ナノ物質等を配合した化粧品及び医薬部外品の安全性及び品質確保に関する研究

文献情報

文献番号
201235024A
報告書区分
総括
研究課題名
ナノ物質等を配合した化粧品及び医薬部外品の安全性及び品質確保に関する研究
課題番号
H23-医薬-指定-016
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
五十嵐 良明(国立医薬品食品衛生研究所 生活衛生化学部)
研究分担者(所属機関)
  • 杉林 堅次(城西大学 薬学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス総合研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
5,100,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
化粧品や医薬部外品は多種多様な成分を製剤としたものであり、製品中では他成分の影響でナノ物質が凝集してサブミクロン程度の大きさになっていることが予想される。本研究では、化粧品中のナノ物質の特性解析に関する国際会議の内容について調査を行うとともに、各種ナノ物質の曝露状況に応じた媒体中の粒子径について検討した。近年、物質の皮膚透過ルートとして、毛嚢などを介する経付属器官ルートがイオン性物質や水溶性高分子物質の主な皮膚透過ルートとして注目され始めている。そこで、毛嚢に移行した物質の皮内動態を明らかとするため、毛嚢内動態評価システムの確立を行った。脱毛処理後の物質の皮膚透過性試験を実施するとともに、確立したシステムを用いて各種高分子物質の毛嚢内動態を調べ、ナノ物質の皮膚透過性に関して考察した。また、ナノ物質の皮膚免疫機能の増強作用を評価するため、特に化学物質の皮膚感作性誘導反応へのナノ物質の共存効果を検討した。
研究方法
化粧品中ナノ物質の粒子径測定に関する調査として、化粧品規制協力国際会議ナノマテリアルキャラクタライゼーション作業部会が取りまとめた文書を入手して翻訳した。ナノ物質の分析及び曝露影響評価に関する検討では、白金、銀及びアルミナを検討に用いた。ナノ物質は水、生理食塩水、リン酸緩衝液、人工胃液、人工腸液、牛胎児血清及び10%血清含有培養液で希釈し、超音波処理した後、動的光散乱法により粒度分布を測定した。ヒト単球由来THP-1細胞に各ナノ物質を添加して培養後、感作性物質を加えて更に24時間培養した。培養上清を回収し、IL-8産生量を測定した。細胞は蛍光染色し、細胞表面抗原の発現率を求めた。酸化チタンの経皮吸収性をブタ耳皮膚で検討した。共焦点レーザー顕微鏡等を用いた脱毛した皮膚の毛嚢開口部の観察、及びin vitro皮膚透過性試験を行った。皮膚を縦型拡散セルにセットし、表皮側に種々の試験物質を適用し、経時的に真皮側からサンプリングを行い分析した。
結果と考察
白金粒子の平均一次粒子径は数nmと謳われているが、水に懸濁すると平均二次粒子径は100 nm以上を示した。アルミナは粒子の表面処理状態によって各種溶媒中での凝集度が変化した。いずれにしても多くのナノ物質は製品化の段階、消化吸収過程あるいは血液循環過程で凝集し、大きさの影響を生じる可能性は少ないと思われた。化粧品規制協力国際会議の報告では、現在製剤のナノ物質の存在形態を適切に分析する方法はないとされているように、化粧品中の物質の大きさに関連する影響を解析することは極めて困難であるが、情報収集は引き続き必要である。皮膚に塗布したナノ物質は皮溝や毛嚢開口部などに集積した。物質の毛嚢移行性と毛穴の開口部面積との関係が示されたことから、脱毛時には毛嚢内へのナノ粒子の侵入が示唆された。高分子水溶性物質は毛嚢移行後に分配・拡散して皮内へ浸透することが明らかとなった。しかしナノ物質は皮膚組織への分配が著しく低いことから、炎症等による毛嚢内バリア機能の低下や遊走細胞等による貪食が認められない限り、生きた表皮・真皮内へ移行は困難であると考えられた。更に、皮膚感作性物質に対する抗原提示細胞の反応性は、白金、銀ナノ粒子の共存下で影響はなかった。金属塩を用いた検討でも同様に反応性は変化せず、これらナノ物質に皮膚感作誘導を増強する効果はないと考えた。
結論
白金、銀及びアルミナはそれぞれ懸濁する溶媒によって粒度分布が変化することから、製剤化の段階で凝集していることが予想された。しかし現状、最終製品中のナノ物質の存在状態を解析する適切な測定法はないとされており、化粧品に含まれた状態のサイズの影響を明らかにすることは困難と思われた。物質の毛嚢移行性は毛穴の開口部面積と関係があり、脱毛時には毛嚢内へのナノ粒子の侵入が示唆された。高分子水溶性物質については毛嚢移行後に分配・拡散して皮内へ浸透するが、ナノ物質においては、皮膚組織への分配が著しく低く、毛嚢内バリア機能の低下あるいは遊走細胞等による貪食作用がない限り、表皮及び真皮内への移行は困難であると考えられた。更に、皮膚感作性物質に対する抗原提示細胞の反応はナノ物質共存下でも変化なく、ナノ物質が皮膚感作誘導を増強する作用は少ないと考えられた。

公開日・更新日

公開日
2013-05-14
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201235024B
報告書区分
総合
研究課題名
ナノ物質等を配合した化粧品及び医薬部外品の安全性及び品質確保に関する研究
課題番号
H23-医薬-指定-016
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
五十嵐 良明(国立医薬品食品衛生研究所 生活衛生化学部)
研究分担者(所属機関)
  • 杉林 堅次(城西大学 薬学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス総合研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
化粧品や医薬部外品に配合されるナノ物質が、製品の機能性や使用感を向上させることは良く知られている。化粧品は多種多様な成分から製造されることから、相互作用によってナノ物質は凝集していると予想される。一方、口紅に配合されたナノ物質は消化過程における形態変化も考えられる。したがって一般的な溶媒だけでなくタンパク質溶液中のナノ物質の粒子径についても調べる必要がある。化粧品や医薬部外品は皮膚への塗布が一般的であることから、ナノ物質自体の皮膚透過性、及びナノ物質併用時の他成分の作用を評価することは重要である。ナノ物質は毛包経路での皮内移行が危惧されているが、結論は出ていない。新たなナノ物質も開発され、引き続き感作性物質に対する免疫細胞の反応性に対する共存効果について検討が求められている。本研究では、ナノ物質を配合した化粧品等の品質及び安全性確保のため、in vitro試験時あるいは体内動態時の存在状態を把握し、皮膚透過性及び皮膚機能影響を明らかにすることを目的とした。各種媒体に懸濁時の粒度分布、物質の毛嚢内動態評価システムの確立とその応用、及び皮膚感作性誘導反応に対する化学物質とナノ物質の併用作用について検討した。
研究方法
化粧品規制協力国際会議作業部会が取りまとめた化粧品中ナノ物質の粒子径測定に関する文書を翻訳した。ナノ物質の暴露影響評価に関する検討では、ナノ物質を水、生理食塩水、リン酸緩衝液、人工胃液、人工腸液、牛胎児血清及び10%血清含有培養液で希釈し、超音波処理した後、動的光散乱法により粒度分布の測定を行った。ヒト単球由来THP-1細胞に種々のナノ物質及び金属塩を添加して24時間培養した。感作性物質を加えて更に24時間培養した。培養上清中のIL-8濃度を測定し細胞については蛍光染色し、表面抗原CD54及びCD86の発現率を求めた。酸化チタンの経皮吸収性に関しては、ブタ耳皮膚を用いて検討した。脱毛した皮膚の毛嚢開口部の口径を観察し、in vitro皮膚透過性試験では毛嚢プラッギングの有無での結果を比較した。摘出した皮膚に種々の試験物質を適用し、経時的に真皮側の物質濃度を測定した。
結果と考察
シリカは多くの媒体にナノサイズで分散したが血清等を含有する媒体では凝集が起こった。酸化鉄は生理食塩水で著しく凝集し、白金粒子は水中で100 nm以上となった。銀粒子も同様に凝集塊となるが、アルミナは表面処理状態によって凝集性は異なった。ナノ物質は製造工程、経口摂取後の消化吸収過程、あるいは血液循環過程で凝集することが予想され、サイズの効果を生じる可能性は少ないと思われた。現在複雑な製剤中のナノ物質の存在形態を適切に分析する方法はないと報告され、化粧品中のナノ物質の大きさに関連する影響を明らかにすることは極めて困難であるが、引き続き情報収集が必要である。サンスクリーン剤は皮膚適用後皮溝部に集積し、テープストリッピング法では凹部に入るナノ物質の皮内動態を解析することは不可能であった。物質の皮膚透過経路を経角層経路と経付属器官経路に区別して評価できる毛嚢プラッギング法を確立し、水溶性高分子物質の毛嚢内透過性を検討した結果に、ナノ物質の皮膚分配性を考慮に加えると、ナノ物質が皮膚へ浸透・透過することは困難であることが示唆された。陽性対照の酸化ニッケルは細胞に曝露すると感作性の指標因子を増加させた。シリカでは若干IL-8産生量が増加したが、酸化チタン、酸化鉄、白金、銀及びアルミナは反応しなかった。皮膚感作性物質の反応性はナノ物質あるいはその金属塩が共存しても反応性は変わらず、ナノ物質の皮膚感作誘導反応の増強効果はないと考えられた。
結論
ナノ物質は懸濁される溶媒によって粒度分布が変化し、製造過程あるいは血液循環や消化過程で凝集すると考えられた。水溶性高分子物質の毛嚢経路での皮膚透過は、毛嚢移行後に分配・拡散して皮内へ浸透すると考えられた。しかしナノ物質は皮膚組織への分配が著しく低いことから、炎症など毛嚢内バリア機能の低下あるいは遊走細胞等による貪食作用がない限り、生きた表皮・真皮内へのナノ物質の移行は困難であると考えられた。皮膚感作性物質に対する抗原提示細胞の反応はナノ物質共存下で変化はなく、ナノ物質に皮膚感作を増強するような作用はないと考えられた。以上のことから、化粧品に配合されたナノ物質のサイズに関連する懸念は無視できると考えられた。現状、最終製品中のナノ物質の存在状態を解析する適切な測定法はないとされており、配合状態のサイズの影響を明らかにするには更なる検討が必要と思われた。

公開日・更新日

公開日
2013-05-14
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201235024C

成果

専門的・学術的観点からの成果
化粧品や医薬部外品に用いられるナノ物質の血清あるいは人工消化液等各種媒体中の粒度分布を測定した。製剤中、細胞培養試験時、及び消化から体内分布時のナノ物質の存在状態を予測することにより、健康影響に対するサイズの寄与を明らかにするための基礎データを示した。皮膚塗布された物質の毛嚢等付属器官経由の皮内浸透性を評価する試験法を提案し、ナノ物質に応用した。ナノ物質の共存下で、皮膚感作性物質の感作誘導反応は増悪されないことを示した。
臨床的観点からの成果
媒体によってナノ物質懸濁液の粒度分布が変化することから、試験物質の特性解析はサイズに依存した評価のため必須であることを示した。化粧品の製造工程あるいは経口摂取後の消化過程でナノ物質は凝集し、サイズ特有の効果を生じる可能性は少ないと思われた。水溶性高分子物質の毛嚢経由の浸透性を明らかにする一方、ナノ物質の表皮及び真皮へ移行の困難度を示した。白金や銀等のナノ物質が共存しても皮膚感作性反応等が増強されることはなかった。化粧品中のナノ物質について経皮曝露での健康影響の懸念は認めなかった。
ガイドライン等の開発
化粧品規制協力国際会議ナノマテリアルキャラクタライゼーションワーキンググループにおける化粧品におけるナノ物質の定義とその確証方法に関する報告書の策定に協力した。
その他行政的観点からの成果
in vitro皮膚透過性試験のナノ物質の評価への適用限界を明らかにした。化粧品におけるナノ物質の定義とその確証方法について情報収集した報告書を翻訳し、これを添付することにより、化粧品分野におけるナノ物質研究の現状について理解を深めることに寄与した。酸化チタン等の金属ナノ物質について、新たな化粧品成分としての安全性評価や成分表示の必要性は現状ないことを示した。
その他のインパクト
日本薬学会第133年会において、「化粧品の機能性と安全性を支える科学」と題したシンポジウムを主催し、ナノマテリアルに対する安全性及び皮膚透過性の考え方等について講演を頂き議論した。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
5件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2013-05-14
更新日
-

収支報告書

文献番号
201235024Z