マリネスコ-シェーグレン症候群におけるシャペロン機能と病態との関連

文献情報

文献番号
201231084A
報告書区分
総括
研究課題名
マリネスコ-シェーグレン症候群におけるシャペロン機能と病態との関連
課題番号
H23-難治-一般-105
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
林 由起子((独)国立精神・神経医療研究センター 神経研究所疾病研究第一部)
研究分担者(所属機関)
  • 小牧 宏文((独)国立精神・神経医療研究センター 病院小児神経科)
  • 大久 敬((独)国立精神・神経医療研究センター 神経研究所疾病研究第一部 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
9,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
マリネスコ-シェーグレン症候群は、常染体劣性遺伝形式をとる希な疾患で、筋病理学的に縁取り空胞の存在を特徴とする。患者数が少ないことから、本邦における発症頻度や臨床的問題点、疾患自然歴など明らかでない。原因遺伝子SIL1は小胞体シャペロン分子であるBiP (HSPA5)のATP-ADP交換因子として働くタンパク質SIL1をコードしていることから、小胞体におけるタンパク質のrefoldingに関っていると考えられている。今年度本研究では、全国アンケート調査の結果を詳細に分析し、本邦におけるマリネスコ-シェーグレン症候群の自然経過、臨床医学上の問題点を明らかにすることを目的とするとともにメダカの疾患モデルの作製・解析を行った。
研究方法
本研究で実施したアンケート調査の結果を詳細に分析し、併せてSIL1遺伝子解析、ハプロタイプ解析を実施した。
また、大阪大学医学系研究科・藤堂研究室との共同研究により、TILLING法を用いて作製した変異体 5760個体について、メダカsil1内に変異を持つ個体をスクリーニングした。
(倫理面への配慮)全国アンケート調査は、NCNP倫理委員会で承認され、個人の特定できない様式を用いて行った。すべての動物実験は、NCNP神経研究所動物実験に関する倫理指針に従い行い、同動物実験管理委員会ならびに組み換えDNA実験安全委員会の審査・承認を得ている。
結果と考察
マリネスコ-シェーグレン症候群の主要徴候である白内障は、3才頃に発症し、手術が必要になるほど急激に増悪する傾向にあった。小脳症状は全例に出現するが、乳幼児期は筋緊張低下が主であり、運動発達の獲得により徐々に運動失調が表面化してくるものと推測された。画像上からも小脳虫部優位の萎縮が多いことから、体幹・運動失調優位に出現することが多いと考えられる。
SIL1に変異が認められないにもかかわらず臨床的に鑑別困難な症例も存在したことから、マリネスコ-シェーグレン症候群の遺伝的多様性が示唆されるとともに、マリネスコ-シェーグレン症候群が疑われる症例はSIL1変異スクリーニングを行い、確定診断を行う必要があると考えられた。また骨格筋の縁取り空胞の存在も診断に非常に有用であると考えられる。SIL1変異例14例中13例が共通のハプロタイプを有しており、c.937dupGは本邦のfounder muta-tionである可能性が示唆された。
一方、モデルメダカの解析では、sil1ナンセンス変異体は少なくとも孵化までの発生は正常に行われることが明らかとなった。過去に報告されたマウスSil1変異系統 woozyにおいても神経変性等の表現型は生後3カ月程度で認められることから、メダカにおけるsil1欠損による生体への影響も、経過を追って調べていく必要があると考えられる。
結論
SIL1変異によるマリネスコ-シェーグレン症候群症候群の具体的臨床像を明らかにし、診断基準を作成した。発症は乳幼児期からと早期であるが、生命予後は比較的保たれていることが明らかとなった。本邦のマリネス-シェーグレン症候群には好発変異が存在し、 founder effectが示唆された。 診断には臨床症状のみならず、遺伝子解析や病理所見が重要であると考えられた。
メダカsil1ナンセンス変異体の作製に成功し、解析を進めるとともに、今後の治療法の開発に向けたシャペロン機能を改善する低分子化合物の探索に向けた取り組みを進めていく。

公開日・更新日

公開日
2013-05-22
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201231084B
報告書区分
総合
研究課題名
マリネスコ-シェーグレン症候群におけるシャペロン機能と病態との関連
課題番号
H23-難治-一般-105
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
林 由起子((独)国立精神・神経医療研究センター 神経研究所疾病研究第一部)
研究分担者(所属機関)
  • 小牧 宏文((独)国立精神・神経医療研究センター 病院小児神経科)
  • 大久 敬((独)国立精神・神経医療研究センター 神経研究所疾病研究第一部 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
マリネスコ-シェーグレン症候群は、常染体劣性遺伝形式をとる希な疾患で、中枢神経系、眼、骨格筋の障害の他、性腺機能低下や低身長、骨格異常などの多彩な症状を呈する難治性疾患である。筋病理学的には自己貪食空胞である縁取り空胞の存在を特徴とする。患者数が少ないことから、本邦における発症頻度や臨床的問題点、疾患自然歴など明らかでない点が多い。 
マリネスコ-シェーグレン症候群の原因遺伝子SIL1はSIL1という小胞体シャペロン分子であるBiP (HSPA5)のATP-ADP交換因子として働くタンパク質をコードしていることから、本疾患の病態に小胞体におけるタンパク質の再折りたたみ(refolding)が重要な役割を演じているものと考えられている。
我々は全国規模でMSSに関するアンケート調査を実施し、その結果を詳細に分析することによって、本邦におけるマリネスコ-シェーグレン症候群の自然経過、臨床医学上の問題点を明らかにするとともに遺伝子解析も行い、遺伝子変異と臨床病型についての解析を進めた。またメダカを用いて疾患モデルの作製・解析を行った。
研究方法
小児神経専門医・神経内科専門医および専門医療機関を対象にマリネスコ-シェーグレン症候群の診療経験を問う一次・二次アンケート調査を行い、本疾患患者に関する情報収集ならびにデータ解析を行った。また、承諾の得られた患者さんについては、ゲノムDNAを抽出し、SIL1遺伝子変異スクリーニングならびにハプロタイプ解析を行った。以上の結果をまとめ、マリネスコ-シェーグレン症候群の診断基準を作成した。
一方、メダカsil1機能欠損突然変異体を得るため、大阪大学医学系研究科・藤堂研究室との共同研究により、TILLING法を用いて作製された変異体ライブラリーから5,760個体について、メダカsil1内に変異を持つ個体をスクリーニングした。
(倫理面への配慮)
本研究で用いた全国アンケート調査ならびに臨床・病理・遺伝子解析は、ヒトゲノム遺伝子解析研究にかかる倫理指針を遵守し、NCNP倫理委員会で承認された後、連結可能匿名化のもとで行った。すべての動物実験は、NCNP神経研究所動物実験に関する倫理指針に従い行い、同動物実験管理委員会ならびに組み換えDNA実験安全委員会の審査・承認を得ている。
結果と考察
マリネスコ-シェーグレン症候群の主要徴候である先天性白内障は、3才頃に発症し、手術が必要になるほど急激に増悪する傾向にあった。小脳症状は全例に出現するが、乳幼児期は筋緊張低下が主であり、運動発達の獲得により徐々に運動失調が表面化してくるものと推測された。画像上からも小脳虫部優位の萎縮が多いことから、体幹・運動失調優位に出現することが多いと考えられる。
SIL1に変異が認められないにもかかわらず臨床的に鑑別困難な症例も存在したことから、マリネスコ-シェーグレン症候群の遺伝的多様性が示唆されるとともに、マリネスコ-シェーグレン症候群が疑われる症例はSIL1変異スクリーニングを行い、確定診断を行う必要があると考えられた。また骨格筋の縁取り空胞の存在も診断に非常に有用であると考えられる。SIL1変異例14例中13例が共通のハプロタイプを有しており、c.937dupGは本邦のfounder mutationである可能性が示唆された。
モデルメダカの解析では、sil1ナンセンス変異体は少なくとも孵化までの発生は正常に行われることが明らかとなった。過去に報告されたマウスSil1変異系統 woozyにおいても神経変性等の表現型は生後3カ月程度で認められることから、メダカにおけるsil1欠損による生体への影響も経過を追って調べていく必要があると考えられる。
結論
SIL1変異によるマリネスコ-シェーグレン症候群の具体的臨床像を明らかにし、診断基準を作成した。本邦における患者の発症頻度は、10万人当たり1~2人程度であり、その発症は乳幼児期からと早期であるが、生命予後は比較的保たれていることが明らかとなった。本邦のマリネス-シェーグレン症候群にはSIL1に好発変異が存在し、創始者効果の存在が示唆されるとともに、遺伝的多様性の存在も示唆された。筋病理所見上、縁取り空胞の存在はSIL1変異と強く関連しているものと考えられ、診断に有用である。マリネスコ-シェーグレン症候群診断には臨床症状のみならず、遺伝子解析や病理所見が重要であると考えられた。
メダカsil1ナンセンス変異体の作製に成功し、解析を進めるとともに、今後の治療法の開発に向けたシャペロン機能を改善する低分子化合物の探索に向けた取り組みを進めていく。

公開日・更新日

公開日
2013-05-22
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201231084C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本邦好発変異にちかい変異を有するモデルメダカの作製は今後の病態解析ならびに治療法開発において、有用なツールとなると考えられる。
臨床的観点からの成果
本研究で作成した臨床的特徴に基づいた診断基準は、希少疾病であるマリネスコ-シェーグレン症候群の診断ならびに経過観察にきわめて有用であると考えられる。特に本疾患は、乳児期発症であるが、ある程度の発達は認められ、また生命予後が比較的良いこと、白内障が幼児期に急速に進行することから、早期に発見・診断し、視機能の維持を図ることが重要であることが示唆されたことについての臨床的意義は大きい。
ガイドライン等の開発
臨床的特徴に基づいた診断基準を作成した。
その他行政的観点からの成果
特になし
その他のインパクト
特になし

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
23件
その他論文(和文)
4件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
3件
学会発表(国際学会等)
1件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Mitsuhashi S, Ohkuma A, Talim B, et al.
A congenital muscular dystrophy with mitochondrial structural abnormalities caused by defective de novo phosphatidylcholine biosynthesis.
Am J Hum Genet. , 88 (6) , 845-851  (2011)
10.1016/j.ajhg.2011.05.010.
原著論文2
Kawahara G, Hayashi YK.
Characterization of Zebrafish Models of Marinesco-Sjogren Syndrome.
PLoS ONE , 11 , e0165563-  (2016)
10.1371/journal.pone.0165563.
原著論文3
Mitsuhashi S, Hatakeyama H, Karahashi M, et al.
Muscle choline kinase beta defect causes mitochondrial dysfunction and increased mitophagy.
Hum Mol Genet. , 20 (9) , 3841-3851  (2011)
10.1093/hmg/ddr305.
原著論文4
Fujita M, Mitsuhashi H, Isogai S, et al.
Filamin C plays an essential role in the maintenance of the structural integrity of cardiac and skeletal muscles, revealed by the medaka mutant zacro.
Dev Biol. , 361 (1) , 79-89  (2012)
10.1016/j.ydbio.2011.10.008.
原著論文5
Sukigara S, Liang WC, Komaki H, et al.
Muscle glycogen storage disease 0 presenting recurrent syncope with weakness and myalgia.
Neuromuscul Disord. , 22 (2) , 162-165  (2012)
10.1016/j.nmd.2011.08.008.
原著論文6
Suzuki N, Aoki M, Mori-Yoshimura M, et al.
Increase in number of sporadic inclusion body myositis (sIBM) in Japan.
J Neurol. , 259 (3) , 554-556  (2012)
10.1007/s00415-011-6185-8.
原著論文7
Shi Z, Hayashi YK, Mitsuhashi S, et al.
Characterization of the Asian myopathy patients with VCP mutations.
Eur J Neurol. , 19 (3) , 501-509  (2012)
10.1111/j.1468-1331.2011.03575.x.
原著論文8
Furusawa Y, Mori-Yoshimura M, Yamamoto T, et al.
Effects of enzyme replacement therapy on five patients with advanced late-onset glycogen storage disease type II: a 2-year follow-up study.
J Inherit Metab Dis. , 35 (2) , 301-310  (2012)
10.1007/s10545-011-9393-6.
原著論文9
Matsuura T, Minami N, Arahata H, et al.
Myotonic dystrophy type 2 is rare in the Japanese population.
J Hum Genet. , 57 (3) , 219-220  (2012)
10.1038/jhg.2011.152.
原著論文10
Tsuburaya RS, Monma K, Oya Y, et al.
Acid phosphatase-positive globular inclusions is a good diagnostic marker for two patients with adult-onset Pompe disease lacking disease specific pathology.
Neuromuscul Disord. , 22 (5) , 389-393  (2012)
10.1016/j.nmd.2011.11.003.
原著論文11
Suzuki S, Hayashi YK, Kuwana M, et al.
Myopathy associated with antibodies to signal recognition particle: disease progression and neurological outcome.
Arch Neurol. , 69 (6) , 728-732  (2012)
10.1001/archneurol.2011.1728.
原著論文12
Mori-Yoshimura M, Monma K, et al.
Heterozygous UDP-GlcNAc 2-epimerase and N-acetylmannosamine kinase domain mutations in the GNE gene result in a less severe GNE myopathy phenotype compared to homozygous N-acetylmannosamine kinase domain mutations.
J Neurol Sci. , 318 (2012) , 100-105  (2012)
10.1016/j.jns.2012.03.016.
原著論文13
Mori-Yoshimura M, Okuma A, Oya Y, et al.
Clinicopathological features of centronuclear myopathy in Japanese populations harboring mutations in dynamin 2.
Clin Neurol Neurosurg. , 114 (6) , 678-683  (2012)
10.1016/j.clineuro.2011.10.040.
原著論文14
Mori-Yoshimura M, Oya Y, Hayashi YK, et al.
Respiratory dysfunction in patients severely affected by GNE myopathy (distal myopathy with rimmed vacuoles).
Neuromuscul Disord. , 23 (1) , 84-88  (2013)
10.1016/j.nmd.2012.09.007.
原著論文15
Kajino S, Ishihara K, Goto K, et al.
Congenital fiber type disproportion myopathy caused by LMNA mutations.
J Neurol Sci. , 340 (1-2) , 94-98  (2014)
10.1016/j.jns.2014.02.036
原著論文16
Cho A, Hayashi YK, Monma K, et al.
Mutation profile of the GNE gene in Japanese patients with distal myopathy with rimmed vacuoles (GNE myopathy).
J Neurol Neurosurg Psychiatry. , 85 (8) , 914-917  (2014)
10.1136/jnnp-2013-305587
原著論文17
Murakami N, Hayashi YK, Oto Y, et al.
Congenital generalized lipodystrophy type 4 with muscular dystrophy: Clinical and pathological manifestations in early childhood.
Neuromuscul Disord. , 23 (5) , 441-444  (2013)
10.1016/j.nmd.2013.02.005.
原著論文18
Koebis M, Kiyatake T, Yamaura H, et al.
Ultrasound-enhanced delivery of Morpholino with Bubble liposomes ameliorates the myotonia of myotonic dystrophy model mice.
Sci Rep. , 3 , 2242-  (2013)
10.1038/srep02242
原著論文19
Liang WC, Hayashi YK, Ogawa M, et al.
Limb-girdle muscular dystrophy type 2I is not rare in Taiwan.
Neuromuscul Disord. , 23 (8) , 675-681  (2013)
10.1016/j.nmd.2013.05.010
原著論文20
Goto M, Okada M, Komaki H, et al.
A nationwide survey on marinesco-sjogren syndrome in Japan.
Orphanet J Rare Dis , 9 (1) , 58-  (2014)
10.1186/1750-1172-9-58

公開日・更新日

公開日
2017-06-12
更新日
-

収支報告書

文献番号
201231084Z