文献情報
文献番号
201234029A
報告書区分
総括
研究課題名
腸内フローラ解析を基盤とした食品ナノマテリアルの安全性評価
研究課題名(英字)
-
課題番号
H23-食品-若手-015
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
吉岡 靖雄(大阪大学 薬学研究科)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
8,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
ヒトの腸内環境は、常在する腸内細菌叢などの外的要因や消化管機能などの内的要因が絶妙に相互作用して正常に維持されている。このバランスは、食生活や食品中の化学物質によって変動し、3大死因である癌・心疾患・脳血管疾患や食物アレルギーの発症・悪化要因になる可能性が指摘されている。昨今の食環境に対する安全への懸念や健康への関心の高まりも相俟って、食品やその添加物には安全であることが強く求められており、今後の食品安全の確保においては、従来手法のみにとらわれることなく、消化管内環境や腸内細菌叢の視点から安全性を科学的かつ包括的に評価する必要がある。例えば、食品添加物などとして期待される新素材である、粒子径100nm以下のナノマテリアルは、数マイクロメートルサイズの従来素材とは異なる機能を発揮することが知られており、既に各種食品中に利用されている。さらに近年では、10nm以下の素材であるサブナノマテリアルも使用されつつある。その一方で、ナノ・サブナノマテリアルが新素材であるために、安全性情報の収集が急務となっている。そこで本研究では、非晶質ナノシリカやナノ銀といった様々なナノ・サブナノマテリアルのリスク解析を念頭に、腸内環境や腸内細菌叢に与える影響を科学的に解析し、未知のハザードも含めて包括的なハザード同定を試みた。
研究方法
非晶質ナノシリカと共に、サブナノ白金やサブナノ銀を用い、マウスに経口投与後の生体影響を評価した。
結果と考察
平成23年度には、1)ナノマテリアルを経口投与した際の生体影響を指標に投与量を設定したうえで、2)腸内細菌影響評価の実験系の確立、3)短期間投与した際の糞便中成分・腸内細菌組成の解析を実施した。平成24年度には、非晶質ナノシリカ、ナノ銀・サブナノ銀、サブナノ白金を用いて、経口投与における生体影響を、一般毒性学的・免疫学的観点から評価した。その結果、実験グレードの非晶質ナノシリカであるものの、ヒトの推定曝露量の10倍量を28日間経口投与しても、血球成分や生化学的マーカーに変化は認められないことを明らかとした。一方で、非晶質ナノシリカを28日間連続で経口投与した後、非晶質ナノシリカの投与を中断し、28日間飼育した後に血液検査を実施したところ、白血球数、リンパ球数の有意な増加が観察された。本結果の詳細な理由は不明であるものの、非晶質ナノシリカ投与中に顕著な変化が観察されなかったとしても、その後、生体影響が誘発される可能性を示唆するものであり、今後、より詳細な検討が必要であると考えられる。さらに、非晶質ナノシリカの経口投与により、全身の免疫機能が変化し、血清中抗原特異的IgG、IgAが有意に上昇することが判明した。以上の結果は、ナノシリカの経口投与が、全身免疫系に影響を及ぼすことを示唆しており、食物アレルギーを初めとする免疫疾患の発症・悪化との関連をより精査する必要性を示すものである。また、サブナノ銀の経口投与によるLD50を明らかとした。さらに、サブナノ白金の安全性について腎毒性に注意を払う必要があることを明らかとした。
結論
本研究においては、当初の予定を遂行すると共に、10nm以下のサブナノマテリアルに関する検討も併せて実施するなど、当初目標を達成できたものと考えている。今後は、本研究成果で見出された知見を基盤として、腸内細菌叢の変動と、生体影響の因果関係を精査していく必要があると考えられる。本研究のアウトプットとして得られる新たな方法論・基盤技術・成果は、「健康立国」としての我が国の国際的地位の向上にも繋がり、国内外を通じて数多くの人類の健康と福祉に貢献可能と考えられる。
公開日・更新日
公開日
2013-06-24
更新日
-