化学物質の臨界期曝露が神経内分泌・生殖機能へ及ぼす遅発型影響の機序解明と指標の確立に関する研究

文献情報

文献番号
201236003A
報告書区分
総括
研究課題名
化学物質の臨界期曝露が神経内分泌・生殖機能へ及ぼす遅発型影響の機序解明と指標の確立に関する研究
課題番号
H22-化学-一般-003
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
吉田 緑(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター病理部)
研究分担者(所属機関)
  • 高橋美和(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター病理部)
  • 代田眞理子(麻布大学 獣医学部)
  • 渡辺元(東京農工大学 農学部)
  • 横須賀誠(日本獣医生命科学大学 獣医学部)
  • 川口真以子(明治大学 農学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 化学物質リスク研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
32,800,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
生理活性物質が成育の適切な時期に限定して作用する臨界期は、化学物質に対しても著しく感受性が高い。成熟後に繁殖障害や発がん促進等が顕在化する遅発型影響は臨界期曝露の中でも発現機序が不明であり、早急な機序解明およびリスク評価系の確立が望まれる。本研究は、化学物質の臨界期曝露による遅発型影響の機序の解明とリスク評価に有用な指標確立を目的として実施した。本年度は遅発影響の機序解明のための初期変化と遅発影響の子宮発がん修飾作用について解析した。
研究方法
研究成果相互解析のため、共通項目を設定し実験を行った:
1)共通する被験物質の設定 17α-ethynyl estradiol (EE)の新生児期単回皮下投与。
2)共通する遅発影響誘発量の設定 遅発影響量であることが確認できたEE20μg/kgを各実験に組み入れた。
結果と考察
1) 遅発影響の初期変化:
①視床下部への影響 遅発影響誘発量のEEを新生児期曝露後、正常性周期を示すyoung adultラットを用いて、視床下部キスペプチンの遺伝子発現を部位別に解析した結果、性周期を制御するLHサージジェネレーターが存在する視床下部前方のkiss1 neuronのmRNAレベルが発情前期のみ低下した。視床下部後方の変化は認められなかった。また、卵巣摘出LHサージ惹起実験結果から、性周期が正常な時期から既に遅発影響がサージ遅延をエストロゲン受容体αを介して引き起こしている可能性が示唆された。これらの実験結果から遅発影響の最も鋭敏な指標である性周期異常は、視床下部前方にリンクした変化の可能性が高いと考えられた。
②マウス内側視束前野(POA)への影響 新生児期EE20ug/kgおよびEE20,000ug/kg投与雌雄マウスのPOAにおけるカルシウム結合タンパク質Calbindon (CB)の分布パターンを免疫組織化学的に評価した結果、雌のCB陽性細胞数が増加し、雄では減少し雌雄差が不明瞭となった。この結果から、視床下部後方の性行動制御部位も遅発影響の標的であると考えられた。
③卵巣への影響 遅発影響誘発量の新生児期EEの経口投与により、膣開口時期に初回排卵を伴わない個体が観察され、春機発動期において既に卵胞形成への影響が示唆された。また排卵を停止しても対照群と同様に原始卵胞は消費されていると考えられた。遅発影響により異常性周期を示した20週齢の血清中性腺刺激ホルモン濃度測定およびエストロジェン標的遺伝子の定量から、エストロジェンフィードバック機構の変調が示唆された。
④内分泌・卵巣への影響 下垂体および卵巣からのホルモン測定結果から、遅発性影響の出現前には生殖関連ホルモンの分泌異常は見られなかった。新生児期EE曝露した卵巣では、成熟後においてLH受容体等のmRNA発現量が増加およびEE添加液中培養下でLH受容体の顕著な増加が認められたことから、遅発性影響が卵巣のLH受容体等生殖関連遺伝子に直接的影響を及ぼしている可能性が示唆された。
2) 遅発影響の神経系および行動への影響:マウスおよびラットを用いた行動学的解析より高用量EE投与では性行動・性選好性に異常が認められたが、EE20μg/kg投与で異常は明らかではなかった。海馬・嗅球における生後神経新生には影響は認められなかった。
3) 遅発影響と発がんとの関連性:子宮内膜過形成あるいは子宮腺癌の増加傾向がEE2μg/kg以上で観察された。これらの群では持続発情が増加し、卵巣は顕著に萎縮した。ホルモン測定結果より相対的高エストロゲン状態が示唆された。増加の機序として早期持続発情発現による卵巣萎縮が持続的な相対的高エストロゲン状態を誘導したためと考えられたが、遅発影響による直接的な子宮エストロゲン受容体感受性の変化の可能性も考慮すべきである。本結果より子宮癌の増加も遅発影響の長期指標と考えられた。
4) 性周期観察の結果より、遅発影響は反復投与により増強すると考えられた。
結論
本年度は初期変化に関する研究結果より、新生児期遅発影響量曝露した正常性周期を回帰するラットにおいて、視床下部前方のキスペプチン遺伝子の低下、LHサージ遅延から、遅発影響の標的としてサージ制御部位である視床下部後方部位が示唆された。また、マウス内側視束前野カルシウム質含有細胞分布のオス型化、ラットの春機発動期における卵胞形成への影響、卵巣のエストロジェンフィードバック機構の変調の結果から、遅発影響の標的として視床下部後方のパルス制御部位も示唆された。ホルモン測定および卵巣遺伝子の変化から、遅発影響は卵巣へも直接影響する可能性が示唆された。また、性周期観察の結果より、遅発影響は反復投与により増強すると考えられた。

公開日・更新日

公開日
2013-05-14
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201236003B
報告書区分
総合
研究課題名
化学物質の臨界期曝露が神経内分泌・生殖機能へ及ぼす遅発型影響の機序解明と指標の確立に関する研究
課題番号
H22-化学-一般-003
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
吉田 緑(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター病理部)
研究分担者(所属機関)
  • 高橋 美和(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター病理部)
  • 代田 眞理子(麻布大学 獣医学部)
  • 渡辺 元(東京農工大学 農学部)
  • 横須賀 誠(日本獣医生命科学大学 獣医学部)
  • 川口 真以子(明治大学 農学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 化学物質リスク研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
生理活性物質が成育の適切な時期に限定して作用する臨界期は、化学物質に対しても著しく感受性が高い。成熟後に繁殖障害や発がん促進等が顕在化する遅発型影響は臨界期曝露の中でも発現機序が不明であり通常の繁殖毒性試験では検出できないことから、早急な機序解明およびリスク評価系の確立が望まれる。
本研究は、化学物質の臨界期曝露による遅発型影響の機序の解明とリスク評価に有用な指標確立を目的として実施した。
1)長期観察による遅発影響指標
2)遅発影響の用量相関性と受容体との関連性
3)遅発影響の行動・神経新生への影響
4)遅発影響の初期変化
5)臨界期における遅発影響の感受性
研究方法
17α-ethynyl estradiol (EE)20μg/kgを生後1日以内のラットあるいはマウスへの単回皮下投与を遅発影響発現量の共通項目として各実験に組み入れた。3年間の研究期間のうち、平成22から23年度前半は遅発影響の長期影響指標と用量相関性を、平成23年度後半と24年度は機序解明のための初期変化を視床下部・下垂体・性腺軸の変化および遅発影響と発がん性を解析した。
結果と考察
1) 長期観察による遅発影響指標:性周期異常(持続発情)の早期化が最も鋭敏な指標で、雄型乳腺の増加・卵巣の萎縮、子宮の前がん病変の増加等多くの有用な長期影響指標が検出された。その発現には5ケ月以上を要し現行の毒性試験では検出不可能なことが確認された。
2) 遅発影響の用量相関性と受容体との関連性:遅発影響は用量依存性に発現し、各指標とも影響が認められない閾値が存在した。その影響はエストロゲン受容体(ER)αを介しており、生体へのエストロゲン活性を有する量であった。
3) 遅発影響の行動・神経新生への影響:遅発影響量投与では性行動・性選好性や海馬等の生後神経新生に影響はないが、脳の性分化関連神経核への影響を示唆する新たな所見が得られた。
4) 遅発影響の初期変化:遅発影響量投与したyoung adult動物では、発情前期に視床下部前方のキスペプチン遺伝子発現の低下、LHサージ時刻の遅延など視床下部前方のサージ制御部位に関する異常が、視索前野神経核のオス型化、初回排卵異常等の視床下部後方のパルス制御部位に関する異常を認められた。また卵巣の遺伝子変化等卵巣への直接影響も示唆された。
5) 臨界期における遅発影響の感受性:遅発影響発現は単回皮下投与より反復経口投与で増強し、経口投与でも皮下同様に遅発影響が発現した。
結論
本研究結果より多くの指標が検出されたが、性周期早期異常が最も感度の高い指標と結論した。初期変化として、性周期に関わる視床下部前方のLHサージ制御部位だけでなく卵胞発育等に係る後方のパルス制御部位についても、正常性周期回帰中にすでに遅発衛異教の引き金が引かれたことを示唆する興味深い結果が得られた。確定には至らなかったものの遅発影響の機序として神経内分泌機能の複数経路の初期からの変調が有力であり、その変調が性成熟以降に性周期早期異常として顕在化する可能性が高い。しかし、現行の生殖発生毒性試験の観察期間や検査項目では遅発影響は検出できないことから、エストロゲン活性の確認や遅発影響懸念物質については観察期間の延長等の追加検査項目が遅発影響の有無の判定には必要であると結論した。

公開日・更新日

公開日
2013-05-14
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201236003C

成果

専門的・学術的観点からの成果
化学物質の新生児期曝露により成熟後に生体への悪影響が顕在化することを遅発影響と定義できた。
遅発影響の指標のうち、性周期異常(持続発情)の早期化が最も鋭敏である。
遅発影響は用量相関性でエストロゲン受容体αを介しin vivoエストロゲン作用量内で発現する。
臨界期曝露後短期間で視床下部・下垂体・性腺制御系のキスペプチンの遺伝子等が変化することより、遅発型影響の機序として初期から視床下部・卵巣でスイッチonとなるが、性周期異常などの汎用指標が性成熟を過ぎてから顕在化すると考えられた。
臨床的観点からの成果
なし
ガイドライン等の開発
なし
その他行政的観点からの成果
現行の検査項目では通常の生殖発生試験および短期投与試験の観察期間では遅発影響は検出できないと考えられる。現行の改良法としてin vivoエスロゲン活性物質については観察期間を延長して長期間性周期を観察する必要がある。具体的には繁殖毒性試験の次世代の観察期間を6ヶ月齢まで延長し、断続的に性周期を観察することで遅発影響を検出できると考えられる。
その他のインパクト
1)講演会の開催 2011年11月30日国立医薬品食品衛生研究所講堂
脳の性分化:発達脳へのステロイド感作とキスペプチンニューロン(講演者 束村博子,名古屋大学生命農学研究科)
2)受賞 第38回日本トキシコロジー学会(横浜)優秀発表賞授与 高橋美和ら 17α-ethynyl estradiol(EE)の新生児期単回曝露による性周期への影響

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
10件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
14件
学会発表(国際学会等)
5件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Takahashi M, Matsuo S, Yoshida et al
Development of an early induction model of medulloblastoma in Ptch1 heterozygous mice initiated with N-ethyl-N-nitrosourea
Cancer Sci , 103 (12) , 2051-2055  (2012)
10.1111/cas.12006.
原著論文2
Shirota M, Kawashima J, Ogawa Y et al
Delayed effects of single neonatal subcutaneous exposure of low-dose 17α-ethynylestradiol on reproductive function in female rats.
J Toxicol Sci , 37 , 681-689  (2012)
原著論文3
Yoshida M, Katsuda S, Maekawa A.
Involvements of Estrogen Receptor, Proliferating Cell Nuclear Antigen and p53 in Endometrial Adenocarcinoma Development in Donryu Rats.
J Toxicol Pathol , 25 (4) , 241-247  (2012)
原著論文4
Taketa Y, Yamate J, Yoshida M et al
Differential Morphological Effects in Rat Corpora Lutea among Ethylene Glycol
Toxicol Pathol  (2012)
原著論文5
Taketa Y, Yoshida M, Nishikawa A et al
The newly formed corpora lutea of normal cycling rats exhibit drastic changes in steroidogenic and luteolytic gene expressions. 
Exp Toxicol Pathol , 64 (7) , 775-782  (2012)
10.1016/j.etp.2011.01.015
原著論文6
Matsuo S, Takahashi M, Yoshida M et al
Thickened area of external granular layer and Ki-67 positive focus are early events of medulloblastoma in Ptch1(+/-) mice.
Exp Toxicol Pathol.  (2013)
S0940-2993(12)00149-2. 10.1016/j.etp.2012.12.005
原著論文7
Horii Y, Kawaguchi M, Watanabe G et al
Male hatano high-avoidance rats show high avoidance and high anxiety-like behaviors as compared with male low-avoidance rats. 
Exp. Anim., , 61 (5) , 517-524  (2012)
原著論文8
Shirota M, Kawashima J, Nakamura T et al.
Vascular Hamartoma in the Uterus of a Female Sprague-Dawley Rat with an Episode of Vaginal Bleeding.
Toxicol Pathol  (2013)
原著論文9
Yoshida M, Takahashi M, Maekawa A et al
Delayed adverse effects of neonatal exposure to diethylstilbestrol and their dose dependency in female rats.
Toxicol Pathol , 39 (5) , 823-834  (2011)
10.1177/0192623311413785.
原著論文10
Taketa Y, Yoshida M, Nishikawa A et al
Differential stimulation pathways of progesterone secretion from newly formed corpora lutea in rats treated with ethylene glycol monomethyl ether, sulpiride, or atrazine.
Toxicol Sci , 121 (2) , 267-278  (2011)
10.1093/toxsci/kfr062

公開日・更新日

公開日
2016-06-13
更新日
-

収支報告書

文献番号
201236003Z