家族性血小板異常症に関する調査研究

文献情報

文献番号
201231083A
報告書区分
総括
研究課題名
家族性血小板異常症に関する調査研究
課題番号
H23-難治-一般-104
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
黒川 峰夫(東京大学 医学部附属病院)
研究分担者(所属機関)
  • 鈴木憲史(日本赤十字社医療センター)
  • 小松則夫(順天堂大学医学部)
  • 臼杵憲祐(NTT東日本関東病院)
  • 原田浩徳(広島大学原爆放射線医科学研究所)
  • 高橋強志(三井記念病院)
  • 齋藤明子(名古屋医療センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
10,637,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
家族性血小板異常症(familial platelet disorder, FPD)は血小板減少と出血傾向を伴い、高率に白血病に移行する難治性遺伝性疾患であり、白血病関連遺伝子RUNX1(AML1)の変異が病因と考えられている。当疾患については国際的にも有病率・長期予後などの実態は明らかにされていない。本研究は臨床像や疫学・病態にわたってFPDの全容を明らかにし、的確な診断法と治療指針を確立することを目的とする。
研究方法
造血不全症候群の診療に携わる全国の主要な施設約500に対して広くアンケート調査を実施し、血小板減少や白血病の家族歴をもつ家系の概数を予測する調査を行うことにより血小板減少家系の存在を明らかにするとともに、それらの家系につき詳細な経過や家族歴などの臨床情報や血液・口腔粘膜検体を入手する。得られた検体を用いてRUNX1をはじめ、家族性血小板減少・白血病の原因として知られる遺伝子変異について解析を行う。また、FPDから白血病を発症した症例において、白血病発症前後の検体のwhole exome sequenceを行うことで、白血病への進展に際しての責任遺伝子異常の同定を試みる。
結果と考察
血小板減少症の家族歴を認める家系を60家系抽出し、このうち46家系について詳細な臨床情報を入手した。上記の調査と並行して、遺伝子変異同定のため、ダイレクトシークエンス法によるRUNX1変異検出系を構築した。その結果、36家系中、6家系にRUNX1遺伝子変異を認めた。既知の家族性MDS、家族性の白血病の原因となるような遺伝子についてもダイレクトシークエンス法による遺伝子変異検出系を構築し、MYH9遺伝子変異を2家系に、またANKRD26遺伝子変異(5'UTR)を1家系に認めた。また、FPDから白血病を発症した症例において、白血病発症前後の検体のwhole exome sequenceを行うことで、白血病発症の際に新たに生じた遺伝子変異を複数同定した。特にCDC25C遺伝子変異は、RUNX1変異によるDNA損傷状態下においてもG2/Mチェックポイントの破綻をきたし、DNA修復が十分に行われない状態で細胞周期を進める働きがあることから、もともとRUNX1遺伝子変異をもつFPDにおいて、腫瘍形成の基盤を形成する変異であると考えられた。
結論
これまでの研究の結果、本邦にFPD家系を6家系同定した。今後も症例の蓄積を行い、血小板減少や造血器腫瘍の発症年齢、家族内集積の程度とRUNX1変異の有無の関係などFPDの全容を明らかするとともに、FPDの白血病への進展リスクなどを評価し、治療方針の策定を目指す。

公開日・更新日

公開日
2013-06-11
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201231083B
報告書区分
総合
研究課題名
家族性血小板異常症に関する調査研究
課題番号
H23-難治-一般-104
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
黒川 峰夫(東京大学 医学部附属病院)
研究分担者(所属機関)
  • 鈴木憲史(日本赤十字社医療センター)
  • 小松則夫(順天堂大学医学部)
  • 臼杵憲祐(NTT東日本関東病院)
  • 原田浩徳(広島大学原爆放射線医科学研究所)
  • 高橋強志(三井記念病院)
  • 齋藤明子(名古屋医療センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
家族性血小板異常症(familial platelet disorder, FPD)は血小板減少と出血傾向を伴い、高率に白血病に移行する難治性遺伝性疾患であり、白血病関連遺伝子RUNX1(AML1)の変異が病因と考えられている。当疾患については国際的にも有病率・長期予後などの実態は明らかにされてこなかった。そこで当調査研究は、臨床像や疫学・病態にわたってFPDの全容を明らかにし、的確な診断法と治療指針を確立しようとする国際的にも初めての試みとして開始した。
研究方法
造血不全症候群の診療に携わる全国の主要な施設約500に対して広くアンケート調査を実施し、血小板減少や白血病の家族歴をもつ家系の概数を予測する調査を行うことにより血小板減少家系の存在を明らかにするとともに、それらの家系につき詳細な経過や家族歴などの臨床情報や血液・口腔粘膜検体を入手した。得られた検体を用いてRUNX1をはじめ、家族性血小板減少・白血病の原因として知られる遺伝子変異について解析を行った。また、FPDから白血病を発症した症例において、白血病発症前後の検体のwhole exome sequenceを行うことで、白血病への進展に際しての責任遺伝子異常の同定を試みた。
結果と考察
血小板減少家系60家系の存在を明らかにした。また、46家系につき詳細な経過や家族歴などの臨床情報を入手し、36家系の遺伝子検査により、6家系にRUNX1遺伝子変異を認め、FPDと診断した。RUNX1遺伝子変異を認めなかった家系については、家族性に血小板減少症をきたす他の候補遺伝子変異を検索し、血小板減少家系の遺伝子変異プロファイルを明らかにした。さらに、FPDにおいて同定されたRUNX1遺伝子変異の変異体を用いた解析を行い、その意義について検討した。FPDから造血器腫瘍に進展する機序については、その造腫瘍性に関わる協調因子についての検討により、BMI1の高発現がRUNX1遺伝子変異と強調することが明らかになった。また、FPDから白血病を発症した2家系について、白血病発症前後の検体のwhole exome sequenceを行うことで、FPDにおける白血病への進展に際してCDC25C遺伝子変異が2家系3症例に共通して認められることがわかった。これらの遺伝子変異は前白血病段階(骨髄異形成症候群や骨髄線維症の段階)からほぼすべての腫瘍細胞に認められており、造腫瘍性の基盤を形成することが予想された。実際にCCDC25Cの変異体を導入した細胞は、野生型CDC25Cを導入した細胞と比較してmitosis entryが亢進し、放射線障害等のDNA傷害が加わるとさらにその差が顕著になることがわかった。FPDにおける血小板産生低下や血小板機能異常についてさらなる検討を行うため、FPDの1家系から皮膚線維芽細胞を採取し、iPS細胞を樹立した。樹立したFPD_iPS細胞を造血細胞に再分化させると、巨核球系への分化が正常細胞由来のiPS細胞と比較して低下することが示された。
結論
今回の全国調査により血小板減少家系が約60家系存在していることが明らかになり、これまで知られていたよりもその頻度が高いことが明らかとなった。また、6家系のFPD家系が抽出されたが、予想されたよりFPD家系が少なかったことから、今後も本調査研究で構築した症例集積システムを活用したさらなるFPD家系の収集が必要と考えられる。その他の家系の遺伝子変異解析やFPD家系で造血器腫瘍発症前後の遺伝子変異解析を進めることにより、FPDや家族性の血小板減少症の病態を解明し、治療法の開発を目指すべきであると考えられる。これらの知見を集積し、疾患の自然史や長期予後を明らかにし、造血器腫瘍発症の時期の予測や造血幹細胞移植の適応の決定などの治療指針の制定につなげることが今後の課題となる。

公開日・更新日

公開日
2013-06-11
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201231083C

成果

専門的・学術的観点からの成果
家族性血小板異常症(FPD)は極めて稀な遺伝性疾患であり、自然経過や予後、白血病移行の時期などの臨床的な特徴が知られていない。本研究では全国に広く症例を収集することにより疾患の全体像を明らかにすることを目標とした。本調査により64家系の血小板減少家系が収集され、臨床情報や遺伝子変異プロファイルが集積された。FPDの腫瘍発症における原因遺伝子変異を同定し、論文発表した。これにより今後の治療法開発やフォローアップ法方法の確立につながる可能性があると考えられる。
臨床的観点からの成果
FPDは稀な疾患であることからこれまで十分に認知されておらず、診断基準や治療指針についても明らかになっていない。今回初めての全国調査により疾患が全国より広く収集され、遺伝子診断を含めた疾患の正確な診断を行い、臨床情報を収集する基盤が初めて構築された。また、国内の血小板減少家系に関する疫学情報をまとめて論文発表した。引き続き臨床所見を遺伝子変異と関連付けて収集することにより、診断基準や治療指針の策定につなげる。
ガイドライン等の開発
暫定的な診断基準を作成し、全国レベルでその遺伝形式、末梢血血算データ、血小板機能異常の有無、感染症や奇形その他の遺伝性疾患の合併の有無などの病態把握につながるデータを収集している。FPDについての全例に近い症例とその病態を集積し、登録症例の予後から当疾患の長期予後、臨床経過を明らかにする。さらに、遺伝子変異から長期予後を予測する診断指針を策定する。今後、適切なフォローアップ方法、造血幹細胞移植の適応の有無と治療開始時期の最適化など、治療指針の策定を目指す。
その他行政的観点からの成果
現状では、一元的な症例登録システムが存在しないことから、疾患の自然史など予後予測の根拠となる臨床データは皆無で、不十分な治療や過剰な治療による再発・死亡や患者の苦痛を招く可能性がある。しかも、孤発性の造血器腫瘍の症例の中にRUNX1の変異も報告されており、その一部にFPDからの発症が含まれている可能性もあることから、FPDの実際の頻度は過小評価されている可能性が高い。当調査研究による一元的な症例登録により、疾患の実態把握が可能となる。
その他のインパクト
FPDの正確な頻度や進展のリスク、至適な治療法は世界的にも未解決の課題であり、一元的な症例登録システムによる疾患の集積と遺伝子変異解析を組み合わせた研究は、世界的にも例のない独自のものである。また、当疾患患者の皮膚線維芽細胞から樹立したiPS細胞を用いた解析について論文を発表した。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
28件
その他論文(英文等)
53件
学会発表(国内学会)
64件
学会発表(国際学会等)
17件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Yoshimi A, Toya T, Kawazu M et al.
Recurrent CDC25C mutations drive malignant transformation in FPD/AML.
Nature Communications , 5 , 1-9  (2014)
10.1038/ncomms5770
原著論文2
Toya T, Yoshimi A, Morioka T et al.
Development of hairy cell leukemia in familial platelet disorder with predisposition to acute myeloid leukemia
Platelets , 25 (4) , 300-302  (2014)
10.3109/09537104.2013.818636
原著論文3
A. Yoshimi, T. Toya, Y. Nannya et al.
Spectrum of clinical and genetic features of patients with inherited platelet disorder with suspected predisposition to hematological malignancies: a nationwide survey in Japan
Annals of Oncology , 27 (5) , 887-895  (2016)
10.1093/annonc/mdw066
原著論文4
Iizuka H, Kagoya Y, Kataoka K et al.
Targeted gene correction of RUNX1 in induced pluripotent stem cells derived from familial platelet disorder with propensity to myeloid malignancy restores normal megakaryopoiesis
Experimental Hematology , 43 (10) , 849-857  (2015)
10.1016/j.exphem.2015.05.004

公開日・更新日

公開日
2017-06-06
更新日
-

収支報告書

文献番号
201231083Z