食品中の病原ウイルスのリスク管理に関する研究

文献情報

文献番号
201234010A
報告書区分
総括
研究課題名
食品中の病原ウイルスのリスク管理に関する研究
課題番号
H22-食品-一般-013
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
野田 衛(国立医薬品食品衛生研究所 食品衛生管理部)
研究分担者(所属機関)
  • 田中 智之(堺市衛生研究所)
  • 斎藤 博之(秋田県健康環境センター 保健衛生部)
  • 鈴木 善幸(名古屋市立大学大学院 システム自然科学研究科)
  • 佐藤 裕徳(国立感染症研究所 病原体ゲノム解析研究センター)
  • 横山 勝(国立感染症研究所 病原体ゲノム解析研究センター)
  • 石井 孝司(国立感染症研究所 ウイルス第二部)
  • 片山 和彦(国立感染症研究所 ウイルス第二部)
  • 李 天成(国立感染症研究所 ウイルス第二部)
  • 村上 耕介(国立感染症研究所 ウイルス第二部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
22,400,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
食中毒患者の約半数を占めるウイルス性食中毒による国民の健康被害を軽減するために、(1)食品からのウイルス検出法の開発・標準化 (2)ウイルス性食中毒の検査体制の強化 (3)食品、動物、環境の汚染実態調査と分子疫学的研究、(4)食品媒介性ウイルスの疫学的研究を主な研究の柱とし、それらを総合的に分析し食品のウイルス管理手法を確立することを目的とする。
研究方法
国立感染症研究所等の国立研究機関、大学および19の地方衛生研究所との連携・協力のもと、以下の研究を遂行した。(1)高感度な食品からのウイルス検出法を開発し、一般的な検査機関での検査を可能にするための改良を図るとともに、実際の食中毒事例に適用し、有用性を検証する。食品中のウイルス定量システム法を開発する。(2)迅速遺伝子型別システムを構築し、その有用性を検証する。診断用抗血清の作成、検査法の改良・開発を行い、食中毒の検査体制の強化に繋げる。(3)ノロウイルス(NoV)、サポウイルス(SaV)、A型肝炎ウイルス(HAV)、E型肝炎ウイルス(HEV)等各種食品媒介性ウイルスの食品、動物、環境からの検出と遺伝子解析を行い、自然環境におけるウイルスの分布を調べ、ヒトでの流行や食品汚染との関連性を明らかにする。代表的なNoVの全塩基配列を決定し、遺伝子解析や構造分析等を行い、流行規模や健康被害との関連性を調べる。(4)食中毒事例等についてNoV以外のウイルスについて検査し、それらの食中毒起因物質としての意義を明らかにする。食中毒事例等を詳細に分析し、予防対策等に必要なデータを得る。
結果と考察
(1)本研究班で開発したパンソルビン・トラップ法について、逆転写専用プライマーの導入によりシークエンス検査が可能になった。本法を用いて食中毒事例の原因食品を特定することができた。本検査法の有用性をコラボ研究で評価した。別の食品検査法である非晶性リン酸カルシウム微粒子を用いた検査法に改良を加え、適応食品の拡大化を図った。カキからのウイルス検出法(細胞破砕法)を改良した。カキにおけるFファージの遺伝子検出はNoV、SaVの検出とよく一致した。(2)NoVは頻繁に遺伝子組換えを起こすことから、組換え型ウイルスの簡便な検出・同定法の開発が求められている。この組み替え型ノロウイルスを検出するための第二世代のPCR検出系を構築した。アミノ酸置換から自然選択圧を検出する方法を開発した。SaVの迅速診断法の改良・開発を目的にウイルス様中空粒子を免疫し、すべてのSaV遺伝子群に反応するモノクローナル抗体等を得て、迅速診断法への応用の道を開いた。新規SaV検出プライマーの有用性を患者便で評価した。ラットはヒト由来HEVに非感受性であることを明らかにした。複数のウイルスの同時検出を行うマルチプレップスPCR法およびマルチプレックスリアルタイムPCR法の有用性を検証した。(3)遺伝子型GII/42006b亜型のNoVの塩基配列の多様性は継年的に増加したが、アミノ酸置換は強く抑制されていた。2012年冬季にいち早くGII/4変異株を検出しマスコミ等をとおし流行の危険性を広報した。国内のA型肝炎患者から検出したHAVを分子疫学的に解析し、遺伝子型IIIの定着の可能性等を示した。と畜されたブタの約1%、と畜検査で合格となったブタ肝臓の2.5%からHEVを検出し、それらの汚染リスクを明らかにした。食品の汚染経路の解明等のため、患者、食品、下水等の環境のサーベイランスを行い、NoV等の汚染実態データを蓄積した。(4)二枚貝関連事例においてはNoV以外のSaV、アイチウイルス、アストロウイルス、A群ロタウイルス(ARV)等も患者から検出され、それらの同時検査の必要性を明らかにした。特にSaV、ARVの重要性が示唆された。
結論
食品からのウイルス検出法の実用化に向けた研究、診断法・検査法の改良・開発、新たな組換え型NoVの検出法の開発、継続した環境中のウイルス汚染のサーベイランス、NoV以外の種々のウイルスの食中毒事例における調査などをとおし、食品媒介ウイルスの制御の基盤となる多くの研究成果が得られた。開発した検査法のマニュアルを作成した。

公開日・更新日

公開日
2013-06-24
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201234010B
報告書区分
総合
研究課題名
食品中の病原ウイルスのリスク管理に関する研究
課題番号
H22-食品-一般-013
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
野田 衛(国立医薬品食品衛生研究所 食品衛生管理部)
研究分担者(所属機関)
  • 田中 智之(堺市衛生研究所)
  • 斎藤 博之(秋田県健康環境センター 保健衛生部)
  • 鈴木 善幸(名古屋市立大学大学院 システム自然科学研究科)
  • 佐藤 裕徳(国立感染症研究所 病原体ゲノム解析研究センター)
  • 横山 勝(国立感染症研究所 病原体ゲノム解析研究センター)
  • 本村 和嗣(国立感染症研究所 病原体ゲノム解析研究センター)
  • 石井 孝司(国立感染症研究所 ウイルス第二部)
  • 片山 和彦(国立感染症研究所 ウイルス第二部)
  • 李 天成(国立感染症研究所 ウイルス第二部)
  • 岡 智一郎(国立感染症研究所 ウイルス第二部)
  • 村上 耕介(国立感染症研究所 ウイルス第二部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
食中毒患者の約半数を占めるウイルス性食中毒による国民の健康被害を軽減するために、(1)食品からのウイルス検出法の開発・標準化 (2)ウイルス性食中毒の検査体制の強化 (3)食品、動物、環境の汚染実態調査と分子疫学的研究、(4)食品媒介性ウイルスの疫学的研究を主な研究の柱とし、それらを総合的に分析し、食品のウイルス管理手法を確立することを目的とする
研究方法
国立感染症研究所等の国立研究機関、大学および20の地方衛生研究所との連携・協力のもと、以下の研究を遂行した。(1)高感度な食品からのウイルス検出法を開発し、一般的な検査機関での検査を可能にするための改良を図るとともに、実際の食中毒事例に適用し、有用性を検証する。食品中のウイルス定量システム法を開発する。(2)迅速遺伝子型別システムを構築し、その有用性を検証する。診断用抗血清の作成、検査法の改良・開発を行い、食中毒の検査体制の強化に繋げる。(3)ノロウイルス(NoV)、サポウイルス(SaV)、A型肝炎ウイルス(HAV)、E型肝炎ウイルス(HEV)等各種食品媒介性ウイルスの食品、動物、環境からの検出と遺伝子解析を行い、自然環境におけるウイルスの分布を調べ、ヒトでの流行や食品汚染との関連性を明らかにする。また、代表的なNoVの全塩基配列を決定し、遺伝子解析や構造分析等を行い、流行規模や健康被害との関連性を調べる。(4)食中毒事例等についてNoV以外のウイルスについて検査し、それらの食中毒起因物質としての意義を明らかにする。食中毒事例等を詳細に分析し、予防対策等に必要なデータを得る。
結果と考察
(1)本研究班で開発したパンソルビン・トラップ法について、ガンマグロブリン製剤、自家製パンソルビンを用いることで検査の一般化、普遍化を図るとともに、逆転写専用プライマーの導入等でシークエンス検査が可能になった。本法を用いて複数の食中毒事例の原因食品を特定することができた。本検査法の有用性をコラボ研究で評価した。別の食品検査法である非晶性リン酸カルシウム微粒子を用いた検査法に改良を加え、適応食品の拡大化を図った。カキからのウイルス検出における酵素処理の有用性を検証し、細胞破砕法を改良した。患者手指等からのウイルス回収法として、ポリエチレングリコール沈殿に2%牛血清アルブミンを添加する二相分配法を開発した。カキ等におけるFファージの遺伝子検出はNoV、SaVの検出とよく一致した。(2)NoVは頻繁に遺伝子組換えを起こすことから、組換え型ウイルスの簡便な検出・同定法の開発が求められている。この組み替え型ノロウイルスを検出するための新たなPCR検出系を構築し、その増幅部分に対応した標準プラスミドDNAを作製した。塩基配列情報から組換え型NoVを簡便に検出できるプログラムを開発した。SaVの迅速診断法の改良・開発を目的にウイルス様中空粒子を免疫し、すべてのSaV遺伝子群に反応するモノクローナル抗体等を得て、迅速診断法への応用の道を開いた。アサリにおいて個体別の検査が混合検査と比較して、含まれる多様な遺伝子型の検出に適していることを明らかにした。新規SaV検出プライマーの有用性を検証した。高感度なHAV検出プライマーを作製した。イノシシから発見された遺伝子型5型のHEVの構造蛋白発現に成功し、抗原性の分析等を行った。複数のウイルスの同時検出を行うマルチプレップスPCR法およびマルチプレックスリアルタイムPCR法を開発した。 (3)近年の流行の主流を占める遺伝子型GII/4のNoVを中心に全塩基配列を決定し、過去の株を含め解析し、NoVの分子進化のメカニズムを解明するとともにほぼ毎年新しい変異株を検出・同定した。国内のA型肝炎患者から検出したHAVを分子疫学的に解析し、HAVの国内侵入経路等を明らかにした。イノシシ173頭中13頭(7.5%)、ブタ1,634頭中15頭(0.9%)からHEVを検出し、それらの汚染リスクを明らかにした。食品の汚染経路の解明等のため、患者、食品、下水等の環境のサーベイランスを行い、NoV等の汚染実態データを蓄積した。(4)二枚貝関連事例においてはNoV以外のSaV、アイチウイルス、アストロウイルス、A群ロタウイルス等も患者から検出され、それらの同時検査の必要性を明らかにした。二枚貝非関連事例は単独のウイルスによる事例が大半を占めた。
結論
食品からのウイルス検出法の実用化に向けた研究、診断法・検査法の改良・開発、新たな組換え型NoVの検出法の開発、継続した環境中のウイルス汚染のサーベイランス、NoV以外の種々のウイルスの食中毒事例における調査などをとおし、食品媒介ウイルスの制御の基盤となる多くの研究成果が得られた。開発した検査法のマニュアルを作成した。

公開日・更新日

公開日
2013-06-24
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2014-03-11
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201234010C

成果

専門的・学術的観点からの成果
食品からのウイルス検出法の開発、複数のウイルスの同時検出法の開発、カキからのウイルス検出における酵素処理の有用性の検証、VLPやモノクローナル抗体等の作製、食品媒介ウイルス検出遺伝子検出系の開発・評価等を通じて、ウイルスの検出・同定技術を進展させることができた。ノロウイルス遺伝子型GII/4等について全塩基配列の決定、遺伝子構造解析等を実施し、経年的な遺伝子変異、頻繁な遺伝子組み換えの実態を明らかにした。国内のHAVを分子疫学的に解析し、HAVの国内侵入経路等を明らかにした。
臨床的観点からの成果
開発した検査法により食中毒の原因食品や汚染経路の解明に寄与することができる。二枚貝関連事例においてはノロウイルス以外のサポウイルス、アイチウイルス、アストロウイルス等も患者から検出され、それらの同時検査の必要性を明らかにした。下水等の環境水やカキ、イノシシや豚の肉や肝臓からウイルスを検出し、それらの汚染実態や汚染リスクを明らかにできた。カキのノロウイルス等糞便由来ウイルスの汚染指標として大腸菌Fファージが有用である可能性を示した。
ガイドライン等の開発
食品からのウイルス検出は一般に二枚貝を除き困難で、食中毒事件において原因食品の特定ができない場合が多い。2012/13シーズンはノロウイルスが6年ぶりに大流行し、患者2000人を超す事例を含め、多くの食中毒事件が発生した。このため、厚生労働省はノロウイルスの予防啓発や食中毒の発生防止について、3度にわたり自治体宛てに通知を発出した。その中で、2013年1月11日に発出された通知において、食中毒調査における検査法として本研究班で開発した方法が参考として紹介された。
その他行政的観点からの成果
2012/13シーズンはノロウイルスが6年ぶりに大流行し、多くの食中毒事件や高齢者施設での死亡例を伴う集団感染が起こした。ノロウイルスの流行のピーク前(11月28日)に,GII/4の新しい変異株の検出と全国的な流行の可能性を国立感染症研究所・感染症情報センターのホームページをとおし情報提供した。本情報はマスコミ等を介し,国民に対する予防対策への備えや流行への注意喚起等の一翼を担った。この概要について、2013年3月18日に開催された薬事食品衛生審議会食品衛生分科会食中毒部会で説明した。
その他のインパクト
2012/13シーズンはノロウイルスが6年ぶりに大流行し、多くの食中毒事件や高齢者施設での死亡例を伴う集団感染が起こした。この要因として、ノロウイルス遺伝子型GII/4の新しい変異株(2012変異株)の出現と流行が背景にあることが注目され、予防対策と合わせて多くのマスコミで取り上げられた。研究代表者をはじめ本研究班に関与する多くの研究者は、新聞、雑誌、テレビ、ラジオの取材に対応し、マスコミを通じてのノロウイルスの食中毒や感染症に対する注意喚起や予防法の普及等に多大な協力を行った。

発表件数

原著論文(和文)
25件
原著論文(英文等)
4件
その他論文(和文)
42件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
69件
学会発表(国際学会等)
30件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Motomura K, Yokoyama M, Ode H, et al.
Divergent Evolution of Norovirus GII/4 by Genome Recombination over 2006-2009 in Japan
J Virol , 84 , 8085-8097  (2010)
原著論文2
Setsuko Iizuka, Reiko Takai-Todaka, Hitoshi Ohshiro, et al.
Detection of multiple human sapoviruses from imported frozen individual clams
Food Environ Virol  (2013)
原著論文3
Setsuko Iizuka, Tomoichiro Oka, Kenji Tabara, et al.
Detection of sapoviruses and noroviruses in an outbreak of gastroenteritis linked genetically to shellfish
J Med Virol , 82 (7) , 1247-1254  (2010)
原著論文4
Ueki, Y., M. Shoji, Y. Okimura, Y. et al.
Detection of Sapovirus in oysters
Microbiol Immunol , 54 (8) , 483-486  (2010)
原著論文5
Noritoshi Kitamoto, Tomoichiro Oka, Kazuhiko Katayama, et al.
Novel monoclonal antibodies broadly reactive to human recombinant sapovirus-like particles
Microbiol Immunol , 56 , 760-770  (2012)
原著論文6
Ishii K., Kiyohara T., Yoshizaki S., et al.
Epidemiological and genetic analyses of a diffuse outbreak of hepatitis A in Japan, 2010
J Clin Virol , 53 , 219-224  (2012)
原著論文7
Oka T, Mori K, Iritani N, et al.
Human sapovirus classification based on complete capsid nucleotide sequences.
Arch Virol , 157 (2) , 349-352  (2012)
原著論文8
Li TC, Yoshizaki S, Ami Y, et al.
Susceptibility of laboratory rats against genotypes 1, 3, 4, and rat hepatitis E viruses
Vet Microbiol , 163 , 54-61  (2013)
原著論文9
Miyamura T., Ishii K., Kanda T., et al.
Possible widespread presence of hepatitis A virus subgenotype IIIA in Japan: recent trend of hepatitis A causing acute liver failure.
Hepatol Res , 42 , 248-253  (2012)
原著論文10
Tominaga A., Kanda T., Akiie T., et al.
Hepatitis A outbreak associated with a revolving sushi bar in Chiba, Japan: application of molecular epidemiology
Hepatol Res , 42 , 828-834  (2012)

公開日・更新日

公開日
2014-06-02
更新日
2018-06-11

収支報告書

文献番号
201234010Z