HTLV-1感染に関連する非ATL非HAM希少疾患の実態把握と病態解明

文献情報

文献番号
201231099A
報告書区分
総括
研究課題名
HTLV-1感染に関連する非ATL非HAM希少疾患の実態把握と病態解明
課題番号
H23-難治-一般-127
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
岡山 昭彦(宮崎大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 川上 純(長崎大学 大学院医歯薬学総合研究科)
  • 藤田 次郎(琉球大学 大学院医学研究科)
  • 瀬戸山 充(宮崎大学 医学部)
  • 望月 學(東京医科歯科大学 眼科学教室)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
6,860,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ヒトTリンパ向性ウイルス1型(HTLV-1)はATL、HAM以外にも関節炎、膠原病、慢性肺疾患、慢性皮膚疾患、ぶどう膜炎など種々の慢性炎症疾患(非ATL非HAM希少疾患)に関連が示唆されている。本研究ではHTLV-1陽性慢性炎症性疾患の頻度、特徴、ウイルス感染と疾患発症のメカニズムを明らかにし、その全体像を明らかにする。さらにATLやHAMの発症頻度が高いかどうか、また治療がリスクにつながらないかどうかを明らかにする。その結果、診療ガイドライン等に応用すべきかどうかなど今後の厚生労働行政に資する結果を得ることを目標とする。
研究方法
1)実態調査:インフォームドコンセントを得た種々の慢性炎症疾患患者を対象に宮崎、長崎、沖縄において、HTLV-1スクリーニングを行った。さらに臨床症状や検査成績、予後、治療反応性についてデータ解析を行った。
2)HTLV-1ウイルスマーカー:リアルタイムPCR法によるウイルス量、抗体価、感染細胞クローナリティ、欠損ウイルスなどのウイルスマーカー。
3)疾患ごとの病態解明に関連した研究:HTLV-1関連シェーグレン症候群において自然免疫の活性化の検討、HTLV-1感染と肺の炎症制御メカニズムの解析、皮膚病変部における感染細胞の検討、HTLV-1感染によるブドウ膜炎のメカニズムについて検討。
4)症例対照研究:臨床所見や治療反応性などがHTLV-1陽性患者と陰性患者で異なるか否かについて症例対照研究。
結果と考察
1)HTLV-1陽性疾患の頻度をふくめた実態調査
①宮崎、長崎、沖縄の各研究機関においてネットワークを構築し、血液等のサンプルの収集と研究検査を行う体制を確立した。 ②リウマチ・膠原病患者: HTLV-1陽性者率は約10%で、若年者では一般集団よりも高い傾向があった。 ③肺疾患:検討した症例の14%が陽性であり、間質性肺炎型よりも気道病変型が多かった。 ④皮膚疾患での陽性率は約12%であり男性の割合が高かった。 ⑤ブドウ膜炎の16%がHTLV-1陽性であった。 これらの結果は慢性炎症性疾患の一部にHTLV-1感染の関与を支持する所見であると考えられた。
2)HTLV-1マーカー調査
①HTLV-1抗体スクリーニング陽性例は確認検査はすべて陽性であり、自己免疫・炎症性疾患で偽陽性は多くないことが判明した。 ②抗体価:粒子凝集法による抗体価の幾何平均値はリウマチ膠原病患者、ブドウ膜炎患者とも高い傾向を示した。 ③プロウイルス量検査:100細胞あたりの平均プロウイルス量は1.5コピーとやや高い傾向を示した。特に3例において10コピーを超す特に高プロウイルス量の患者がみられた。 上記の結果から対象疾患群では高抗体価、高プロウイルス量の傾向があるが、年齢性別を一致させた対照群との比較が必要であり、またステロイド等治療の状態の確認も必要である。
3)症例対照研究 :疾患活動性とATL発症リスク評価
①生物学的製剤の投与を受けた関節リウマチ患者の症例対照研究の結果からは、HTLV-1陽性例では炎症所見が強く、TNF阻害薬の治療反応性が良好でない傾向が認められ、臨床像が異なる可能性が示された。 ②生物学的製剤を使用した患者についてATL発症リスクの代替マーカーとして用いたプロウイルス量と感染細胞クローナリティに変化は見られなかった。しかしながら生物学的製剤を使用したHTLV-1陽性患者群の中でATLを発症したという報告がみられた。これらの結果からHTLV-1陽性リウマチ患者のATL発症リスクについてはさらに検討が必要であると考えられた。
4)疾患ごとの病態解明に関連した研究:HTLV-1関連シェーグレン症候群において自然免疫の活性化の検討、HTLV-1感染と肺の炎症制御メカニズムの解析、皮膚病変部における感染細胞の検討、HTLV-1感染によるブドウ膜炎のメカニズムについて検討を行い、それぞれ進捗を得た。
結論
本研究により一部明らかとなったHTLV-1陽性慢性炎症性疾患患者のウイルス学的特徴および臨床像の違い、ATL発症リスクなど病態の特徴、治療の問題点については、今後もさらに検討し、治療時におけるHTLV-1スクリーニングの必要性をふくめて、本感染症に関連する非ATL非HAM希少疾患の全容を明らかにする必要がある。

公開日・更新日

公開日
2013-05-27
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201231099B
報告書区分
総合
研究課題名
HTLV-1感染に関連する非ATL非HAM希少疾患の実態把握と病態解明
課題番号
H23-難治-一般-127
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
岡山 昭彦(宮崎大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 川上 純(長崎大学 大学院医歯薬学総合研究科)
  • 藤田 次郎(琉球大学 大学院医学研究科)
  • 瀬戸山 充(宮崎大学 医学部)
  • 望月 學(東京医科歯科大学 眼科学教室)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ヒトTリンパ向性ウイルス1型(HTLV-1)はATL、HAM以外にも関節炎、膠原病、慢性肺疾患、慢性皮膚疾患、ぶどう膜炎など種々の慢性炎症疾患(非ATL非HAM希少疾患)に関連が示唆されている。本研究ではHTLV-1陽性慢性炎症性疾患の頻度、特徴、ウイルス感染と疾患発症のメカニズムを明らかにし、さらにATLやHAMの発症頻度が高いかどうか、また治療がこれらの疾患のリスクにつながらないかどうか検討した。最終的には、本研究により診療ガイドライン等に応用すべきか項目や今後の厚生労働行政に資する結果を得ることを目標とした。
研究方法
1)実態調査:平成23年度-24年度において、下記の分担研究者により、インフォームドコンセントを得た種々の慢性炎症疾患患者を対象にHTLV-1スクリーニングを行った。さらに臨床症状や検査成績、予後、治療反応性についてデータ解析を行った。
・岡山昭彦(宮崎大学):研究統括、膠原病・関節炎の解析
・川上純 (長崎大学):膠原病・関節炎の解析
・藤田次郎(琉球大学):呼吸器疾患の解析
・瀬戸山充(宮崎大学):慢性皮膚疾患の解析
・望月學 (東京医科歯科大学):ぶどう膜炎の解析
2)HTLV-1ウイルスマーカー:リアルタイムPCR法によるウイルス量、抗体価、感染細胞クローナリティ、欠損ウイルスなどのウイルスマーカーを測定した。
3)疾患ごとの病態解明に関連した研究:HTLV-1関連シェーグレン症候群において自然免疫の活性化の検討、HTLV-1感染と肺の炎症制御メカニズムの解析、皮膚病変部における感染細胞の検討、HTLV-1感染によるブドウ膜炎のメカニズムについて検討した。
4)症例対照研究:臨床所見や治療反応性などがHTLV-1陽性患者と陰性患者で異なるか否かについて症例対照研究を行った。
研究プロトコールについてはそれぞれの施設において倫理審査を申請し承認を得た。
結果と考察
1)宮崎、長崎、沖縄の各研究機関においてネットワークを構築し、同意を得た患者よりサンプルの収集と研究検査を行う体制を確立した。
2)リウマチ・膠原病患者におけるHTLV-1陽性者数は約10%であり若年者では一般集団よりも高い傾向があった。肺疾患では、沖縄で気管支鏡検査症例の14%がHTLV-1陽性であり、間質性肺炎型よりも気道病変型が多いことが示された。皮膚疾患での陽性率は約12%であり男性の割合が高かった。またブドウ膜炎の16%がHTLV-1陽性であり、多くがHUと診断された。 これらの結果は慢性炎症性疾患の一部にHTLV-1感染の関与を支持する所見であると考えられた。
3)HTLV-1マーカー調査の結果では、HTLV-1抗体スクリーニング陽性例は確認検査はすべて陽性であり偽陽性は多くないことが判明した。また粒子凝集法による抗体価の幾何平均値はリウマチ膠原病患者、ブドウ膜炎患者両者とも高い傾向を示した。 さらにプロウイルス量検査においてはやや高い傾向を示した。これらの結果から対象疾患群では高抗体価、高プロウイルス量の傾向があることを示唆した。今後、年齢性別を一致させた対照群との比較が必要であり、またステロイド等治療の状態の確認も必要であると考えられた。
4)HTLV-1陽性関節リウマチ患者では炎症所見が強く、TNF阻害薬の治療反応性が良好でない傾向が認められ、臨床像が異なる可能性が示された。安全性に関しては関節リウマチに生物学的製剤を使用した患者について、ATL発症リスクの代替マーカーとして用いたプロウイルス量と感染細胞クローナリティに変化は見られなかった。しかしながら生物学的製剤を使用したHTLV-1陽性患者群の中でATLを発症したという報告がみられた。これらの結果からHTLV-1陽性リウマチ患者のATL発症リスクについてはさらに検討が必要であると考えられた。
5)各分担研究者によるHTLV-1感染と各疾患発症メカニズムについての研究については、シェーグレン症候群および関節リウマチ患者における疾患発症メカニズムの研究、HTLV-1キャリアの肺病変の分類の確立と感染による肺炎症制御メカニズム、皮膚病変部における感染細胞の検討、HTLV-1ぶどう膜炎の臨床像および合併症とそのメカニズムについての検討、HTLV-1欠損ウイルスと疾患の関連の検討においてそれぞれ進捗があった。
結論
本研究によりHTLV-1陽性慢性炎症性疾患患者においては上記の様なウイルス学的特徴および臨床像の違い、ATL発症リスクなど病態の特徴、治療の問題点が明らかとなった。今後もさらに検討し、治療時におけるHTLV-1スクリーニングの必要性をふくめて、本感染症に関連する非ATL非HAM希少疾患の全容を明らかにする必要がある。

公開日・更新日

公開日
2013-05-27
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201231099C

成果

専門的・学術的観点からの成果
(1)研究目的成果: 
HTLV-1関連非ATL非HAM疾患の頻度、臨床的ウイルス学的特徴を検討することを目的とした多施設共同研究の体制を構築し、HTLV-1陽性患者の頻度を概算し、臨床像や治療反応性が異なることを明らかとし、ATL発症リスクについて検討することができた。
(2)社会的意義 
上記の結果はHTLV-1関連非ATL非HAM疾患の臨床像がHTLV-1陰性者と異なることを示唆し、今後特に免疫治療等を行う際に本ウイルスのスクリーニングを行うか否かという重要な医療問題を提起した。
臨床的観点からの成果
HTLV-1関連非ATL非HAM疾患の頻度、臨床的特徴、ウイルス感染と疾患発症のメカニズムを検討した結果、抗体価やプロウイルス量が高い傾向にあり、HTLV-1陽性関節リウマチ患者では炎症所見が強く、治療抵抗性であった。ATL発症リスクについてはさらに検討が必要であると考えられた。
ガイドライン等の開発
なし
その他行政的観点からの成果
今回の研究で得られたデータの活用法として、HTLV-1関連希少疾患の実態を把握することが、難治性疾患に新たな視点からの治療法提供につながる可能性がある。さらに特定疾患をふくめたそれぞれの疾患におけるHTLV-1感染に関連した診療のあり方および厚生労働行政の施策決定、専門的な提言を行うための基礎的情報の一部となった。HTLV-1感染者の多い唯一の先進工業国である我が国から発信する国際貢献にもつながると思われる。
その他のインパクト
研究成果については学会・論文発表を行うとともに、それぞれの疾患のガイドライン作成委員会への提言の必要性を検討し、また広く国民にとっても有用な情報については、患者会や既存のHTLV-1関連ホームページなどを通して情報提供を行う予定である。また平成25年度には難治性疾患克服研究事業「HTLV-1関連希少難治性疾患における臨床研究の全国展開と基盤整備」により研究を発展させ、さらに全国調査を行ったことで臨床現場の意見を得るとともにHTLV-1感染に関する啓蒙・問題提起にもつながったと思われる。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
28件
その他論文(和文)
10件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
14件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
6件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2017-05-25
更新日
-

収支報告書

文献番号
201231099Z