先天性異常の疾患群の診療指針と治療法開発をめざした情報・検体共有のフレームワークの確立

文献情報

文献番号
201231143A
報告書区分
総括
研究課題名
先天性異常の疾患群の診療指針と治療法開発をめざした情報・検体共有のフレームワークの確立
課題番号
H24-難治等(難)-一般-042
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
小崎 健次郎(慶應義塾大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 吉浦 孝一郎(長崎大学大学院 医歯薬学総合研究科)
  • 松原 洋一(東北大学大学院 医学系研究科)
  • 緒方 勤(浜松医科大学 小児科)
  • 齋藤 伸治(名古屋市立大学大学院 医学研究科)
  • 副島 英伸(佐賀大学医学部 分子生命科学講座)
  • 森崎 裕子(国立循環器病研究センター)
  • 平田 恭信(東京大学医学部附属病院 循環器内科)
  • 小崎 里華(独立行政法人国立成育医療研究センター 器官病態系内科部 遺伝診療科)
  • 黒澤 健司(地方独立行政法人神奈川県立病院機構 神奈川県立こども医療センター 遺伝科)
  • 大橋 博文(埼玉県立小児医療センター)
  • 水野 誠司(愛知県心身障害者コロニー中央病院 臨床第一部)
  • 岡本 伸彦(地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪府立母子保健総合医療センター 遺伝診療科)
  • 古庄 知己(信州大学医学部附属病院 遺伝子診療部)
  • 佐谷 秀行(慶應義塾大学 医学部)
  • 赤松 和土(慶應義塾大学 医学部)
  • 増井 徹(医薬基盤研究所 難病・疾患資源研究部難病資源研究室)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
56,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
先天性異常疾患群の領域では10余の研究奨励班が組織され、各班が個別の疾患の患者概数の把握、原因遺伝子の決定、遺伝子変異解析系の確立などの成果を挙げてきた。しかし、(1)研究成果の診療現場や患者家族への還元、(2)遺伝子変異陽性患者の登録(レジストリー)、(3)診断・治療研究の研究資源の確立は、各班共通の懸案となっていた。本計画では、各班の疾患特異的研究者と各地の成育医療施設で包括的に先天異常患者の診療に従事しつつ多数班の研究分担者として研究を支えている専門医群の両者を含む重層的・複合的な臨床研究ネットワーク体制を構築し、上記の課題の組織的・体系的な解決を図った。
研究方法
先天性異常の包括的専門医のグループが(1)ヒストンアセチル化・メチル化異常症、(2)ゲノム刷り込み異常症・片親性ダイソミー、(3)マルファン症候群関連疾患、(4)コステロ・CFC症候群関連疾患、(5)早老症関連疾患の各分野の疾患特異的研究者のグループと連携して、患者のレジストリーへの登録や検体の収集を進めた。疾患特異的iPS細胞研究者と既承認薬ライブラリー・スクリーニング担当者は、全ての疾患特異的研究者の橋渡し研究を支援した。
疾患特異的成長手帳:成長発達・合併症の情報を収集し、健康管理のための、年齢別のチェックリスト「疾患特異的成長手帳」の原案を作成・公開した。
レジストリーの設計: 遺伝子変異陽性患者について登録を行い、主要症状の有無の表、具体的な遺伝子変異、主治医連絡先のデータベース化を進めた。
結果と考察
(1)ゲノムインプリンティング異常症・片親性ダイソミー
本研究の対象となるインプリンティング疾患表現型陽性患者(計800例)から臨床症状と末梢血検体を集積し、分子遺伝学的診断の運用実績についてとりまとめ、プロトコルを策定した。インプリンティング異常症について新たな治療指針を策定した。プラダー・ウィリ症候群の治療方針について統一プロトコルを策定し、長野県で実践した。インプリンティング異常症の学童期の教育支援のあり方について取りまとめた。Angelman症候群マウスモデルを用いてシナプス外選択的GABA受容体拮抗薬(THIP)を用いて薬理学的変化を測定した。
(2)ヒストン・アセチル化メチル化異常症
ゲノムDNAのメチル化異常や、ヒストンのメチル化・アセチル化の異常を包括的に検出し、プロファイリングするための新しいプロトコルを開発した。修飾されたゲノムDNA断片を免疫沈降法によって回収し、メチル化・アセチル化による修飾を受けているゲノム領域を決定する方法である。CHARGE症候群・Rubinstein-Taybi症候群・Wolf-Hirschhorn症候群・Young-Simpson症候群・Kabuki症候群の臨床的分析に基づいて、共通フォーマットの疾患特異的成長手帳を作成した。Kabuki症候群の2番目の疾患原因遺伝子KDM6Aの同定に貢献した。KDM6AはKabuki症候群の第1の原因遺伝子MLL2と協働するヒストン脱メチル化酵素であり、ヒストン異常症の原因となる分子ネットワークの理解に貢献した。
(3)マルファン症候群関連疾患は、TGFβ-シグナル伝達パスウェイを網羅する効率的な遺伝子診断法を開発・運用した。欧米人を中心に作成された新旧の国際基準(Ghent基準および改訂Ghent基準)をわが国に適応することの可否や注意すべき点を明確にすることが出来た。マルファン症候群の原因遺伝子の変異により松浦らが専門とする早老症を主徴とする特異的な表現型を発症することを発見した。アンギオテンシン受容体拮抗薬は大動脈基部の拡張速度を有意に減少させることを示した。佐谷らはマルファン症候群のマルファン症候群の原因遺伝子であるFBN1の変異細胞を用いた表現型解析システムの構築を行った
(4)コステロ・CFC症候群関連疾患
RAS MAPキナーゼのシグナル伝達パスウェイを網羅する効率的な遺伝子診断法を開発・運用した。CFC症候群の原因遺伝子とされてきたMEK2遺伝子の変異により神経線維腫症1型の症状を呈することを世界で始めて示した。また、神経皮膚黒色腫の患者がHRAS変異の体細胞モザイクであることを示した。
結論
疾患特異的研究者のグループと先天性異常の包括的専門医のグループが重層的・複合的に連携して研究を展開することができた。疾患特異的母子手帳のプロトタイプを作成することができた。各疾患について疫学的・臨床遺伝学的分析を進めた。研究分担者となった医薬基盤研究所を中心に、患者のレジストリーへの登録と検体の収集を進めた。
本フレームワークを維持し、全国の小児科医に対する情報発信を続けてゆく。

公開日・更新日

公開日
2013-05-31
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201231143Z