ウイルス検出を目的とした体外診断薬の再評価技術基盤に関する研究

文献情報

文献番号
201235005A
報告書区分
総括
研究課題名
ウイルス検出を目的とした体外診断薬の再評価技術基盤に関する研究
課題番号
H22-医薬-一般-008
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
小林 和夫(国立感染症研究所 免疫部)
研究分担者(所属機関)
  • 川名 尚(帝京大学医学部附属 溝口病院)
  • 多屋 馨子(国立感染症研究所 感染症情報センター)
  • 岡田 賢司(国立病院機構 福岡病院)
  • 高橋 宜聖(国立感染症研究所 免疫部)
  • 岡本 貴世子(国立感染症研究所 ウイルス第三部)
  • 庵原 俊昭(国立病院機構 三重病院)
  • 大西 和夫(国立感染症研究所 免疫部)
  • 水澤 左衛子(国立感染症研究所 血液・安全性研究部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス総合研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
12,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
当該研究はウイルス感染症体外診断薬の臨床医学領域における問題点を抽出し、体外診断用医薬品(体外診断薬)の再評価に基盤を提供し、臨床<->基礎医学領域の双方向的橋渡し研究を推進することを目的とした。
研究方法
性器ヘルペスウイルス感染症(感染症の予防及び感染症患者に対する医療に関する法律、5類定点把握感染症)、インフルエンザ(5類定点)、感染性胃腸炎(5類定点、特に、ノロウイルス感染症)、水痘(5類定点)、風疹(5類全数)およびA型肝炎(4類)を研究対象感染症とした。また、横断的研究課題として、体外診断薬の再評価に用いる基盤整備に関し、国際動向の把握や世界保健機関(WHO)-生物製剤標準化に関する専門家委員会(ECBS)に協力、さらに、体外診断薬の精度管理に資する国内・国際標準品を整備した。生命倫理、動物愛護や遺伝子組換実験など、機関承認を得て実施し、利益相反はなかった。
結果と考察
性器ヘルペスウイルス感染症の血清診断:現行の酵素抗体測定法(EIA)は定性的に判断するように設定されているが、定量的評価を導入することにより、性能が向上すると考えられる。改良されたHSV-IgM抗体測定キットでは判定保留が減少し、有用である。型特異抗体測定法の特異性は良好であるが、感度についての検討が必要である。
インフルエンザ迅速免疫診断キットの評価や開発:H1N1株流行時においては、採取されるウイルス量が少ない場合、A型陽性、H1N1陰性の判定となる可能性があり、亜型判定を誤る可能性がある。A/H1N1 2009pdmと他のH1N1ウイルスを鑑別するキットで使用されている抗体は、従来のキットと同様、核タンパク質を認識した。さらに、1つの抗体は、53番目のアスパラギン酸がエピトープ構造に重要な役割を果たすことが明らかとなった。このアミノ酸に着目することにより、本キットの特異性に科学的根拠を提供する可能性が示唆された。
ノロウイルス体外診断薬の性能評価:国内で使用されている既存キットから、検体希釈液の組成および検体採取スワブの変更、検出抗体の追加などの改良により、新キットは直腸ぬぐい検体および新生児検体に適応が拡大された。
水痘ウイルス抗体価の互換性およびガンマグロブリン抗体価の検討:EIA-IgG抗体測定試薬に用いられる標準血清(デンカ生研)の検討から、EIA価の約50倍が国際単位に相当することが判明し、水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)抗体陽性閾値である4.0 EIA価を発症予防抗体価としても問題ないと推測された。また、本邦献血由来静脈内投与用免疫グロブリン(IVIG)の水痘ウイルス抗体価はメーカー間(4社)に差はあるが、4社のIVIGを100 mg/kg投与した場合、発症予防レベルの4倍以上の抗体価になると推測された。
風疹ウイルス遺伝子検出技術に関する検討:Loop-mediated isothermal amplification(LAMP)法とTaqManリアルタイム法と比較した。LAMP法はTaqMan法の1/102-103程度と低感度であった。LAMP法は精度の高い診断には適していないが、TaqManリアルタイム法やreverse transcription-polymerase chain reaction (RT-PCR)法で必要とする高額機器(サーマルサイクラーなど)が不要であるため、検査設備が十分ではない風疹流行地域のスクリーニングへの利用が考えられた。
A型肝炎ウイルス(HAV)体外診断薬の再評価に関する研究:現在までの全てのHAVゲノム情報を解析して検出特性を保証する7種類の補正ペプチドの設計を行った。今後、これらのペプチドに対して抗体を作成し、HAVの検出特性補正能を検討する。さらに、エピトープ・ペプチドの抗原性を立体構造に基づいて最適化する技術は有用な抗体の開発を短時間で実現できる。
ウイルスの体外診断薬に資する国内標準品の計画的な整備:国際標準品等の作製のための国際共同研究の多くに国立感染症研究所が参加することが可能になった。HEV-RNA標準品の共同研究から国内標準品を迅速に制定し、交付を開始することができた。合成核酸を国際的な標準物質にする場合、“Commutability”の問題をどうすれば解決できるか、科学的な議論が必要である。
結論
ウイルス感染症における診断キット間の性能格差を是正、感染症の迅速診断キットの開発、加えて、体外診断用医薬品の評価や精度管理における国内・国際標準品の整備は円滑な承認前試験に寄与し、感染症医療のみならず、公衆衛生の向上や国際貢献に寄与する。

公開日・更新日

公開日
2018-06-21
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201235005B
報告書区分
総合
研究課題名
ウイルス検出を目的とした体外診断薬の再評価技術基盤に関する研究
課題番号
H22-医薬-一般-008
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
小林 和夫(国立感染症研究所 免疫部)
研究分担者(所属機関)
  • 川名 尚(帝京大学医学部附属溝口病院)
  • 多屋 馨子(国立感染症研究所 感染症情報センター)
  • 岡田 賢司(国立病院機構 福岡病院)
  • 高橋 宜聖(国立感染症研究所 免疫部)
  • 岡本 貴世子(国立感染症研究所 ウイルス第三部)
  • 庵原 俊昭(国立病院機構 三重病院)
  • 大西 和夫(国立感染症研究所 免疫部)
  • 水澤 左衛子(国立感染症研究所 血液・安全性研究部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス総合研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
当該研究はウイルス感染症体外診断薬の臨床医学領域における問題点を抽出し、体外診断用医薬品(体外診断薬)の再評価に基盤を提供し、臨床<->基礎医学領域の双方向的橋渡し研究を推進することを目的とした。
研究方法
性器ヘルペスウイルス感染症(感染症法、5類定点把握感染症)、インフルエンザ(5類定点)、感染性胃腸炎(5類定点、特に、ロタウイルス感染症、ノロウイルス感染症)、水痘(5類定点)、風疹(5類全数)およびA型肝炎(4類)を研究対象感染症とした。体外診断薬の再評価に関し、国際動向の把握や世界保健機関(WHO)-生物製剤標準化に関する専門家委員会(ECBS)に協力、さらに、精度管理に資する国内・国際標準品を整備した。生命倫理、動物愛護や遺伝子組換実験など、機関承認を得て実施し、利益相反はなかった。
結果と考察
性器ヘルペスウイルス(HSV)感染症の血清診断:性器HSV感染症の臨床病型には初感染と非初感染があるが、研究成果から対血清のHSV-IgMおよび-IgG抗体を測定することにより、血清診断が可能と考えられる。判定に際し、カットオフ値にキット間格差があり、設定を再評価することが必要である。型(HSV-1、-2)特異的抗原を用いることにより、型特異的血清診断が可能となった。
インフルエンザ迅速免疫診断キットの評価や開発:2009-2012の各シーズンにおいて臨床使用された16キットの最小検出感度は102.5-3.5 copies/testであり、キット間格差は低下した。B型の最小検出感度はA型に比べ劣り、B型の検出はA型の約30倍のウイルス量が必要であった。A/H1N1 2009pdmと他のH1N1ウイルスを鑑別するキットで使用されている抗体は、従来のキットと同様、核タンパク質を認識した。さらに、1つの抗体は、53番目のアスパラギン酸がエピトープ構造に重要な役割を果たすことが明らかとなった。
ロタウイルス体外診断薬の再評価とノロウイルス体外診断薬の改良に関する研究:国内で使用されているロタウイルス迅速診断キットの感度に大きな格差はなく、いずれのキットも有用である。結果が一致しなかった検体の遺伝子型はG1P8であった。ノロウイルス診断キットについて、既存キットから、検体希釈液の組成および検体採取スワブの変更、検出抗体の追加などの改良により、新キットは直腸ぬぐい検体および新生児検体に適応が拡大された。
各種ウイルス抗体価の互換性およびガンマグロブリン中のウイルス抗体価の検討:水痘抗体測定方法に互換性があり、発症予防抗体価である150 mIU/mLは2.75 EIA価に相当した。本邦献血由来静注用免疫グロブリン製剤(IVIG)を100 mg/kg投与した場合、水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)抗体価は発症予防レベルの4倍以上の抗体価となり、発症予防が可能と推察された。パルボウイルスB19に関し、思春期や妊婦の抗体価の分布から、1 IU/mL未満を陰性、1~2 IU/mLを判定保留、2 IU/mL以上を陽性と判定した。また、血清疫学の検討から、31~40歳妊婦はパルボウイルスB19流行の際、感染予防が必要な集団と考えられる。
風疹ウイルス遺伝子検出技術に関する検討:TaqManリアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法による新しいウイルスゲノム検出条件を設定し、感度や特異度を比較した。TaqManリアルタイムPCR法は逆転写(RT)-PCR法よりも優れていた。遺伝子型2Bの分離が数例報告されており、本方法はこの遺伝子型も感度よく検出できたことから、今後の実験室診断に有用であると考えられる。
A型肝炎ウイルス(HAV)体外診断薬の再評価に関する研究:HAV抗原捕捉ELISA系の検出感度は数百pg/mLであるが、検出系に蛍光試薬を用いることにより、約10倍、向上することが期待される。抗HAV-IgM抗体検出キットの性能評価では、1社のキット測定値は他社より低値を示し、この原因として、一部のHAV流行株に対して最適化されていないためと考えられる。
ウイルスの体外診断薬に資する国内標準品の計画的な整備:HEV-RNA標準品は国際共同研究から、国際標準品制定の1年後に国内交付できた。しかし、感染性国内標準品の凍結乾燥を受託する施設が国内になく、製造施設の確保が今後の課題である。国際標準品作製のため、国立感染症研究所が参加し、国際貢献に資する体制が構築された。
結論
ウイルス感染症における診断キット間の性能格差を是正、感染症の迅速診断キットの開発、加えて、体外診断用医薬品の評価や精度管理における国内・国際標準品の整備は円滑な承認前試験にゆうようであり、感染症医療のみならず、公衆衛生の向上や国際貢献に寄与する。

公開日・更新日

公開日
2018-06-21
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201235005C

成果

専門的・学術的観点からの成果
・HSV型特異的抗原を用いることにより、型(HSV-1、-2)特異的血清診断が可能となった。
・インフルエンザA/H1N1 2009pdmの抗原決定基は核蛋白質であり、詳細な解析から、53番目のアスパラギン酸が抗原決定基の構造に重要な役割を果たすことが判明した。
・ロタウイルス迅速診断キットの性能評価において、結果が一致しなかった検体の遺伝子型はG1P8であることを解明できた。
臨床的観点からの成果
・性器HSV感染症の臨床病型には初感染と非初感染があるが、研究成果から対血清のHSV-IgMおよび-IgG抗体を測定することにより、初感染と非初感染の血清診断が可能と考えられる。
・水痘発症予防抗体価である150 mIU/mLは2.75 EIA価に相当した。静注用免疫グロブリン製剤を100 mg/kg投与した場合、水痘発症予防血清抗体価に到達し、発症予防が可能と推察された。
ガイドライン等の開発
・パルボウイルスB19に関し、1 IU/mL未満を陰性、1~2 IU/mLを判定保留、2 IU/mL以上を陽性と判定した。
・精度管理に資するHEV-RNA標準品は国際共同研究から、国際標準品制定の1年後に国内交付できた。
その他行政的観点からの成果
・ノロウイルス診断キットについて、既存キットから検体希釈液の組成や検体採取スワブの変更、検出抗体の追加などの改良により、改良したキットは直腸ぬぐい検体および新生児検体に適応が拡大された。
・パルボウイルスB19の血清疫学結果から、31~40歳妊婦はパルボウイルスB19流行の際、感染予防が必要な集団と思われた。
・公衆衛生上特に重要な感染症の検体を集めた血清・血漿パネル(感染症検体パネル: HAV、HBV、HCV、HIV、風疹)を整備し、平成25年度から譲渡など運用を開始することになった。
その他のインパクト
・国際生物学的製剤標準化委員会と世界保健機関(WHO)生物製剤標準化に関する専門家委員会で「血液の安全性に関する体外診断薬のための標準品整備5ヵ年計画」に参画した。

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
10件
その他論文(和文)
15件
その他論文(英文等)
3件
学会発表(国内学会)
40件
学会発表(国際学会等)
4件
その他成果(特許の出願)
1件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

特許の名称
H5亜型インフルエンザウイルスを特異的に認識するモノクローナル抗体
詳細情報
分類:
特許番号: 特願2011-227748(出願番号)
発明者名: 横田 恭子、大西 和夫、阿戸 学、高橋 宜聖、 大島 正道、 平山 中己、板村 繁之、小林 和夫、三澤 修平、曽家 義博、西村 研吾、高橋 和郎
権利者名: 国立感染症研究所長、東洋紡績株式会社
出願年月日: 20110901
国内外の別: 国内

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Onodera, T., Y. Takahashi, Y. Yokoi, et al
Memory B cells in the lung participate in protective humoral immune responses to pulmonary influenza virus reinfextion
Proc Natl Acad Sci USA , 109 , 2485-2490  (2012)
10.1073/pnas.1115369109
原著論文2
Takahashi, Y., T. Onodera, K. Kobayashi, et al
Primary and secondary B-cell responses to pulmonary virus infection
Infect. Disord. Drug Target , 12 , 232-240  (2012)
原著論文3
Ohnishi, K., Y. Takahashi, N. Kono, et al
Immunological detection of H5N1 influenza viruses by newly established monoclonal antibodies.
Jpn. J. Infect. Dis. , 65 , 19-27  (2012)
原著論文4
Harada, Y., A. Ninomiya-Mori, Y. Takahashi, et al
Inactivated and adjuvanted whole-virion clade 2.3.4. H5N1 pre-pandemic influenza vaccine possesses broad protective efficacy against infection by heterologous clades of highly pathogenic H5N1 aviav influenza virus in mice
Vaccine , 29 , 8330-8337  (2011)
原著論文5
Otsuki, N., H. Abo, T. Kubota, et al
Elucidation of the full genetic information of Japanese rubella vaccines and the genetic changes associated with in vitro and in vivo vaccine virus phenotypes
Vaccine , 29 , 1863-1873  (2011)
原著論文6
Okamoto, K., K. Fujii, K. Komase.
Development of a novel TaqMan real-time PCR assay for detecting rubella virus RNA
J. Virol. Methods , 168 , 267-271  (2010)

公開日・更新日

公開日
2016-06-30
更新日
-

収支報告書

文献番号
201235005Z