多発性内分泌腫瘍症診療の標準化と患者支援,新たな治療開発に関する研究

文献情報

文献番号
201231154A
報告書区分
総括
研究課題名
多発性内分泌腫瘍症診療の標準化と患者支援,新たな治療開発に関する研究
課題番号
H24-難治等(難)-一般-053
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
櫻井 晃洋(信州大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 鈴木 眞一(福島県立医科大学 )
  • 内野 眞也(野口病院)
  • 小杉 眞司(京都大学大学院医学系研究科)
  • 岡本 高宏(東京女子医科大学)
  • 今井 常夫(名古屋大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
6,175,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は,若年期に発症し,生涯にわたって多数の臓器に病変が出現し,かつ病変の切除手術以外に根本的な治療・予防法のないMENについて,診断・治療の標準化を実現し,患者・家族が不安なく病気と向き合い生活できる医療体制と環境を整え,根治療法のない本症の克服に向けた研究の基盤を整備する,ことにある.

研究方法
臨床データベースの長期的追跡
先行研究ではMEN1,MEN2合わせて1,000例を超える世界最大級の臨床データベースを構築し,診断アルゴリズムの作成に活用できた.今後は同一患者を長期的に追跡し,早期診断や新しい治療法導入の効果などを経時的に観察していく必要がある.このため,現在のデータベースに適宜改訂を加えながら維持し,既存の症例データについては毎年のデータ更新を続けていく.
診療指針の作成・公開・改訂 
上記データベースで得られた日本人患者特有の臨床所見を加味し,日本人患者の特徴やわが国の診療体制の実情に即した治療指針案を平成24年度中に作成する.
診療ネットワークの充実と可視化
本症は病変が多臓器におよび,関与する専門医も多分野にわたるので,全国の専門医に本症患者の受け入れ可否を調査し,集約的な診療が可能となる「ハブ&スポーク型」ネットワークを構築し,平成24年度中にホームページで公開する.また統一された初診時チェックリストや紹介フォーマットを作成し,関連学会を通じて広く臨床医への普及を図ることを通じて,データベース登録をより簡潔にし,かつ情報の精度を向上させる.
遺伝学的検査と機能解析の実施 
先行研究班から行ってきた遺伝子解析を継続し,既に構築した変異データベースを充実させるとともに,変異が同定されない患者に対しては他研究班との連携により次世代シークエンサーを用いた網羅的解析を行い,新規原因遺伝子の同定を目指す.
生体試料のバンキングと基礎研究の推進
他研究班との連携により,患者の生体試料収集を進める.収集された試料は,産学共同インキュベーション施設として新たに信州大学内に設置される「信州地域技術メディカル展開センター」において利用し,ここで腫瘍細胞における発現解析,全ゲノム解析による体細胞変異の網羅的解析など,病態・発症機序解明に向けた基礎研究を進める.
患者・家族支援,社会への発信 
先行研究班から行ってきた支援体制を縮小することなく,さらに海外患者会との連携や年2回の市民向けシンポジウムの開催などを支援していく.
結果と考察
①臨床データベースの解析,維持,更新
MEN1 582例,MEN2 516例の詳細な臨床情報を収集し,登録した.アジア人患者を対象としたデータベースは本研究班のものが唯一であり,本症の臨床像を把握するための貴重な資料となっている.登録データの解析により日本人患者の臨床的特徴を明らかにし,これらの成果は平成24年度中に数編の英語論文として報告した.
②診療指針の作成・公開・改訂
上記データベースで得られた日本人患者特有の臨床所見や海外からの論文報告の内容を反映させた本症の診断指針を作成し,公開した.また同時に作成・公開した診断フローチャートは,本症を疑うべき患者を効率的に抽出し,かつ無駄なく検索が進められるように配慮したものであり,本症の診療経験に乏しい医師でも適切な評価が行えるものである.これにより,本症患者のより早期での診断だけでなく,リスクのある血縁者への早期のアプローチも可能となる.
③全国を網羅する診療ネットワークの基盤構築を進め,本症の診療基盤となる医療機関として,札幌医科大学(北海道地区,平成25年度以降稼働予定),福島県立医科大学(東北地区),東京女子医科大学(関東地区),信州大学(北信越地区),名古屋大学(中部東海地区),京都大学(近畿地区),高知大学(中四国地区),野口病院(九州地区)を選定した.
④遺伝学的検査と機能解析の実施
日本人患者の遺伝子変異データベースを構築し,特にMEN1では過去に報告されていない病的意義の不明なミスセンス変異に対して,独自のタンパク安定性解析によりその病原性を明らかにし,論文報告を行った.
⑤生体試料のバンキングと基礎研究の推進
信州大学において患者から提供された末梢血より細胞株を樹立した.これを医薬基盤研究所に提供することとし,現在搬送の手続きを進めている.
⑥患者・家族支援,社会への発信
患者・家族会との密な連携や支援を継続するとともに,学術集会で患者会活動を紹介したり,セミナーを共同開催したりした.また本症を紹介するリーフレット(A4両面,三つ折)を作成し,医療機関等に配布した.
結論
平成24年度は予定していた計画・活動を順調に達成できた.今後は疾患発症機序解明に向けた基礎研究グループとの連携をさらに強めていく予定である.

公開日・更新日

公開日
2013-05-27
更新日
-

収支報告書

文献番号
201231154Z