患者支援に基づくSJS/TEN後遺症の発症予防と治療法の確立

文献情報

文献番号
201231124A
報告書区分
総括
研究課題名
患者支援に基づくSJS/TEN後遺症の発症予防と治療法の確立
課題番号
H24-難治等(難)-一般-023
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
外園 千恵(京都府立医科大学 視覚機能再生外科学)
研究分担者(所属機関)
  • 上田 真由美(同志社大学 生命医科学部 眼科学)
  • 狩野 葉子(杏林大学 医学部 皮膚科学)
  • 鹿庭 なほ子(国立医薬品 食品衛生研究所 医薬安全科学部 薬理遺伝学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
11,700,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
Stevens-Johnson症候群(SJS)、その重症型である中毒性表皮壊死融解症(TEN)に伴う重篤な眼障害は、高度の視力障害が後遺症となり社会復帰が極めて困難となる。患者会会員のほとんどは視力障害を有する眼後遺症患者であるが、このような眼後遺症を回避する有用な治療について国際的なコンセンサスはまだない。一方で発症素因として患者側素因の関与が示唆されている。本研究は、1)SJS/TEN眼合併症に関連する背景因子を明らかにする。2)急性期治療としてステロイドパルスの有用性を検討する。3)遺伝子解析を行い、病態別に患者素因との関連を解析する。4)視力回復に有用な治療(培養粘膜上皮シート移植および新規ハードコンタクトレンズ)の社会への橋渡しを実施する。
得られた成果をもとに眼後遺症の発症背景を明らかにして急性期の早期診断に役立て、予後の改善をはかる。また眼後遺症患者の視力回復による社会復帰をはかる。
研究方法
1)眼障害患者の疫学調査
眼後遺症患者170例を対象に、発症年齢、被疑薬、初期症状、発症時の診断について検討した。また2005-2010年に国内で発症した247例(SJS 168例、TEN 79例)を対象に、急性期眼障害と患者背景(年齢、性別、被疑薬等)との関連を検討した。
2)ステロイドパルスの効果
SJSあるいはTENで入院し、メチルプレドニゾロンパルス療法を行った8例について臨床的有用性、バイオマーカーの変動を解析した。
3)患者の遺伝子解析
眼合併症を伴うSJS患者110名と健常コントロール206名のHLA-AならびにSJS発症と相関を認めるTLR3遺伝子多型7種を解析し、TLR3遺伝子多型間、ならびにHLA-A0206とTLR3遺伝子多型間の相互作用について検討した。重篤副作用症例集積ネットワーク等を通じて集積したSJS/TEN症例220例(疑い例を含む)を対象に原因薬物の特定を行い、眼障害、呼吸器障害を起こしやすい原因薬物を検討した。また原因薬物毎に、SJS/TENの発症と関連するHLAのタイプを探索した。
4)新規治療法の実用化
培養粘膜上皮シート移植の先進医療B申請に向けて協議、検討した。また新規開発した本患者用ハードコンタクトレンズについて、医薬品機構において薬事戦略相談を行った。
結果と考察
1)眼障害患者の疫学調査
国内疫学調査および眼後遺症患者のいずれの調査でも、急性期の眼障害が重度な患者は発症年齢が若く、被疑薬として非ステロイド系消炎剤(NSAIDs)の占める割合が高かった。
2)ステロイドパルスの効果
メチルプレドニゾロンパルス療法で治療した症例は平均12.7日で皮膚の上皮化を得ており、経過中重篤な副作用はみられなかった。また、本治療後に血清中における炎症性および抗炎症性サイトカインが有意に減少した。
3)患者の遺伝子解析
HLA-A*0206 と自然免疫関連遺伝子であるTLR3遺伝子多型の組み合わせが、眼障害を有するSJS/TEN発症に大きく関与することがわかった。SJS/TEN発症前にフェム系抗生物質及びNSAIDsを除く解熱鎮痛剤を処方されていた患者では、急性期重篤眼症状の発生率がその他の薬剤を原因とする症例に比較して有意に高かった。急性期眼症状の重い群の方が、眼症状のない群よりも発症年齢が有意に低かった(前者が平均51.0才、後者が60.9才、p=0.0343)。
4)新規治療法の実用化
培養粘膜上皮シート移植の先進医療B申請中である。また新規開発した本患者用ハードコンタクトレンズについて、医師主導治験を行う方向で各方面に相談中である。

今回の結果より、異なる3つの対象群で同じ結果を得たことは興味深く、若年者でNSAIDs、総合感冒薬が関与するSJS/TENは眼障害が重篤化すると考えられた。
眼障害患者の素因としてTLR3遺伝子多型とHLA-A0206が強く関与したことは興味深く、これらの因子が発症機序と関わる可能性が高い。
メチルプレドニゾロンパルス療法はSJS/TENに対して1つの有効な治療手段と位置づけられる。
結論
発症と眼障害の重篤化には、被疑薬、年齢、遺伝子多型とHLAが関与し、若年者でNSAIDs、総合感冒薬が関与するSJS/TENは眼障害が重篤化する可能性が高い。メチルプレドニゾロンパルス療法による早期治療は予後改善に結びつくと考えられた。

公開日・更新日

公開日
2013-05-23
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201231124Z