食中毒調査における食品中の病原大腸菌の統括的検査法の開発に関する研究

文献情報

文献番号
201234042A
報告書区分
総括
研究課題名
食中毒調査における食品中の病原大腸菌の統括的検査法の開発に関する研究
課題番号
H24-食品-一般-010
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
工藤 由起子(国立医薬品食品衛生研究所 衛生微生物部)
研究分担者(所属機関)
  • 西川 禎一(大阪市立大学 大学院生活科学研究科)
  • 大西 真(国立感染症研究所 細菌第一部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
23,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
腸管出血性大腸菌はヒトへの病原性が強く、重症者や死者の発生も珍しくない。日本および諸外国の食品での検査法では、重要な病原因子であるVero toxin (VT)遺伝子(または志賀毒素遺伝子、stx)の有無を食品培養液から検出することによって腸管出血性大腸菌の汚染の有無のスクリーニングが行われている。また、諸外国では血清群O157に加え、感染の多い血清群4—6種類を対象にした検査法が確立されており、VT遺伝子スクリーニング陽性検体についてはO血清群遺伝子検出を2次スクリーニングとして行っている。このため本研究では、日本での腸管出血性大腸菌の重要な血清群の解析を行い、食品を対象にした検査法を開発することを目的に研究を行った。また、腸管出血性大腸菌や毒素原性大腸菌など病原大腸菌には病原性に基づいて5種類以上があるが、ヒト、家畜、食肉等から各種病原大腸菌の網羅的検出を試み、高効率に病原大腸菌を検出分離できるか否か実際の検体を用いて検証すること、および調査結果に基づいて下痢原性大腸菌の汚染源を推定することを目的に研究を行った。
研究方法
(1)腸管出血性大腸菌の血清群解析および検査法への応用の検討
重症患者由来の腸管出血性大腸菌株のO血清群を決定した。また、主要なO血清群のO抗原遺伝子とstx1およびstx2およびインチミン遺伝子(eae)のマルチプレックスPCR法を開発した。
(2)病原大腸菌の統括的検査法の開発
食品培養液でのVT遺伝子検出スクリーニング法の反応系の縮小化のために、牛挽肉などに陽性腸管出血性大腸菌を接種して、Nielsenらの方法でのリアルタイムPCR法にてVT遺伝子を検出し評価した。また、O抗原特異的遺伝子対象検出法の検討のために、牛挽肉などにO26、O45、O103、O111、O121、O145およびO157の7種類のO血清群の培養液を接種して、O抗原特異的遺伝子検出法(米国農務省参照法および欧州食品安全機関参照法)およびeae検出法に供試した。さらに、多血清群の株の酵素基質培地上に生育したコロニーの発色を観察した。また、セフィキシム・亜テルル酸(CT)の菌の感受性を確認した。
(3)病原大腸菌の分布および病原性解析
各種食品、家畜糞便、ヒト便の総計1,148検体について、各種病原遺伝子検出を行い、陽性と判定された増菌培養液からコロニー・ハイブリダイゼーション法にて分離を行った。また、分離株を系統発生群解析、病原性プロフィール、eaeの型別の3つの分子疫学的解析を行った。
結果と考察
(1)腸管出血性大腸菌の血清群解析および検査法への応用の検討
O157、O26、O111、O103、O121、O145、O165の順に主要血清群であることが明らかになった。また、これら7血清群のマルチプレックスPCRを開発した。
(2)病原大腸菌の統括的検査法の開発
食品培養液でのVT遺伝子検出スクリーニング法反応系は、総反応液量を30 µl反応系に縮小できることが明らかになった。本研究成果をもとに通知法にあるVT遺伝子スクリーニングを改正し通知(平成24年12月17日食安監発 1217 第1号「腸管出血性大腸菌O26、O111及びO157の検査法について」)した。また、VT遺伝子と合わせてeae をスクリーニング対象とすることで効率的な腸管出血性大腸菌の検査法となると考えられ、加えて、O26、O45、O103、O111、O121、O145およびO157を対象とした諸外国政府機関の試験法の参照が可能であることが示された。さらに、多血清群での分離培地の検討では、日本で使用されている多様な酵素基質培地が活用できることが示された。
(3)病原大腸菌の分布および病原性解析
マルチプレックス・リアルタイムPCR法およびコロニー・ハイブリダイゼーション法の併用によって病原大腸菌の網羅的な検出が可能であった。ブタ肉を汚染する毒素原性大腸菌がヒトの感染源となる可能性が示された。分子疫学的解析によってヒトに病原性を示す腸管病原性大腸菌がウシに由来することが示唆された。
結論
日本での腸管出血性大腸菌の主要な血清群であるO157、O26、O111、O103、O145およびO121の6血清群を流通食品や食中毒対応の試験の対象にすることが国内の食品での効果的な検査になるものと思われた。また、重症者の発生の割合の多い血清群O165を国内での食中毒対応の対象として、海外での患者発生の多い血清群O45を輸入食品検疫の対象とすることも有用と考えられた。さらに、ブタの毒素原性大腸菌がヒト感染源である可能性が示された。今後、腸管出血性大腸菌や毒素原性大腸菌などの食品での検査法を開発し、食中毒の解明や汚染食品の調査等に貢献することが期待される。

公開日・更新日

公開日
2013-06-24
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201234042Z