褥瘡治療・看護・介護・介護支援機器の総合評価ならびに褥瘡予防に関する研究

文献情報

文献番号
199800171A
報告書区分
総括
研究課題名
褥瘡治療・看護・介護・介護支援機器の総合評価ならびに褥瘡予防に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
大浦 武彦(褥瘡・創傷治癒研究所、医療法人渓仁会)
研究分担者(所属機関)
  • 近藤喜代太郎(放送大学教養学部)
  • 真田弘美(金沢大学医学部)
  • 杉山みち子(国立健康・栄養研究所)
  • 徳永恵子(宮城県立宮城大学看護学部)
  • 藤井徹(長崎大学医学部)
  • 宮地良樹(京都大学大学院医学研究科)
  • 森口隆彦(川崎医科大学、川崎医療福祉大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
14,700,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本邦においては褥瘡に関する本格的な疫学的調査が行われたことがなく、褥瘡の背景、実態、治療方法や看護などの現状が明らかでなかった。平成10年度は、これらを褥瘡実態を把握し問題点を解明をする目的で、褥瘡の実態と治療方法の現状について、集学的なプロトコールを作成して調査した。
研究方法
1. 有病率調査  
褥瘡の有病率に関して、本邦では大規模な調査結果がない。今回、介護・療養型医療施設連絡協議会の協力と、全国7ヶ所で行われた本研究準備会を通して有病率を調査した。2. 褥瘡患者の実態と治療方法の現状調査
1)プロトコールの作成  
褥瘡患者の全国的に調査するのに当たって新しい褥瘡治療のガイドライン作成を念頭におき、治療、予防に必要な135項目を選択し、統計学的に分析可能な設問とした。
(1)褥瘡患者についての設問:A.褥瘡患者の環境状態 B.身体状態 C.身体計測・検査成績・栄養状態 D.患者の背景 E.褥瘡の実態(臨床症状)
(2)施設・病院に対する設問:A.病院・施設等の形態と看護体系 B.治療 C.看護 D.介護用具
2)調査方法
全国を7ヶ所に分け、その地域で当研究に協力を承諾してくれた施設の医師、看護婦らを集め、設問理由と必要性、観察の際に必要な注意点などについて教育を行い、回答内容の質の向上、観察方法の統一化と記入の際の均一化をはかった。回答されたプロトコールについては貼付写真による確認を行い質の向上をはかった。
結果と考察
1. 有病率調査
全国的に有病率調査を行い、回答を得たのは467施設で、入院患者総数98,093人であり、そのうち5665人、約5.8%に褥瘡患者が認められた。男は5.9%、女は5.7%でほぼ同数であった。
【考察】宮地らの報告した群馬県全域における有病率(平成9年)と比べて妥当な数字である。
2. 褥瘡患者655例の分析
A. 年令構成:これらの症例の年令構成は70才未満は171名、26%で70才以上が484名、74%であった。女性366人、男性289人で、女性が若干多かった。
B. 身体状態について:意識状態が明瞭でないのは52%、不完全麻痺、完全麻痺は64%、体位維持がかなり限られる、体動ができない86%、歩行不能93%、痛覚:正常でない54%、排便:時々失禁、常時失禁88%、排尿:時々失禁、常時失禁83%、車椅子を使用しない52%、皮膚が時々湿っていると常に湿っている49%、皮膚のズレの可能性:ややある、ある94%、病的骨突出:軽度以上85%、ギャッチアップの角度は30度未満34%、ギャッチアップの時間は2時間未満48%
C. 身体計測、検査成績、栄養状態
脱水状態あり22%、 浮腫あり32%、 下痢あり19%
の他、血圧、体重、体重の増減、血清アルブミン、ヘモグロビン値、総タンパク、食事の摂取量などと褥瘡との関係が明らかとなった。
D.患者の背景:臥床する原因となった主な疾患は(複数回答可)、脳血管障害後遺症28%、痴呆12%、骨関節疾患9%であった。また、褥瘡の発症が最も多い部位は仙骨部で42%、次いで下肢13%、大転子11%であった。自立度 Bランク、Cランク(一日中ベッド上で過ごし、介助を要する)合わせると94%、臥床期間は6ヶ月以上が71%である。
E.褥瘡の実態(臨床症状):褥瘡のサイズ、深さ、辺縁、ポケット形成の状態、壊死組織、炎症、周辺組織の浮腫、硬結など、今後の褥瘡治療に必要な資料が得られた。
【考察】麻痺、体位維持ができない、歩行不能、便の失禁、尿の失禁、皮膚のズレの可能性、病的骨突出(軽度以上)については褥瘡患者の60%以上に認められ、これらの身体状況と褥瘡との関係が強いことが示唆された。
これ以外に皮膚湿潤、車椅子の使用、明瞭でない意識状態などもかなりの割合で褥瘡患者に認められた。ただ体重については測定されていない症例が54%と多く、体重を定期的に測定する必要性がある。
3. 205施設・病院における褥瘡に対する治療方針と治療法
各施設における治療方針の決め方、治療方針の変更について:医師、医師と看護婦共同、79%、褥瘡治療・予防チームあり:26%、実際の治療方法:洗浄、洗浄液の種類、消毒剤の使用と種類、褥瘡周辺の清拭:している23%、褥瘡の洗浄:する63%、褥瘡の洗浄液:生食水84%、消毒剤:使用する10%、使用する消毒剤:イソジン80%、ポケット切開術:病棟で行う56%、その他局所処置の方法、使用薬剤、ポケットの処置、手術に対する考え方、創傷被覆材の使用方法、介護用具、マットレスの使用方法と使用種類などにつき各施設の方針がある程度明らかとなった。
【考察】褥瘡治療に対しての認識が一般的に不十分であるので、褥瘡に対する新しい考え方、治療方法や介護用品について啓発し、積極的に褥瘡の予防を行う必要がある。
結論
1. 褥瘡有病率は467施設、入院患者98,093人中、褥瘡患者は5,665人で、約5.8%であった。宮地らの報告で訪問看護ステーション7.0%と有病率が大きいことから、今後在宅医療の状況について調査する必要がある。
2. 褥瘡患者655例の分析を行った。身体の状態、特に麻痺、体位維持ができない、歩行不能、便・尿の失禁、皮膚のズレの可能性、病的骨突出については褥瘡患者の60%以上に認められ、これらの身体状況と褥瘡との関係が強いことが示唆された。今後、これらの症例に対するケースコントロールスタディを行い、褥瘡危険因子を特定することが重要な課題である。
3. 205施設・病院における褥瘡に対する治療方針と治療法が明らかになった。一般的に褥瘡治療に対しての認識が不十分であり、褥瘡に対する新しい考え方を啓発し、積極的に褥瘡の予防を行う必要がある。

公開日・更新日

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