サンドイッチとして組み合わせる2枚のステータのわずかな製作誤差により両者の共振周波数が異なるため、うなりを起こすことがあることが判明した。これは共振周波数ができる限り近いものを選び、組とすることで対処した。さらに,組となる2枚のステータの位相を最適に調節することが重要であり、最適に調節することで、きわめて高トルクを得ることができた。ロータ材に関しては、66ナイロンは安定して高トルクを出力し、磨耗も少なかった、また、温度については、無負荷時にはすべりなどのため50度前後になるが問題となるほどではなかった。これは66ナイロンが適度な硬さと弾性を持っているために、ステータからの駆動力を安定して伝達しているからである。
結論
本研究では、高齢や障害になどの要因により行動が不自由な人々の、ひざにかかる負担を軽減し自由な歩行が可能となるアクティブひざサポータの開発を目的とした。今回はアクティブひざサポータに組み込む、低電圧で高い回転数を得られる超音波モータの試作を行った。ステータを設計する際に有限要素法解析を用いた振動解析を行うことは、設計に要する費用と時間の短縮に非常に有効であった。また、今回試作した超音波モータは、低電圧で高い回転数を得ることに成功した。このことからも、両面貼り付けのステータは、超音波モータの高性能化に非常に有効な手段であり、高性能な超音波モータの基礎が確立できた。また、このモータの回転方向を制御するセンサを委託開発した。これによりひざの運動方向検出するだけではなく、ひざに過負荷がかかることもふせぐことができた。サンドイッチ構造にしたときに、組となる2枚のステータの位相を最適に調節することが高トルクを得るためには重要である。ロータ材は現時点では66ナイロンが最も適している。

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