食品汚染カビ毒の実態調査ならびに生体毒性影響に関する研究

文献情報

文献番号
201234007A
報告書区分
総括
研究課題名
食品汚染カビ毒の実態調査ならびに生体毒性影響に関する研究
課題番号
H22-食品-一般-008
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
局 博一(東京大学 大学院農学生命科学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 小西 良子(国立医薬品食品衛生研究所 衛生微生物部)
  • 渋谷 淳(東京農工大学 大学院農学研究院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
14,080,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究課題では、わが国の食習慣に密接に関係する食品を汚染する可能性があり、国際的に毒性評価がなされているが、わが国では未検討のT-2トキシン、HT-2トキシン、ゼアラレノン(ZEN)またオクラトキシンAとの複合汚染および国内汚染が危惧されるシトリニン(CIT)を対象に、汚染実態調査および毒性評価を行う。また、上記カビ毒の日本人に対する曝露量を統計学的に評価するための基本モデルの作成とこのモデルを用いた曝露量の推定を行う。
研究方法
①カビ毒汚染実態調査:輸入・国産小麦を含む12種類の食品目、335検体について、LC-MS/MSを用いてT-2トキシン、HT-2トキシン、シトリニン(CIT)、ゼアラレノン(ZEN)の汚染実態の分析を行った。②毒性評価試験:T-2トキシンを皮下投与されたラットにおける心エコー検査、培養心筋細胞の呼吸機能(ミトコンドリア機能)、血液酸化ストレス指標の変化を調べた。また、CITの90日間飲水摂取試験をマウス(BALB/c)を用いて行い、全身臓器の病理組織学的検査および血液生化学的変化の有無を調べた。③曝露量評価:日本人のカビ毒曝露量評価モデルを作成した上で、実際の汚染調査結果にもとづき小豆およびはと麦を例にとって、ゼアラレノン、T-2トキシン、HT-2トキシンへの曝露量 評価を行った。
結果と考察
①カビ毒汚染実態調査:小麦、大麦、はと麦、ライ麦、ビール、とうもろこし加工品、小豆、大豆、ゴマ、精米、雑穀米、コーンスナックにおけるT-2トキシン、HT-2トキシン、ゼアラレノンの汚染の有無、汚染率、汚染濃度(平均値、最大値)などが明らかになった。
②毒性評価試験:T-2トキシン投与後48時間目のラットにおける心エコー・ドプラー検査の結果、低用量の0.02 mg/kg、0.5 mg/kgで末梢血管の平均血流速度の増加が認められたが、心拍出量、拍動係数、抵抗係数等に有意な変化は観察されなかった。0.02、0.1、0.5mg/kg
のT-2トキシンの皮下投与によって投与後48時間目の検査で用量依存性に血液中の活性酸素が有意に増加することが明らかになった。心筋細胞のミトコンドリア・ストレステストを行った結果、6×10-5μM以上の濃度で電子伝達系機能の抑制が生じることが明らかになった。雌BALB/cマウスにシトリニンを0, 1.6, 5,15 ppmの用量で90日間飲水投与した結果、全身臓器および血液に注目すべき変化は認められなかった。③曝露量評価:95%タイル値で、20歳以上のゼアラレノンの上限値の暴露量はあずき単独の場合に2.66ng/体重Kg/dayであるのに対して、はとむぎによる暴露量を加えた合計の暴露量でも2.69ng/体重Kg/dayであった。同じくT-2トキシンではあずき単独の場合に2.20ng/体重Kg/dayであるのに対して、はと麦との合計暴露量でも同じく2.20ng/体重Kg/dayであった。HT-2トキシンでは、あずき単独の場合に2.68ng/体重Kg/dayであるのに対して、合計暴露量では2.69ng
/体重Kg/dayであった。
結論
①カビ毒汚染実態調査: T-2トキシン及びHT-2トキシンが今年度も小麦・大麦や麦類加工品で検出され、小豆からはすべての検体からT-2トキシン及びHT-2トキシン並びにゼアラレノンが検出されたことから、今後とも継続的な観察を行う必要がある。②毒性評価試験:T-2トキシンは不整脈を起こすことが明らかになっているが、0.5mg/kg以下の用量では血行動態に大きな障害をもたらさないこと、T-2トキシンは血液の活性酸素を増加させること、心筋細胞レベルでは低濃度から毒性を有すことがわかった。シトリニンは15 ppm以下の濃度では長期曝露の毒性は生じないことがわかった。③曝露量評価:あずき類食品およびはと麦食品を介したゼアラレノン、T-2トキシン、HT-2トキシンに対する日本国内での曝露量は低く、これらの食品による健康被害リスクは低いと考えられる。

公開日・更新日

公開日
2013-06-24
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201234007B
報告書区分
総合
研究課題名
食品汚染カビ毒の実態調査ならびに生体毒性影響に関する研究
課題番号
H22-食品-一般-008
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
局 博一(東京大学 大学院農学生命科学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 小西 良子(国立医薬品食品衛生研究所 衛生微生物部)
  • 渋谷 淳(東京農工大学 大学院農学研究院)
  • 佐藤 敏彦(北里大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究課題では、わが国の食習慣に密接に関係する食品を汚染する可能性があり、国際的に毒性評価がなされているが、わが国では未検討のT-2トキシン、HT-2トキシン、ゼアラレノン(ZEN)またオクラトキシンAとの複合汚染および国内汚染が危惧されるシトリニン(CIT)を対象に、汚染実態調査および毒性評価を行う。また、上記カビ毒の日本人に対する曝露量を統計学的に評価するための基本モデルの作成とこのモデルを用いた曝露量の推定を行う。
研究方法
①カビ毒汚染実態調査:小麦(国産、輸入)、大麦(国産、輸入)、はと麦、ライ麦、小麦粉、胚芽入り加工品、グラノーラ、ビール、コーングリッツ、コーンスナック、小豆、大豆、雑穀米、精米、ゴマの計755検体を調査した。②毒性評価試験:T-2トキシン、HT-2トキシン、シトリニンの投与または経口摂取による全身影響、循環機能、自律神経機能、免疫系、酸化ストレス・抗酸化能に及ぼす影響を病理組織学的、生理学的、生化学的および免疫学的手法を用いて調べた。③曝露量評価:カビ毒含有量調査データおよび食品摂取量・摂取頻度調査データを用いて、暴露量シミュレーションの妥当性の検討と0歳から70歳までの各年齢層におけるゼアラレノン、T-2トキシン、HT-2トキシンの3種のカビ毒の暴露量評価を一部の食品を対象に行った。
結果と考察
①カビ毒汚染実態調査:T-2トキシンおよびHT-2トキシンは、ライ麦、グラノーラ、ビール、小豆において検出率が高かった。汚染量は輸入小麦、はと麦、コーングリッツ、小豆が比較的高い値を示した。ゼアラレノンは、はと麦、胚芽入り加工品、コーングリッツ、小豆、雑穀米において高頻度で検出されており、はと麦の汚染量は際だって高かった。
②毒性評価試験:T-2トキシンのラットへの皮下投与では、少なくとも0.1mg/kg以上の投与量で明瞭な不整脈が生じること、心筋細胞のミトコンドリア・ストレステストを行った結果、6×10-5μM以上の濃度で電子伝達系機能の抑制が生じることが明らかになった。マウスマクロファージ様細胞においてT-2およびHT-2は、LPSをリガンドとするToll-like receptor 4(TLR4)のシグナル伝達を阻害することが明らかとなった。ヒト肝ガン由来細胞に対しては、200 nMおよび400 nMのT-2もしくはHT-2の両毒素は、細胞内の主要な抗酸化物質であるGlutathioneを減少させることが明らかとなった。雌BALB/cマウスにシトリニンを0, 1.6, 5,15 ppmの用量で90日間飲水投与した結果、全身臓器および血液に注目すべき変化は認められなかった。③曝露量評価:摂取量シミュレーションではサンプル数による誤差範囲が明らかになった。あずき含有食品およびはと麦について、ゼアラレノン、T-2トキシン、HT-2トキシンの3種のカビ毒に対する暴露量を評価した。あずき含有食品は摂取者の割合が比較的多いのに対して、はと麦は摂取者の割合が極めて小さい。実際の暴露量をシミュレーションでは、はと麦の摂取による暴露量は、あずき含有食品摂取による暴露量と比べて、きわめて少ないことがわかった。あずき含有食品とはと麦の摂取による合計の暴露量はゼアラレノン、T-2トキシン、HT-2トキシンについて99%タイルであっても、PMTDIよりも少ないことが推定された。暴露量評価については、摂取者割合および摂取量の多い、いわゆる主食を介する曝露量評価を今後の調査結果に基づき実施する必要がある。
結論
①カビ毒汚染実態調査:我が国に流通する食品にはT-2トキシン、HT-2トキシンおよびゼアラレノンの汚染があることが明らかになった。今後さらに3年間実態調査を行い、より正確な汚染実態を把握し、暴露評価を行う予定である。②毒性評価試験:T-2トキシン、HT-2トキシンは急性毒性影響が高いと思われる。シトリニンの毒性は明瞭でなかった。③曝露量評価:あずき類食品およびはと麦食品を介したゼアラレノン、T-2トキシン、HT-2トキシンに対する日本国内での曝露量は低く、これらの食品による健康被害リスクは低いと考えられる。

公開日・更新日

公開日
2013-06-24
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201234007C

成果

専門的・学術的観点からの成果
国内に流通している主要な穀物食品およびそれらの加工食品に含まれるゼアラレノン、T-2トキシン、HT-2トキシンの汚染実態調査を行い、汚染頻度および汚染濃度の概要を把握できた点は意義深い。また、T-2トキシンによる循環器障害の発現性、T-2/HT-2トキシンによる免疫系細胞影響に関する新知見が得られ、シトリニンによる生体影響の有無が明確になったことも意義深い。
臨床的観点からの成果
基礎疾患を有するハイリスク患者(動物)などに対するカビ毒の影響評価はなされていない。
ガイドライン等の開発
食品汚染カビ毒の汚染実態調査結果に基づき、我が国の食料事情(食品摂取量など)を考慮したカビ毒の規格基準の策定に資する予定である。
その他行政的観点からの成果
食品中のカビ毒汚染実態調査結果と食品摂取量および毒性評価に基づき、ADIの設定および食品中のカビ毒規格基準の設定に貢献しうる基礎資料を提供している。CODEXやEFSAに対して日本における実態調査結果を報告した。
その他のインパクト
「食品汚染カビ毒の実態調査ならびに生体毒性影響に関する研究」の研究成果発表会を開催した。
(2013年2月6日;於、東京大学農学部フードサイエンス棟)
カビ毒の毒性評価結果のレビューを第78回マイコトキシン学会(2016.1)において発表した。

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
13件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
10件
学会発表(国際学会等)
3件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Sugita-Konishi,Y., et al.
Exposure and risk assessment for ochratoxin A and fumonisins in Japan.
Food Addit. Contam.  (2012)
原著論文2
Wu,W., Sugita-Konishi, Y., PestkaJ.J, et al.
Comparison of Emetic Potencies of the 8-Ketotrichothecenes Deoxynivalenol, 15-Acetyldeoxynivalenol, 3-Acetyldeoxynivalenol, Fusarenon X and Nivalenol.
Toxicol. Sci. , 131 (1) , 279-291  (2013)
doi:10.1093/toxsci/kfs286
原著論文3
Watanabe, M., Sugita-Konishi, Y., Hara-Kudo, Y., et al.
Sensitive Detection of Whole-Genome Differentiation among Closely-Related Species of the Genus Fusarium Using DNA-DNA Hybridization and a Microplate Technique. 
J. Vet. Med. Sci. , 74 (10) , 1333-1336  (2012)
原著論文4
Aoyama, K., Sugita-Konishi, Y., et al.
Interlaboratory Study Comparing LC-UV and LC-MS Analyses for the Simultaneous Detection of Deoxynivalenol and Nivalenol in Wheat.
Food Hygiene and Safety Science, , 53 (3) , 152-156  (2012)
原著論文5
Suchitra Ngampongsa, Masakazu Hanafusa, Kentaro Ando, et al.
Toxic effects of T-2 toxin and deoxynivalenol on the mitochondrial electron transport system of cardiomyocytes in rats.
J. Toxicol. Sci. (in press) , 38 (3) , 495-502  (2013)
原著論文6
Ngampongsa S., Ito K., Kuwahara M., et al.
Reevaluation of arrhythmias and alterations of the autonomic nervous activity induced by T-2 toxin through telemetric measurements in unrestrained rats.
Toxicol Mech Methods. , 22 (9) , 662-673  (2012)
原著論文7
Ngampongsa S., Ito K., Kuwahara M., et al.
Arrhythmias and alterations in autonomic nervous function induced by deoxynivalenol (DON) in unrestrained rats.
J Toxicol Sci. , 36 (4) , 453-460  (2011)
原著論文8
Sugiyama K, Kinoshita M, Kamata Y, Minai Y, Tani F, Sugita-Konishi Y.
Thioredoxin-1 contributes to protection against DON-induced oxidative damage in HepG2 cells.
Mycotoxin Res. , 28 (3) , 163-168  (2012)
原著論文9
Kemmochi S, Hayashi H, Taniai E, et al.
Protective Effect of Stachybotrys microspora Triprenyl Phenol-7on the Deposition of IgA to the Glomerular Mesangium in Nivalenol-induced IgA Nephropathy Using BALB/c Mice.
J. Toxicol. Pathol. , 25 (2) , 149-154  (2012)
原著論文10
Jermnak, U., Yoshinari, T., Sugiyama, Y.,et al.
Isolation of methyl syringate as a specific aflatoxin production inhibitor from the essential oil of Betula alba and aflatoxin production inhibitory activities of its related compunds.
Int. J. Food Microbiol. , 153 (3) , 339-344  (2012)
doi:10.1016/j.ijfoodmicro.2011.11.023
原著論文11
Yoshinari, T., Ohnishi, T., Kadota, T., et al.
Development of a purification method for simultaneous determination of deoxynivalenol and its acetylated and glycosylated derivatives in corn grits and corn flour by liquid chromatography-tandem mass spectrometry.
J. Food Prot. , 75 (7) , 1355-1358  (2012)
原著論文12
Hayashi H, Itahashi M, Taniai E, Yafune A, Sugita-Konishi Y, Mitsumori K, Shibutani M.
Induction of ovarian toxicity in a subchronic oral toxicity study of citrinin in female BALB/c mice.
J Toxicol Sci. , 37 (6) , 1177-1190  (2013)
原著論文13
Yoshinari T. et al.
Occurrence of four Fusarium mycotoxins, deoxynivalenol, zearalenone, T-2 toxin, and HT-2 toxin, in wheat, barley, and Japanese retail food.
J Food Prot. , 77 (11) , 1940-1946  (2014)
原著論文14
局 博一, 花房真和
トリコテセン系カビ毒(T-2トキシンおよびデオキシニバレノール)の毒性評価:酸化ストレス・アポトーシスの役割
JSM Mycotoxins , 66 (2) , 129-143  (2016)

公開日・更新日

公開日
2014-05-27
更新日
2018-06-21

収支報告書

文献番号
201234007Z