致死性骨異形成症の診断と予後に関する研究

文献情報

文献番号
201231095A
報告書区分
総括
研究課題名
致死性骨異形成症の診断と予後に関する研究
課題番号
H23-難治-一般-123
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
澤井 英明(兵庫医科大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 室月 淳(東北大学大学院 胎児医学分野)
  • 山田 崇弘(北海道大学病院 産科)
  • 堤 誠司(山形大学医学部 産婦人科)
  • 佐藤 秀平(青森県立中央病院総合周産期母子医療センター 産科)
  • 篠塚 憲男(胎児医学研究所 臨床研究部)
  • 林 聡(北里大学 医学部)
  • 高橋 雄一郎(長良医療センター 周産期診療部)
  • 佐世 正勝(山口県立総合医療センター 総合周産期母子医療センター)
  • 沼部 博直(京都大学大学院 医学研究科)
  • 芳賀 信彦(東京大学医学部附属病院 リハビリテーション科)
  • 鬼頭 浩史(名古屋大学 医学部)
  • 宮崎 治(国立成育医療研究センター 放射線科)
  • 緒方 勤(浜松医科大学 小児科学)
  • 妻木 範行(京都大学 iPS細胞研究所)
  • 池川 志郎(理化学研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
7,200,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
・研究目的の概要は、致死性骨異形成症thanatophoric dysplasia(TD)は必ずしも周産期致死性でないにもかかわらず、その名称から生存不可能な疾患とされ、正確な診断がなされず、予後も把握されていない現状を克服し、それらの把握により管理指針を作成し、最終的には治療にも貢献することである。また鑑別診断の必要な胎児骨系統疾患も多く、その診断と治療にも役立てることも同時に重要である。
研究方法
(1)胎児骨系統疾患の診断支援と症例検討・登録システムの構築は産科医が中心となる。特に出生後は小児科的ならびに整形外科的検討を加える。
(2)胎児骨系統疾患フォーラム症例の整理と分析
(3)診断指針の作成に必要な検査の整備。
(ア) 超音波断層法:正常の胎児の長幹骨の標準値作成プロジェクト
(イ) 胎児CT:標準的な撮影方法と診断指針を作成
(ウ) 遺伝子診断: TD等の骨系統疾患の遺伝子診断
(4)TD症例数の全国調査:全国調査でTDの症例数を調査し、二次調査として、長期生存例の管理や発達状況を個々のケースについて調査する。
(5)地域ネットワーク:日本全国を一定地域ごとに分担した体制作り。
(6)公開シンポジウムの開催やWebによる情報発信:
(7)再生医療と細胞バンク:症例のバンク事業への寄託と再生医療(iPS細胞を含む)への貢献。
(8)骨系統疾患発症頻度確定のためのコホート調査:
結果と考察
(1)全国調査による患者数等の疾患に関する基本的なデータの収集:
重複しない73例についてデータの解析を行った。周産期死亡率は56%であった。一方で周産期死亡を起こさなかった24例中には1年以上の生存も16例あり、生産児51例の31%に達した。なお、生産児のうち呼吸管理実施例(24例)では全例周産期死亡を起こさなかった。一方で呼吸管理非実施例(25例)では全例2日以内に死亡していた。また、二次調査として、1年以上の長期生存例の発育状況調査を実施中である。これは全国各地の医療機関で管理されている患者の発育がどのような状態であるのかを調べている。現在引き続き実施、解析中である。
(2)インターネット利用による胎児の骨系統疾患を診断支援するための症例登録・検討システムの構築:
(3)過去の症例検討のとりまとめ:
(4)妊娠期間中の胎児の診断指針の作成:
 (ア)超音波検査については胎児の四肢長幹骨の標準値作成のためのデータ収集を目的として、宮城県立こども病院を中心に9施設で実施し700例以上の症例を集めて解析した。以下のように 胎児の超音波検査で上腕骨長 humerus (HL)  橈骨radius (RL) 尺骨ulnae (UL) 脛骨 tibia (Tib)  腓骨 fibula (Fib) についてのすべての標準値を日本で初めて明らかにした。
(イ)胎児CTについては被ばく線量はCTDIvolの最低レベルの2.1~3.7 mGyをひとつの目標として、各施設が線量管理を行い、全国的な胎児CT線量低減を遂行すべきと思われた。
(ウ)遺伝子診断は慶応大学と大阪市立総合医療センターにてFGFR3遺伝子診断が実施できるような体制を構築した。また全国規模で遺伝子診断のできるラボや研究施設のリストアップをおこなった。
(5)地域診断支援システムの構築:
研究班の研究分担者の属する施設を中心に、北海道、東北、東京、神奈川、東海、近畿、中国、四国、九州において中心的なセンター施設を選定した。
(6)臨床医への情報提供:
研究班でホームページwww.thanatophoric.comを作成し骨系統疾患の情報を提供し、診断や治療に取り組む産科医や小児科医などからの問い合わせを受け付ける体制を作った。
(7)社会への還元:
上記ホームページに患者家族向けの情報を提供している。
(8)致死性骨異形成症の2名の患者から線維芽細胞を埼玉県立小児医療センターの細胞バンクに寄贈し、ここを通じて細胞株を樹立し京都大学iPS細胞研究所に送付した。
結論
本研究により我が国におけるTDの患者数を明らかにし、周産期致死とされてきたにもかかわらず、長期生存例がどの程度あるのかなどを明らかにすることで、厚生労働行政において「特定疾患」として認定されることに影響を与える。結果的には母体の適切な入院管理が可能となり、また新生児の自宅管理に向けた対応により入院期間の短縮や医療費の削減などの厚生労働行政上の効果が期待できる。また平成24年度から文部科学省の疾患特異的iPS細胞を活用した難病研究に参画しており、この研究を発展させるために、まずは患者検体の収集を行う。樹立されたiPS細胞については再生医療としての軟骨の再生や、治療薬の開発につながる成果を期待できる。

公開日・更新日

公開日
2013-06-18
更新日
-

文献情報

文献番号
201231095B
報告書区分
総合
研究課題名
致死性骨異形成症の診断と予後に関する研究
課題番号
H23-難治-一般-123
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
澤井 英明(兵庫医科大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 室月 淳(東北大学大学院 胎児医学分野)
  • 山田 崇弘(北海道大学病院 産科)
  • 堤 誠司(山形大学 医学部)
  • 佐藤 秀平(青森県立中央病院総合周産期母子医療センター 産科)
  • 篠塚 憲男(胎児医学研究所 臨床研究部)
  • 林 聡(北里大学 医学部)
  • 高橋 雄一郎(長良医療センター 周産期診療部)
  • 佐世 正勝(山口県立総合医療センター 総合周産期母子医療センター)
  • 沼部 博直(京都大学大学院 医学研究科)
  • 芳賀 信彦(東京大学医学部附属病院 リハビリテーション科)
  • 鬼頭 浩史(名古屋大学大学院 医学研究科)
  • 宮崎 治(国立成育医療研究センター 放射線科)
  • 緒方 勤(浜松医科大学 医学部)
  • 妻木 範行(京都大学 iPS細胞研究所)
  • 池川 志郎(理化学研究所 ゲノム医科学研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
致死性骨異形成症thanatophoric dysplasia: TDは線維芽細胞増殖因子受容体3(Fibroblast growth factor receptor 3: FGFR3)遺伝子変異によって生じる先天性骨系統疾患で、胎児は出生後早期に死亡するとされている。周産期致死性とされる骨系統疾患ではもっとも頻度が高いとされているが、日本では実際の患者数や出生頻度は不明である。また、その名称にもかかわらず実際には長期生存例の症例報告も散見される。その実情を明らかにするのが目的である。
研究方法
(1)全国調査による患者数等の疾患に関する基本的なデータの収集:
(2)インターネット利用による胎児の骨系統疾患を診断支援するための症例登録・検討システムの構築:
(3)過去の症例検討のとりまとめ:
(4)妊娠期間中の胎児の診断指針の作成:
 (ア)超音波検査については胎児の四肢長幹骨の標準値作成のためのデータ収集
 (イ)胎児CTについては全国で胎児CTを実施している施設17施設を対象に、詳細な胎児CTの撮影条件とこれまでの撮影対象疾患を調査して胎児CTの撮影条件特に被曝量との関係から我が国の現状を把握した。
(ウ)遺伝子診断
(5)地域診断支援システムの構築:
(6)臨床医への情報提供:
(7)社会への還元:
(8)致死性骨異形成症の2名の患者から線維芽細胞を京都大学iPS細胞研究所に送付することとした。またⅡ型コラーゲン異常症についても提供した。
結果と考察
本研究事業のH22年度feasibility studyで、全国1次調査として症例数と概要を明らかにし、73例(うち生産51例、死産4例、流産15例)を把握した。結果は致死性という名称にもかかわらず、周産期死亡率は56%であった。周産期死亡を起こさなかった24例のうち16例は1年以上生存しており、これは生産児の31%にあたる。H23年度は長期生存例の発達や経過を明らかする2次調査を開始し平成24年度にデータ収集を終了した。この結果によると致死性骨異形成症はその名称とは異なり、周産期致死性とは必ずしも言えず、またこの疾患名が患児を育てている家族にとって違和感のある名称であることが明らかとなった。平成23年度に致死性骨異形成症という名称が実情に合わないとして名称の変更を提起し、平成24年度にタナトフォリック骨異形成症への変更が日本整形外科学会において承認された。本疾患は妊娠中の胎児の四肢長幹骨の著明な短縮が特徴で、早期診断は妊娠管理や分娩形式の決定など周産期管理に重要である。しかし現在は四肢長幹骨の正常値のデータがないため、超音波検査での四肢長幹骨の標準値作成プロジェクトを開始し、データ収集を完了し、平成24年度に一部の超音波断層装置に装備できる状態にすることができた。診断方法として近年は3次元胎児ヘリカルCTが導入されたが、胎児被爆、撮影条件、確定診断で重視すべき所見など、未解決の問題が山積しているので、放射線科医と技師による胎児CTサブグループを結成し、撮影条件や症例数などの全国で調査し、2次調査として、適応や撮影ガイドラインの作成を開始した。胎児骨系統疾患に詳しい各領域専門医の集まり「胎児骨系統疾患フォーラム」を基盤として、効率的な疾患の診断・登録を行い、臨床医を支援する仕組みを開始した。また平成24年度には文部科学省と厚生労働省の共同プロジェクトである「疾患特異的iPS細胞を活用した難病研究」に研究班として参画することで、今後の治療に貢献すべく、倫理的な課題を克服し、骨の再生医療や細胞バンクへの取組を開始した。すでに致死性骨異形成症やⅡ型コラーゲン異常症の検体の提供を行った。
結論
日本で初めての致死性骨異形成症の全国調査を行い、引き続き二次調査として出生後の身体的および精神的な発達の状態を調べてデータを収集した。他のプロジェクトについても上記のように概ね完了した。

公開日・更新日

公開日
2013-06-18
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201231095C

成果

専門的・学術的観点からの成果
致死性骨異形成症thanatophoric dysplasiaは稀な先天性骨系統疾患で、2~5人/10万分娩程度とされる。しかし日本では正確な統計はなく、全国的な症例数の概略も不明である。またその名称の通り周産期致死性とされているが、学会等での報告によると長期の生存例が散見される。実際にどの程度我が国に患者がおり、本当に致死性なのかどうかを調査し、出生した約半数の児が60日以上生存していることがわかった。
臨床的観点からの成果
妊娠の転帰で生産と報告された47例のうち、死亡の原因としては67%が呼吸不全で最も多かった。またこの生産47例のうち24例(51%)が周産期死亡に該当する出生後1週間以内に死亡しており、しかも死亡例はすべてが2日以内に死亡していた。そしてこの周産期死亡を超えて生存していた23例はすべてが最低60日以上(1年以上も15例であった。致死性骨異形成症という疾患名については調査対象の医師の約4割が不適切と回答していた。
ガイドライン等の開発
胎児診断として3次元胎児ヘリカルCTは有用であるが、本法は胎児被爆、撮影条件、確定診断で重視すべき所見など、未解決の問題が山積している。放射線科医と技師で胎児CTサブグループを結成し、撮影条件や症例数などの全国調査を実施中である。これをもとに胎児CTの撮影条件や適応などを定めたガイドラインを作成している。
その他行政的観点からの成果
この疾患の名称は児の発育の過程での、公的書類、入学、病院関係、申請書類等に記載する場合に、極めて違和感を持って受け止められる。それは”致死性”という名称が実態にそぐわないことを示しており、日本整形外科学会に名称変更を提案して認められ、タナトフォリック骨異形成症に変更された。
その他のインパクト
平成24年12月2日に仙台アエルにて、第5回胎児骨系統疾患フォーラム 公開講座を開催した。また病名変更については読売新聞その他のマスコミで4月に報道された。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
16件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
25件
学会発表(国際学会等)
2件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
1件
疾患名の変更
その他成果(普及・啓発活動)
1件
胎児骨系統疾患フォーラム

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Yamada T, Takagi M, Nishimura G, et al
Recurrence of osteogenesis imperfecta due to maternal mosaicism of a novel COL1A1 mutation.
Am J Med Genet A. , 158A (11) , 2969-2971  (2012)
10.1002/ajmg.a.35602
原著論文2
Miyazaki O, Sawai H, Murotsuki J, Nishimura G, Horiuchi T.
Nationwide radiation dose survey of computed tomography for fetal skeletal dysplasias.
Pediatr Radiol  (2014)
原著論文3
Wada R, Sawai H, Nishimura G, et al
Prenatal diagnosis of Kniest dysplasia with three-dimensional helical computed tomography.
J Matern Fetal Neonatal Med. , 24 (9) , 1181-1184  (2011)
10.3109/14767058.2010.545903.

公開日・更新日

公開日
2018-06-11
更新日
-

収支報告書

文献番号
201231095Z