網膜色素変性治療をめざした経強膜ウノプロストン徐放法の開発

文献情報

文献番号
201231168A
報告書区分
総括
研究課題名
網膜色素変性治療をめざした経強膜ウノプロストン徐放法の開発
課題番号
H24-難治等(難)-一般-067
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
阿部 俊明(東北大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 西澤松彦(東北大学 大学院工学研究科)
  • 永井展裕(東北大学 大学院医学系研究科)
  • 大浪英之(東北大学 大学院医学系研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
46,160,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
失明疾患の上位は網膜疾患が占める。近年、一部網膜疾患に対し薬剤の硝子体内注射が有効であることが判明し、網膜疾患も薬剤治療の対象に考えられるようになった。しかし頻回な硝子体内(眼内)注射は合併症等が問題視されている。仮に有効な薬剤が発見されても慢性の経過をとる網膜疾患に対して現状の眼内投与法では実用化が難しい。点眼では網膜に薬物が十分に移行しにくいため網膜への薬剤徐放の工夫がこれまで報告されてきたが実用的なものはない。一方我々は分子量にかかわらず初期バーストなしに長期間、網膜に薬剤徐放可能なデバイスを開発した。デバイス移植は眼内ではなく強膜上であるため安全性も高く、問題が生じた場合はすぐに摘出できる。特許公開中であり今回はこのデバイスにBKチャンネル活性化による網膜保護の可能性が報告された緑内障薬ウノプロストン(UNO)をデバイス化して、強膜上から安全に持続的に徐放し網膜色素変性の進行抑制を目指す。網膜色素変性は厚生省特定疾患に指定されている難治性網膜疾患でいまだ治療法がないオーファン病であるが企業アライアンスで非臨床POC取得し、治験開始をめざす。
研究方法
全体計画として24年度は毒性・局所刺激試験、ADME(吸収・分布・代謝)試験を開始し網膜変性動物モデルで効果を確認し、デバイス規格を調整する。25-26年度で非臨床POC取得のための研究を推進し、デバイス規格を決定し、27年度は医師(企業)治験をめざする。東北大学内臨床研究推進センターと拠点内専門家、治験センター、倫理委員会、PMDAより評価を受ける。
24年度:(1)デバイスの作製:デバイスはリザーバー、薬物ペレット、徐放膜から構成される。3DCADシステムで鋳型を作製し、PEG/TEGを使用したデバイスの作製をおこなった。薬剤UNOのペレット化はPEGTEGの混合プレポリマーに混合して作製した。これらのPEGTEGの割合は0-100%まで変化させ、薬剤濃度も最大1000mgまで行った。(2)毒性試験、局所刺激試験、ADME(吸収・分布・代謝)試験:これらの一部は外部委託になり今回の研究費の申請の一部に組み入れた。(3)UNOの細胞保護効果を培養細胞(RGC5およびRPEJ)の低酸素・低栄養負荷培養で検討した。薬効試験、安全性試験は組織学的検査や網膜機能測定(網膜電図、行動検査)などで評価した。網膜変性抑制の薬効は光障害網膜変性と遺伝子変異網膜変性モデル(S334terSDラット)で検討した。さらに大型動物としてウサギ眼球での移植検討を行い、網膜への薬剤の移行を確認した。
結果と考察
(1)バイスの作製:それぞれの基材濃度、加熱率、薬剤濃度などを考慮・検討した結果、歩留まり率100%の作製条件は、In vitroでの測定であるが、最大徐放量はPEG/TEG40%でUNO濃度は最大500mg/mlであると考えられた(動物による違いも考慮して今後も微調整は続く)。(2)非臨床試験の推進:1. デバイスの移植に特殊な手技は必要としなかった。2.強膜上からUNOを徐放したが、ラットへの移植では移植4週間目まで定期的に網膜電図(ERG)と、組織学的検査(光干渉断層)で評価した。その結果、UNO徐放デバイス移植群では網膜機能の変化はないと推定された。白色ウサギへの移植では移植5か月目まで評価したが、やはり網膜機能の変化はないと推定された。3.細胞増殖検査(MTS)で検討すると濃度依存性に細胞保護効果が見られた。活性酸素も有意にROS産生が抑制されていた。4.網膜光障害と遺伝性網膜障害モデルでの検討ではERG、組織学的検査、アポトーシス検査でUNO徐放デバイス移植は非治療群やUNO非徐放群と比較して有意に網膜保護効果が確認された。(3)ウサギ網膜へのウノプロストンの薬剤移行を確認したが(LS/MS/MSで網膜と血漿より活性体を直接測定)、網膜には7日間持続的に徐放されており、血漿濃度は低く保たれていた。(4)non-GLP局所刺激試験を行い、28日間デバイス留置による眼局所毒性と全身毒性検査を行い、毒性のないことを確認した。また、眼圧の変化は見られなかった。
結論
今回の結果よりUNOを網膜に送達できれば、さまざまな網膜障害から網膜を保護できる可能性が示された。またADMEもの検討でも28日間デバイス留置で毒性が見られなかった。
我々のデバイスは本来薬剤が持つ効果を局所で有効・安全に使用でき、これまで治療法のなかった網膜色素変性の新しい治療法開発になりえると改めて考えれれた。すなわち本研究は創薬プロセスの革新に眼科領域から取り組むことに成功していると言え、行政施策にも貢献できると考える。

公開日・更新日

公開日
2013-05-31
更新日
-

収支報告書

文献番号
201231168Z