RAS関連自己免疫性リンパ球増殖症候群様疾患(RALD)の実態調査および病態病因解析

文献情報

文献番号
201231150A
報告書区分
総括
研究課題名
RAS関連自己免疫性リンパ球増殖症候群様疾患(RALD)の実態調査および病態病因解析
課題番号
H24-難治等(難)-一般-049
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
高木 正稔(東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 水谷 修紀(東京医科歯科大学 大学院歯学総合研究科)
  • 森尾 友宏(東京医科歯科大学 大学院歯学総合研究科)
  • 長澤 正之(東京医科歯科大学 大学院歯学総合研究科)
  • 石井 榮一(愛媛大学 大学院医学系研究科)
  • 金兼 弘和(富山大学 付属病院小児科)
  • 滝田 順子(東京大学 無菌治療部)
  • 杉本 昌隆(国立長寿医療研究センター 老化細胞研究プロジェクトチーム)
  • 林 泰秀(群馬県立小児医療センター 血液腫瘍)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
6,175,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
RAS関連自己免疫性リンパ増殖症候群様疾患(RALD)は自己免疫性リンパ増殖症候群(ALPS)と近似し、症状から両者を区別することは難しい。若年性骨髄単球性白血病(JMML)はRALDと同様にRAS変異に基づいて発症する悪性腫瘍である。JMMLの一部は自己免疫症状を伴いRALDに近い臨床症状を呈する。一般的にJMMLは予後不良の疾患で造血幹細胞移植が必須とされている。しかし軽微な化学療法、分化誘導療法や経過観察のみで寛解した症例も報告があり、自己免疫症状を伴うJMMLとRALDの差異は明らかでない。本研究ではRALDや自己免疫症状を伴うJMML症例を集積することにより、疾患概念の確立を行い、行われた治療法を解析することにより、標準療法があるか検討を行う。
研究方法
RALD疑い例の紹介を受け診断のための遺伝子検査の標準化を試みた。一例一例の臨床情報を集積することにより、共通項の洗い出しおこなった。ALPS-FAS以外のALPSからRALD類縁疾患がある可能性を考え遺伝子解析法を模索した。RAS変異がどの血液細胞系列に認められ、そして影響を与え、自己免疫疾患の発症に影響を与えるか、検討した。RASの変異の種類の差が表現系に影響を与えるか検討した。RASによる細胞増殖シグナルに細胞がどのように反応するか、分子細胞生物学的な解析を行った。
結果と考察
造血幹細胞移植なしに生存し、寛解しているJMML症例を再検討した。興味深いことにこれら症例は依然としてRASの変異を持つ細胞が残存し、また自己免疫症状を呈しており、RALDに近い病態と考えられた。
RALDに行われた治療は未介入、プレドニゾロン、シクロスポリA、ミコフェノール酸モフェチル、造血幹細胞移植などであった。プレドニゾロンの自己免疫症状に対する有効性は臨床的に明らかであったが、高容量が必要であり、ミコフェノール酸モフェチルの有効性が示唆された。
変異のホットスポットであるコドン13番目のグリシン(G)をバリン(V)、アスパラギン酸(D)、セリン(S)に置換した変異体を作成し、その活性を検討した。V、D、Sの順に活性が高いことが明らかとなり。GがSに変化した例で自然寛解する例が多いとする過去の報告を支持する結果となった。
今回典型的ALPSでありながら、既存の遺伝子変異が同定されず、ALPS-Uと考えられるがあり、全エクソン解析の手法が試みられた。
末梢血と骨髄の各細胞分画でKRAS変異の有無を検討し、骨髄間葉系細胞および造血幹細胞ではその60~70%の細胞に、好中球、単球、赤芽球では90%以上の細胞にKRAS変異を認めた。B細胞やT細胞、iNKT細胞では野生型が優位であったが、少数のKRAS変異を有する細胞も存在していた。
異常な増殖シグナルを感知してチェックポイントを活性化させるためには、Cdkn2a遺伝子座にコードされるINK4aとARFタンパク質が不可欠な役割を持つ。活性化型RASによる細胞調節機構を検討するために活性化型RASをマウス胎児線維芽細胞(MEF)に導入したときのHuRの発現を解析した結果、HuRはARFタンパク質の誘導とともに低下する傾向にあった。
JMMLおよび類縁疾患において、ゲノムコピー数の頻度は低い傾向にあり、遺伝子変異もしくはエピジェネティックな変化が発症に関与している可能性が示唆された。また7番染色体および12pの共通LOH領域内に存在する候補標的分子がある可能性が示唆された。
ALPSやRALDは自己免疫性血小板減少症、自己免疫性溶血性貧血を呈するEvans症候群を合併することがよく知られ、実際Evans症候群の半数程度がALPSである可能性が示唆されている。今回、皮膚粘膜カンジダ症候群の経過中にEvans症候群が解析され、FAS, NRAS, KRAS遺伝子の解析で変異はなく、STAT1の変異がその責任遺伝子と考えられた。また共同研究で自然寛解したJMMLの一症例が体細胞モザイクであることを明らかとした。
結論
RALDとJMMLは連続した疾患概念であり、従来JMMLと診断されていた症例の中にRALDが含まれる可能性があることが明らかとなった。JMMLは基本的に造血幹細胞移植が必要な血液悪性腫瘍であり、現在の診断基準を用いると造血幹細胞移植なしに生存できるRALDやJMMLを含有してしまうことが明らかになり、診断基準の再検討が必要なのではないかと考えられた。しかし現時点では造血幹細胞移植が必要なRAS変異のあるJMMLと造血幹細胞移植なしに生存できるRAS変異のあるJMMLとを区別することは出来ず、今後の分子細胞生物学的な解析を通して、両者を区別していくための研究を早急に行う必要があると考えられた。

公開日・更新日

公開日
2013-05-13
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201231150Z