輸血療法における重篤な副作用であるTRALI・TACOに対する早期診断・治療のためのガイドライン策定に関する研究

文献情報

文献番号
201235038A
報告書区分
総括
研究課題名
輸血療法における重篤な副作用であるTRALI・TACOに対する早期診断・治療のためのガイドライン策定に関する研究
課題番号
H24-医薬-一般-005
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
田崎 哲典(東京慈恵会医科大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 岡崎 仁(日本赤十字社血液事業本部中央血液研究所)
  • 稲田 英一(順天堂大学 医学部)
  • 桑野 和善(東京慈恵会医科大学 医学部)
  • 荒屋 潤(東京慈恵会医科大学 医学部)
  • 塩野 則次(東邦大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
6,940,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
輸血関連急性肺障害(transfusion-related acute lung injury; TRALI)は、「輸血中、あるいは輸血後6時間以内に発症する肺水腫を伴う急性呼吸障害」で、現在、世界で最も重要な輸血副作用の一つとされる。TRALIと類似の症状を呈する輸血関連循環負荷(transfusion-associated circulatory overload; TACO)は治療方針が異なるだけでなく、医療過誤に近いため生物由来製品感染等被害救済制度の適用上も問題となりやすい。本研究班の主目的は、これらを早期に診断・鑑別し、治療に結びつけられるガイドラインの策定にある。
研究方法
1.赤十字血液センター、日本輸血細胞治療学会総合アンケート、国際輸血学会報告、その他、国内外の様々な資料から、わが国、及び世界のTRALI、TACOに関する情報を収集し、現状を把握する。
2.わが国の献血ドナーにおける抗白血球抗体の保有率、保有者の特徴を把握し、献血ドナーに対する抗体スクリーニング導入の意義と、血液事業への影響等を検討する。
3.抗体を含む血液製剤の輸血とTRALIの関連を後方視的に検討する。
4. 輸血副作用、特に呼吸困難を呈した患者に使用された血液の抗白血球抗体を検査し、関連性を評価する。
5.内科、外科、周術期におけるアルブミンを含む血液製剤の使用と、呼吸・循環障害の関連を調査する。
6.TACOの動物モデルを作成し、発症の病態を考察する。
結果と考察
1.日本、及び世界のTRALI、TACO
血液センターに呼吸困難として報告された症例から、わが国のTRALI・TACOの発症件数は、TRALIは年間約20-30例、TACOは最近の2年では年間50例近いと考えられた。TRALIを発症した原因製剤の約30%に白血球抗体が検出された。一方、海外の状況、例えば米国ではTRALIが輸血関連死亡の43%で、ヘモビジランス体制がしっかりしている国では血漿製剤のドナーとして男性を優先とするなど、対策も進んでいる。わが国でも同様の体制に移行しつつあり、副作用の低減化が期待される。TACOについては国際基準も曖昧で、データが集まりにくい。米国は輸血関連死亡の15%とされ、わが国でも正しく情報を集め、予防に繋げる必要がある。
2.血液製剤使用後の呼吸障害と白血球抗体
研究代表者施設の倫理委員会の承認を得たので、具体的に検体の収集を行い、白血球(HLA)型、抗体検査などを進め、臨床との関連を調査する。これまでMPHA法によるパロット的検討では、ドナー血中の抗HLA抗体の陽性率は0.13%と低く、更に高感度な方法で頻度、臨床との関連を検討する。
3.周術期、血液製剤の使用法
術中のアルブミン製剤とヒドロキシエチルデンプン(HES)の使用状況について、日本麻酔科学会認定施設を対象とした調査によれば、アルブミン製剤の適正使用はまだ不十分で、施設間差が多いことが示唆された。中分子製剤HESの市販で使用状況は変化するものと思われ、今後の動向に注目する必要がある。
4.急性肺傷害(ALI)/急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の病態と診断、治療からの考察
輸血開始前後の酸素分圧や酸素飽和度の低下度、及び臨床症状改善までの経過が、TRALIの補助診断基準になりうると思われた。TACOとの鑑別では頸静脈の怒張、聴診上のIII音、画像診断, 心臓超音波検査, BNPの測定が有用と考えられた。治療についてはステロイドも含め、無作為臨床試験で有効性が確立された薬剤はない。
5.循環器疾患における輸血およびTRALI、TACO
TACOの一因として急速・大量輸血が挙げられ、特に心肺機能の低下した高齢者や小児では要注意である。即ち輸血前の心機能と輸血負荷との相対的な力関係が問題となる。TACOを回避するため、輸血前の状態(心肺機能)を考慮した指針が必要であり、発症した場合はTACOと判断でき、治療に繋がるようなガイドラインであることが現実的である。
6.家畜ブタを用いたTACOの基礎的実験
家畜ブタを用い、輸液負荷とうっ血性肺水腫の発生に関し、基礎的な実験を行った。循環血液量の160%の負荷でも心機能の破綻には至らず、今後は引き続きHESの効果と、輸血を用いたTACOの発症について、検討する予定である。
結論
TRALIが重要な輸血副作用であることは世界共通の認識であり、予防策も講じられつつある。ただ、診断基準に補足が必要で、特に鑑別に重要なTACOの国際基準は曖昧である。研究班では1年目の検討結果に基づき、より有用性の高いガイドラインの策定を目指す。

公開日・更新日

公開日
2013-07-11
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201235038Z