デルマタン4-O-硫酸基転移酵素-1欠損に基づくエーラスダンロス症候群の病態解明と治療法の開発

文献情報

文献番号
201231174A
報告書区分
総括
研究課題名
デルマタン4-O-硫酸基転移酵素-1欠損に基づくエーラスダンロス症候群の病態解明と治療法の開発
課題番号
H24-難治等(難)-一般-073
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
古庄 知己(国立大学法人 信州大学 医学部付属病院遺伝子診療部)
研究分担者(所属機関)
  • 小林 身哉(金城学院大学 生活環境学部 食環境栄養学科)
  • 菅原 一幸(北海道大学大学院先端生命科学研究院 生命機能科学研究部門 プロテオグリカン医療応用研究室)
  • 福嶋 義光(国立大学法人 信州大学 医学部遺伝医学・予防医学講座)
  • 籏持 淳(獨協医科大学 皮膚科)
  • 武田 伸一(独立行政法人国立精神・神経医療研究センター 神経研究所 遺伝子疾患治療研究部)
  • 佐々木克典(国立大学法人 信州大学 医学部組織発生学講座)
  • 中山 淳(国立大学法人 信州大学 大学院医学系研究科分子病理学)
  • 松本 直通(横浜市立大学 大学院医学研究科 遺伝学)
  • 野村 義宏(東京農工大学 農学部硬蛋白質利用研究施設)
  • 岡田 尚巳(独立行政法人国立精神・神経医療研究センター 神経研究所 遺伝子疾患治療研究部)
  • 三宅 紀子(横浜市立大学 大学院医学研究科 遺伝学)
  • 岳 鳳鳴(国立大学法人 信州大学 医学部組織発生学講座)
  • 水本 秀二(北海道大学大学院先端生命科学研究院 生命機能科学研究部門 プロテオグリカン医療応用研究室)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
6,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
エーラスダンロス症候群(EDS)は、皮膚・関節の過伸展性、各種組織の脆弱性を特徴とする先天性疾患の総称である。我々は、平成21-23年度難治性疾患克服研究事業の支援を受け、進行性結合組織脆弱性(皮膚過伸展・脆弱性、全身関節弛緩・脱臼・変形、巨大皮下血腫)、発生異常(顔貌の特徴、先天性多発関節拘縮)に特徴付けられるEDSの新病型(EDS, Kosho type)を発見、その病態が「CHST14遺伝子変異→デルマタン4-O-硫酸基転移酵素-1(D4ST1)欠損→デコリン(DCN)に付加するグリコサミノグリカン(GAG)鎖の組成変化(正常ではデルマタン硫酸[DS]であるが、患者ではコンドロイチン硫酸[CS]に置換)→DCNを介するコラーゲン細線維のassembly不全」であることを示し、疾患概念を確立した。さらにD4ST1-deficient EDS(DDEDS)と命名するとともに診療指針を提案した。平成24-25年度、遺伝子治療の専門施設を含めた包括的な共同研究体制を構築し、新規患者の収集、自然歴調査を継続し、診療指針をアップデートすることに加えて、疾患モデルを用いた病態解析、および、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを用いた遺伝子治療の開発を目指す。
研究方法
DDEDS疑い患者およびその検体(末梢血由来DNA、培養皮膚線維芽細胞、病理検体)を収集した。CHST14遺伝子解析を行い、確定診断例を抽出した後、自然歴情報を収集・分析した。患者由来培養皮膚線維芽細胞、尿等を用いた糖鎖解析(酵素活性測定、CS/DS組成分析)および皮膚、筋肉、骨等の患者組織を用いた病理解析(DCNの免疫組織学的検討、GAG鎖を特異的に染色するcupromeronic blue[CB]染色法を用いた電顕観察等)を行った。患者由来iPS細胞を用いて、多能性、未分化状態、分子遺伝学的・生化学異常の再現性を検討した。相同組み換えにより作製したノックアウトマウス由来精子を入手、受精卵を作製し、ヘテロマウス、さらに、ノックアウトマウス作出を試みた。AAVベクターによる遺伝子治療研究の前段階として、ヒトD4ST1およびマウスD4st-1発現AAVベクタープラスミドの構築を行った。
結果と考察
現在までに本研究班では18家系19患者の発見を見出し、報告例と合わせ国内17家系19例、海外11家系19例となった。糖鎖解析では罹患者の酵素活性は欠損しており、尿中DSは全く検出されなかった。内反足を認めなかった軽症患者においてわずかにDSが検出され、DSの合成状態と臨床症状の関連が注目された。抗DCN抗体を用いた免疫組織化学検討では、コントロールではコラーゲン線維束に不均一ながらべったりと抗DCN抗体により染色されたが、患者ではコラーゲン線維束に沿いfilamentousに染色された。CB染色を用いた電顕観察により、患者の真皮のコラーゲン細線維を束ねるDCNのGAG鎖を観察することに成功した。患者由来iPS細胞の未分化能および多能性は、健常人由来iPS細胞と同等であった。患者iPS細胞をSKIDマウスに移植することにより生じた奇形種では、患者皮膚組織と同様の抗DCN抗体染色異常を呈しており、DDEDSの病態の本質を再現していると考えられた。患者由来iPS細胞の方が、神経系への分化誘導効率が低く、患者の神経病態との関係が注目された。ノックアウトマウスの作出に成功し、その尿中にはDSが検出されなかったことから、生化学的異常を再現していると考えられた。本マウスは、野生型マウスと比べて、身体発育の低下が認められている。正確な病態評価には、純粋なC57BL/6J系統を遺伝的背景に持つノックアウトマウスが不可欠であり、スピードコンジェニック法により作出を試みている。D4st-1を組み込んだプラスミドを構築し、D4st-1の発現を確認した。
結論
DDEDSは、比較的頻度の高い重要なEDS病型である。尿中DS測定と皮膚組織を用いた抗DCN染色は診断的価値のある特異的分析である。疾患モデルとしてiPS細胞、ノックアウトマウスを確立した。iPS細胞は病態を再現しており、今後様々な細胞へ分化させ機能解析を展開、病態解明に役立てる。ノックアウトマウスの詳細な表現型解析(症状、自然歴、病理および生理学的所見)を行い、DDEDS患者の特徴を再現しているかを検討する。AAVベクターの改良を重ねながら、患者由来皮膚線維芽細胞およびiPS細胞、ノックアウトマウス由来線維芽細胞、およびノックアウトマウスを用いて、D4ST1またはD4st-1が補充され、機能が回復するかを検討する。

公開日・更新日

公開日
2013-05-24
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201231174Z