うつ病の病態を反映する血中バイオマーカーの開発・実用化研究

文献情報

文献番号
201241002A
報告書区分
総括
研究課題名
うつ病の病態を反映する血中バイオマーカーの開発・実用化研究
課題番号
H24-実用化(精神)-一般-001
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
神庭 重信(九州大学大学院 医学研究院精神病態医学)
研究分担者(所属機関)
  • 尾崎紀夫(名古屋大学大学院医学系研究科)
  • 功刀浩(独立行政法人国立精神・神経医療研究センター)
  • 加藤忠史(理化学研究所脳科学総合研究センター)
  • 清水栄司(千葉大学大学院医学研究院)
  • 橋本亮太(大阪大学大学院小児発達研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康長寿社会実現のためのライフ・イノベーションプロジェクト 難病・がん等の疾患分野の医療の実用化研究(精神疾患関係研究分野)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
38,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年のうつ病の急増は、地域社会・産業界・教育現場を問わず、深刻な社会問題と化している。しかし、客観的な補助診断法が確立していないため、精神科臨床、精神科以外の診療あるいは健診でも有用なバイオマーカーの開発が急務となっている。
患者の脳内動態を間接的に探る手法として機能的MRIなどを用いることができるが、精神疾患以外のバイオマーカーの成功例の多くは末梢サンプルである。より簡便に施行できる血液検査等を開発することにより、精神保健の向上に役立てることができる。
これまで末梢サンプルを対象として網羅的に行われてきたが、気分障害の病態を反映することが確実なものは同定されていない。一方我々は、より中枢機能を反映する脳脊髄液サンプルやTraitを直接的に反映する患者由来リンパ芽球の予備的なオミックス解析により、気分障害のバイオマーカー候補物質を幾つか見出している。
また、最近iPS細胞を介さずに、体細胞から直接的に神経(iN神経)を作成する技術が開発された。本技術は、これまで不可能であった患者由来の神経を短期間で直接的に解析可能とし、脳内動態を探る新たなツールとして、すでにアルツハイマー病患者由来のiN神経で、その有用性が示唆されている。
研究方法
①全被験者の血液サンプルと一部被験者の髄液サンプルを採取・蓄積する。
②血液から、DNA, total RNAを抽出し血漿を保存する。またDNAのメチレーション解析を行う。
③名大は、血液からリンパ芽球様細胞を樹立する。千葉大では診断が特に難しい児童思春期うつ病を対象として血液サンプルを採取。九大では皮膚生検から線維芽細胞を樹立する。

各施設で集積した末梢サンプル(血液・髄液・リンパ芽球様細胞)は、名大・阪大・国立精神神経センターで一括してオミックス解析を行う。現時点ですでに、血液500例、リンパ芽球250例、髄液100例のサンプルを有しており、予備的解析の結果を得ているので、さらに確認を加えていく。気分障害の全ゲノム解析で見出されたリスク遺伝子(piccoro等)もバイオマーカー候補として検討を行う(阪大)。
結果と考察
九大では、現在まで関連医療機関を含め106名の気分障害患者からの生体試料を採取している。気分障害外来においては、気分障害患者の多軸的な臨床評価および生体試料の採取を行っている。なお、九州大学先端融合医療レドックスナビ研究拠点と連携し、再生医療技術を用いたヒト皮膚線維芽細胞由来のiN神経の樹立に成功したため、現在、数名の健常者および精神疾患患者由来の皮膚細胞から神経細胞を樹立し、その神経の特性を電気生理学実験・免疫染色等を駆使して検索している。最終的には、うつ病患者に特徴的なiN神経の細胞特性を明らかにする。
名大では、統合失調症患者、双極性障害患者、健常者各20例を対象としたプロテオーム解析の結果について統計学的な検討を行った。
国立精神神経医療研究センターでは、特にセロトニンの前駆物質であるトリプトファンについて詳細な検討を行ったところ、うつ病患者の血中トリプトファン濃度は、健常対照群と比較して、有意に低下していた。また、統合失調症患者、大うつ病患者のいずれも、健常者とくらべて脳脊髄液中のIL-6濃度が高かった(J Psychiatr Res, 2013)。
理研では、2次元ディファレンシャルゲル電気泳動の結果、200の蛋白スポットが有意に異なっていた。結果、細胞死関連、および解糖系関連蛋白の変化が大きいことがわかった。これらの蛋白質が双極性障害のバイオマーカーとなりうるかどうかを検討するため、ウェスタンブロット解析により、症例対照研究を行った。
阪大では、まず、本研究の基盤となる被験者のリクルートとサンプル収集を行った。その結果、現在保有しているサンプル数は、うつ病83例、双極性障害37名、健常者411名、統合失調症102例、広汎性発達障害53例である。特に健常者においては、抑うつ症状のある健常者と抑うつ症状のある健常者を鑑別するため、37名についてPHQ9を施行した。
千葉大では、児童思春期の気分障害患者については、現在までに、8歳から17歳までの気分障害患者(大うつ病 45例、双極性障害 4例)49例および正常コントロール群(7歳から17歳)の30例の血清サンプルを収集した。
結論
各施設で、上記の成果が得られており、研究は着実に進捗している。うつ病と類似する他の精神疾患、および健常者を鑑別する際に有用なマーカーはもとより、うつ病には各種サブタイプがあり、治療の指針となる、あるいは治療経過を予測できるようなマーカーも必要である。このため、一年次に得られた結果を、さらに他のうつ病類似疾患、うつ病のサブタイプにおいて解析を進める必要がある。

公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201241002Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
50,000,000円
(2)補助金確定額
50,000,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 23,285,368円
人件費・謝金 9,892,270円
旅費 720,110円
その他 4,602,252円
間接経費 11,500,000円
合計 50,000,000円

備考

備考
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公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
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