孔脳症の遺伝的要因の解明

文献情報

文献番号
201231066A
報告書区分
総括
研究課題名
孔脳症の遺伝的要因の解明
課題番号
H23-難治-一般-087
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
才津 浩智(横浜市立大学 医学部遺伝学)
研究分担者(所属機関)
  • 萩野谷 和裕(東北大学 小児科)
  • 加藤 光広(山形大学 小児科)
  • 小坂 仁(神奈川県立こども医療センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
9,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
孔脳症(porencephaly)は、大脳半球内に脳室との交通を有する嚢胞または空洞がみられる先天異常で、片側の側脳室体部に隣接する脳実質に観察されることが多い。脳性麻痺、特に片麻痺の重要な原因である。諸外国においては、発症率は10万人に0.5-3.5人程度とされるが、本邦での正確な頻度は不明であった。胎生期における梗塞や出血といった脳循環障害により発生すると推測され、脈管構造の基底膜に発現するIV型コラーゲンα1鎖をコードするCOL4A1遺伝子の変異が報告されていたが、孔脳症におけるCOL4A1変異の割合に関して、多数例での検討はなされていなかった。本年度の研究では、孔脳症、および孔脳症と同様に脳循環障害により発生する可能性が示唆されている裂脳症におけるCOL4A1変異の関与について検討を行った。また、本邦における孔脳症の発生率の検討も行った。
研究方法
本研究では、COL4A1遺伝子の変異解析をHigh resolution melting法を用いた効率的スクリーニングシステムを用いて行った。また、孔脳症・裂脳症の発生率を明らかにすることを目的とし、宮城県において疫学調査を実施した。
結果と考察
COL4A1遺伝子変異は孔脳症61症例中10症例(16%)に認められた。また、裂脳症において、10症例中5例でCOL4A1変異を認め、裂脳症も孔脳症と同様に、脳血管障害によって引き起こされるという遺伝学的証拠を、世界に先駆けて明らかにした。また、COL4A1変異15症例の詳細な臨床所見の検討により、1) 石灰化を伴うような、TORCH症候群を疑う症例においてもCOL4A1変異が関与している、2) 既報の目や筋肉の異常のみならず、原因不明の溶血性貧血もCOL4A1変異と関連している、といった新たな所見も得られた。本研究班は、孔脳症・裂脳症患者71例中、実に15例(21%)においてCOL4A1変異を同定しており、孔脳症・裂脳症における遺伝子診断の重要性が明らかとなった(Ann Neurol, 2013)。また、宮城県における孔脳症、裂脳症のおおよその発生率は出生10万対13.5(95%CI 6.1-20.9), 1.0(95%CI 0-3.1)人と推定され、孔脳症は諸外国に比し本邦での発生率が高いことが明らかになった。
結論
COL4A1遺伝子異常によるIV型コラーゲンの異常が、孔脳症や裂脳症といった脳血管障害の遺伝要因として深く関与していることを明らかにした。これまで周産期障害が原因と考えられていた病態に、遺伝子異常が広く関与していたことから、孔脳症の診断・管理において、遺伝子診断が重要であると考えられる。

公開日・更新日

公開日
2013-05-15
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201231066B
報告書区分
総合
研究課題名
孔脳症の遺伝的要因の解明
課題番号
H23-難治-一般-087
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
才津 浩智(横浜市立大学 医学部遺伝学)
研究分担者(所属機関)
  • 萩野谷 和裕(東北大学 小児科)
  • 加藤 光広(山形大学 小児科)
  • 小坂 仁(神奈川県立こども医療センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
孔脳症(porencephaly)は、大脳半球内に脳室との交通を有する嚢胞または空洞がみられる先天異常で、片側の側脳室体部に隣接する脳実質に観察されることが多い。脳性麻痺、特に片麻痺の重要な原因である。諸外国においては、発症率は10万人に0.5-3.5人程度とされるが、本邦での正確な頻度は不明であった。胎生期における梗塞や出血といった脳循環障害により発生すると推測され、脈管構造の基底膜に発現するIV型コラーゲンα1鎖をコードするCOL4A1遺伝子の変異が、少数の家族例で報告されていた。しかしながら、大多数を占める弧発例におけるCOL4A1変異の検討はなされていなかった。本研究は、孔脳症における遺伝要因の解明を目的として、COL4A1およびCOL4A1と機能的に関連する遺伝子の変異解析を行った。また、本邦における孔脳症の発生率の検討も行った。
研究方法
本研究では、COL4A1遺伝子およびその機能的関連遺伝子の変異解析をHigh resolution melting法を用いた効率的スクリーニングシステムを用いて行った。また、孔脳症・裂脳症の発生率を明らかにすることを目的とし、宮城県において疫学調査を実施した。
結果と考察
孔脳症の2例において、α1鎖とヘテロトリマーを形成し、血管基底膜の安定性に関与するIV型コラーゲンα2鎖(COL4A2)のミスセンス変異を同定した。これら2つの変異は正常検体400例で認められない変異であった。COL4A2変異の1例は変異同定後に、家族例であることが判明した。孔脳症の患児、左上肢の軽微な単麻痺を呈する母親、先天性の片麻痺を呈する母方の伯父、明らかな臨床所見を認めない母方祖父にそれぞれ変異を認めた。頭部MRI画像では片側性あるいは両側性の孔脳症が認められ、その程度も様々であった。このことから、COL4A2変異は片側性から両側性まで、また胎児期の脳出血による脳性麻痺から左上肢の軽微な単麻痺や無症候性のキャリアーまで、幅広い表現型を引き起こすと考えられた(Am J Hum Genet, 2012)。
COL4A1遺伝子変異は孔脳症61症例中10症例(16%)に認められた。また、孔脳症と同様に脳循環障害により発生する可能性が示唆されている裂脳症では、10症例中5例でCOL4A1変異を認め、裂脳症も孔脳症と同様に、脳血管障害によって引き起こされるという遺伝学的証拠を、世界に先駆けて明らかにした。また、COL4A1変異15症例の詳細な臨床所見の検討により、1) 石灰化を伴うような、TORCH症候群を疑う症例においてもCOL4A1変異が関与している、2) 既報の目や筋肉の異常のみならず、原因不明の溶血性貧血もCOL4A1変異と関連している、といった新たな所見も得られた。本研究班は、孔脳症・裂脳症患者71例中、実に15例(21%)においてCOL4A1変異を同定しており、孔脳症・裂脳症における遺伝子診断の重要性が明らかとなった(Ann Neurol, 2013)。また、宮城県における孔脳症、裂脳症のおおよその発生率は出生10万対13.5(95%CI 6.1-20.9), 1.0(95%CI 0-3.1)人と推定され、孔脳症は諸外国に比し本邦での発生率が高いことが明らかになった。
結論
COL4A1/COL4A2遺伝子異常によるIV型コラーゲンの異常が、孔脳症や裂脳症といった脳血管障害の遺伝要因として深く関与していることを明らかにした。これまで周産期障害が原因と考えられていた病態に、遺伝子異常が広く関与していたことから、孔脳症の診断・管理において、遺伝子診断が重要であると考えられる。

公開日・更新日

公開日
2013-05-15
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201231066C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究により、弧発例の孔脳症においてCOL4A1およびCOL4A2遺伝子変異の関与が明らかになったことは、約2割の孔脳症症例においては、血管基底膜の安定性に関与するIV型コラーゲンヘテロトリマー(α1α1α2)の異常が、血管脆弱性を引き起こし、胎児期の脳血管障害を引き起こすことを明らかにした画期的な研究成果である。これは、孔脳症の遺伝子診断の分子基盤の整備のみならず、その治療・予防法の開発にむけた大きな一歩である。
臨床的観点からの成果
本研究は、孔脳症の診療において、COL4A1およびCOL4A2遺伝子異常の検索の必要性を喚起する画期的な研究成果である。また、今後変異症例が蓄積することにより、特定の遺伝子変異による臨床病型の確立、および遺伝子異常に基づいた管理・治療方針の決定を可能にする、重要な成果である。孔脳症の遺伝子診断と遺伝カウンセリングは、医師のみならず患者およびそのご家族にとって大変有用である。
ガイドライン等の開発
裂脳症・孔脳症の診断の手引きと診断概要を作成した。
診断概要(http://www.shouman.jp/details/11_3_5.html)
診断の手引き(http://www.shouman.jp/instructions/11_3_5/)
その他行政的観点からの成果
現時点で行政施策への反映は明らかではない
その他のインパクト
COL4A1変異のもたらす表現型に関する研究成果は(Yoneda et al., Annals of Neurology 2013)、記者発表を行い、多数のWebニュースで取り上げられた。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
68件
その他論文(和文)
2件
その他論文(英文等)
1件
学会発表(国内学会)
42件
学会発表(国際学会等)
2件
その他成果(特許の出願)
1件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Yoneda Y, Haginoya K, Arai H, et al.
De novo and inherited mutations in COL4A2, encoding the type IV collagen α2 chain cause porencephaly.
American Journal of Human Genetics , 90 (1) , 86-90  (2012)
原著論文2
Saitsu H, Kato M, Osaka H, et al.
CASK aberrations in male patients with Ohtahara syndrome and cerebellar hypoplasia.
Epilepsia , 53 (8) , 1441-1449  (2012)
原著論文3
Saitsu H, Kato M, Koide A, et al.
Whole exome sequencing identifies KCNQ2 mutations in Ohtahara syndrome.
Annals of Neurology , 72 (2) , 298-300  (2012)
原著論文4
Yoneda Y, Haginoya K, Kato M, et al.
Phenotypic spectrum of COL4A1 mutations: porencephaly to schizencephaly.
Annals of Neurology , 73 (1) , 48-57  (2013)
原著論文5
Saitsu H, Nishimura T, Muramatsu K, et al.
De novo mutations in the autophagy gene WDR45 cause static encephalopathy of childhood with neurodegeneration in adulthood.
Nature Genetics , 45 (4) , 445-449  (2013)
原著論文6
Nakamura K, Kodera H, Akita T, et al.
De Novo mutations in GNAO1, encoding a Gαo subunit of heterotrimeric G proteins, cause epileptic encephalopathy.
American Journal of Human Genetics , 93 (3) , 496-505  (2013)

公開日・更新日

公開日
2017-06-06
更新日
-

収支報告書

文献番号
201231066Z