大規模自然災害等に備えた血液製剤の保存法と不活化法の開発に関する研究

文献情報

文献番号
201235040A
報告書区分
総括
研究課題名
大規模自然災害等に備えた血液製剤の保存法と不活化法の開発に関する研究
課題番号
H24-医薬-一般-007
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
岡田 義昭(国立感染症研究所 血液・安全性研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 柴 雅之(日本赤十字社 中央血液研究所)
  • 下池 貴志(国立感染症研究所 ウイルス2部)
  • 寺田 周弘(日本赤十字社 中央血液研究所)
  • 野島 清子(国立感染症研究所 血液・安全性研究部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
6,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、大規模自然災害や輸血を介して感染する感染症のパンデミックが発生した場合に備えて、1)被災地においてライフラインが破壊され、医療機関に保管されている赤血球製剤の温度管理が不能になった場合の赤血球製剤の品質評価、2)血小板製剤の低温保存法の開発、3)赤血球製剤の病原体不活化法の開発、4)病原体不活化法評価のための不活化評価法の開発、等の研究を実施し、災害時等の輸血用血液の供給と安全性の確保をはかることを目的としている。
研究方法
1)大規模災害時において被災地の医療施設の保管されている赤血球製剤が停電等で温度管理が不能になり、室温で保管された場合の品質への影響を検討した。赤血球製剤を4、10、15、20、25、30℃の各温度条件で96時間保存し、pH、ATP濃度、2,3-DPG濃度、上清Hb濃度、血球関連試験及び赤血球形態について検討した。2)血小板の低温保存では、低温による血小板の活性化メカニズムを解明するために高周波散乱光法を用いて、冷却が血小板形態へ及ぼす影響について検討した。また、低温から室温に戻した場合の血小板の形態変化を解析した。3)赤血球製剤の病原体不活化法の開発では、照射量を増加させ病原体の不活化効率を高めるために赤血球の劣化を防止する赤血球保護剤の検討を行った。4)C型肝炎ウイルス(HCV)はJFH-1を細胞にトランスフェクションし、培養上清中に産生されるウイルスを濃縮し、感染価の高いHCVを作製した。60℃10時間の液状加熱を行い、不活化前後ウイルス核酸の量を検討した。また、パルボウイルスB19(以下B19)は in vitroで増殖させることは困難だが、ヒト末梢単核球を Filipponeらの報告に従って培養し、赤芽球細胞を得た。赤芽球細胞のB19に対する感受性を検討した。また、不活化法の評価域を拡大するために簡単なウイルス濃縮法を検討した。
結果と考察
1)温度制御不可能な状況におかれた赤血球製剤は、pHは温度に依存して低下した。ATP濃度は15℃までは影響がみられず、20℃以上で温度に依存して低下した。2,3-DPG濃度は温度に依存して低下し、特に20℃以上で著しく低下した。10℃では、72時間程度放置しても品質に大きな影響は認めなかった。可能であれば10℃以下に保つことが理想であるが、20℃以下であれば赤血球の品質はある程度保たれることが明らかになった。2)血小板の低温保存では、開発した高周波散乱光法を用いて冷却が血小板形態へ及ぼす影響について検討した。その結果、冷却による形態変化は再加温で復帰可能な可逆性があることが明らかになった。冷却時間が長くなると、可逆性は冷却温度に関係なく低下したが、冷却温度が高いほど維持されていた。冷却温度を高めにすれば、低温下における活性化を軽減できる可能性が示唆された。3)赤血球製剤の病原体不活化では、紫外線からの赤血球保護剤として強力な抗酸化剤であるビタミンC(以下VC)を添加して不活化効果を検討した。なお、不活化の評価にはHCVのモデルウイルスであるウシ下痢症ウイルス(BVDV)を用いた。VC添加によって不活化効率が著明に減少し、ほぼ無処理と同等に低下したが、赤血球にVCを取り込ませた後に遠心で赤血球からVCを除去し、紫外線照射すると不活化効率は回復した。以上から紫外線照射による病原体不活化は活性酸素を介した機序が考えられた。また、VCの添加によって溶液中に存在するウイルスは活性酸素から保護されるため不活化されなくなるが、赤血球内にVCを取り込ませた後に洗浄することで赤血球を保護し赤血球の外に存在するウイルスを不活化することが可能になった。赤血球の保護剤としてVCは有用であることが判明した。4)C型肝炎ウイルスは、60℃10時間で感染力を失っても核酸は保たれていた。また、ヒト末梢単核球から誘導した赤芽球細胞は、B19に感受性を示し、B19の核酸の合成と抗原の発現が認められた。さらにexosomeを精製する試薬を用いることで簡便に感染性を有するウイルスを濃縮することができた。
結論
災害による停電等によって温度管理ができなくなった場合の赤血球製剤の品質に及ぼす影響を解析し、20℃を越えると影響が大きいことを明らかにした。また、血小板を一過性に低温に保存しても加温によって元に戻る可逆性があることを明らかにした。紫外線照射による赤血球製剤の保護剤としてVCが有用であることが示せた。さらに不活化法によっては、感染力は消失してもウイルス核酸は保持されることもあることを明らかにした。また、末梢血由来の赤芽球細胞は、B19の感染性評価に有用であった。

公開日・更新日

公開日
2013-05-30
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201235040Z