医療安全をめぐる応答的規制(Responsive Regulation):民事・刑事・行政の多元的な法的介入と医療安全対策の相互関係を探る

文献情報

文献番号
201232023A
報告書区分
総括
研究課題名
医療安全をめぐる応答的規制(Responsive Regulation):民事・刑事・行政の多元的な法的介入と医療安全対策の相互関係を探る
課題番号
H24-医療-一般-016
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
岩田 太(上智大学 法学部国際関係法学科)
研究分担者(所属機関)
  • 樋口範雄(東京大学大学院 法学政治学研究科)
  • 佐藤雄一郎(東京学芸大学 教育学部)
  • 木戸浩一郎(帝京大学 医学部産婦人科)
  • 織田有基子(日本大学大学院 法務研究科)
  • 磯部 哲(慶應義塾大学大学院 法務研究科(法科大学院))
  • 児玉安司(東京大学大学院 医学系研究科医療安全管理学)
  • 我妻 学(首都大学東京 法科大学院)
  • 佐藤恵子(京都大学大学院 医学研究科(子どもの健康と環境に関する全国調査 京都ユニットセンター))
  • 小山田朋子(法政大学 法学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 地域医療基盤開発推進研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
4,255,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は,今後日本で喫緊な対応が求められる医療事故をめぐる法的介入の限界を考察し,医療安全向上などの努力と矛盾しない形の総合的な紛争処理制度の構築と,適正な法的介入のあり方の実現を目指し,諸外国における制度の全体像を整理し,具体的な論点を明確化することを目標とする.そのため本研究では,従来十分検討されることのなかった刑事・民事・行政的な制裁という複層的な法的介入内部の相互関係,医療安全対策と法的介入の連関を意識しつつ,以下の2つの観点から分析を行う.応答的規制とは,医療のように専門性が高く急速に発展する領域における規制のあり方として,合意ベースから強制度の高い手段という多元的な規制類型の中で,対象の性格に応じて適切な規制手段を選択し目的実現を目指す規制のあり方であり,本研究ではその視覚を重視しつつ研究計画を立てた.
研究方法
本研究では,刑事・民事・行政的な制裁という複層的な法的介入内部の相互関係,医療安全対策と法的介入の連関を意識しつつ,以下の2つの観点から分析を行う.第1は,日本および英米仏独豪ニュー・ジーランド,スウェーデンなどの諸外国における医療への法的介入の制度・実態,さらに応答的規制をめぐる先行研究を網羅的に検討する(平成24-25年度).第2は,第1の文献調査などから明らかになった疑問点を解消すべく,国内外の専門家へのインタビューなどの実態調査(25年度)を行うことによって,諸外国における医療事故への法的介入の全体像および運用実態を明らかにする.
結果と考察
研究結果: H24年度は医療事故への法介入をめぐる諸外国および日本の状況について集中的に文献調査を行った.例えば,応答的規制の医療場面への適用をめぐる理論的検討に留まらず,医療ミスによる民事的救済を否定し無過失補償制度によって一元的な解決を目指す制度を採用するNew Zealandにおける補償とさらに懲戒手続との連関に関する最新の実態調査,我が国同様,医療事故に対する無過失補償制度を採用せず一般的な民刑事の裁判制度での解決を志向する豪州における比較的最近の事例研究とその影響としての懲戒制度・医療者の資格規制の改正などに関する調査を行った.そのほか諸外国の医療分野における刑事,民事,行政という複層的な法介入の相互関係に焦点をあてつつ研究を進めてきた.
考察: 平成24年度に行った諸外国などの文献的検討などから明らかとなったのは以下などである.第1に,医療ミスに対する刑事的な介入が日本独自の現象ではないのみならず,諸外国においても近年刑事的介入が増加している国が少なからず存在している.第2に,補償制度もしくは民事裁判による金銭的な救済や,医療者などの自律的な原因究明および安全対策で十分とされているところは存在せず,医療者に対する資格規制・再教育など行政などによる懲戒手続の強化や,医療オンブズマンなどによる調停・調査など,中立的な組織による関与が希求されている.第3に,基本的には非制裁的な将来の安全向上を志向する方策が模索されてきたが,どんな場面にも個人の責任が否定されるわけではなく,ミスを繰り返すレピーターを含め故意的な行為に対しては一定の制裁も必要であると考えられている.行為の非難度を公正な形で評価した上で,その非難度に適した規制方法が擁するという意味において,Just Cultureが目指されてきた.まさに本研究が依拠する応答的な規制の必要が求められているといえる.
結論
考察で見たように,本研究の基本的な視覚である応答的な規制が医療事故をめぐる解決のあるべき姿の1つのモデルとなりつつある現況が諸外国の状況から一定程度明らかになった.次年度においては,さらに複層的な制度の連関の具体的なあり方に関する実態調査を進め,近い将来の日本における制度の具体化において必要となる基礎的資料の充実を目指す.H25年度は,国内外の医療事故をめぐる法的介入に関する文献的研究の過程で浮かび上がってきた疑問点を現地の専門家などに確認するなど実態的な状況の正確な把握に努め,複層的な法介入の相互作用,医療安全に資する法介入あり方に対する総合的な分析を進める.また,本研究班の研究テーマに直接的に関連する厚生労働省の検討会である「医療事故に係る調査の仕組み等のあり方に関する検討部会」(平成24年2月から開催)に分担研究者が委員に加わるなど, 検討会への議論にも一定程度貢献していると考えている.さらに平成25年4月(東京大学において)には「医療事故に関する第三者機関のあり方」に関するシンポジウムを開催すべく準備し,患者を含め広く社会との対話を目指し,医療事故をめぐる事後対策のあり方改善に関する問題提起をしたいと考えている.

公開日・更新日

公開日
2015-06-09
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201232023Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
4,255,000円
(2)補助金確定額
4,255,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 2,901,736円
人件費・謝金 356,411円
旅費 364,372円
その他 633,103円
間接経費 0円
合計 4,255,622円

備考

備考
【収支差額】
利息  93円
自己負担 529円

公開日・更新日

公開日
2017-05-25
更新日
-