鍼灸の作用機序に関する科学的根拠の確立と神経内科専門医と連携した鍼灸活用ガイドラインの作成

文献情報

文献番号
201232030A
報告書区分
総括
研究課題名
鍼灸の作用機序に関する科学的根拠の確立と神経内科専門医と連携した鍼灸活用ガイドラインの作成
課題番号
H24-医療-一般-023
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
鈴木 則宏(慶應義塾大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 清水 利彦(慶應義塾大学 医学部)
  • 柴田 護(慶應義塾大学 医学部)
  • 鳥海 春樹(慶應義塾大学 医学部)
  • 伊藤 和憲(明治国際医療大学 鍼灸学部)
  • 荒木 信夫(埼玉医科大学 医学部神経内科 )
  • 山口 智(埼玉医科大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 地域医療基盤開発推進研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
9,231,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
片頭痛に対する鍼の作用機序解明のための基礎研究と、それと連動した臨床研究を行い、片頭痛診療における適正な鍼活用のガイドライン化を目的とする。現在、鍼の頭痛に対する効果は世界的に注目されているが、その作用機序には不明な点が多く残されている。申請者が主催する慶應義塾大学医学部神経内科は、頭痛診療に併用した鍼活用の可能性を探るため、平成23 年より、神経内科特別外来として「はり外来」を開設し、頭痛専門診と連携して運用している。また、片頭痛の病態に関しても研究を行っているが,特に重要な知見として三叉神経系への侵害性刺激がcortical spreading depression (CSD) の発生閾値を低下させる事を見出した事である。この知見にもとづき、平成24-25 年度前半は片頭痛に対する鍼灸の作用機序解明を進め、平成25 年度後半-最終年度には、成果を反映した臨床研究と片頭痛に関する鍼灸活用のためガイドラインに必要なエビデンスの集積を目的とする。
研究方法
(1) 基礎研究としては、片頭痛の前兆に関与するCSDと、三叉神経系の役割についての動物実験を中心に据えた。ラットおよびマウスを使用し、三叉神経系に発現するTRP-familyを介したシグナル伝達について、免疫組織学的検討および分子生物学的検討により解析し、併せて各種行動実験を実施し、三叉神経系刺激モデル動物に対する多角的な解析を行った。 
(2) 臨床研究としては、ヒトに対するArterial Spin Labeled MRI(ASL MRI)を使用した脳血流変化の検討と、頭痛患者に対する実際の鍼治療効果の知見集積を行った。倫理的配慮として介入研究となる上記研究施行に当たっては、「臨床研究に関する倫理指針」(平成20年厚生労働省告示第415号)に基づき、各施設の倫理委員会の承認を得てガイドラインを遵守しこれを行った。
結果と考察
(1) 基礎研究において、清水、柴田らは、マウスを使用した三叉神経系への刺激モデルを活用し、TRPV1を介した刺激が組織障害や再生に係る経路を活性化させることを明らかにし、片頭痛慢性化のメカニズムに関与している可能性を示した。また、TRPV1に対する機能的な拮抗作用が想定されるTRPM8が大脳や脳幹の痛覚抑制に関与する神経核に発現することを明らかにした.また培養細胞においてTRPV1とTRPM8の相互作用を解析した。また鳥海らは、メスマウスの性周期判別を行い各性周期における性ホルモンの血中濃度測定し、同時にCSD発生閾値を計測して、各性周期においてその発生特性に変化があることを検証した。伊藤らは,頸部筋群に対するtrigger pointの作成を行い、筋電図と圧痛閾値の計測から、頸部筋筋膜上に圧痛点を形成していることを確認した。これらの動物に対する行動学的評価により、頸部筋へのtrigger point形成が、情動系に影響を与えている可能性を示唆した。これらの頭痛に関連する病態モデルの検討において集積された知見は、次年度以降の鍼灸検討に特化した動物モデルの確立を支持するもので、本研究の計画の成果をより重層化するものとなった。
(2) 臨床研究において、荒木,山口らが、ASL-MRIを使用した片頭痛患者に対するその平常時脳血流解析を行い、片頭痛患者では健常者と比較して、その肩頸部筋に対する鍼刺激に応答する脳血流増大部位に差異が存在する事を明らかにした。特に、疼痛制御に重要な中脳中心灰白質を中心とした疼痛下降性調節系への脳幹からの入力経路の一つを形成する楔状核などにおいて、片頭痛患者と健常者の血流動態に差異が見られたことは、先述の動物実験におけるTRP-familyの発現分布解析とも相関を持つ重要な知見であり、次年度以降の基礎研究とリンクした臨床研究デザインの精密化に、大きな指針を示すものとなった。また、鳥海らは、頭痛専門診療と連携した鍼外来における診療情報から後ろ向き検討を行い、薬剤抵抗性の片頭痛および緊張型頭痛共存患者に対する鍼灸の併用効果を明らかにした(慶應義塾大学倫理委員会 承認番号2012-134)。
結論
本年度計画は、3年計画の初年度として、計画された研究計画の上に予想以上の成果を集積し、次年度に向けての期待感を大きく前進させた。現在、鍼灸研究の最前線に位置する3大学が主導する本計画の成否は、将にわが国の鍼灸研究の将来を左右するものと考える。世界保健機関(WHO)を舞台にした鍼灸標準化作業などでの、わが国のイニシアティブ発揮と、日本鍼灸の知的財産保持の為にも、鍼灸効果についての基盤となる知見を集積しつつある本研究の成就は重要である。鍼灸技法の解明に向けた班員相互の連携は非常に密で、機能的であり、本計画の成功に対する確かな手応えを裏付けるに十分なものであると考えられる。

公開日・更新日

公開日
2013-08-27
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201232030Z