遺伝性難治疾患の網羅的エクソーム解析拠点の構築

文献情報

文献番号
201238005A
報告書区分
総括
研究課題名
遺伝性難治疾患の網羅的エクソーム解析拠点の構築
課題番号
H23-実用化(難病)-一般-005
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
松本 直通(横浜市立大学 医学研究科環境分子医科学教室)
研究分担者(所属機関)
  • 池川 志郎(理化学研究所 ゲノム医科学研究センター)
  • 高橋 篤(理化学研究所 ゲノム医科学研究センター)
  • 福嶋 義光(信州大学 医学部遺伝医学予防医学講座)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康長寿社会実現のためのライフ・イノベーションプロジェクト 難病・がん等の疾患分野の医療の実用化研究(難病関係研究分野)
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
153,847,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、特に遺伝性難治疾患を対象に、網羅的全エクソーム解析により原因遺伝子を解明することを目的とする。平成24年度は、拠点化の環境整備の一環として大量サンプル処理対応と遺伝性疾患の症例集積を加速させること、集積済みのエクソーム解析で疾患原因を解明すること、インフォーマティクス解析を効率化することを目標に研究を進めた。
研究方法
①症例集積と他の研究班との連携
骨系統疾患コンソーシアム(池川)・胎児骨系統疾患ネットワーク(池川)、臨床遺伝ネットワーク(松本・福嶋)、さらに本事業の一般研究班や難治性疾患克服研究事業奨励研究分野の既存班と連携し症例を集積・解析を進める。
②全エクソーム解析
Agilent社のSureSelect等を用いてヒトゲノム全遺伝子のエクソン領域のみを分画し、Illumina社Hiseq2000を用いてペアエンドシーケンスを行う。平成24年度はHiSeq2000の追加導入で解析容量は倍増した。
③次世代シーケンスデータの検証
対象とする遺伝性疾患の想定発症モデルに沿って次世代シーケンスで検出した遺伝子異常、稀なSNP候補群を症例および家族構成員のゲノムDNAを用いて、PCR・キャピラリーシーケンス等で検証する。
④遺伝子変異と臨床病型・機能異常の検討
本研究で変異が明らかになった症例についての詳細な臨床情報を分析し、遺伝子変異が惹起する臨床病型を明らかにし変異が及ぼす機能的影響を種々の実験系にて検証する。
⑤次世代データ解析プロトコール
オープンリソースあるいは有料リソースの解析ソフト(マッピングツール、アノテーションツール)を比較検討し効率的かつ効果的な解析系を確立する。
結果と考察
①症例の集積
症例集積は順調に進行し精神遅滞関連症候群980例やてんかん関連症候群480例がすでに蓄積した。
②全エクソーム解析
HiSeq2000の追加導入で解析容量は1200 Gbを超え月に200サンプル超のエクソーム解析が可能となった。
③・④・⑤次世代シーケンスデータ解析・検証・臨床病型との検討
エクソーム解析によって原因が明らかになった症例を以下に述べる。
I. Coffin-Siris症候群
Coffin-Siris症候群(以下CSSと称す)の典型例5例を対象に全エクソーム解析を行い責任遺伝子SMARCB1異常を2例に同定した。これを契機にSWI/SNF複合体のサブユニットをコードする16遺伝子をスクリーニングし、SMARCA4異常を6例、SMARCE1異常を1例、ARID1A異常を3例、ARID1B異常を5例で認め、解析したCSS22症例中19症例でSWI/SNF複合体サブユニットの何れかの異常を認めた(Nat Genet 2012)。
II.大田原症候群
大田原症候群(EIEE)で、既知責任遺伝子ARX及びSTXBP1異常の無いEIEE12例において全エクソーム解析を行い、3例でKCNQ2のde novoのミスセンス変異を検出し、EIEEの重要な原因と考えられる(Ann Neurol 2012)。
III. 常染色体劣性遺伝性短体幹症
1型短体幹症患者を有する1つの家系のエキソーム解析を行いPAPSS2遺伝子の1塩基の挿入変異を同定した。さらに類似の病態を示す非家族性の患者3人について、PAPSS2遺伝子の変異を同定しPAPPS2遺伝子異常が1型短体幹症の原因であることが明らかになった(J Med Genet, 2012)。
IV.ミトコンドリア異常症
反復性新生児発症代謝不全を呈する血族婚家系でホモ接合性マッピングとエクソーム解析を行い責任遺伝子であるUQCRC2のホモ接合性ミスセンス変異を特定した。UQCRC2はミトコンドリア呼吸鎖複合体IIIのコアタンパク質をコードしミトコンドリア呼吸鎖の解析では複合体IIIの発現・機能低下を認め遺伝子異常が来す病態が明らかになった(Hum Mut 2013)。
⑤次世代データ解析プロトコール
Novoalign/GATKをマッピングツールとしてアノテーションにはANNOVAを組み合わせた効率的なエクソーム解析フローを確立、これまでに1500例を超えるエクソーム解析を終了し多数の疾患遺伝子異常同定に効果を上げている。
メンデル遺伝性疾患を解析対象にした次世代シーケンス拠点として解析環境を強化するとともにエクソーム解析において複数の原因未解明の疾患において責任遺伝子を単離した。さらに情報解析系でも大量解析系にも対応できる効率的・効果的解析系を確立しエクソーム解析の大量解析が進行している。
結論
次世代シーケンサー解析拠点としてアクティブに機能できる環境を整備し、貴重なサンプル集積とエクソーム解析が進行し原因不明の遺伝性疾患の解明が進んでおり、エクソーム解析拠点として十分に機能していると考えている。

公開日・更新日

公開日
2015-06-10
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201238005Z