ファ-ル病(特発性両側性大脳基底核・小脳歯状核石灰化症)の診断方法の確立と治療法の開発

文献情報

文献番号
201231085A
報告書区分
総括
研究課題名
ファ-ル病(特発性両側性大脳基底核・小脳歯状核石灰化症)の診断方法の確立と治療法の開発
課題番号
H23-難治-一般-106
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
保住 功(岐阜薬科大学 医療薬剤学大講座薬物治療学研究室)
研究分担者(所属機関)
  • 犬塚 貴(岐阜大学 医学部 神経内科)
  • 辻 省次(東京大学 医学部 神経内科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
8,667,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ファール病は慣例的に、原因が不明で、両側淡蒼球に顕著な石灰化を来す疾患として呼称されてきた。しかし、類似の病態を指す疾患名が多数存在し、最近、国際的は(idiopathic bilateral ganglionic calcification (IBGC)と名称が通用さている。孤発例のほか、家族例(familial IBGC (FIBGC))の存在が知られている。これまでその原因遺伝子座として、IBGC1 (14q) 、IBGC2 (2q37)、IBGC3 (8p11.21)、IBGC4 (5q32) が報告されてきた。海外における家族例では特にIBGC3が原因遺伝子として家族性に占める頻度は高いことも報告された。本邦における家族例および孤発例のIBGC症例におけるIBGC3の原因遺伝子SLC20A2の変異の頻度および臨床的特徴について、全国から患者のDNAの収集を行った岐阜薬科大学、岐阜大学、次世代シーケンサーを所有する東京大学との共同研究にて検討した。さらに、この原因遺伝子であるSLC20A2がcodeするタンパク質であるtype III sodium-dependent phosphate transporter 2 (PiT-2)の分子病態の解明を行う。
研究方法
全国一次アンケート調査でファール病が疑われる症例(症例基準:1)頭部CTにて大脳基底核 and/or 小脳歯状核に石灰化あり、2)両側対象性の脳内石灰化病変を有する、3)脳内石灰化をきたしうる代謝性疾患、外傷の既往、感染症やその他の疾患が除外できる)について情報提供を依頼した。その中で39施設63例のDNA検体が提供され、IBGCの診断に適合することを確認できた家族例8家系(20例)、孤発例41例につき(合計37施設)、SLC20A2遺伝子の直接塩基配列決定法による解析を行った。同時並行して、東京大学神経内科が所有する8症例の遺伝子解析が行われ、副甲状腺機能が確認できない1症例を除外し、合計68症例の臨床情報、遺伝子解析結果について集約し、総合的検討を行った。今回見出したSLC20A2の遺伝子変異を導入したCHO細胞を作製する。PiT-2の抗体を用いて、ラット脳を検索する。
結果と考察
家族例9家系中4家系でSLC20A2遺伝子変異をみとめ(44.4%)、いずれも新規変異であった。家系1では、脳内石灰化を有する全例で遺伝子変異を認める一方で、石灰化がみられない例では変異はなかった。家系2、家系3は同一の遺伝子変異を認めた。これら2家系の臨床症状、頭部CT石灰化画像は類似した。家系4 74歳女性、71歳時、パーキンソニズムで発症。興味深いことに、剖検でIBGCに合致する石灰化に、パーキンソン病と合致する病理所見も認められた。孤発例では47例中3例 (6.4%)で遺伝子変異を認め、症例1例はParoxysmal kinesigenic choreo -athetosisを呈する24歳男性例であった。症例2、3はそれぞれ72歳女性、78歳男性で、PIB-PETでアミロイドの沈着がないことも確認されている。また、PiT-2の免疫活性はマウスの線状体、小脳を含め遍く脳内に認められ、細胞レベルでは特にニューロン、血管内皮細胞に強く認められた。またこれらの変異を導入したCHO細胞を作、製したが、今後、その機能解析を行う。
 本研究で、SLC20A2の変異は家族例9家系中4家系の44.4%に、孤発例47例中3例の6.4%に認められた。本邦の家族性ファール病において、頻度の高い原因遺伝子であると考えられた。SLC20A2変異例間では一定のタイプは認めず、臨床症状、石灰化の程度は多様性に富んでいた。一方で、同一遺伝子変異を持つ症例間では臨床症状、画像所見に類似点が多く、phenotypeを有する可能性があると考えられた。今後、さらなる研究として、IBGC4の原因遺伝子PDGFRBの変異の解析を行う。またSLC20A2に変異の認められなかった家族例についてはエキソーム解析を行う。PiT-2、PiT-1の機能解析を行い、IBGC発症のメカニズムを解明し、病態に合致した創薬開発を目指す。
結論
本邦のFIBGCにおいて、SLC20A2は頻度の高い原因遺伝子であり、変異例の臨床症状、石灰化の程度は多様性に富むが、同一遺伝子変異を持つ症例間では臨床的に類似したphenotypeを有する可能性がある。PiT-2のimmunopositivityはニューロン、血管内皮細胞に強く認められた。

公開日・更新日

公開日
2013-05-23
更新日
-

文献情報

文献番号
201231085B
報告書区分
総合
研究課題名
ファ-ル病(特発性両側性大脳基底核・小脳歯状核石灰化症)の診断方法の確立と治療法の開発
課題番号
H23-難治-一般-106
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
保住 功(岐阜薬科大学 医療薬剤学大講座薬物治療学研究室)
研究分担者(所属機関)
  • 犬塚 貴(岐阜大学 医学部 神経内科)
  • 辻 省次(東京大学 医学部 神経内科)
  • 柴田敏之(岐阜大学 医学部 口腔病態学)
  • 下澤伸行(岐阜大学 生命科学総合実験センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ファール病は慣例的に、原因が不明で、両側淡蒼球に顕著な石灰化を来す疾患として呼称されてきた。しかし、類似の頭部CT画像を呈したり、類似の病態を指す疾患名も多数存在し、混乱も多い。近年、国際的にはidiopathic bilateral ganglionic calcification (IBGC)の名称が通用さている。孤発例のほか、家族例(familial IBGC (FIBGC))の存在が知られている。平成22年7月からの班研究の開始の年は我が国における患者の実態調査を行うこと、疾患の分子病態の解明を進めることを目的とした。平成23~24年度は、班研究は、ファール病という範疇には種々の病態が存在することから、分子、遺伝子レベルでの診断方法の確立、病態解明に基づく創薬の開発を目的とした。
研究方法
1)実態調査:全国一次、二次、三次アンケート調査を行い、検体の収集を行った。
2)全国疫学調査:全国疫学調査マニュアル法に基づき、アンケート調査。岐阜と新潟の大学病院で頭部CT画像全例調査。
3)毛髪中の元素分析:高感度の誘導結合プラズマ質量分析計 (ICP-MS)で測定
4)髄液中の重金属分析、疾患特異的タンパク質の検索:網羅的プロテオーム解析
5)患者DNAの遺伝子解析:既報の遺伝子変異について検索。変異が認められなかったDNAについては全例エキソーム解析
6)PiT-2の機能解析:
7)患者のiPS細胞の作製:不要となった智歯からiPS細胞を作製
8)患者と家族のインタビューに基づく心のケア、質的分析:患者と家族の面談と語り
結果と考察
1)実態調査:平成25年3月20日現在で総数180名である。
2)全国疫学調査:頭部CTで淡蒼球に点状の石灰化を認める症例は約20%、斑状のものは約2%弱であったが、65歳以上となると2-3%と増加した。小脳歯状核となると約0.2%とその頻度は低かった。
3)毛髪中の元素分析:収集され解析された毛髪検体数は、53検体であった。その中で、小阪・柴山病を除外し、診断的にファール病、IBGCとして均一な28検体に関して、24種の金属種について、ICP-MSを用いて測定し、患者群の毛髪で、リン (P)、銅 (Cu)、ゲルマニウム (Ge)、セレニウム (Se)含量が有意に低下していた。
4)髄液中の重金属分析:髄液中のCu、亜鉛(Zn)、鉄(Fe)、マグネシウム(Mg)が増加
5)患者DNAの遺伝子解析:原因遺伝子座としてのIBGC1は1例もその稀な多型は認められなかった。IBGC3の原因遺伝子SLC20A2を検索し、家族例9家系中4家系で(44.4%)、孤発例47例中3例で(6.4%)と高頻度に変異を認めた。いずれも新規変異であった。
6)PiT-2の機能解析:PiT-2の免疫活性は線状体、小脳を含め遍く脳内に認められ、細胞では特にニューロン、血管内皮細胞に強く、アストロサイトには弱く認められ、またSLC20A2に認められた変異を導入したCHO細胞を機能解析を行う。
7)患者のiPS細胞の作製:6人のIBGC患者の口腔組織(歯髄、歯肉)から細胞株を樹立した。ファール病の歯髄細胞は細胞初期化抵抗性である可能性が示唆された。
8)患者と家族のインタビューに基づく心のケア、質的分析:IBGC3例の患者と家族のインタビューを行い、解析し、患者や家族の悩みの実態がより明らかとなった。
 平成25年3月20日現在、班研究における患者登録数はで180名である。本研究で、SLC20A2の変異は家族例9家系中4家系の44.4%に、孤発例47例中3例の6.4%に認められた。本邦のIBGCにおいて、頻度の高い原因遺伝子であると考えられた。SLC20A2変異例間では一定のタイプは認めず、臨床症状、石灰化の程度は多様性に富んでいた。一方で、同一遺伝子変異を持つ症例間では臨床症状、画像所見に類似点が多く、類似のphenotypeを有する可能性があると考えられた。今後、遺伝子変異の見出されていない家系例など次世代シーケンサーを駆使した原因遺伝子の解明が進む。リン酸トランスポーターPiT-2、PiT-1の機能解析を軸に、IBGC発症のメカニズムの解明が進むものと考えられる。患者のiPS細胞を作製し、細胞を神経細胞や血管内皮細胞に分化させることで、病態の解明や病態に合致した創薬の開発が期待できる。
結論
本邦のIBGCにおいて、SLC20A2は頻度の高い原因遺伝子であり、今後、その翻訳タンパク質であるリン酸トランスポーターPiT-2やPiT-1の機能解析を軸に病態の解明、創薬の開発が急展開すると予測される。

公開日・更新日

公開日
2013-05-23
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201231085C

成果

専門的・学術的観点からの成果
ファール病はこれまで35を超える呼称名があり、臨床的な多様性、雑多な原因があり、治療法もなく、多くの成書にも簡単な記載があるにすぎなかった。2012年2月、Nature Geneticsにリン酸トラスポーターであるPiT-2の遺伝子SLC20A2の変異が報告された。我々はこれまで全国から収集した症例で、この遺伝子変異を検索し、家族例9家系中4家系(44.4%)、孤発例47症例中3症例(6.4%)と高頻度に、また既報とは全く別な部位に新たな変異を認め、英文誌Neurolgogyに投稿中である。
臨床的観点からの成果
家族性のファール病にあっても臨床的多様性が認められたが、SLA20A2遺伝子の同じ部位に変異が認められた家系内における頭部CTにおける石灰化像、臨床症状には類似性が認められた。我々が見出した変異遺伝子を導入したCHO細胞を用いて、機能解析を進めている。患者のiPS細胞を作製した。これらは今後のファール病の病態解明、治療薬開発に大いに役立つ。原因、病態も不明で、治療法もなかったファール病の臨床にとって大きな進歩である。
ガイドライン等の開発
ファール病はその名称もまちまちで、その原因として病態、臨床症状の多様性があった。原因遺伝子としてSLA20A2変異が高頻度で見つかった意義は大きい。臨床症状から除外診断を主に、症例の収集に努めた。患者の中には、介護上家族に大きな負担のかかる方もおられ、救済的な視点からも、診断基準を提案した。しかし、今後、遺伝子、分子レベルでの病態解明、分類、診断基準等が必要で、現在、他原因遺伝子の解明のために次世代シーケンサーを活用したエキソーム解析、また、診断マーカーの検索に努めている。
その他行政的観点からの成果
ファール病と診断に対して、担当医側は対処法がなく、対応に苦慮し、一方で、患者側も「原因はわからない」「治療法もない」と言った説明に絶望感を感じていた。今回、班研究が立ち上がり、ホームページ上で公開されたことで、全国の医師、患者、その家族から電話での問い合わせ、直接受診があった。さらに海外からの受診もあった。検査と共に、iPS細胞の作製、心のケア、語りに基づく質的分析がなされたことは、患者や家族に一応の安心感と希望を与えることができたものと思われる。和文論文としてまとめ、英文論文も準備中である。
その他のインパクト
ファール病の専門外来診療の設置は岐阜大学神経内科のホームページに掲載され、それを見て全国から多くの問い合わせや直接の受診があった。患者のiPS細胞を用いた病態解明と治療法の開発に関して、平成25年3月1日岐阜新聞に「iPS初の臨床申請 理研 網膜再生を研究」の記事と共に「難病「ファール病」厚労省研究班 保住教授(岐阜薬大)が参加」50難病の研究班の中で、東海地区では、2難病が重点疾患、その研究班が現在精力的に活動していることが紹介された。

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
5件
その他論文(和文)
1件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
8件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
1件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
1件
受診のためのホームページの作成

特許

特許の名称
リン酸ホメオスターシス異常モデルにおけるPDGF-BBおよび関連化合物のスクリーニング方法
詳細情報
分類:
特許番号: 2016-054520
発明者名: 保住 功、位田雅俊、栗田尚佳
権利者名: 岐阜市
出願年月日: 20160317
国内外の別: C12Q 1/02

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Yamada M, Hayashi Y, Hozumi I et al.
High frequency of calcification in basal ganglia on brain computed tomography images in Japanese older adults.
Geriatr Gerontol Int , 13 (3) , 706-710  (2012)
doi: 10.1111/ggi.12004.
原著論文2
堀田みゆき、保住 功
希少神経難病ファール病 3例の患者と家族のインタビューから得られたもの
臨床看護 , 38 (13) , 1907-1912  (2012)
原著論文3
Takagi M, Ozawa K, Hozumi I et al.
Decreased bioelements content in the hair of patients with Fahr’s disease(Idiopathic bilateral calcification in the brain).
Biol Trace Elem Res , 151 (1) , 9-13  (2013)
doi: 10.1007/s12011-012-9529-z.
原著論文4
Hozumi I.
Roles and Therapeutic Potential of Metallothioneins in Neurodegenerative Diseases.
Curr Pharm Biotechnol , 14 (4) , 408-413  (2013)
PubMed PMID: 23590138.
原著論文5
Yamada M, Tanaka M, Hozumi I et al.
Evaluation of SLC20A2 mutations that cause idiopathic basal ganglia calcification in Japan.
Neurology , 82 (8) , 705-712  (2014)
doi: 10.1212/WNL.0000000000000143.
原著論文6
M. Inden, M. Iriyama, I. Hozumi et al
Localization of type-III sodium-dependent phosphate transporter 2 in the mouse brain.
Brain Research , 1531 , 75-83  (2013)
doi: 10.1016/j.brainres.2013.07.038. Epub 2013 Jul 30. PubMed PMID: 23911649.
原著論文7
M. Inden, M. Iriyama, I. Hozumi et al
The type III transporters (PiT-1 and PiT-2) are the major sodium-dependent phosphate transporters in the mice and human brains.
Brain Research , 1637 , 128-136  (2016)
doi: 10.1016/j.brainres.2016.02.032. Epub 2016 Feb 26. PubMed PMID: 26923164.

公開日・更新日

公開日
2018-06-11
更新日
-

収支報告書

文献番号
201231085Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
10,400,000円
(2)補助金確定額
10,400,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 5,598,850円
人件費・謝金 2,267,254円
旅費 437,507円
その他 363,389円
間接経費 1,733,000円
合計 10,400,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2015-06-10
更新日
-