薬物乱用・依存等の実態把握と薬物依存症者に関する制度的社会資源の現状と課題に関する研究

文献情報

文献番号
201235023A
報告書区分
総括
研究課題名
薬物乱用・依存等の実態把握と薬物依存症者に関する制度的社会資源の現状と課題に関する研究
課題番号
H23-医薬-一般-014
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
和田 清(国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所薬物依存研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 嶋根 卓也(国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所薬物依存研究部)
  • 松本 俊彦(国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所薬物依存研究部)
  • 庄司 正実(目白大学 人間学部)
  • 福永 龍繁(東京都監察医務院)
  • 宮永 耕(東海大学 健康科学部)
  • 山口 みほ(日本福祉大学 社会福祉学部)
  • 近藤 あゆみ(新潟医療福祉大学 社会福祉学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス総合研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
18,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
薬物乱用・依存対策の基礎資料に供するために、(研究1)薬物乱用・依存等の実態把握調査と、(研究2)薬物依存症者に関する制度的社会資源の現状と課題,再乱用防止のための治療プログラムの開発・評価を実施した.
研究方法
(研究1)1.全国中学生調査(層別一段集落抽出法により選ばれた全国235校の全生徒を対象とした自記式調査),2.全国精神科病院調査(主治医による悉皆調査)、3.全国児童自立支援施設調査(入所児童による自記式悉皆調査)、4. 監察医務院調査(横断調査)、5. 薬剤師を情報源とする市販薬乱用実態調査(横断調査)を行った。(研究2)薬物依存症者に関する制度的社会資源の1.重なりと2.地域格差に関する研究,3.家族心理教育プログラムの開発とその評価研究,4.少年用薬物乱用防止ツールによる介入研究を行った.
結果と考察
(研究1)1. 有効回答は、124校(対象校235校の52.8%)、54,486人(対象校の全生徒想定数の46.6%)であった。生涯経験率は有機溶剤0.5%、大麻0.2%、覚せい剤0.2%,「脱法ドラッグ」0.2%であった.飲酒・喫煙・薬物乱用経験率は経年的には減少しているが,今回初めて調査した「脱法ドラッグ」の乱用経験者における大麻乱用経験率,覚せい剤乱用経験率は、それぞれ,60.0%、63.3%にものぼり,ゲイトウェー・ドラッグが有機溶剤から「脱法ドラッグ」に変わる可能性がある.2.全有床精神科病院の70.6%から協力が得られ、有効症例848症例を分析の対象とした。薬物毎の生涯使用経験率は、多い順に覚せい剤63.3%、有機溶剤42.2%、大麻41.3%、睡眠薬39.7%、抗不安薬31.0%、脱法ドラッグ27.5%であり,2010年調査に比べて大麻の使用経験率が顕著に上昇していた。入院・通院原因薬物としては,覚せい剤42.0%,「脱法ドラッグ」16.3%,睡眠薬・抗不安薬15.1%であり,「使っても捕まらない薬物」が2,3位を占めた.3.生涯経験率はブタン40%、有機溶剤32.1%、抗不安薬26.5%,「脱法ハーブ」16.7%の順であった.4. 検出医薬品は睡眠剤343件,精神神経用薬剤325件,メタンフェタミン14件,アンフェタミン13件であった.「脱法ハーブ」使用が推定される例が1件あった.5. 対象薬剤師の37.7%は過去1年間で大量・頻回購入者への応対経験があり,買われた市販薬は,咳止め,風邪薬,解熱鎮痛剤が多かった.(研究2)1.DARCの運営形態は障害者自立支援法への移行として進められたが,実際には多様な形態が模索されていた. 2.「薬物依存症」は,精神障害者福祉手帳の対象外であることが判明した.3.開発した家族心理教育プログラムの実施,及び,4.麻薬取締官による執行猶予付き・保護観察なしの初犯薬物事犯者への自習ワークブックの提供は,一定の効果があることが示唆された.
結論
若年者の薬物乱用経験率は確実に減少しているが、有機溶剤・大麻・覚せい剤乱用による健康への害知識の周知率は減少傾向にあり、薬物乱用防止教育の再度の強化の必要性が示唆された。また,「脱法ドラッグ」が今後の薬物乱用状況の鍵となる可能性があることが示唆された。再乱用防止には、薬物依存症に対する「医療モデル」「福祉モデル」としての取り組みが不可欠であるが、利用可能な制度的社会資源を増やす必要がある。同時に、本研究で開発した司法関連施設における少年用薬物乱用防止教育ツール、及び、家族心理教育プログラムを行政的に全国に広めて行くことが、「第三次薬物乱用防止5カ年戦略」で謳われている再乱用防止および薬物依存・中毒者の家族に対する具体的支援策になるのではないかと考えられる。

公開日・更新日

公開日
2013-05-01
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201235023B
報告書区分
総合
研究課題名
薬物乱用・依存等の実態把握と薬物依存症者に関する制度的社会資源の現状と課題に関する研究
課題番号
H23-医薬-一般-014
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
和田 清(国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所薬物依存研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 嶋根 卓也(国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所薬物依存研究部)
  • 松本 俊彦(国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所薬物依存研究部)
  • 庄司 正実(目白大学 人間学部)
  • 福永 龍繁(東京都監察医務院)
  • 宮永 耕(東海大学 健康科学部)
  • 山口 みほ(日本福祉大学 社会福祉学部)
  • 近藤 あゆみ(新潟医療福祉大学 社会福祉学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス総合研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
薬物乱用・依存対策の基礎資料に供するために、(研究1)薬物乱用・依存等の実態把握調査と、(研究2)薬物依存症者に関する制度的社会資源の現状と課題,再乱用防止のための治療プログラムの開発・評価を実施した.
研究方法
(研究1)1.全国住民調査(層化2段無作為抽出により選ばれた15歳以上の5,000人に対する留置自記式調査),2.全国中学生調査(層別一段集落抽出法により選ばれた全国235校の全生徒を対象とした自記式調査),3.全国精神科病院調査(主治医による悉皆調査)、4.全国児童自立支援施設調査(入所児童による自記式悉皆調査)、5. 監察医務院調査(横断調査)、6. 薬剤師を情報源とする市販薬乱用実態調査(横断調査)を行った。(研究2)薬物依存症者に関する制度的社会資源の1.重なりと2.地域格差に関する研究,3.家族心理教育プログラムの開発とその評価研究,4.少年用薬物乱用防止ツールによる介入研究を行った.
結果と考察
(研究1)1.有効回答は3,127(62.5%)人であった.飲酒の1年経験率は85.3%,喫煙の1年経験率は29.3%であった.違法薬物の生涯経験率は,有機溶剤1.6%,大麻1.2%,覚せい剤0.4%,MDMA0.1%で,何らかの違法薬物の生涯経験率は2.7%であった.経年的には大麻の生涯経験率は確実に上昇しており,現時点で最も乱用されている薬物は大麻であろうと推定された.2. 有効回答は、124校(対象校235校の52.8%)、54,486人(対象校の全生徒想定数の46.6%)であった。生涯経験率は有機溶剤0.5%、大麻0.2%、覚せい剤0.2%,「脱法ドラッグ」0.2%であった.飲酒・喫煙・薬物乱用経験率は経年的には減少しているが,今回初めて調査した「脱法ドラッグ」の乱用経験者における大麻乱用経験率,覚せい剤乱用経験率は、それぞれ,60.0%、63.3%にものぼり,ゲイトウェー・ドラッグが有機溶剤から「脱法ドラッグ」に変わる可能性がある.3.全有床精神科病院の70.6%から協力が得られ、有効症例848症例を分析の対象とした。薬物毎の生涯使用経験率は、多い順に覚せい剤63.3%、有機溶剤42.2%、大麻41.3%、睡眠薬39.7%、抗不安薬31.0%、脱法ドラッグ27.5%であり,2010年調査に比べて大麻の使用経験率が顕著に上昇していた。入院・通院原因薬物としては,覚せい剤42.0%,「脱法ドラッグ」16.3%,睡眠薬・抗不安薬15.1%であり,「使っても捕まらない薬物」が2,3位を占めた.4.生涯経験率はブタン40%、有機溶剤32.1%、抗不安薬26.5%,「脱法ハーブ」16.7%の順であった.5. 検出医薬品は睡眠剤343件,精神神経用薬剤325件,メタンフェタミン14件,アンフェタミン13件であった.「脱法ハーブ」使用が推定される例が1件あった.6. 対象薬剤師の37.7%は過去1年間で大量・頻回購入者への応対経験があり,買われた市販薬は,咳止め,風邪薬,解熱鎮痛剤が多かった.(研究2)1.DARCの運営形態は障害者自立支援法への移行として進められたが,実際には多様な形態が模索されていた. 2.「薬物依存症」は,精神障害者福祉手帳の対象外であることが判明した.3.開発した家族心理教育プログラムの実施,及び,4.麻薬取締官による執行猶予付き・保護観察なしの初犯薬物事犯者への自習ワークブックの提供は,一定の効果があることが示唆された.
結論
15歳以上の者の間で,経年的に生涯経験率が上昇している薬物は大麻であり,現時点で最も乱用されている薬物は大麻であろうと推定された.若年者の薬物乱用経験率は確実に減少しているが、有機溶剤・大麻・覚せい剤乱用による健康への害知識の周知率は減少傾向にあり、薬物乱用防止教育の再度の強化の必要性が示唆された。また,「脱法ドラッグ」が今後の薬物乱用状況の鍵となる可能性があることが示唆された。再乱用防止には、薬物依存症に対する「医療モデル」「福祉モデル」としての取り組みが不可欠であるが、利用可能な制度的社会資源を増やす必要がある。同時に、本研究で開発した司法関連施設における少年用薬物乱用防止教育ツール、及び、家族心理教育プログラムを行政的に全国に広めて行くことが、「第三次薬物乱用防止5カ年戦略」で謳われている再乱用防止および薬物依存・中毒者の家族に対する具体的支援策になるのではないかと考えられる。

公開日・更新日

公開日
2013-05-01
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201235023C

成果

専門的・学術的観点からの成果
薬物乱用・依存の実態把握は、「違法行為の掘り起こし」的性質を持っており、極めて実施が困難であるが、(研究1)で実施した「全国住民調査」、「全国中学生調査」、「全国精神科病院調査」、「全国児童自立支援施設調査」は、わが国唯一最大規模のものであり、方法論的にもわが国を代表する調査研究である。「監察医務院での薬物検出調査」はバイオロジカルマーカーを用いた調査による調査研究である。「脱法ドラッグ」乱用が急速に拡大しており,「使うと捕まる薬物」から「使っても捕まらない薬物」へのシフトが鮮明である.
臨床的観点からの成果
(研究2)による、「家族心理教育プログラムの開発・実施評価」,「麻薬取締官による執行猶予付き・保護観察なしの初犯薬物事犯者への自習ワークブックの提供プログラム」は,「第3次薬物乱用防止5カ年戦略」で謳われている再乱用防止および薬物依存・中毒者の家族に対する具体的支援である.「薬物依存症者に関する制度的社会資源の現状と課題」で明らかになったことは,現行制度の問題点を浮き彫りにしている.
ガイドライン等の開発
(研究1)で実施した「全国中学生調査」は、第三次薬物防止五か年戦略の目標1に応える物であり、(研究2)による、「家族心理教育プログラムの開発・実施評価」,「麻薬取締官による執行猶予付き・保護観察なしの初犯薬物事犯者への自習ワークブックの提供プログラム」は、同戦略の目標2に応えるものである。
その他行政的観点からの成果
(研究1)による「全国住民調査」「全国精神科病院調査」の調査結果,(研究2)の「家族心理教育プログラム」は,厚生労働省社会援護局「依存症者に対する医療及びその回復支援に関する検討会」で紹介された(2012.11.29).(研究2)による「少年用薬物乱用防止教育のための自習ワークブック」は,法務省矯正局「少年矯正の処遇等に関する専門家会議」で評価され,全国の少年院で「モデル事業」として利用されている.
その他のインパクト
2013年3月28日,「全国中学生調査」,「全国精神科病院調査」の成果が秋葉厚生労働副大臣により記者会見され,TV,新聞で広く報道された.2012年4月20日,「全国児童自立支援施設調査」結果によるガスパンの危険性が「NHKニュース おはよう日本」にて紹介された.2013年3月29日,「全国中学生調査」による中学生の脱法ドラッグ経験者率が「TBSテレビ みのもんたの朝ズバッ」にて報道された.2014年5月16日,「全国住民調査」による脱法ドラッグ推計40万人が「NHK昼のニュース」で報道された.

発表件数

原著論文(和文)
7件
原著論文(英文等)
2件
その他論文(和文)
9件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
14件
学会発表(国際学会等)
4件
和田清が韓国,台湾での国際会議にて招聘講演を行った.韓国2012.6.1., 台湾2013.4.17.
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
3件
「少年用薬物乱用防止教育のための自習ワークブック」は少年院で,また,「家族心理教育プログラム」は精神科病院や精神保健福祉センターで活用され,法務省「薬物依存に関する家族支援の手引」において活用された。
その他成果(普及・啓発活動)
2件
研究成果報告会(公開)の開催(2012.3.9、2013.2.23.)

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Kiyoshi Wada, Masahiko Funada, Toshihiko Matsumoto,et al
Current status of substance abuse and HIV infection in Japan
Journal of food and drug analysis , 21 , S33-S36  (2013)
原著論文2
Matsumoto T, Tachimori H, Tanibuchi Y, et al
Clinical features of patients with designer drugs-related disorder in Japan: A comparison with patients with methamphetamine- and hypnotic/anxiolytic-related disorders
Psychiatry and Clininal Neurosciences , 68 , 374-382  (2014)
原著論文3
和田 清,舩田正彦,松本俊彦,他
わが国の薬物乱用・依存の最近の動向-特に「脱法ドラッグ」問題について-
臨床精神医学 , 42 (9) , 1069-1078  (2013)
原著論文4
谷渕由布子,松本俊彦,立森久照,他
「脱法ドラッグ」乱用・依存患者の臨床的特徴-乱用する製品の形状による比較-
精神科治療学 , 29 (1) , 113-124  (2014)
原著論文5
和田 清,松本俊彦,舩田正彦,嶋根卓也,邱 冬梅
薬物乱用・依存の疫学
精神科 , 26 (1) , 44-49  (2015)
原著論文6
和田 清
危険ドラッグ問題の変遷と課題
医学のあゆみ , 254 (2) , 131-137  (2015)
原著論文7
和田 清
日本における薬物乱用問題の変遷とその背景
公衆衛生 , 79 (4) , 222-227  (2015)

公開日・更新日

公開日
2018-06-21
更新日
-

収支報告書

文献番号
201235023Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
18,000,000円
(2)補助金確定額
18,000,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 2,654,846円
人件費・謝金 3,241,993円
旅費 4,244,096円
その他 7,945,384円
間接経費 0円
合計 18,086,319円

備考

備考
不足分は自己負担でまかなった.

公開日・更新日

公開日
2014-05-13
更新日
-