オカルト黄斑ジストロフィーの効果的診断法の確立および病態の解明

文献情報

文献番号
201231073A
報告書区分
総括
研究課題名
オカルト黄斑ジストロフィーの効果的診断法の確立および病態の解明
課題番号
H23-難治-一般-094
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
角田 和繁(独立行政法人国立病院機構東京医療センター 臨床研究センター視覚研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 近藤 峰生(三重大学 大学院医学系研究科臨床医学系講座眼科学)
  • 篠田 啓(帝京大学 医学部眼科学講座)
  • 國吉 一樹(近畿大学 医学部眼科学教室)
  • 町田 繁樹(岩手医科大学 眼科学講座)
  • 上野 真治(名古屋大学 大学院医学系研究科感覚器障害制御学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
8,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
オカルト黄斑ジストロフィーは遺伝性の黄斑部変性症であり難治性の視力低下を来す疾患である。我々は過去に優性遺伝型オカルト黄斑ジストロフィーの原因が視細胞の構造タンパク「RP1L1」の異常によるものであることを解明した。しかし、本疾患には家族性タイプから弧発例タイプまでさまざまな亜型があり、完全な病態の把握には至っていない。本研究の目的は、大家系、多数の小家系・弧発例の疾患病態を多施設間で詳しく調べることで、本疾患の臨床的および分子遺伝学的病態を解明すること。また合わせて、診断基準を明確にすることである。また、臨床的特徴が類似している「眼底所見の正常な錐体ジストロフィー」の患者についても同様の調査を行う。
研究方法
本研究の構成は(A)臨床病態調査、および(B)原因遺伝子検索から構成された。
(A)臨床病態調査については、東京医療センターを中心として、岩手医大、新潟大、帝京大、名古屋大、三重大、愛知医大、近畿大の各分担および協力施設において、患者について詳細な眼科的検査を行った。家族例の場合、可能な限り家系調査を行い、家系内の罹患者および健常者についても眼科的検査を行った。得られた臨床的な情報については、研究代表者が収集、管理した。
(B)原因遺伝子検索については、それぞれの施設で得られた患者および健常者の末梢血が東京医療センター分子細胞生物学研究室に送られ、保管された。抽出されたDNAは、まずRP1L1遺伝子のダイレクトシークエンスによって変異の有無を確認した。RP1L1遺伝子に変異が得られなかった検体については、次世代シーケンサーを用いた全エクソン解析を行い、候補となる複数の遺伝子変異を特定した。それらのデータについて、家系内の患者および健常者の解析結果と比較することで更に原因遺伝子の候補を絞り込んだ。
結果と考察
1) オカルト黄斑ジストロフィーと診断された患者のうち、平成24年12月の時点で49症例についてRP1L1遺伝子の解析が終了した。そのうち、27症例において45番目および960番目のアミノ酸置換が認められた。さらに本年度、4症例については、新たに同定された1199番目のアミノ酸置換が認められた。合計すると、オカルト黄斑ジストロフィー患者49例のうち、31症例においてRP1L1遺伝子に既知の変異が認められた。
現時点で、18症例のオカルト黄斑ジストロフィーについては原因遺伝子が特定されていないが、このうち4症例については、RP1L1遺伝子のこれまでに報告されていない領域に頻度の低い多型が複数個認められている。現在、これらの多型と疾患発症との関係について調査中である。

2) 原因遺伝子の特定できないオカルト黄斑ジストロフィー症例について、全エクソン解析を行い、疾患と関連のある遺伝子異常を抽出した。家系内での比較の結果、本年度新たに他の網膜疾患の原因遺伝子として知られる遺伝子Aが原因候補として考えられた。現在、確認のための追試を行っている。

3) 臨床的にオカルト黄斑ジストロフィーと「眼底所見の正常な錐体ジストロフィー」は非常に近い関係にある。これまでに、8症例について原因遺伝子の検索を行ったところ、1家系3症例においてRP1L1遺伝子のこれまでに報告されていない領域に頻度の低い多型が認められた。現在、この多型と疾患発症との関係について追加調査中である。
結論
最終年度の研究において、これまでに分からなかったオカルト黄斑ジストロフィーの性質、病態がより鮮明になった。すなわち、RP1L1遺伝子以外にも、本疾患の発症に関与すると思われる遺伝子Aが見出された(現在論文投稿に向けて確認中)。本疾患のRP1L1変異について、新規の変異が複数個見つかった(現在論文投稿に向けて確認中)。オカルト黄斑ジストロフィーの病態が、形態学的にも単一でないことが見出され、これまでの概念を再検討する必要性が明らかになった。
今後、他の原因遺伝子の解明、RP1L1遺伝子の詳細な機能解析を引き続き行うとともに、本疾患の全体像を明らかにすることでその診断がより一般的かつ正確に行われることを目指したい。

公開日・更新日

公開日
2013-05-30
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201231073B
報告書区分
総合
研究課題名
オカルト黄斑ジストロフィーの効果的診断法の確立および病態の解明
課題番号
H23-難治-一般-094
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
角田 和繁(独立行政法人国立病院機構東京医療センター 臨床研究センター視覚研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 近藤 峰生(三重大学 大学院医学系研究科臨床医学系講座眼科学)
  • 篠田 啓(帝京大学 医学部眼科学講座)
  • 國吉 一樹(近畿大学 医学部眼科学教室)
  • 町田 繁樹(岩手医科大学 眼科学講座)
  • 上野 真治(名古屋大学 大学院医学系研究科感覚器障害制御学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
オカルト黄斑ジストロフィーは遺伝性の黄斑部変性症であり難治性の視力低下を来す疾患である。我々は過去に優性遺伝型オカルト黄斑ジストロフィーの原因が視細胞の構造タンパク「RP1L1」の異常によるものであることを解明した。しかし、本疾患には家族性タイプから弧発例タイプまでさまざまな亜型があり、完全な病態の把握には至っていない。本研究の目的は、大家系、多数の小家系・弧発例の疾患病態を多施設間で詳しく調べることで、本疾患の臨床的および分子遺伝学的病態を解明すること。また合わせて、診断基準を明確にすることである。また、臨床的特徴が類似している「眼底所見の正常な錐体ジストロフィー」の患者についても同様の調査を行う。
研究方法
本研究の構成は(A)臨床病態調査、および(B)原因遺伝子検索から構成された。
(A)臨床病態調査については、東京医療センターを中心として、岩手医大、新潟大、帝京大、名古屋大、三重大、愛知医大、近畿大の各分担および協力施設において、患者について詳細な眼科的検査を行った。家族例の場合、可能な限り家系調査を行い、家系内の罹患者および健常者についても眼科的検査を行った。得られた臨床的な情報については、研究代表者が収集、管理した。
(B)原因遺伝子検索については、それぞれの施設で得られた患者および健常者の末梢血が東京医療センター分子細胞生物学研究室に送られ、保管された。抽出されたDNAは、まずRP1L1遺伝子のダイレクトシークエンスによって変異の有無を確認した。RP1L1遺伝子に変異が得られなかった検体については、次世代シーケンサーを用いた全エクソン解析を行い、候補となる複数の遺伝子変異を特定した。それらのデータについて、家系内の患者および健常者の解析結果と比較することで更に原因遺伝子の候補を絞り込んだ。
結果と考察
1)オカルト黄斑ジストロフィーと診断された患者のうち、平成24年12月の時点で49症例についてRP1L1遺伝子の解析が終了した。そのうち、27症例において45番目および960番目のアミノ酸置換が認められた。さらに4症例については、新たに同定された1199番目のアミノ酸置換が認められた。合計すると、オカルト黄斑ジストロフィー患者49例のうち、31症例においてRP1L1遺伝子に既知の変異が認められた。
現時点で、18症例のオカルト黄斑ジストロフィーについては原因遺伝子が特定されていないが、このうち4症例については、RP1L1遺伝子のこれまでに報告されていない領域に頻度の低い多型が複数個認められている。現在、これらの多型と疾患発症との関係について調査中である。
2)原因遺伝子の特定できないオカルト黄斑ジストロフィー症例について、全エクソン解析を行い、疾患と関連のある遺伝子異常を抽出した。家系内での比較の結果、他の網膜疾患の原因遺伝子として知られる遺伝子Aが原因候補として考えられた。現在、確認のための追試を行っている。
3)臨床的にオカルト黄斑ジストロフィーと「眼底所見の正常な錐体ジストロフィー」は非常に近い関係にある。これまでに、8症例について原因遺伝子の検索を行ったところ、1家系3症例においてRP1L1遺伝子のこれまでに報告されていない領域に頻度の低い多型が認められた。現在、この多型と疾患発症との関係について追加調査中である。
4)RP1L1変異を持つ症例のうち、一部(10%程度)の症例においては、全視野ERGにおける錐体反応の振幅が若干低下していた。これは、オカルト黄斑ジストロフィーの本来の定義である「全視野ERGが正常」という特徴と相容れないものである。また、光干渉断層計を用いた解析により、黄斑部の視細胞構造が正常であるにもかかわらず黄斑部網膜電図が消失している症例が少数認められた。これらにより、本疾患の病態についての認識を根本的に見直す必要があることが示唆された。
結論
2年間にわたる多施設共同研究による多数症例の臨床的調査および遺伝子検査により、これまでに分からなかったオカルト黄斑ジストロフィーの性質、病態がより鮮明になった。すなわち、RP1L1遺伝子以外にも、本疾患の発症に関与すると思われる遺伝子Aが見出された(現在論文投稿に向けて確認中)。本疾患のRP1L1変異について、新規の変異が複数個見つかった(現在論文投稿に向けて確認中)。オカルト黄斑ジストロフィーの病態が、形態学的にも単一でないことが見出され、これまでの概念を再検討する必要性が明らかになった。
今後、他の原因遺伝子の解明、RP1L1遺伝子の詳細な機能解析を引き続き行うとともに、本疾患の全体像を明らかにすることでその診断がより一般的かつ正確に行われることを目指したい。

公開日・更新日

公開日
2013-05-30
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201231073C

成果

専門的・学術的観点からの成果
共同研究体制によって49症例という多数例を収集することができた。また、RP1L1遺伝子以外に本疾患の発症に関与すると思われる遺伝子Aが見出された(現在論文投稿に向けて確認中)。本疾患のRP1L1変異について、新規の変異が複数個見つかった(現在論文投稿に向けて確認中)。さらにオカルト黄斑ジストロフィーの病態が、遺伝学的、形態学的にも単一でないことが明らかにされた。
臨床的観点からの成果
合計50症例以上の多数例の解析により、遺伝形態、臨床経過、自覚的検査所見、電気生理学的所見、画像検査所見など、多数の観点からオカルト黄斑ジストロフィーの病態を解明することができた。また形態学的、遺伝学的な検査から、本疾患の病因は単一でなく、複数の病因が寄与していることが示された。これらの研究結果はオカルト黄斑ジストロフィーの病態理解を格段に深め、臨床的に意義の大きい成果と思われた。
ガイドライン等の開発
本疾患についての「表現型-遺伝子型関連」は1対1対応ではなく、また表現型も当初の概念より幅が広いことが分かっている。特に最近は、海外も含めてRP1L1遺伝子についての新たな知見も発表されている。
平成26年度に、本疾患のガイドラインの作成について集中的に議論する予定である。
その他行政的観点からの成果
行政施策への反映までは至らなかったものの、本疾患の正確かつ効率的な診断のための指針を示したことで、誤診を減らし、これまで一般的に施行されてきたCT、MRI等の不必要な検査を行わないなどの啓蒙には効果があった。
その他のインパクト
これまで本疾患は眼科医においてすら認知度が低く、ほとんどの症例は複数の一般眼科医に誤診された上で確定診断に至っている。本研究期間における学会、講習会等での広報活動を通じて、我々はまず眼科医に対する本疾患の啓蒙、および将来的な治療法の確立に向けた遺伝学的検査の重要性等を訴えてきた。それらの活動は一定の成果を得たと思われる。

発表件数

原著論文(和文)
3件
原著論文(英文等)
44件
その他論文(和文)
1件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
24件
学会発表(国際学会等)
39件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Tsunoda K, Usui T,Hatase T, et al.
Clinical characteristics of occult macular dystrophy in family with mutation of RP1L1 gene
Retina , 32 (6) , 1135-1147  (2012)
原著論文2
Watanabe K, Tsunoda K, Mizuno Y, et al.
Outer retinal morphology and visual function in patients with idiopathic epiretinal membrane
JAMA Ophthalmol , 131 (2) , 172-177  (2013)
原著論文3
Tsunoda K, Watanabe K, Akiyama K, et al.
Highly reflective foveal region in optical coherence tomography in eyes with vitreomacular traction or epiretinal membrane
Ophthalmology , 119 (3) , 581-587  (2012)
原著論文4
Tsunoda K, Fujinami K, Miyake Y
Selective abnormality of the cone outer segment tip line in acute zonal occult outer retinopathy as observed by Fourier domain optical coherence tomography
Arch Ophthalmol , 129 (8) , 1099-1101  (2011)
原著論文5
Nojima K, Hosono K, Kondo M, et al.
Clinical features of a Japanese case with Bothnia dystrophy
Ophthalmic Genet , 33 , 83-88  (2012)
原著論文6
Fujita K, Matsumoto CS, Shinoda K, et al.
Low luminance visual acuity in patients with central serous chorioretinopathy
Clin Exp Optometory , 96 (1) , 100-105  (2013)
原著論文7
Matsumoto CS, Shinoda K, Satofuka S, et al.
Stiles-Crawford effect in focal macular ERGs from macaque monkey
Journal of Vision , 12 (3)  (2012)
pii: 6. doi: 10.1167/12.3.6
原著論文8
Suzuki W, Tsunoda K, Hanazono G et al.
Stimulus-induced changes of reflectivity detected by optical coherence tomography in macaque retina
Invest Ophthalmol Vis Sci , 54 (9) , 6345-6354  (2013)
doi: 10.1167/iovs.13-12381
原著論文9
Yamazaki R, Tsunoda K, Noda T et al.
Fundus auofluorescence imaging in patient with juvenile form of galactosialidosis
Ophthalmic Surgery Lasers & Imaging Retina , in press- doi: 10.3928/23258160-20140425-01

公開日・更新日

公開日
2017-06-12
更新日
-

収支報告書

文献番号
201231073Z