在宅医療でのICT及び遠隔診療活用に関する調査研究

文献情報

文献番号
201232055A
報告書区分
総括
研究課題名
在宅医療でのICT及び遠隔診療活用に関する調査研究
課題番号
H24-医療-指定-048
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
酒巻 哲夫(群馬大学医学部附属病院 医療情報部)
研究分担者(所属機関)
  • 岡田 宏基(香川大学医学部)
  • 小笠原 文雄(小笠原内科)
  • 森田 浩之(岐阜大学医学部)
  • 郡 隆之(利根中央病院)
  • 齋藤勇一郎(群馬大学医学部附属病院)
  • 石塚 達夫(岐阜大学医学部附属病院総合内科)
  • 辻 正次(兵庫県立大学大学院)
  • 太田 隆正(太田病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 地域医療基盤開発推進研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
在宅医療の発展には、ITの活用や遠隔診療による医療の質と効率の向上が重要と考えられるが、評価が未確立なので推進方策が定まらない。これまで遠隔診療の定量的な臨床研究を実施して、在宅医療の支援の有効性の実証を進めてきた。さらなる推進のためには、在宅医療の中でのIT活用の全体像を臨床側の視点で捉え、その先での遠隔診療の位置づけの定位が必要である。また在宅医療の従事者に遠隔診療は馴染みが無く、普及が望めない。これら評価を総合的に捉えて、遠隔診療の有効性の実証の継続に加えて、より大きな視点で在宅医療でのIT活用の全体像の調査、普及策の検討を行った。
研究方法
1) 全体構成
三課題の対象や手法は異なるので、並行して研究を進めた。
2) 在宅医療での臨床的なIT活用の実態調査
従来のIT満足度や期待度のアンケートでは実態把握が困難である。真の姿を洗い出すためにIT活用施設と非利用施設の双方で、多職種協同チーム内の情報連携プロセスを対象として、診療情報流通状況を定量的に調査・比較した。対象施設も規模や人口での偏りを抑えるべく、大都市部と人口過疎地域双方の在宅療養支援診療所6軒で調査した。
診療データとして、患者別・実施毎・職種別に診療記録をレトロスペクティブに収集した。患者の選択は各施設でなるべく均等に選び、患者基本情報も収集した。背景情報として、各施設の医療者数、患者数、情報システムの有無、さらに地域の医療状況(人口、病院数や退院患者数)のデータも収集した。
これらを材料にしてITの有無とイベント発生率や職種別情報頻度、地域の患者数などの因子で比較分析した。
3) 遠隔診療の有効性の評価
前年度からの有効性の検証を継続した。イベント発生率の群間差異の再評価、QOLと患者当たり平均移動時間より求めた医師労働軽減(実診療時間の割合)での両群比較を行った。
4) 遠隔診療手法の普及手段
従来からの教材は、技術的知識に関するもののみで、医療者が診療の中で必要とする知識をまとめたものが無かった。在宅医療現場の医師や医学生に遠隔診療の知識を広めなければ、実施する芽も出ない。しかし、どのような内容がテキストに求められるか、執筆できるか検討した事例が無かった。そこでが専門家による検討を行い、目次および執筆できる人材の調査を行った。
結果と考察
1) 在宅医療での臨床的なIT活用の実態調査
① 5施設から72人の診療情報を得た。うちIT化された施設からは42人だった。
② 各施設の在宅患者数は50~300の間だった。山間僻地では患者数が少ないが、地方都市でも300人規模の施設がある。大都市(県庁所在地級)の施設はIT化され、地方都市・山間僻地はIT化未導入だった。
③ 300人規模でも地方都市の施設ではIT化は必要無かった。施設規模とIT化は必ずしも一緒ではない。情報交流の満足度はIT化が無くても低くない。不満の医師はいなかった。
④ 連携施設数は大都市圏が多く、IT化は関連があった。
⑤ 有害事象やQOLでは、IT化との関連性は見られなかった。
⑥ 情報システムとしてはグループウェアであり、電子カルテより簡便である。疾病コード等での分類等の分析には向かない。ただし急性期治療と異なるので、コードの分類や情報形式の標準化ニーズは顕在化していない。自家製もしくは在宅医療用に開発されたシステムが多く、大手ベンダーが絡まない。
⑦ 在宅医を司令塔とする地域コミュニティ(情報フロー)があるように見受けられた。
⑧ 情報共有のコミュニティは、ITの独断場ではない。地方都市では人間関係からの情報が豊富だった。
2) 遠隔診療の有効性の評価
イベント発生とQOLについて、群間差異は有意差が無かった。医師労働軽減(実診療時間の比率)は遠隔群が高いが、有意差等の解析を慎重に進めている。少なくとも、安全性は示唆された。
3) 遠隔診療手法の普及手段
① 遠隔医療の制度的位置づけ、全身診断・治療の概要、在宅医療の概観、テレビ電話コミュニケーション、実際の観察ポイント、カルテ事例などの内容をまとめられることがわかった。またこれまでの研究班の班員や協力施設医師によるテキスト執筆が可能であることもわかった。
② 得られた目次案や執筆者候補を元に、日本遠隔医療学会編集委員会に以降のテキスト化の検討を移行した。同学会ではこの情報を元にテキスト編纂を進めて、刊行に至った。
結論
1) 在宅医療での臨床的なIT活用の実態調査を行い、情報流通やIT活用状況の一部を明らかにした。地域での在宅医療プロセスの中での遠隔診療の位置の解明に調査を向けて行く。
2) 遠隔診療の有効性の評価
遠隔診療の安全性の確認を進めた。有効性の検証を進める。
3) 遠隔診療手法の普及手段
普及のための必要知識を整理した。テキスト発刊につながった。

公開日・更新日

公開日
2013-05-29
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201232055C

成果

専門的・学術的観点からの成果
従来、医療でのIT活用の研究は技術開発に偏り、臨床上の有効性の定量的評価事例が非常に少ない。つまりIT活用の意義は確立していない。下記の成果を得たことは、従来研究と一線を画すものである。
1.在宅医療でのIT活用の具体的評価手法を開発して、実態を捉えた。ITありきに偏らない評価として、必ずしもIT活用が全施設に有効でないとの調査結果を得た。
2.遠隔診療(テレビ電話診療)の評価手法を開発した。また安全性を実証した。
3.遠隔診療を学ぶ医師・学生向けの教材を国内で初めて開発した。
臨床的観点からの成果
前述の通り、医療でのIT活用は意義が確立していない。そのため、在宅医療でIT研究者と現場医療者の間にミゾがある。
1.ITがあれば、在宅医療の全てに有効とは「神話」である。多数の施設との連携がある場合はIT活用への積極的取り組みがあった。それ以外では評価が低かった。
2.在宅医療の中での遠隔診療の安全性と有効性を示した。現場て使えるツールであると示した。
3.医療者向けに遠隔医療の実践手段を具体的に示す教材を開発した。
ガイドライン等の開発
在宅医療の中で遠隔診療を行う手法を指導する教科書の開発を喚起した。その結果、日本遠隔医療学会が2013年3月に教科書を刊行した。日本遠隔医療学会は遠隔診療のための指針(ガイドライン)を2011年3月に公開したが、それを何歩も進めた。
その他行政的観点からの成果
1.在宅医療地域連携拠点事業などでIT活用の推進が唱われているが、各地の取組者により、温度差が大きい。各種因子から相互比較できる実態情報を明らかにしたことで、評価材料を提供できた。
2.遠隔診療の診療報酬化の資するエビデンス情報の収集を継続した(安全性と有効性)。
3.遠隔医療の普及啓発のツールを開発した。地域医療での普及活動のツールとなる。実際にいくつかの自治体に紹介を進めている。
その他のインパクト
日本遠隔医療学会学術総会(2012年9月)、日本遠隔医療学会スプリングカンファレンス(2013年2月15日)で、各成果を公開した。
本研究で得られた在宅医療の実態情報は、以降の日本遠隔医療学会等での在宅医療向け施策立案に活用されている。

発表件数

原著論文(和文)
3件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
3件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
酒巻哲夫、長谷川高志
在宅医療への遠隔医療技術の活用
公衆衛生 , 76 (7) , 528-532  (2012)
原著論文2
長谷川高志、酒巻哲夫
遠隔診療の多施設研究について
日本遠隔医療学会雑誌 , 8 (1) , 29-33  (2012)
原著論文3
長谷川高志、郡隆之、酒巻哲夫他
訪問診療における遠隔診療の効果に関する多施設前向き研究
日本遠隔医療学会雑誌 , 8 (2) , 205-208  (2012)

公開日・更新日

公開日
2017-06-30
更新日
-

収支報告書

文献番号
201232055Z