食品中の毒素産生微生物及び試験法に関する研究

文献情報

文献番号
201234024A
報告書区分
総括
研究課題名
食品中の毒素産生微生物及び試験法に関する研究
課題番号
H23-食品-一般-011
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
鎌田 洋一(国立医薬品食品衛生研究所 衛生微生物部)
研究分担者(所属機関)
  • 西川禎一(大阪市立大学大院 生活科学研究科)
  • 三宅眞実(大阪府立大学 生命環境科学科)
  • 宇治家武史(カイノス株式会社 開発研究所)
  • 山本茂貴(国立医薬品食品衛生研究所 食品衛生管理部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
8,889,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では、毒素産生性食中毒細菌のなかで、ブドウ球菌、セレウス菌、およびウエルシュ菌とそれら毒素を、食品中から直接検出する試験法を開発する。それぞれの食中毒の発生機構を分子レベルで解析し、学術的な貢献を行うことを目的とする。また、各細菌の食品危害性に焦点をあてたリスクプロファイルを作製し、食中毒発生予防と施策に貢献することを目的とする。
研究方法
セレウス菌については、その細菌学的性状、病原性、食中毒危害性に関して、また、同菌食中毒事例について、学術論文およびインターナット上から情報収集し、リスクプロファイルを作製した。食品中に同菌は毒素産生および非産生菌が混在している。セレウス菌が共通に持つ16S rRNA遺伝子、および嘔吐毒素合成酵素プロモータ領域を標的としたリアルタイムPCR系を構築し、全セレウス菌および毒素産生セレウス菌の両方が計数できるか検討した。セレウス菌食中毒の検査において、その嘔吐毒素の細胞毒性が検査の指標となっているが問題が多い。嘔吐毒素の構造が抗菌作用を持っている物質と類似することから、嘔吐毒素の殺菌作用による毒性評価を試みた。ブドウ球菌は食品中にエンテロトキシンを産生し、同毒素が嘔吐症状を誘発する食中毒を起こす。食品として牛乳を選択し、エンテロトキシンの存在をリアルタイムに示す方法を開発中である。水晶発振マイクロバランス(QCM)法を適応し、エンテロトキシンに対する特異抗体を用いてQCM法の有効性を検証した。ウエルシュ菌食中毒は食品内にエンテロトキシン産生性生菌を多数含むことが食中毒発生の必須要因となっている。そのため、毒素遺伝子が発現している「生菌」の状態から抽出できるRNAを標的にNASBA-核酸クロマト法を開発してきた。本年度は、製品化し、また、多様な食材に同製品が応用可能か検討した。ウエルシュ菌食中毒では腸管内増殖・芽胞形成および毒素産生機構について知見がなかった。本研究事業では実験モデルを作製し、種々の影響を検討してきた。本年度は生体内成分の影響を検討した。ウエルシュ菌食中毒事例の解析から、旧来のエンテロトキシン以外の下痢毒素が存在する可能性が示唆され、事例菌株のゲノム解析および総タンパク質解析を通じて、原因毒素を追及してきた。本年度は事例菌株が産生する新型毒素の培養細胞への毒性を解析した。
結果と考察
文献情報からセレウス菌は、時に死者を出す食中毒を起こすため、注視が必要であることが示唆された。リアルタイムPCR法による全および嘔吐毒素産生セレウス菌を識別しかつ同時に測定できる条件を見出し、今後の応用が可能となった。QCM法による、牛乳中のエンテロトキシンをリアルタイムに検出できる条件を検討した。QCMのセンサーを設置した反応容器にエンテロトキシンを含んだ牛乳を添加し、その後、さらに抗体を添加し、センサーの振動をモニタリングした。各種の組み合わせを検討したところ、金コロイド標識した抗体を用いた場合、エンテロトキシン添加直後から有意なシグナルがリアルタイムで観察され、また、最もシグナルが大きかった。QCM法においては毒素のリアルタイム検出が可能であったので、今後は毒素の検出感度を向上させる検討を行う必要がある。エンテロトキシン産生性ウエルシュ菌の検出にNASBA-核酸クロマト法を開発してきた。本年度は、レトルトカレーを対象に、製品化し上市した。シチューについても応用可能なことが明らかとなった。今後は同製品の適応食品種を増やす検討を行う。ウエルシュ菌の腸管内芽胞形成・毒素産生機構に関して追求してきた。本年度の検討結果から、生体成分の一種として胆汁酸が芽胞形成と毒素産生を促進させることを見出した。ウエルシュ菌は消化管環境を敏感に認識し、とくに胆汁酸については、わずかの濃度にも反応して芽胞形成する機構を持つことが推察された。ウエルシュ菌の新型毒素について検討してきた。本年度は新型下痢毒素の細胞毒性機構を検討した。低濃度の毒素でL929細胞は球形化し、高濃度の毒素処理で細胞断片が多数観察された。このとき、球形を維持している細胞がほとんど観察されなかった。以上から、細胞は球形化を受けた後も機能的には生存しており、ある程度の時間が経過した後、急速に崩壊してゆく機構が考えられた。
結論
 セレウス菌に死者がでる食中毒がでることが明らかとなった。同菌と毒素の検出は重要となる。牛乳中のブドウ球菌エンテロトキシンをリアルタイムで検出できる方法を開発したが、感度の向上が望まれる。毒素産生ウエルシュ菌の食品からの新原理検出法は完成し、市場化した。ほとんど研究されてこなかった腸管内でのウエルシュ菌の増殖・芽胞形成・毒素産生機構について成績が集積しつつある。また、未発見の新型下痢毒素についても、その遺伝子と細胞毒性が明らかになりつつある。

公開日・更新日

公開日
2013-06-24
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201234024Z