冷凍食品の安全性確保のための微生物規格基準設定に関する研究

文献情報

文献番号
201234008A
報告書区分
総括
研究課題名
冷凍食品の安全性確保のための微生物規格基準設定に関する研究
課題番号
H22-食品-一般-009
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
春日 文子(国立医薬品食品衛生研究所 安全情報部)
研究分担者(所属機関)
  • 椿 広計(統計数理研究所 データ科学研究系)
  • 大西 俊郎(九州大学 経済学研究院)
  • 朝倉 宏(国立医薬品食品衛生研究所 食品衛生管理部)
  • 杉山 広(国立感染症研究所 寄生動物部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
国際動向を見据えた微生物規格設定のための科学的理論構築を目的に、冷凍食品を例として、1.食品微生物規格設定のための食品の分類法の検討(併せて食品微生物規格設定の考え方の提案)、2.食品微生物規格設定の理論構築、3.諸外国での寄生虫に対する食品の規格基準の調査、4.寄生虫の低温での死滅動態に関する知見の集積を行った。1に関しては、野菜類における各種衛生指標菌について、昨年度より多検体を用いた調査研究を行うことにより、指標菌としての適合性に関する考察を行うことを目的とした。2に関しては、食中毒リスクを低減するための抜取検査の理論構築を対象とし、国民から許容される3クラス抜取検査方式の検出力を上げるための設計を行うこととした。3、4に関しては、国際機関や諸外国の関連法令との比較、冷凍の効果に関する文献調査ならびに実験、そして寄生虫汚染の実態調査を通じ、危険性の把握、対策の評価を行うこととした。
研究方法
1.発芽野菜の危害性を考慮し、平成24年6月から9月にかけて東京都内で購入したカイワレ大根、計180検体について、一般生菌・大腸菌群・β-グルクロニダーゼ産生大腸菌の定量検出を行った。2.抜取検査の理論的検討において、菌数の分布に一般離散分布を想定した際、安全基準を基に設計された2クラス抜取検査では検出力が低下する問題を3クラス抜取検査によってどのように改善できるかの数理的検討を行った。また、具体的に頻度分布としてのポアソン分布を想定した確率計算に基づく数値的検討を行った。さらに、サンプリングプランを実装することを意識して、サンプリングプランの構築・評価という一連のスキームを統計学的見地から考察した。3.「植物防疫法」および「家畜伝染病予防法」を対象に、国際機関や諸外国の関連法令と比較した。4.「冷凍」により食品媒介寄生虫を殺滅する条件について、文献調査を行い、肺吸虫および猫回虫を用いた実験で確認した。食品寄生蠕虫の汚染実態の詳細を知るため、深海魚のキンメダイを調査した。
結果と考察
1.検体1gあたりの平均汚染菌数は一般生菌が1.0 x 107、大腸菌群が3.4 x 106であった。何れの検体からもβ-グルクロニダーゼ産生大腸菌は検出されず、PCR法によっても腸管出血性大腸菌・サルモネラは検出されなかった。検体情報を整理することで6月に比べ7・9月の検体は高い汚染分布を示すことを明らかにした。2.必ず全ての食品ロットが満たすべき安全基準以外に、平成23年度にサーベイした赤尾洋二の圧縮限界を設ける3クラス抜取検査を所定の手続きで設計することで、抜取検査のOC(Operating Characteristic)曲線を改善できることが示された。サンプリングプランのスキームを次の5つのフェーズに分けた:(1) 汚染濃度のモデリング、(2) データに基づくパラメータ推定、(3) OC 曲線(臨界値vs ロット合格率)の描画、(4) 推定値と真値のずれによるOC曲線のずれを定量化、(5) ロット合格率の確率分布の評価。また、簡単なサンプリングプランについて上記のフェーズのそれぞれを数理ソフトウェア上で表現した。3.輸入食品に対する我が国の検疫・検査は、諸外国・国際機関の規定・対応と概ね同等であることが明らかとなった。4.-20℃以下・7日間以上であれば、多くの食品媒介寄生虫が殺滅されることを確認した。深海魚のキンメダイや魚の加工食品から、サバ由来の虫種とは異なる人体寄生種のアニサキスを多数検出した。
結論
1.発芽野菜の衛生検査にあたり、遺伝学的解析手法を通じて、当該食品の構成細菌叢は季節と相関性を示しつつ大きく変動することを示した。その多くが一般細菌・大腸菌群として算定される実情を踏まえると、これらを指標菌として用いる優位性は必ずしも高いとはいえず、当該食品の衛生管理に適した指標菌の設定について改めて検討する必要があると考えられた。構成細菌叢の把握が、望ましい衛生指標菌を設定するにあたって重要な知見を提供すると期待された。2.微生物に関する研究と統計科学を適切にリンクさせることが必要であり、食品および微生物の特徴に応じたサンプリングプランの設定を行う必要があると結論された。3.4.種々の食品に食品媒介寄生虫の汚染を認めるが、冷凍の応用と関連法規の整備で寄生虫感染の予防を図ることが期待された。

公開日・更新日

公開日
2013-06-24
更新日
-

文献情報

文献番号
201234008B
報告書区分
総合
研究課題名
冷凍食品の安全性確保のための微生物規格基準設定に関する研究
課題番号
H22-食品-一般-009
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
春日 文子(国立医薬品食品衛生研究所 安全情報部)
研究分担者(所属機関)
  • 椿 広計(統計数理研究所 データ科学研究系)
  • 大西 俊郎(九州大学 経済学研究院)
  • 朝倉 宏(国立医薬品食品衛生研究所 食品衛生管理部)
  • 杉山 広(国立感染症研究所 寄生動物部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
国際動向を見据え、冷凍食品を例として食品全体に応用可能な微生物規格基準設定理論の構築を行うことを目的に、1.食品微生物規格基準設定のあり方の検討、1-1.食品微生物規格設定のための食品の分類法の検討、1-2.食品微生物規格設定の理論構築、1-3.食品微生物規格の事例提案、2.食品汚染寄生虫の対策に関する考察を行った。
研究方法
1-1.文献調査および国際会議への参加を通じて、食品微生物規格設定のための食品の分類法を検討した。微生物汚染実態の一部を実験的に補足することにより衛生指標菌の比較検証を行い、食品種毎に衛生指標菌を整理する必要性を提起するとともに、より望ましい指標菌の在り方について検討した。1-2.文献調査および国際会議への参加を通じて微生物規格設定理論について考察し、希少確率事象のリスク許容に関わる基礎数理検討を行った。抜き取り検査の不確実性について2クラス抜取検査と3クラス抜取検査の比較も含め、OC (Operating Characteristic) 曲線改善のために圧縮限界の考え方の適用可能性を考察した。また、頻度分布としてのポアソン分布を想定した確率計算に基づく数値的検討を行った。さらに、サンプリングプランの構築・評価という一連のスキームを統計学的見地から考察した。2.寄生虫を対象とした法令等について、国際機関や諸外国の関連法令と比較情報収集を行うとともに、寄生蠕虫の食品汚染実態調査、そして冷凍耐性の検討を行った。
結果と考察
1-1.日本適合性認定協会が作成した食品分類表に、国際食品微生物規格委員会(ICMSF)が危害要因として定める微生物種(細菌・寄生虫)を適合させることで、食品と危惧される病原体の組み合わせを作成し、更に国内流通食品の汚染実態、食中毒発生、喫食量及び現行の規格基準に関する情報の整理・体系化を通じ、各食品群について病原微生物情報を参照できる分類表を作成した。これにより、特定の病原微生物について、汚染実態が明らかでない食品群と食中毒発生・食品汚染を認めるが規格基準が設定されていない食品群が抽出された。後者の例として、野菜の多くが一般細菌、大腸菌群等の衛生指標菌を高い頻度で含む状況を把握した。カイワレ大根を具体例とした検討を行い、当該食品を構成する細菌叢の多くは環境由来であり、その多くが指標菌として算定されることを実証した。1-2.食品ロットに含まれる微生物数の計数データに関する不確かさ評価方式とそれを基にした抜取検査方式について、一般離散分布に基づく3クラス抜取検査を設計することで、2クラス抜取検査より検出性能の高い抜取検査方式を設計できることを示した。さらに、サンプリングプランを数理ソフトウェアでプログラム化し、OC 曲線・OC 曲面のグラフを描画できるようにした。2.関連法規の国際比較を行ったところ、諸外国における輸入食品に対する検疫・検査は、我が国の対応と概ね同等であることが明らかとなった。我が国の「食品衛生法」には寄生虫に係る食品の規格基準が定められていないが、実際には、アニサキスの主要感染源となるサバだけでなく、深海魚のキンメダイや魚の加工食品からも、人体寄生種のアニサキスが多数検出された。一方で、冷凍手段が食品媒介寄生虫の殺滅に有効であることが、文献調査と肺吸虫・猫回虫を用いた実験で確認された。
結論
本研究では、微生物(細菌・寄生虫)学的リスクを主眼においた食品の分類表を提案した。国内の食品汚染実態・食中毒発生状況の情報の収集と食品衛生法における規格基準の設定を比較することで、今後汚染実態調査が必要となるであろう、あるいは現行の食品衛生法では規格基準が設定されていない、食品-病原微生物の組み合わせ例を挙げることができた。また、食中毒に関連する寄生虫情報、国内情勢に即した監視対象微生物の設定、食品衛生行政における食品分類の国際統一化等が、今後の食品衛生上での微生物危害を精査する上で重要であるとの結論を得た。野菜を具体例として行った試験を通じ、指標菌の適性を考慮すべきであることが明らかとなった。すなわち、食品の衛生管理に用いる指標菌の設定については、個々の食品の特性を捉えた上で考慮すべきであり、構成細菌叢の把握はその検討にあたって重要な基礎的知見の集積に有用と考えられた。新たな判定基準を追加する3クラス抜取検査方式を用いることは、抜取検査の性能を改善するという意味で、統計的には合理的である。食品および微生物の特徴に応じたサンプリングプランの設定を行う必要がある。その際、Bayes 統計学の枠組みで捉え、サンプリングプランを定期的に評価し、更新していくべきであると考えられた。種々の食品に寄生虫の汚染はあるが、冷凍の応用と関連法規の整備で寄生虫感染の予防を図ることが期待された。

公開日・更新日

公開日
2013-06-24
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201234008C

成果

専門的・学術的観点からの成果
特にない
臨床的観点からの成果
特にない
ガイドライン等の開発
特にない
その他行政的観点からの成果
特にない
その他のインパクト
特にない

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
8件
その他論文(和文)
7件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
0件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Hiroshi Asakura, Yoshika Momose, and Fumiko Kasuga
Enterohemorrhagic Escherichia coli; Its Control from a Viewpoint of Food Safety
Journal of Disaster Research , 6 (4) , 426-434  (2011)
原著論文2
Hiroshi Asakura, Keiko Kawamoto, Yumiko Okada et al
Intrahost passage alters SigB-dependent acid resistance and host cell-associated kinetics of Listeria monocytogenes
Infection, Genetics and Evolution , 12 (1) , 94-101  (2012)
10.1016/j.meegid.2011.10.014
原著論文3
H.Asakura, E.Saito, Y.Momose et al
Prevalence and growth kinetics of Shiga toxin-producing Escherichia coli (STEC) in bovine offal products in Japan
Epidemiol. Infect. , 140 , 655-664  (2012)
10/1017/S0950268811001105
原著論文4
Hiroshi Asakura, Tomoya Ekawa, Naoki Sugimoto et al
Membrane topology of Salmonella invasion protein SipB confers osmotolerance
Biochemical and Biophysical Research Communications , 426 , 654-658  (2012)
10.1016/j.bbrc.2012.09.012
原著論文5
Kusumoto A, Asakura H, Kawamoto K
General stress sigma factor RpoS influences time required to enter the viable but non-culturable state in Salmonella enterica.
Microbiol Immunol. , In press  (2012)
原著論文6
Asakura H, Ekawa T, Sugimoto N et al
Providencia alcalifaciens causes barrier dysfunction and apoptosis in tissue cell culture: potent role of lipopolysaccharides on diarrheagenicity.
Food Addit Contam. , In press  (2013)
原著論文7
Kensuke Taira, Yasuhide Saitoh, Natsuki Okada et al
Tolerance to low temperatures of Toxocara cati larvae in chicken muscle tissue
Veterinary Parasitology , 189 , 383-386  (2012)
10.116/j.vetpar.2012.04.037
原著論文8
Hiromu SUGIYAMA, Katsumasa SHIBATA, Yasuyuki MORISHIMA et al
Current Status of Lung Fluke Metacercarial Infection in Freshwater Crabs in the Kawane Area of Shizuoka Prefecture, Japan
Journal of Veterinary Medical Science , 75  (2013)

公開日・更新日

公開日
2014-06-02
更新日
2016-10-03

収支報告書

文献番号
201234008Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
10,000,000円
(2)補助金確定額
10,000,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 4,998,161円
人件費・謝金 1,884,980円
旅費 766,936円
その他 2,350,400円
間接経費 0円
合計 10,000,477円

備考

備考
収入の「(2)補助金確定額」より、支出の「合計」が多いのは、銀行預金利息が含まれているためです。

公開日・更新日

公開日
2018-06-13
更新日
-