がん免疫逃避機構を標的にした次世代型免疫治療の臨床応用と新規バイオマーカーの探索

文献情報

文献番号
201239001A
報告書区分
総括
研究課題名
がん免疫逃避機構を標的にした次世代型免疫治療の臨床応用と新規バイオマーカーの探索
課題番号
H23-実用化(がん)-一般-001
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
小西 郁生(京都大学大学院医学研究科 婦人科学産科学)
研究分担者(所属機関)
  • 万代 昌紀(近畿大学 医学部 産科婦人科学)
  • 清水 章(京都大学医学部付属病院 開発企画部)
  • 岡崎 拓(徳島大学 医学研究科 免疫・分子生物学)
  • 竹馬 俊介(京都大学 医学研究科 免疫学)
  • 松村 謙臣(京都大学 医学研究科 婦人科学産科学)
  • 濵西 潤三(京都大学 医学研究科 婦人科学産科学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康長寿社会実現のためのライフ・イノベーションプロジェクト 難病・がん等の疾患分野の医療の実用化研究(がん関係研究分野)
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
42,308,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究における第1の目的は、本研究期間内に当科で行う卵巣癌患者を対象にした抗PD-1抗体を用いた臨床第II相医師主導治験を行う過程で、これまで当科で治療してきた卵巣癌腫瘍検体や採血検体を用いたPD-1/PD-L1経路にかかわる網羅的遺伝子解析による患者選択マーカーの探索および動物実験を用いた検証だけでなく、実際の治験薬投与前後での被験者検体を用いて、直接的に新規治験薬のバイオマーカーを探索することである。すなわち、治験薬の有効性を検証するだけでなく、有効な患者を選択するためのマーカーや早期に有効性を予測するサロゲートマーカーの検索が極めて重要であると考え、治験と同時に治験者の検体を用いて、オーミクス解析による詳細かつ網羅的な免疫学的解析を行ない、治療上有効なバイオマーカーを同定する。これらによって得られた解析データーから、単に薬剤の治験にとどまらず、薬剤を有効に臨床導入するためのコンパニオン診断薬に資するマーカーを探索することにより、新たな診断・治療プラットフォームの一括した提供を目指す。
研究方法
1)卵巣癌細胞株および臨床検体を用いたバイオマーカー探索
①卵巣癌細胞株を用いたPD-1/PD-L1シグナル関連遺伝子発現メカニズムの解明とバイオマーカー探索
ヒト卵巣癌細胞株を含む悪性腫瘍細胞株990株のDNA発現遺伝子発現マイクアレイ(CCL)を用いて、PD-L1発現とそれに相関する遺伝子・遺伝子群の発現を解析した。さらにPD-L1高発現の細胞株について遺伝子変異解析もおこなった。さらに細胞株への各種サイトカイン(IL-2, IL-6, IL-10, TNFa, TGF-β, INF-γ, )添加によるPD-L1発現の誘導性を検討した。
②卵巣癌腫瘍部およびがん性腹水(腹膜播種)細胞のPD-L1/PD-1経路の解析と阻害検討
卵巣癌細胞株のDNA発現マイクロアレイからPD-L1高発現株に特徴的な複数のgene signature(PD-L1 signature)の同定を検討した。さらに免疫細胞からIFN-γによる発現が変化するgene signature(IFN-γsignature)をrIFN-γ添加による不死化卵巣上皮細胞の培養細胞を用いて検討した。腫瘍内の免疫状態を腫瘍組織の遺伝子マイクロアレイにより評価できるようにした。2) 卵巣癌に対する治験と被験者検体採取
結果と考察
1)卵巣癌細胞株および臨床検体を用いたバイオマーカー探索
①卵巣癌細胞株を用いたPD-1/PD-L1シグナル関連遺伝子発現メカニズムの解明とバイオマーカー探索
 悪性腫瘍細胞株のDNA発現遺伝子発現マイクアレイ解析の結果、PD-L1を高発現している悪性腫瘍細胞株の割合および、そのうち卵巣癌細胞株の割合はそれぞれ10%以下でありそれ以外は低発現もしくは無発現であった。また遺伝子変異サブ解析にてこれら高発現の細胞株はすでに報告のあるMAPKやRAS/MEK/ARK経路の変異を認めるものが多かったが、代表的な変異様式にないものも含まれており、これらについて追加解析を予定している。一方で、これまでに腫瘍部組織の検討では約70%の症例でPD-L1が高発現していたことから、培養条件での細胞株と生体内の腫瘍細胞ではPD-L1発現率にかなりの相違があることが判明した。さらに、各種サイトカイン添加による卵巣癌細胞株におけるPD-L1の誘導性について検討した結果、他のサイトカインでは誘導されないがIFN-γ存在下でのみPD-L1発現が誘導されるものが多かった。以上から、生体内ではoncogenicにPD-L1を発現しているがん細胞よりも、生体内の宿主との免疫反応において発現が上昇しているがん細胞のほうが多いことが示唆された。さらに抗PD-1抗体治療の有効性が期待できるバイオマーカーの一つとしてPD-L1発現と合わせて、その信号の上流にあるIFN-γおよびIFN-γ関連遺伝子(gene signature)は重要な因子であることがわかった。
結論
卵巣癌における腫瘍局所の免疫環境は、発がん課程から、さらに腫瘍細胞の宿主免疫への働きかけから変化することが示唆され、さらにその変化が卵巣癌の典型的な転移様式である腹膜播種に関与していることが新たに示すことができた。今後は、実際の被験者検体を用いて、免疫環境の変化をより詳細にとらえ、治療および有害事象のバイオマーカー探索を行うことは非常に重要であることがわかった。

公開日・更新日

公開日
2013-06-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201239001Z