職域における慢性ウイルス性肝炎患者の実態調査とそれに基づく望ましい配慮の在り方に関する研究

文献情報

文献番号
201240001A
報告書区分
総括
研究課題名
職域における慢性ウイルス性肝炎患者の実態調査とそれに基づく望ましい配慮の在り方に関する研究
課題番号
H23-実用化(肝炎)-一般-001
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
渡辺 哲(東海大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 堀江 正知(産業医科大学 産業生態科学研究所)
  • 相澤 好治(北里大学 )
  • 和田 耕治(北里大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康長寿社会実現のためのライフ・イノベーションプロジェクト 難病・がん等の疾患分野の医療の実用化研究(肝炎関係研究分野)
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
26,539,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
現在、B型,C型肝炎は早期発見することで、病態の改善や治癒が期待できる有効な治療法が存在するため早期発見、早期治療が重要である。しかし、肝炎ウイルス検査の受診率は依然低いため、多くの成人が働いている職域での肝炎検診の意義は非常に大きい。また、肝炎の治療は長期間にわたるため、働きながら治療を受けられるように職域での配慮が必要である。本研究では、会社、産業医、労働者、患者、専門医を対象に大規模な実態調査を行い、以下の点を明らかにし、職域における肝炎患者に対する望ましい配慮の在り方を提言する事を目的とする。
(1) 労働者のプライバシーに配慮した肝炎ウイルス検査の実施状況
(2) 働きながら治療を受けられる体制の有無
(3) 労働者の病状に配慮した適正配置の有無
(4) 労働者の慢性ウイルス性肝炎に関する認識度
(5) 専門医、労働者、産業医間の連携
特に本研究では、肝炎患者が治療を継続する上で有用と考えられる配慮事例を集積し、病態別に事例データベースを作成、公開する。これにより各事業所が肝炎対策を実施する際の参考になることが期待される。
研究方法
西日本の肝がん死亡率が高く、肝がん予防の観点から他県に先行して肝炎対策の取り組みを実施している県が多く認められる。このことから研究代表者の渡辺は、平成24年度に西日本の事業者を対象として実態調査を行った。研究分担者の堀江は、日本産業衛生学会会員の産業医793人を対象に、事業場における肝炎検査結果の取扱い及び罹患労働者の就業上の配慮のあり方について意見調査を実施した(回答率45.3%)。研究分担者の相澤と和田はウイルス性肝炎に感染している労働者300人を対象に、仕事における課題や感染に関する知識について調査を行った。
結果と考察
西日本の事業者を対象とした調査の結果、回収数9349(回収率38.2%)を得た。厚生労働省からの通達の周知度は11.9%と低く、肝炎の治療が必要な従業員について就業上の配慮がある事業者は23.4%と、前年度と同程度であった。肝炎ウイルス検査の実施率は15.7%、肝炎に関する啓発活動の実施は8.1%と、前年度との間で差を認めたことからこれらについて地域差があると考えられた。産業医を対象とした調査の結果、肝炎検査結果の取り扱いについては、早期発見、治療のために、産業医が積極的にウイルス検査結果を取得すべきとの意見が半数を超えた。ウイルス性肝炎の様々な病期における就業上の配慮として、比較的早期から、飲酒を伴う営業、発展途上国勤務、長時間残業は不可とする意見が6割を超え、交替勤務や重量物取扱業務などよりも慎重な傾向がみられた。肝炎患者労働者を対象とした調査の結果、約半数の患者が定期的な受診をしていないと回答しており、その理由として医師から受診を勧められていないがあげられた。また、30%程度の方が他人にうつさないかと心配し、さらに、職場において偏見があると15%の人が回答した。
結論
今年度の西日本での事業者に対する調査でも、厚生労働省の肝炎対策に関する通達の周知度は低く、肝炎ウイルス検査を実施している事業者の割合は低く、15.7%に留まっていた。肝炎に関する啓発活動は首都圏に比べ近畿圏で高かったが、肝炎ウイルス検査の実施率は近畿圏の方が低かった。これらが自治体の肝炎対策の取り組みの違いと関連しているかは、さらなる検討が必要である。通達の周知率、肝炎ウイルス検査や肝炎に関する啓発活動の実施率、肝炎患者労働者への就業上の配慮について従業員規模の違いによる差が昨年度と同様に認められ、中小規模の事業者では周知率、実施率が低かった。中小規模の事業者に対する肝炎対策を充実するためには、事業者、衛生管理者が中心となって活動することが求められる。
 肝炎患者労働者に対する調査では「治療により仕事を継続することに支障がある」と、「職場の健康診断によって、ウイルス性肝炎であることを職場の人に知られるかもしれないと不安である」と答えた者がおり、ウイルス性肝炎に感染していることを職場の誰にも開示していない人も認められた。肝炎患者労働者が治療の継続を円滑に行うための就業上の配慮や、海外赴任に関連した配慮の際に正確な病状把握が必要なため、肝炎患者労働者から病状について申し出があった場合、偏見や差別が起こらないよう体制を整備するとともに、労働者全体にウイルス性疾患について正しい知識を普及しておくことが大切である。肝炎治療が必要な場合の就業上の措置等については、産業医による就業適性の判断が、ウイルス性肝炎の病態ごとに、また、就業条件ごとに異なる傾向が認められた。このことから、産業医から収集した職域における肝炎患者労働者への事例集を検索可能な形で提供することで、それぞれの事業所において対策の立案ができるよう今後の計画を進める予定である。

公開日・更新日

公開日
2017-01-20
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201240001Z