システマティックレビューを活用した診療ガイドラインの作成と臨床現場におけるEBM普及促進に向けた基盤整備

文献情報

文献番号
201232058A
報告書区分
総括
研究課題名
システマティックレビューを活用した診療ガイドラインの作成と臨床現場におけるEBM普及促進に向けた基盤整備
課題番号
H24-医療-指定-051
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
中山 健夫(京都大学大学院医学研究科 健康情報学)
研究分担者(所属機関)
  • 飯塚 悦功(東京大学大学院工学系研究科 化学システム工学専攻)
  • 棟近 雅彦(早稲田大学理工学術院 創造理工学部経営システム工学科)
  • 水流 聡子(東京大学大学院工学系研究科 化学システム工学専攻)
  • 津谷 喜一郎(東京大学大学院薬学系研究科・医薬政策学)
  • 稲葉 一人(中京大学法科大学院 法務研究科法学)
  • 森 臨太郎(国立成育医療研究センター研究所 成育政策科学研究)
  • 東 尚弘(東京大学医学系研究科健康医療政策学/公衆衛生学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 地域医療基盤開発推進研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
11,539,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
最良の臨床的エビデンスに基づき、患者の視点を反映した診療ガイドラン(Clinical Practice Guidelines: CPG)の作成と活用は、EBMの普及・推進の鍵であり、医療の質向上や医療安全、医療への社会的信頼の基盤となる重要な政策的課題である。2011年、米国医学研究所が新たにCPGを「システマティックレビュー(Systematic Review: SR)に基づく推奨」と定義したが、国内ではSRの認識は不十分である。国際的にはGRADE法がCPG作成の方法論を構築しつつあり、国内でもその成果を反映したCPG作成・普及の方法を確立する必要がある。これまでの国内CPGでは費用対効果等の経済的情報を取り入れた資源配置の視点が乏しい。またCPGの内容をクリニカル・パスや臨床の質指標へ反映させ、エビデンス診療ギャップを改善するシステムの構築もEBMの推進に不可欠である。医療者・患者(+家族)とのコミュニケーションや意思決定の基点としてのCPGの役割、医療裁判におけるCPGの適切な位置づけも社会的な要請が大きい。
 本課題はCPGが医療施策へ展開され、社会において適切に発展、機能することを目指して、関連諸課題の理論的・実証的研究に取り組む。
研究方法
研究方法は課題に応じてSR、総意形成、文献的検討、ワークショップ等の方法を採る。
結果と考察
GRADE法は十分なSRの知識を求めているが国内では対応し得る人的資源が乏しく、今後の人材育成が急務である。既存CPGとQuality Indicator(QI)のレビューと総意形成を用いて心臓リハビリテーションと院内助産のQIを開発した。PCAPS(患者状態適応型パス)とCPGの連携、医療の質・安全に関するエビデンス診療ギャップのデータ蓄積とCPG作成者への情報還元を連環させる「CPG改善プロセスモデル」を提示(次年度にモデル機関で施行)。レセプトデータベースを用いて慢性肝障害における肝癌スクリーニング検査の実施状況とCPGとの乖離を検討した。CPG作成に際し、既存のSRを「つかう」局面と、新規にSRを「つくる」局面があるが、前者では検索に用いたデータベース名や検索方法をCPG中に明記すべきである。法的文献等を対象にCPGの法的位置づけを考察した。71種類の悪性新生物の分類コード(国際疾病分類第10版)を検討し、37部位(52%)に当該CPGが存在し、10部位(14%)に関連CPGが一部参照可能であることを示した。費用対効果分析は介入研究や観察研究のSRに始まり、医療経済評価のSR、経済モデルによる費用対効果分析、質的研究手法を用いた総意形成や患者一般参画、広い関係者の参加など、社会の価値観を含める工夫、精緻な政策評価や適正な組織ガバナンス、透明性やスタンダードづくり、学術界の支援など大きな枠組みの中で位置づけられて真価が発揮される。
以下の学会等でCPG作成支援を行った。鼻科学会(副鼻腔炎)、小児感染症学会、内視鏡外科学会、神経学会、腎臓学会(抗癌化学療法に伴う腎障害)、緩和医療学会、Mindsガイドライン作成ワークショップ。2012年8月、コクラン共同計画の資源を活用したSRの人材育成プログラムを試行(日本疫学会と共催)。2013年2月24日に公開フォーラム(東京)を開催した。
結論
CPGの開発・普及・適正利用による我が国の医療の質・安全性・効率の向上と国民の信頼の醸成に資することが本課題のゴールである。日本医療機能評価機構Mindsが厚生労働省の委託事業として、CPGを中心とする情報提供の実務を担当しており、本課題の代表・中山はその発足時より、各種委員として参画している。本課題ではMinds委託事業としての範囲を越える研究的・実験的な課題の検討を進め、その成果を今後のMindsの運営、厚生労働省委託事業の充実に役立てたい。CPG作成法はGRADE法を参照基準としてMindsと協力して開発を進めている。CPGの診療・アウトカムへの影響の評価について、本班の成果であるレセプトデータベースの活用、患者状態適応型パス(PCAPS)との連携は今後のエビデンス(データ)に基づく医療の基盤となり得る。QIの開発は、本班で試みたエビデンスレビューと総意形成の統合が、がん領域のQI開発で蓄積された成果と共に、今後の国内QI開発のモデルとなろう。CPGでカバーすべき疾患は診療施設の集約化も視野に入れた議論が必要である。CPGの適正利用に向けた法的課題の整理も社会的要請に応える成果が得られつつある。今後の保健医療政策に不可欠となる費用対効果分析、保険制度との関連でCPGがどのような役割を担うべきか、本班の成果を今後の議論の深まりに繋げたい。

公開日・更新日

公開日
2013-06-02
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201232058Z