文献情報
文献番号
201236009A
報告書区分
総括
研究課題名
化学物質の経気道暴露による毒性評価の迅速化、定量化、高精度化に関する研究-シックハウス症候群を考慮した低濃度暴露における肺病変の確認、及び、中枢神経影響を包含する新評価体系の開発
課題番号
H23-化学-一般-001
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
北嶋 聡(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター毒性部)
研究分担者(所属機関)
- 慶長 直人(国立国際医療研究センター研究所 呼吸器疾患研究部)
- 菅野 純(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 毒性部)
- 大西 誠(中央労働災害防止協会 日本バイオアッセイ研究センター 試験管理部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 化学物質リスク研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
25,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
日常生活で暴露される様々な化学物質の毒性評価は、実験動物における毒性所見を人に外挿することで実施されている。しかし、気化性化学物質の吸入毒性の内、シックハウス症候群については、人における被害報告濃度と実験動物で検出可能な器質変化濃度の乖離が甚だしく、現行の吸入毒性試験での毒性指標(器質的障害)を人へ外挿することは困難である事が指摘されてきた。この点に対し先行3年間の研究(厚生労働科学研究費補助金(化学物質リスク研究事業)「化学物質の経気道暴露による毒性評価の迅速化、定量化、高精度化に関する研究-シックハウス症候群レベル低濃度暴露を考慮した吸入トキシコゲノミクスを核とする評価体系の開発-」(H20-化学-一般-001))では、「厚生労働省シックハウス問題に関する検討会」が掲げる物質について、器質的変化が誘発される以前の段階(時間的及び濃度的に)での遺伝発現変動を網羅的に評価可能なPercellome トキシコゲノミクスを、極低濃度暴露時の肺及び肝に適用した結果、病態の惹起或いは生体防御の発動を示唆する影響を高感度に捕捉することができた。
この成果を踏まえ、本研究は、第一に、極低濃度下での比較的長期暴露(28日間)後の肺を電子顕微鏡等により高精度に解析し、暴露による有害性を実証し、先行研究の遺伝子発現変動データの予見性を確認すること、第二に、シックハウス症候群等において通常の検査からは病因が特定されない「不定愁訴」の分子実態を把握することを目的とする。この為に、肺・肝に加え中枢神経のトキシコゲノミクス解析を実施し、惹起される反応を抽出し、超微形態解析等による標的の絞り込みを行う。
この成果を踏まえ、本研究は、第一に、極低濃度下での比較的長期暴露(28日間)後の肺を電子顕微鏡等により高精度に解析し、暴露による有害性を実証し、先行研究の遺伝子発現変動データの予見性を確認すること、第二に、シックハウス症候群等において通常の検査からは病因が特定されない「不定愁訴」の分子実態を把握することを目的とする。この為に、肺・肝に加え中枢神経のトキシコゲノミクス解析を実施し、惹起される反応を抽出し、超微形態解析等による標的の絞り込みを行う。
研究方法
研究班は、シックハウス問題に関する検討会が掲げるホルマリンを含む13物質を対象に、1)極低濃度下での6時間/日x7日間(労働暴露モデル)、及び22時間/日x7日間(生活暴露モデル)のマウス反復吸入暴露(4用量、16群構成、各群3匹)の実施、2)経時的に採取した肺・肝・脳サンプルの網羅的遺伝子発現変動解析、3)22時間/日x28日間反復暴露時の肺サンプルの電子顕微鏡を用いる高精度な解析、及び4)ヒト気道上皮細胞株を用いたin vitro解析系、以上4部から成り、人への外挿性を考慮した高精度な解析を行う。
結果と考察
平成24年度はキシレンについて室内濃度指針値(0.2ppm)を考慮した極低濃度下(0、0.2、0.7、2.0 ppm)を、雄性マウスに6時間/日×7日間及び22時間/日×7日間にて吸入暴露を実施し、得られた脳、肺、肝サンプルについて、我々が開発したPercellome手法(遺伝子発現値の絶対化手法)を適用した網羅的遺伝子発現変動解析を行った結果、昨年度検討したホルムアルデヒド暴露の際と同様に、22時間/日x7 日間反復暴露時の海馬において、神経活動の指標となるImmediate early gene (IEG)(Arc、Nr4a1、Fos、Junb、Egr4遺伝子等)の顕著な発現減少が低用量群、すなわち指針値レベルの濃度でも認められ、逆に暴露休止後24時間目の190時間時点では、IEGの遺伝子の発現の増加が認められた。このことからキシレン吸入暴露時、海馬において連続暴露期間中は神経活動が抑制される事、暴露が中断されると、神経活動が過剰となるリバウンド現象が起こることが示唆された。他方6時間暴露時では、この抑制は一過性であり暴露期間中に回復することを見いだした。また、キシレン22時間/日×28日間暴露の際の肺について超微細形態学的手法により網羅的に検索中である。加えて、ヒト気道上皮細胞株を用いるin vitro解析系において、外来微生物由来の刺激であるpolyI:C存在下でのホルムアルデヒド添加によるIL-8 遺伝子の発現増強作用について、分泌される多数の生理活性因子の同時定量を行った。
結論
以上のごとく、シックハウスレベルの極低濃度の化学物質の吸入暴露に於いても、脳サンプルを用いた網羅的遺伝子発現解析手法により、その中枢影響を予測することが可能である事が明らかとなった。特に22時間/日×7 日間反復暴露の際に示唆された、海馬における神経活動の抑制は、記憶をはじめとする情動認知行動異常を誘発する可能性が高く、この事がシックハウス症候群で認められる不定愁訴と関係している可能性が考えられ、健康被害の未然防止、治療の観点から意義深いことと考える。加えて、ヒト気道上皮細胞株を用いるin vitro解析系の実用性が示され、人への外挿性の向上を計ることが可能となった。本研究の成果を通して、近年の技術革新の加速に伴い急増する「新規物質」の吸入毒性評価に際し中枢影響を含むかたちで、極低濃度での有害性を見逃しなく検出できるようになることが期待される。
公開日・更新日
公開日
2013-05-24
更新日
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