インターロイキン1受容体関連キナーゼ4(IRAK4)欠損症の全国症例数把握及び早期診断スクリーニング・治療法開発に関する研究

文献情報

文献番号
201231075A
報告書区分
総括
研究課題名
インターロイキン1受容体関連キナーゼ4(IRAK4)欠損症の全国症例数把握及び早期診断スクリーニング・治療法開発に関する研究
課題番号
H23-難治-一般-096
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
大西 秀典(岐阜大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 加藤 善一郎(岐阜大学医学部附属病院小児科)
  • 杤尾 豪人(京都大学工学研究科)
  • 谷内江 昭宏(金沢大学医薬保健研究域医学系小児科)
  • 高田 英俊(九州大学大学院医学研究院成長発達医学)
  • 西小森 隆太(京都大学大学院医学研究科発達小児科学)
  • 明田 幸宏(大阪大学微生物病研究所感染症国際研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
8,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
自然免疫不全症(IRAK4欠損症、MyD88欠損症など)は、一般的な免疫検査で診断することができず、易感染患者の中にまぎれている可能性が高い。これらの疾患は、難治性で、ときに致死的であるため、早期診断により適切な治療を行う必要がある。本研究では、IRAK4欠損症を対象として、国内での患者発生の実態調査及び早期診断システムの確立、新規治療法の確立に向けた研究を行う。
研究方法
1. IRAK4欠損症が疑われる症例の診断を行った。
2. 対象症例についてフローサイトメーターを利用した迅速診断スクリーニング法で診断を試み、遺伝子解析を行った。
3. 同定された遺伝子変異の病的意義の判定のため、発現ベクターにIRAK4, MyD88等の遺伝子を組み込み、それぞれの遺伝子変異型を導入したものを構築し、タンパク発現、機能解析を行った。
4. 国内のIRAK4欠損症生存症例について血清中の肺炎球菌特異IgG2濃度、肺炎球菌莢膜特異抗体濃度を測定した。
結果と考察
1. H24年度に1例新規のIRAK4欠損症患者が報告された。既知の国内症例と同様、IRAK4の遺伝子型は(c.118insA)のホモ接合性変異であった。国内発生8例全員に生後2週間以上の臍帯脱落遅延が認められた。
2. 患者末梢血のフローサイトメーターを利用した検討は、自然免疫不全症の診断に有効であるが、検査時のステロイド剤等免疫抑制療法の使用の影響を受ける。
3. IRAK4分子のin vitro機能解析系の構築を試みた。dbSNPに記載のある遺伝子型について検討したところ、R20Wは機能減損型の多型であることが判明した。
4. IRAK4欠損症生存症例での肺炎球菌特異的抗体価の測定を行った結果、生存4例とも肺炎球菌特異的IgG2抗体価の上昇が確認されたが、うち3例について血清型23F特異的IgG濃度が0.35μg/ml未満、1例で6B特異的IgG濃度が0.35μg/ml未満であった。
結論
我々の開発した迅速診断スクリーニングシステムは、IRAK4欠損症のみならず自然免疫不全症全般の診断に有効であり、かつ遺伝子型の評価方法確立により確定診断に至れることになる。また、臨床症状として出生後臍帯脱落遅延を認める乳児は、IRAK4欠損症の可能性があるといえる。確定診断された症例については、抗生剤の予防内服に加え、7価肺炎球菌ワクチンを抗体価の推移を追跡しながら複数回接種することで重篤な感染症が予防できる。

公開日・更新日

公開日
2013-05-30
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201231075B
報告書区分
総合
研究課題名
インターロイキン1受容体関連キナーゼ4(IRAK4)欠損症の全国症例数把握及び早期診断スクリーニング・治療法開発に関する研究
課題番号
H23-難治-一般-096
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
大西 秀典(岐阜大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 加藤 善一郎(岐阜大学 医学部附属病院小児科)
  • 杤尾 豪人(京都大学 工学研究科)
  • 谷内江 昭宏(金沢大学 医薬保健研究域医学系小児科)
  • 高田 英俊 (九州大学 大学院医学研究院成長発達医学)
  • 西小森 隆太 (京都大学 大学院医学研究科発達小児科学)
  • 大石 和徳(大阪大学 微生物病研究所感染症国際研究センター)
  • 明田 幸宏(大阪大学 微生物病研究所感染症国際研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
自然免疫不全症(IRAK4欠損症、MyD88欠損症など)は、一般的な免疫検査で診断することができず、易感染患者の中にまぎれている可能性が高い。これらの疾患は、難治性で、ときに致死的であるため、早期診断により適切な治療を行う必要がある。本研究では、IRAK4欠損症を対象として、国内での患者発生の実態調査及び早期診断システムの確立、新規治療法の確立に向けた研究を行う。
研究方法
1. 患者二次調査を施行した。
2. フローサイトメーターを利用した迅速診断スクリーニング法で診断を試み、遺伝子解析を行った。
3. 同定された遺伝子変異の病的意義の判定のため、発現ベクターにIRAK4, MyD88等の遺伝子を組み込み、それぞれの遺伝子変異型を導入したものを構築し、タンパク発現、機能解析を行った。
4. IPD患者及びIRAK4欠損症患者の血清中の肺炎球菌特異IgG濃度、血清OPA titerを測定した。
結果と考察
1. 二次調査から、以下のことが明らかになった。IRAK4欠損症患者7名中4名がすでに死亡しており、3名が生存。主要な感染症罹患歴として, 肺炎球菌, 緑膿菌による侵襲性感染が挙げられ, 死亡例はこのいずれかによって致死的となっていた。また、平成24年度に新規に1症例が診断された。臨床的な特徴として臍帯脱落遅延が挙げられた。IRAK4の遺伝子型は欧米で同定されるものとは異なっていた。
2. 患者末梢血のフローサイトメーターを利用した検討は、自然免疫不全症の診断に有効であるが、検査時のステロイド剤等免疫抑制療法の使用の影響を受ける。
3. IRAK4分子のin vitro機能解析系の構築を試みた。IRAK4タンパク発現が低下するvariantの場合、HEK293細胞に一過性発現後、NF-κB活性の比較が有用であったが、DD上のミスセンス変異(R12C)では発現量、NF-κB活性ともに野生型との差異が確認できない。しかし、IRAK4-DDとMyD88-DDのタンパク間相互作用は、R12C変異導入により減弱するため、IRAK4遺伝子変異型の機能評価には、培養細胞を用いた手法とタンパク間相互作用の手法を組み合わせて検討する必要がある。この方法を利用して、dbSNPに記載のある遺伝子型について検討したところ、R20Wは機能減損型の多型であることが判明した。
4. IRAK4欠損症生存症例での肺炎球菌特異的抗体価の測定を行った結果、生存4例とも肺炎球菌特異的IgG2抗体価の上昇が確認されたが、うち3例について血清型23F特異的IgG濃度が0.35μg/ml未満、1例で6B特異的IgG濃度が0.35μg/ml未満であった。
結論
我々の開発した迅速診断スクリーニングシステムは、IRAK4欠損症のみならず自然免疫不全症全般の診断に有効であり、かつ遺伝子型の評価方法確立により確定診断に至れることになる。また、臨床症状として出生後臍帯脱落遅延を認める乳児は、IRAK4欠損症の可能性があるといえる。確定診断された症例については、抗生剤の予防内服に加え、7価肺炎球菌ワクチンを抗体価の推移を追跡しながら複数回接種することで重篤な感染症が予防できる。

公開日・更新日

公開日
2013-05-30
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201231075C

成果

専門的・学術的観点からの成果
IRAK4及びMyD88のそれぞれのデスドメインの野生型と変異型リコンビナントタンパクを精製し、それぞれの組み合わせについて、タンパク間相互作用を検討したところ、IRAK4とMyD88野生型同士の組み合わせでは、強いタンパク間相互作用を示すが、IRAK4及びMyD88変異型は相手側タンパクの野生型との相互作用が著しく低下することが判明した。つまりこのIRAK4のミスセンス型変異では、タンパク自体の欠損ではなくタンパクは存在するが、相互作用の減弱により疾患が発症しうることが明らかになった。
臨床的観点からの成果
健常者の末梢血をLPS刺激すると単球の90%以上がTNF-αを産生するが、IRAK4欠損症の国内症例のうち4名の患者で、TNF-αの産生が著しく低下が確認された。さらに、類縁疾患である免疫不全症を伴う無汗性外胚葉形成異常症患者も同様にTNF-α産生が低下していた。このことから、自然免疫不全症全般において、本スクリーニングシステムが診断に有用であることがわかる。また、IRAK4欠損症に対する肺炎球菌ワクチンの有効性と不完全性についても評価した。
ガイドライン等の開発
自然免疫不全症の診断フローチャートを考案した。その基盤技術となるのが、フローサイトメーターを利用した迅速診断スクリーニングシステムである。患者血液をリポポリサッカライド添加下で4時間培養し、細胞内TNF-αの産生率を評価することでIRAK4欠損症は約半日の工程で診断可能である。
その他行政的観点からの成果
該当なし
その他のインパクト
平成25年2月15日にKKRホテル東京にてインターロイキン1受容体関連キナーゼ4(IRAK4)欠損症の全国症例数把握及び早期診断スクリーニング・治療法開発に関する研究班会議を開催した。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
23件
その他論文(和文)
9件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
4件
学会発表(国際学会等)
3件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Hori T, Ohnishi H, Teramoto T et al.
Autosomal-Dominant Chronic Mucocutaneous Candidiasis with STAT1-Mutation can be Complicated with Chronic Active Hepatitis and Hypothyroidism.
J Clin Immunol.  (2012)
原著論文2
Ohnishi H, Tochio H, Kato Z et al.
TRAM is involved in IL-18 signaling and functions as a sorting adaptor for MyD88.
PLoS One  (2012)
原著論文3
Nada M, Ohnishi H, Tochio Het al.
Molecular analysis of the binding mode of Toll/interleukin-1 receptor (TIR) domain proteins during TLR2 signaling.
Mol Immunol.  (2012)
原著論文4
Kubota K, Ohnishi H, Teramoto T et al.
In Vitro Analysis of the Functional Effects of an NLRP3 G809S Variant with the co-Existence of MEFV Haplotype Variants in Atypical Autoinflammatory Syndrome.
J Clin Immunol.  (2013)
原著論文5
Oishi T, Ishiwada N, Matsubara K et al.
Low opsonic activity to the infecting serotype in pediatric patients with invasive pneumococcal disease
Vaccine  (2013)

公開日・更新日

公開日
2016-06-13
更新日
-

収支報告書

文献番号
201231075Z