公衆浴場等におけるレジオネラ属菌対策を含めた総合的衛生管理手法に関する研究

文献情報

文献番号
201237014A
報告書区分
総括
研究課題名
公衆浴場等におけるレジオネラ属菌対策を含めた総合的衛生管理手法に関する研究
課題番号
H22-健危-一般-014
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
倉 文明(国立感染症研究所 細菌第一部)
研究分担者(所属機関)
  • 森本 洋(北海道立衛生研究所 感染症センター微生物部)
  • 八木田 健司(国立感染症研究所 寄生動物部)
  • 山崎 利雄(国立感染症研究所 バイオセーフティ管理)
  • 前川 純子(国立感染症研究所 細菌第一部 )
  • 神野 透人(国立医薬品食品衛生研究所 生活衛生化学部)
  • 佐原 啓二(静岡県環境衛生科学研究所 微生物部)
  • 中嶋 洋(岡山県環境保健センター 保健科学部)
  • 大屋 日登美(神奈川県衛生研究所 微生物部)
  • 烏谷 竜哉(愛媛県立衛生環境研究所 衛生研究課)
  • 緒方 喜久代(大分県衛生環境研究センター 微生物担当)
  • 荒井 桂子(横浜市衛生研究所 検査研究課)
  • 磯部 順子(富山県衛生研究所 細菌部)
  • 縣 邦雄(アクアス株式会社つくば総合研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 健康安全・危機管理対策総合研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
16,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 重篤な肺炎を引き起こすレジオネラによる、浴槽水等の水環境の汚染が問題となっている。培養検査に1週間を要し、迅速検査法が求められている。培養検査法の測定値は信頼性が懸念され、外部精度管理が必要とされている。遊離塩素消毒しても安全性の確保困難な浴槽水があり、解決に向けモノクロラミン消毒の効果を実際の浴槽施設において検証する。
研究方法
 保健所等に周知し施設利用者に告知を行ない、浴槽水にモノクロラミンを自動的に生成・測定した。短時間の液体培養後にrRNAを定量的に検出するLC (Liquid culture) qRT-PCR法、及び死菌のDNAの増幅を抑制するethidium monoazideを用いたEMA-qPCR法を応用して菌数を測定した。Legionella pneumophila(Lp)株の塩基配列決定(SBT法)による分子疫学を行った。研究所の管理規定に従い、個人情報保護と病原体管理に注意した。
結果と考察
1)pH7.8~9.0の循環式温泉入浴施設3ヶ所で、モノクロラミン濃度を3mg/L程度に維持管理し、浴槽水、ろ過器内水のレジオネラ属菌を不検出に維持出来た。従属栄養細菌、アメーバも不検出であった。塩素臭の主因となるトリクロラミンは検出されなかった。モノクロラミン消毒は遊離塩素消毒に比べ、消毒副生成物が低減した。ヨウ素イオンを含む温泉水では、遊離塩素消毒の場合と同様にヨウ素化消毒副生成物を生じた。
2)入浴施設調査で、レジオネラ菌数を迅速かつ高感度に評価可能なLC RT-qPCRを改良した。LCとEMAの組み合わせ応用によるLC EMA-qPCR法レジオネラ生菌迅速検査法を市販化した。いずれの方法も、従来の培養1週間を要することなく、短期間で平板培養法の結果を予測可能であった。
3)BCYEα液体培地(活性炭を除く)に生菌を添加した標準試料を作製し、外部精度管理を試行した。試料にはゼラチンを添加し、輸送時の衝撃を低減させた。自家製平板培地に比べ市販培地では検出菌数が低下し、検査者による変動も認められた。寒天培地への菌の塗布はソフトタッチで行うと検出率が高まった。将来の外部精度管理の事業化が期待された。
4)アメーバで増殖したLpのろ過法による回収率は、ポリカーボネート、セルロースアセテート、セルロース混合エステルの中で、0.2μmポリカーボネートが最もよかった。ポリカーボネート0.4 μm、セルロースアセテート0.45 μmのフィルターでは少量のレジオネラが通過したが、混合エステル0.45 μmでは通過しなかった。フィルターとハイドロキシアパタイトの組合せのろ過法も検討した。
5)2011年度に収集された臨床分離株は45株(38人の患者から分離したLp、溺水事例では複数株が分離)で、32種類の遺伝子型に分けられ、そのうち新規遺伝子型は13種類であった。Minimum spanning tree解析を行うと、環境分離株は生息環境に対応してグループ(浴槽3、冷却塔2、土壌3)に分かれた。
6)水溜り65検体と車のウオッシャー液106検体についてレジオネラ属菌の調査を実施した。水溜り、ウオッシャー液の各々32.3%、2.8%からレジオネラ属菌が分離された。水溜りから分離されたレジオネラ属菌ではLp 血清群1が26.3%ともっとも多く、患者から分離される頻度の高いlag-1を保有する株はそのうち50.0%であった。
7)岡山県内のレジオネラ症散発患者から近年分離されたLp 血清群3(ST93)7株はパルスフィールドゲル電気泳動法で同じバンドパターンを示し、同一感染源と予想された。多数の環境分離株を調査したが同じパターンは得られず、感染源は未だ不明であり、さらなる調査が必要である。
8)公衆浴場等から検出される抗酸菌の再調査をおこなった。482検体の内抗酸菌陽性は60検体で、検出された抗酸菌は15菌種75株であった。この内Mycobacterium avium 19株と研究室保存のM. avium 計89株を用いて縦列反復数可変領域型別をおこなった。Minimum spanning tree法による解析では、得られた遺伝子型は3つのグループに大別された。
9)宮崎県、郡山市のレジオネラ症防止のための講習会に対応した。厚労省の生活衛生関係技術担当者研修会において成果を解説した。大分県環境監視員を対象に2回研修を行った。感染研のホームページの感染症の話でレジオネラ症を改訂した。
結論
 モノクロラミン消毒を入浴施設に導入し実用化した。レジオネラ生菌を検出する迅速検査をキット化した。培養法の外部精度管理を実施し問題点を明らかにした。感染源不明事例の菌の遺伝子型から潜在的感染源としての水溜まりを明示した。

公開日・更新日

公開日
2013-04-25
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201237014B
報告書区分
総合
研究課題名
公衆浴場等におけるレジオネラ属菌対策を含めた総合的衛生管理手法に関する研究
課題番号
H22-健危-一般-014
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
倉 文明(国立感染症研究所 細菌第一部)
研究分担者(所属機関)
  • 前川 純子(国立感染症研究所 細菌第一部)
  • 山崎 利雄(国立感染症研究所 バイオセーフティ管理室)
  • 八木田 健司(国立感染症研究所 寄生動物部)
  • 神野 透人(国立医薬品食品衛生研究所 生活衛生化学部)
  • 杉山 寛治(静岡県環境衛生科学研究所 微生物部)
  • 佐原 啓二(静岡県環境衛生科学研究所 微生物部)
  • 中嶋 洋(岡山県環境保健センター 保健科学部)
  • 田栗 利紹(長崎県環境保健研究センター 衛生微生物)
  • 大屋 日登美(神奈川県衛生研究所 微生物部)
  • 緒方 喜久代(大分県衛生環境研究センター 微生物担当)
  • 烏谷 竜哉(愛媛県立衛生環境研究所 衛生研究課)
  • 森本 洋(北海道立衛生研究所 感染症センター微生物)
  • 荒井 桂子(横浜市衛生研究所 検査研究課)
  • 磯部 順子(富山県衛生研究所 細菌部)
  • 縣 邦雄(アクアス株式会社つくば総合研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 健康安全・危機管理対策総合研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 重篤な肺炎を引き起こすレジオネラによる、浴槽水等の水環境の汚染が問題となっている。培養検査に1週間を要し、迅速検査法が求められている。培養検査法の測定値は信頼性が懸念され、外部精度管理が必要とされている。遊離塩素消毒しても安全性の確保困難な浴槽水があり、解決に向けモノクロラミン消毒の効果を実際の浴槽施設において検証する。
研究方法
 保健所等に周知し施設利用者に告知を行ない、浴槽水にモノクロラミンを自動的に生成・測定した。短時間の液体培養後にrRNAを定量的に検出するLC (Liquid culture) qRT-PCR法、及び死菌のDNAの増幅を抑制するethidium monoazideを用いたEMA-qPCR法を応用して菌数を測定した。Legionella pneumophila(Lp)株の塩基配列決定(SBT法)による分子疫学を行った。研究所の管理規定に従い、個人情報保護と病原体管理に注意した。
結果と考察
 pH7.8~9.0の循環式温泉入浴施設4ヶ所で、モノクロラミン濃度3mg/Lに維持管理し、浴槽水、ろ過器内水のレジオネラ属菌を不検出に維持出来た。従属栄養細菌、アメーバも不検出であった。塩素臭の主因となるトリクロラミンは検出されなかった。掛け流し式浴槽1ヶ所でもタイマー式で投入し有効性を確認した。モノクロラミン消毒は遊離塩素消毒に比べ、消毒副生成物が低減した。62種類の既知消毒副生成物から計算により、塩素化ニトロメタン類が揮散しやすい物質と求められた。
 入浴施設調査で、レジオネラ菌数を迅速かつ高感度に評価可能なLC RT-qPCRを開発した。LCとEMAの組み合わせ応用によるLC EMA-qPCR法レジオネラ生菌迅速検査法を市販化した。いずれの方法も、従来の培養1週間を要することなく、短期間で平板培養法の結果を予測可能であった。
 77ヶ所の地衛研等に対してレジオネラ検査法のアンケート調査を行った。地衛研と感染研向けの病原体検出マニュアル(レジオネラ症)を改訂した。培養3日目からレジオネラ判別を可能とする斜光法を中心とした新検査法を提案した。
 斜光法導入に向けた民間検査機関等への研修を、九州で3回実施した。国立保健医療科学院短期研修2回、4自治体で講習会7回、毎年の厚労省生活衛生関係技術担当者研修会、第85回日本細菌学会総会技術講習会で講演した。感染研ホームページで地震被災地における注意事項を解説した。
 BCYEα液体培地(活性炭を除く)に生菌を添加した標準試料を作製し、外部精度管理を試行した。試料にゼラチンを添加し、輸送時の衝撃を低減させた。自家製平板培地に比べ市販培地では検出菌数が低下し、検査者による変動も認められた。寒天培地への菌の塗布は、ソフトタッチで行うと検出率が高まった。将来の外部精度管理の事業化が期待された。英国Health Protection Agencyが行なっている外部精度管理を紹介した。
 112株の臨床分離株、92株の血清群(SG)1の環境分離株のSBT型別とminimum spanning tree解析の結果、環境分離株で見出された8グループ(浴槽3、冷却塔2、土壌3)の他に、新しい1グループ(感染源不明が多数)を見出した。
 マイクロプレートDNA-DNAハイブリダイゼーション法により、Lpの3亜種の簡便な鑑別法を開発した。国内分離株128株の多数はsubsp. pneumophilaで、subsp. fraseriは一部のSGに分布し、SBTで見出した冷却塔グループC2に属した。subsp. pasuculleiはなかった。
 浴用水以外の感染源を特定するため、道路の水溜り、車のウオッシャー液の各々54/134、13/137検体からレジオネラを分離した。水溜りからはLp SG1がもっとも多く分離された。感染源不明のヒト分離株が、水溜り分離株の一部と遺伝学的に近いことがSBT解析から明らかとなった。
 岡山県内のレジオネラ症散発患者から近年分離されたLp SG3(ST93)は、パルスフィールドゲル電気泳動法で同じバンドパターンを示し、同じ感染源と予想された。多数の環境分離株を調査したが、同一パターンは得られず感染源は未だ不明であり、さらなる調査が必要である。
結論
 モノクロラミン消毒を入浴施設に導入し実用化した。レジオネラ生菌を検出する迅速検査をキット化した。培養法の外部精度管理を実施し問題点を明らかにした。感染源不明事例の菌の遺伝子型から潜在的感染源としての水溜まりを明示した。

公開日・更新日

公開日
2013-04-25
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201237014C

成果

専門的・学術的観点からの成果
モノクロラミン消毒の有効性を初めて入浴施設で実証した。消毒副生成物が低減し、塩素臭の主因トリクロラミンは検出されなかった。レジオネラ生菌を選択的に検出する迅速検査を開発し初めてキット化した。Legionella pneumophilaのSBT遺伝子型により、感染源不明の患者の一部は道路の水溜りに関連し感染することが示唆された。L. pneumophilaの亜種を簡便に鑑別する方法を開発した。
臨床的観点からの成果
培養観察法(斜光法)の啓蒙により、培養法に基づいた早期のレジオネラ症の診断に寄与した。
ガイドライン等の開発
77ヶ所の地方衛生研究所等に対してレジオネラ検査法のアンケートを行い行政検査の実態を把握した。病原体検出の要となる地方衛生研究所と国立感染症研究所が使用する病原体検出マニュアル(レジオネラ症)の改訂(平成23年10月)に際し、研究班の成果を反映し、SBT遺伝子型別や斜光法等の新検査法を導入した。
その他行政的観点からの成果
従来は消毒困難であったアルカリ泉質(アンモニア態窒素を含む等)の浴槽水に、モノクロラミン消毒が適用可能となり、本方法は静岡市の条例に導入された(平成25年4月1日)。生活衛生課長通知(健衛発0331第7号)でマニュアル改正に盛り込まれた(平成27年3月31日)。臨床分離株の遺伝子型から生息環境を推測できるので、これまで約半数あった感染源不明症例において感染源の調査に役立った。
その他のインパクト
本邦最大の集団感染事例の10年目にあたりレジオネラ対策のための研修会で講演した(宮崎)。東日本大震災後の津波によるレジオネラ肺炎を予測し感染研のホームページで解説した。

発表件数

原著論文(和文)
3件
下記の「主な原著論文」の他、感染症学雑誌、保健医療科学
原著論文(英文等)
7件
下記の「主な原著論文」の他Biocontrol Science, Journal of Medical Microbiology
その他論文(和文)
11件
防菌防黴3件、化学療法の領域、呼吸、環境と病気、衛研年報2件、ビルと環境2件、最新医学
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
26件
防菌防黴学会、感染症学会、臨床微生物学会、環境感染学会、細菌学会、全国衛生科学技術協議会、建築物環境衛生管理全国大会
学会発表(国際学会等)
7件
Annual Meeting of ESGLI. International Union of Microbiological Societies 2011 Congress.
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
2件
モノクロラミン消毒が静岡市の条例に明記された。生活衛生課長通知(健衛発0331第7号)。
その他成果(普及・啓発活動)
19件
感染研ホームページで病原体検出マニュアル(レジオネラ症)、被災地のレジオネラ症について、感染症の話;レジオネラ症対策のてびき(日本環境衛生センターブックレット)、研修会等15

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Amemura-Maekawa J, Kura F, Helbig JH, et al.
Characterization of Legionella pneumophila isolates from patients in Japan according to serogroups, monoclonal antibody subgroups and sequence types.
Journal of Medical Microbiology , 59 (6) , 653-659  (2010)
DOI 10.1099/jmm.0.017509-0
原著論文2
Taguri T, Oda Y., Sugiyama K., et al.
A rapid detection method using flow cytometry to monitor the risk of legionellosis in bath water.
Journal of Microbiological Methods , 86 (1) , 25-32  (2011)
doi: 10.1016/j.mimet.2011.03.012.
原著論文3
Amemura-Maekawa J, Kikukawa K, Helbig J, et al.
Distribution of monoclonal antibody subgroups and sequence-based types among Legionella pneumophila serogroup 1 isolates derived from cooling tower water, bath water and soil in Japan.
Applied and Environmental Microbiology , 78 (12) , 4263-4270  (2012)
doi:10.1128/AEM.06869-11
原著論文4
Kanatani JI, Isobe J, Kimata K, et al.
Molecular epidemiology of Legionella pneumophila serogroup 1 isolates identify a prevalent sequence type, ST505, and a distinct clonal group of clinical isolates in Toyama prefecture, Japan.
Journal of Infection and Chemotherapy , 19 (4) , 644-652  (2013)
DOI 10.1007/s10156-012-0537-x
原著論文5
Kanatani JI, Isobe J, Kimata K, et al.
Close genetic relationship between Legionella pneumophila serogroup 1 isolates from sputum specimens and puddles on roads by sequence-based typing. Appl Environ Microbiol.
Appled and Environmental Microbiology Microbiol. , 79 (13) , 3959-3966  (2013)
doi:10.1128/AEM.00637-13
原著論文6
杉山寛治,長岡宏美,佐原啓二,他
モノクロラミン消毒による掛け流し式温泉のレジオネラ対策.
日本防菌防黴学会誌 , 45 (印刷中)  (2017)

公開日・更新日

公開日
2017-06-23
更新日
-

収支報告書

文献番号
201237014Z