採血基準の見直しに関する研究

文献情報

文献番号
201235068A
報告書区分
総括
研究課題名
採血基準の見直しに関する研究
課題番号
H24-医薬-指定-035
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
河原 和夫(東京医科歯科大学大学院 医歯学総合研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 中島 一格(東京都赤十字血液センター)
  • 松崎 浩史(東京都赤十字血液センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
少子高齢化により輸血を必要とする者は増加するが、この需要に応えるべき献血者の減少が危惧されている。必要な献血量を確保するとともに献血者の健康保護をなお一層図っていくことが血液事業には課せられている。これには採血基準の変更を考慮しなければならないが、検討する上での基礎資料が不足している。本研究は、将来想起される血液需給の不均衡を防止すべく献血者の一層の確保のための採血基準を見直すとともに献血者の健康保護の観点からも現行の採血基準の妥当性を検証する必要がる。
研究方法
平成24年度は血液生化学データから肝機能に関する採血基準を変更した際の影響や献血確保量の増減を推計した。そして種々の理由による献血不適格者の地理的分布と献血確保量への影響、そして公衆衛生的な観点から献血不適格者に健康教育等を行うことによる献血者確保対策を検討した。
結果と考察
平成21年7月12日~18日の1週間の全国の献血者データの分析では、現在の基準では製品化できないALT高値群(>60U/L)は、1,897名(男性1,742名、女性155名)いた。この値は調査期間の全献血者102,307人のうちの1.85%を占めていた。ALT高値の原因としては、肝炎ウイルス等への感染や何らかの肝障害の可能性と肥満や飲酒が肝指標へ影響したことも考えられる。もし、これら不適格者の大部分が飲酒や肥満に起因しているのであれば、ALTとγ-GTP、BMIとの関係を免疫学的検査やNATの結果などの病原微生物検査指標と併せて検討してALT基準の見直しを行うことにより献血可能者を増加させる方策を採ることも重要である。研究成果としてALTと飲酒や肥満により影響されるγ-GTP、ALTと肥満の指標であるBMIとの関係については、ALTとγ-GTPの相関係数は0.478で中程度の相関性が、ALTとBMIの相関係数は0.373でやや相関があることがわかった。これらの値は、ALT異常が肥満や飲酒に起因する可能性が示された。
次いで基準変更を考える前に、あるいは並行して検討すべき事項である既存の問診該当事項にどのような属性を有する献血者が該当し、採血基準の変更前に献血者の増加につながる対策について検討した。その結果、性・年齢階級により献血不適格理由該当者に差があることがわかった。血色素不適格者は、各年齢階級で女性が大部分を占めており、しかも年齢層が若い。加えて女性は10歳代後半から20歳代、30歳代後半から40歳代前半にかけて不適格者が多くみられる二峰性分布を示していた。一方、男性は中年以降に血色素不適格者が多くみられた。これらの結果は、血色素対策は若い女性で40歳代の女性にも配慮して鉄欠乏性貧血や血色素に絡む食生活などの日常生活指導を行う必要がある。さらに九州の献血者を対象とした調査ではあるが、都市部の女性の献血指向は非都市部居住者より高いことから、特に大都市部とその周辺の女性に「血色素」に関する健康教育を実施する意義は大きいと考える。男性については、中年以降の教育が重要であることを示している。
問診該当②の該当者は、男女ともに10歳代の献血者に不適格者が多い。少なくとも「ピアス関連事項」「刺青」「海外渡航のこと」「献血後の過ごし方(運動、作業、飲酒など)」に関する正しい知識を普及啓発することは、該当者を減らして献血者を増加させることに寄与すると思われる。また、こうした正しい知識は友人や家族に伝播していく仕組みを作ることも重要である。
採血基準の変更に加えて、献血と献血者の健康保護に関する正しい知識の普及啓発が献血者確保には重要であることが示唆された。
免疫・生化学的な採血基準のほかに体重・身長と言った理学所見や献血量や献血回数などの量的・時間的基準の妥当性についても平成26年度に検証する予定である。そこで過去に行われた「男性400mL献血の年間4回実施の可能性に関する研究」をレビューした。 
その結果、この研究は本邦において男性献血者の400mL献血の年間可能献血回数を現行の3回以内を4回に引き上げることを視野に入れた初めての予備的研究であったが、 血液生化学検査の指標としてはHb値のみしか検討していなかったが、400mLの献血可能回数を年4回に変更する場合は、大幅にHb値が減少する献血者が出てくることがうかがえた。したがって、Hb値が採血可能ラインである12.5g/dLを僅かに超えている献血者には注意を払う必要があることなどの成果が得られた。
結論
今後、免疫・生化学的な基準の見直しに加えて、Hb値と体重や身長、循環血液量などの身体所見を併せて研究を進めていく必要がある。

公開日・更新日

公開日
2013-05-31
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201235068Z