カーボンナノマテリアルによる肺障害と発がん作用の中期評価法とその作用の分子機序解析法の開発

文献情報

文献番号
201236005A
報告書区分
総括
研究課題名
カーボンナノマテリアルによる肺障害と発がん作用の中期評価法とその作用の分子機序解析法の開発
課題番号
H22-化学-一般-005
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
津田 洋幸(公立大学法人名古屋市立大学 津田特任教授研究室)
研究分担者(所属機関)
  • 五十嵐 良明(国立医薬品食品衛生研究所 生活衛生化学部)
  • 今泉 祐治(公立大学法人名古屋市立大学大学院薬学研究科 細胞分子薬効解析学分野 )
  • 酒々井 眞澄(公立大学法人名古屋市立大学 大学院医学研究科 分子毒性学分野 )
  • 二口 充(公立大学法人名古屋市立大学 大学院医学研究科 分子毒性学分野 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 化学物質リスク研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
47,600,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
炭素ナノマテリアルのとくに呼吸器における毒性と発がん性の評価は得られていない。その理由は、吸入毒性試験には莫大な費用がかかるからである。そのためにこれを補完するより短期(20~40週程度)の検体に対する異物反応として活性化マクロファージの貪食反応に注目したmode of action(MOA)を重視した一連の毒性・発がん性評価システムの開発を行った。
研究方法
1)ラットにおいて予め肺発がん物質DHPNを投与後に、MWCNT-Mを「あり姿(出荷原体)」250及び500µg/ml(0.5%Tween20含有生食懸濁)を0.5ml/ラットにて2週に1回経気管肺内噴霧(Transtracheal intra-pulmonary spraying, TIPS)法にて投与し、40週後(18回投与)に終了した。2)肺の炎症、増殖病変、免疫毒性および気道上皮障害作用等の機序解析のために、500µg/mlのMWCNT-M、MWCNT-N、crocidolite(CRO、青アスベスト)を1回あたり0.5ml、9日間に5回TIPS投与し、最終投与6時間後に麻酔下で横隔膜よりDMEM細胞培養液10mLを胸腔内注入して洗浄液を吸引採取し、遠沈ペレットをパラフィンブロックとした。また、発がん物質を投与しないで、被検物質を篩板(直径25µm)によるMWCNT-N原体(W)、濾過分画(FT)、非濾過分画(R)に分け、各分画を2週間に8回(計1.0mg)投与して6時間、52週に屠殺した(104週群は進行中)。3)in vitroにおける初代培養肺胞マクロファージに被検物質を曝露させた場合の培養上清の細胞作用の解析、中皮細胞増殖機序、夾雑金属の免疫反応における影響を解析した。
結果と考察
1)MWCNT-Mは、前回の氷砂糖溶液に分散させた場合にはプロモーション作用は無かったが、今回のより分散性に優れたPF68でも明らかではなかった。2)in vivo短期試験では、MWCNT-M、MWCNT-N、CROは、同様に胸腔洗浄液ペレットにおいて、貪食したマクロファージ内に認められた。さらにこれらは臓側胸膜中皮細胞の過形成増殖巣を誘発した。この所見は、被検物質は肺胞から速やかに胸腔に入って胸膜炎を誘発し、長期観察では中皮腫を発生させる可能性が示唆された。篩板によって分画したMWCNT-Nは、平均長2.6 µm以上で炎症を含む肺障害性がより明瞭であった。肺組織中にはCsf3、IL6、Cxcl2、Ccl4などの因子が分画に関わり無く誘導された。104週観察群途中死亡例に胸腔肉腫(中皮腫疑い)の発生がみられた。3)in vitroにて貪食マクロファージを介する炎症と培養液の不死化細胞に対する増殖活性、気管上皮の障害、観察された胸膜中皮の過形成増殖の機序解析のために、正常ラットマクロファージを肺より採取して培地に移し、MWCNT-M、MWCNT-NおよびCROを曝露させて得た培養上清、これらの物質を投与したラットの胸水上清は、悪性中皮腫細胞に対する増殖活性を対照の1.3~1.4倍に増加させた。またMWCNTの夾雑金属は遊離せず、免疫等への影響はなかった。以上から、発がん標的臓器は肺胞上皮よりむしろ胸膜中皮である可能性が示された。
結論
1)「あり姿」のMWCNT-Mは2回実施した試験において、発がんプロモーション作用はなかった。肺発がん性は無いか、弱いと考えられる。
2)MWCNTは短期投与によって早期から胸膜腔に入って胸膜炎と中皮の増殖を誘発する。また血中に入って全身臓器に分布する。また、MWCNT―Nは2.6µm長以上の分画で顕著な炎症を誘発し、それを貪食したマクロファージからは炎症性サイトカインが分泌される。
以上から、次のように要約される。
(1)TIPS法は吸入全身曝露試験の代替法として有用となる。
(2)一連の「発がんプロモーション試験―in vivo短期試験―in vitro作用機序(MOA)解析」試験系によって毒性、発がん性とその機序についての情報が短期間に得られる。
(3)MWCNTは肺胞内と肺胞隔に異物肉芽形成を伴う炎症と肺胞上皮の過形成増殖を誘発するが、肺胞上皮腫瘍の発生はなかった。
(4)MWCNTの発がん標的はアスベストと同様に胸膜中皮である可能性がある。
以上の成果より、今後の炭素ナノマテリアルの安全性評価の短期・中期検索法の開発に資する知見を提供できた。

公開日・更新日

公開日
2013-06-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201236005B
報告書区分
総合
研究課題名
カーボンナノマテリアルによる肺障害と発がん作用の中期評価法とその作用の分子機序解析法の開発
課題番号
H22-化学-一般-005
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
津田 洋幸(公立大学法人名古屋市立大学 津田特任教授研究室)
研究分担者(所属機関)
  • 五十嵐 良明(国立医薬品食品衛生研究所 生活衛生化学部)
  • 今泉 祐治(公立大学法人名古屋市立大学大学院薬学研究科 細胞分子薬効解析学分野 )
  • 酒々井 眞澄(公立大学法人名古屋市立大学大学院医学研究科分子毒性学分野)
  • 二口 充(公立大学法人名古屋市立大学大学院医学研究科分子毒性学分野)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 化学物質リスク研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
炭素ナノマテリアルのとくに呼吸器における毒性と発がん性の評価は得られていない。その理由は、吸入毒性試験には莫大な費用がかかるからである。そのためにこれを補完するより短期(20~40週程度)で、マクロファージの被検物質の貪食作用に注目した作用機序に(MOA)を基づく毒性・発がん性評価システムの開発を行った。
研究方法
1)ラットを用い、肺発がん物質DHPNを投与後に250及び500µg/mlのMWCNT-Mを「あり姿(出荷原体)」で0.5ml/ラットの用量(0.5%Tween20含有生食懸濁)で2週に1回経気管肺内噴霧(Transtracheal intra-pulmonary spraying, TIPS)法にて投与し、40週後(18回投与)に終了した。2)肺の炎症、増殖病変、免疫毒性および気道上皮への直接障害作用等の分子機序解析のために、、500µg/mlのMWCNT-M、MWCNT-N、crocidolite(CRO、青アスベスト)を1回あたり0.5ml、9日間に5回投与し、最終投与6時間後に麻酔下で横隔膜より胸腔内にDMEM細胞培養液10mLを注入し、洗浄液を吸引採取後に遠沈してパラフィンブロックとした。被検物質を篩板(孔直径25µm)によってMWCNT-N原体(W)、濾過分画(FT)、非濾過分画(R)に分け、各分画について発がん物質を投与しないで、2週間に8回(計1.0mg)投与して6時間、52週で終了した(104週は経過中)。また単回投与後の気管上皮繊毛運動を解析した。3)in vitroにおける初代培養肺胞マクロファージに被検物質を曝露させた場合の培養上清の細胞障害、増殖誘発作用、検体の夾雑金属の測定行った。
結果と考察
1)MWCNT-Mは、前回の氷砂糖溶液に分散させた場合にはプロモーション作用は無かったが、今回のより分散性に優れたPF68でも同様結果であった。2)in vivo短期試験では、MWCNT-M、MWCNT-N、CROは、同様に胸腔洗浄液ペレットにおいて、マクロファージ内に認められた。さらにこれらは臓側胸膜中皮細胞の過形成増殖巣を誘発した。この所見は、被検物質は肺胞から速やかに胸腔に入って胸膜炎を誘発し、長期観察では中皮腫を発生させる可能性が示唆された。篩板によって分画したMWCNT-Nは、平均長2.6 µm以上で炎症を含む肺障害性がより明瞭であった。肺組織中にはCsf3、IL6、Cxcl2、Ccl4などの因子が分画に関わり無く誘導された。104週観察群途中死亡例(65週)で腺がん(原発不明)、66週で縦隔悪性組織球腫、78週で胸腔肉腫(中皮腫疑い)の発生がみられた。3)正常ラット肺の初代培養マクロファージに検体を曝露させ、その培養上清、およびこれらの物質を投与したラットの胸水洗浄液上清はヒト不死化中皮細胞等の増殖活性を溶媒対照の1.3~1.4倍に増加させた。以上から、発がん標的臓器は肺胞上皮よりむしろ胸膜中皮である可能性が示された。また、気管支上皮の線毛運動の顕著な障害を惹起した。MWCNTの夾雑金属の免疫毒性は無かった。
結論
1)「あり姿」のMWCNT-Mは2回実施した試験において、発がんプロモーション作用はなかった。肺発がん性はあっても弱いと考えられる。
2)MWCNTは短期投与によって早期から胸膜腔に入って胸膜炎と中皮の増殖を誘発する。また血中に入って全身臓器に分布する。また、MWCNT―Nは2.6µm長以上の分画でより顕著な炎症を誘発し、それを貪食したマクロファージからは炎症性サイトカインが分泌される。
以上から、次のように結論出来る。
(1)TIPS法は吸入全身曝露法の代替法として有用となる。
(2)MWCNTは肺胞内と肺胞隔に異物肉芽形成を伴う炎症と肺胞上皮の過形成増殖を誘発するが、肺胞上皮腫瘍の発生はない。
(3)MWCNTの発がん標的はアスベストと同様に胸膜中皮である可能性が高い。
(4)一連の「発がんプロモーション試験―in vivo短期試験―in vitro作用機序解析」試験系によって毒性、発がん性とその機序に基づく情報が短期間に得られる。
3)MWCNTの夾雑金属は遊離せず、免疫等への影響はなかった。
以上の成果より、今後の炭素ナノマテリアルの安全性評価の短期・中期検索法の開発において機序に基づく早期評価法の開発における重要な知見を提供出来た。

公開日・更新日

公開日
2013-06-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201236005C

成果

専門的・学術的観点からの成果
TIPS投与法を用いて、カーボンナノマテリアルの有害作用とくに発がん性について、異物に対する生体反応としてマクロファージの関与を明らかにした。発がん標的は肺胞上皮に加え、胸膜中皮も考慮に入れる必要性を明らかにした。通常の2年吸入曝露試験に替わる評価法として40週以内の発がんプロモーション試験法、有害作用・発がん性機序(MOA)の解析法として2週以内のin vivo試験とマクロファージの関与を直接解析するin vitro試験法を組み合わせた方法が実地に有用であることを示した。
臨床的観点からの成果
なし。
ガイドライン等の開発
OECDのスポンサーシッププログラム(SG4: TEST Guideline、SG7: Alternative Test Method等)に今後十分貢献できる試験法の開発を目指している。
その他行政的観点からの成果
炭素ナノマテリアルへの職場での曝露を想定した全身吸入試験には、専用設備と長期試験の実施には莫大な費用が必要であり、これから製造されるすべての炭素ナノマテリアルの試験を実施することは不可能である。これに代替するために開発した経気管肺内分も投与法(TIPS法)は行政で有用な投与手段とできる。さらに発がんプロモーションを検出する発がん性の検索、2週以内の短期投与試験とin vitroにおけるマクロファージ負荷試験によるMOA Basedプロトコルとして行政で有用となる。
その他のインパクト
なし。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
4件
その他論文(和文)
1件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
48件
学会発表(国際学会等)
6件
その他成果(特許の出願)
1件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

特許の名称
アスベスト曝露マーカー及びその用途
詳細情報
分類:
特許番号: PCT/JP2012/056321
発明者名: 津田 洋幸
権利者名: 津田 洋幸
出願年月日: 20120312
国内外の別: 国外

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Xu, J., Sagawa, Y.,Tsuda, H.,et al.
Lack of promoting effect of titanium dioxide particles on ultraviolet B-initiated skin carcinogenesis in rats.
Food Chem Toxicol ,  (49) , 1298-1302  (2011)
原著論文2
Sagawa, Y.,Tsuda, H., Morita, A., et al.
Lack of promoting effect of titanium dioxide particles on chemically-induced skin carcinogenesis in rats and mice.
The Journal of toxicological sciences ,  (37) , 317-327  (2012)
原著論文3
Xu, J., Futakuchi, M., Tsuda , H.. et al.
Multi-walled Carbon Nanotubes Translocate into the Pleural Cavity and Cause Hyperplasic Visceral Mesothelial Proliferation.
Cancer Science. , 103 (12) , 2045-2050  (2012)
原著論文4
Xu, J.,Futakuchi, M., Tsuda , H., et al.
Nanosized zinc oxide particles do not promote DHPN-induced lung carcinogenesis but cause reversible epithelial hyperplasia of terminal bronchioles.
Archives of Toxicology  (2013)

公開日・更新日

公開日
2016-06-13
更新日
-

収支報告書

文献番号
201236005Z