多発肝のう胞症に対する治療ガイドライン作成と試料バンクの構築

文献情報

文献番号
201231060A
報告書区分
総括
研究課題名
多発肝のう胞症に対する治療ガイドライン作成と試料バンクの構築
課題番号
H23-難治-一般-081
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
大河内 信弘(筑波大学 医学医療系)
研究分担者(所属機関)
  • 福永 潔(筑波大学 医学医療系)
  • 野口 雅之(筑波大学 医学医療系)
  • 竹内 朋代(筑波大学 医学医療系)
  • 工藤 正俊(近畿大学 医学部)
  • 川岸 直樹(東北大学病院 臓器移植医療部)
  • 乳原 善文(虎の門病院腎センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
9,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
1.多発肝のう胞症(Polycystic Liver Disease, 以下PCLD)の原因遺伝子としてPRKCSHとSEC63が同定されているが,遺伝子変異の種類は人種によって様々であった.日本のPCLD患者の試料を使った遺伝子解析の報告はなく,これを本研究の目的とした.
2.PCLDに対する治療法については大規模なコホート研究もなく,治療法選択は主治医の判断に委ねられているのが現状である.本研究ではPCLD患者に対する治療経験を有する全国の医療機関に対しアンケート調査を行い,本邦におけるPCLD治療の実態を明らかにし,治療指針を提示することを目的とした.
研究方法
1. 組織を用いた形態学的解析および分子生物学的解析
海外における遺伝子変異解析の文献を参考にして,プライマー設計ソフトを使ってPRKCSH及びSEC63のプライマーを設計,作製した.このプライマーを用いて,PCLD試料バンクで保存している試料から抽出したDNAのPCRを行った.PCR産物を精製して,ダイレクトシークエンスを行った.本研究の遂行においては筑波大学内の倫理委員会において許可を得ており,また,ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針(平成16年文部科学省・厚生労働省・経済産業省告示第1号),疫学に関する倫理指針および臨床研究に関する倫理指針を遵守した.
2. 治療ガイドラインの作成
全国102施設,252名のPCLD患者を対象として第3次アンケート調査を行った.調査期間は平成23年6月1日〜12月20日とした.アンケート項目は年齢,性別,多発性嚢胞腎の有無,病型,治療適応となった症状,治療前PS,治療前腎機能,治療方法,嚢胞内容穿刺吸引で併用された硬化剤,合併症,治療効果の継続期間とした.
結果と考察
1. 組織を用いた形態学的解析および分子生物学的解析
PCRの増幅効率は症例やエクソンによりまちまちであった. PCRで得られた産物を精製してダイレクトシークエンスを行った.PRKCSH遺伝子の解析では,変異は認められなかった.SEC63遺伝子は複数の変異が認められた.特にエクソン18では解析を行った15症例のうち12症例で変異が認められ,そのうち11症例でc.2155aの1塩基欠失が認められた.PCLDを発症していない患者の肝組織6症例を用いてエクソン18の塩基配列を調べたところ,全て野生型の塩基配列であった.
これより,この変異はPCLD患者に特異的に認められる変異である可能性が高い.しかし,PCLDの発症により生じる体細胞変異であるのか,家系的に引継がれている生殖細胞系列の変異であるのかは不明である.これまで文献的に報告されている変異は生殖細胞系列変異であるが,今回同定された変異はこれまでに報告がなく,同一患者の血液の入手ができないために体細胞変異であるか生殖細胞系列の変異であるか解析することが難しい.さらに遺伝子変異の認められた症例の中には免疫組織化学染色でSEC63タンパクの発現が認められなかった症例も含まれており,この変異がPCLDの原因となる何らかの異常を引き起こす可能性が示唆された.今回,新たに見つかった遺伝子変異について詳細に調べるためにも血液検体などを利用した多数の症例の解析が必要であると考えられた.
2. 治療ガイドラインの作成
86施設,202人のPCLD患者に対し,のべ281件の治療が行われていた.治療の内訳は嚢胞内容穿刺吸引・硬化療法152件(54.1%),嚢胞開窓術53件(18.9%),肝切除44件(15.7%),肝移植13件(4.6%),その他19件(6.8%)であった.合併症発生率は嚢胞内容穿刺吸引・硬化療法,嚢胞開窓術,肝切除,肝移植の順に23%,28.3%,31.8%,61.5%であり,治療侵襲が高度になるにつれ増加した.病型毎の治療効果継続率は,I型ではオレイン酸モノエタノールアミンを併用した嚢胞内容穿刺吸引・効果療法,肝切除,嚢胞開窓術の順に,II型およびIII型では肝移植,肝切除,嚢胞開窓術,嚢胞内容穿刺吸引・硬化療法の順に成績良好な傾向であった.
結論
1.SEC63遺伝子に複数の遺伝子変異が認められた.特にエクソン18に変異が認められ,これらの症例の中には免疫組織化学染色で陰性のものも含まれており,PCLDの原因となる何らかの異常を引き起こす可能性が示唆された.
2.本邦におけるPCLDの治療方針として,I型に対してはオレイン酸モノエタノールアミンを併用した嚢胞内容穿刺吸引・硬化療法,II型に対しては肝切除,III型に対しては肝移植が第一選択として妥当と考えられる.但し実際の臨床では症例毎に検討が必要であり,特に,肝移植以外は根治的治療ではないことを十分にインフォームドコンセントする事が重要である.

公開日・更新日

公開日
2013-05-23
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201231060B
報告書区分
総合
研究課題名
多発肝のう胞症に対する治療ガイドライン作成と試料バンクの構築
課題番号
H23-難治-一般-081
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
大河内 信弘(筑波大学 医学医療系)
研究分担者(所属機関)
  • 福永 潔(筑波大学 医学医療系)
  • 野口 雅之(筑波大学 医学医療系)
  • 竹内 朋代(筑波大学 医学医療系)
  • 工藤 正俊(近畿大学 医学部)
  • 川岸 直樹(東北大学病院 臓器移植医療部)
  • 乳原 善文(虎の門病院腎センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
希少疾患である多発肝のう胞症(Polycystic Liver Disease, 以下PCLD)の実態を把握し効果的な治療方針を定めるためには,全国的な規模で患者の基本情報や血液,のう胞穿刺から得られた細胞ならびに切除組織などを利用して,総合的かつ詳細に調査・研究を進める必要がある.本研究はPCLDの病態を解明し,診断および治療方針を決定する上で重要な項目を明確にし,治療ガイドラインを作成することを目的とする.
研究方法
1. 本邦のPCLD患者の実態調査(全国アンケート調査)
全国の肝疾患及び難治性疾患を専門とした医療機関490施設を対象にPCLD患者の有無,患者数,治療の有無を把握するためアンケート調査を行った.その結果,167施設で500名のPCLD患者が診療を受けており(1次アンケート調査),そのうち治療を受けている患者は102施設,252名であった(2次アンケート調査).この患者を対象として第3次アンケート調査を行った.アンケート項目は年齢,性別,多発性嚢胞腎の有無,病型,治療適応となった症状,治療前PS,治療前腎機能,治療方法,嚢胞内容穿刺吸引で併用された硬化剤,合併症,治療効果の継続期間とした.
2.試料の収集
上記実態調査をもとに,治療を実施した医療施設に対してPCLD試料のバンキングへの協力を依頼した.本研究の遂行においては筑波大学内の倫理委員会において許可を得ており,また,ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針(平成16年文部科学省・厚生労働省・経済産業省告示第1号),疫学に関する倫理指針および臨床研究に関する倫理指針を遵守した.
3.組織を用いた形態学的解析および分子生物学的解析
海外でPCLD患者に遺伝子変異が報告されているPRKCSH及びSEC63について解析を行った.プライマー設計ソフトを使用し,設計,作製したプライマーを用いて,PCLD試料バンクで保存している試料から抽出したDNAのPCRを行った. PCR産物を精製して,ダイレクトシークエンスを行った.塩基配列のホモロジー検索を行い,変異の有無を検証した.
結果と考察
1.本邦のPCLD患者の実態調査(全国アンケート調査)
86施設,202人のPCLD患者に対し,のべ281件の治療が行われていた.治療の内訳は嚢胞内容穿刺吸引・硬化療法152件(54.1%),嚢胞開窓術53件(18.9%),肝切除44件(15.7%),肝移植13件(4.6%),その他19件(6.8%)であった.合併症発生率は治療侵襲が高度になるにつれ増加した.病型毎の治療効果継続率は,I型ではオレイン酸モノエタノールアミンを併用した嚢胞内容穿刺吸引・効果療法,肝切除,嚢胞開窓術の順に,II型およびIII型では肝移植,肝切除,嚢胞開窓術,嚢胞内容穿刺吸引・硬化療法の順に成績良好な傾向であった.
2.試料の収集とバンキング
7施設,17症例(22検体)のPCLD患者の試料を収集した.
3. 組織を用いた形態学的解析および分子生物学的解析
PCRの増幅効率は症例やエクソンによりまちまちであった.PRKCSH遺伝子の解析では変異は認められなかった.SEC63遺伝子は複数の変異が認められた.特にエクソン18では解析を行った15症例のうち12症例で変異が認められた.PCLDを発症していない患者の肝組織では全て野生型の塩基配列であった.これより,この変異はPCLD患者に特異的である可能性が高く,この変異がPCLDの原因となる何らかの異常を引き起こす可能性が示唆された.今回,新たに見つかった遺伝子変異について詳細に調べるためにも血液検体などを利用した多数の症例の解析が必要であると考えられた.
4.多発性肝嚢胞治療ガイドラインの作成
本研究班の成果とこれまでの報告に基づき,現時点での本邦におけるPCLDの治療適応,方法,結果についてまとめた.ランダム化比較試験や前向き試験などのエビデンスレベルの高い報告がないため,本診療ガイドラインでは治療の推奨度を示すことはできないが,PCLDの診療にあたり,参考にして頂けるものと考えている.
結論
1. 本邦におけるPCLDの治療方針として,I型に対してはオレイン酸モノエタノールアミンを併用した嚢胞内容穿刺吸引・硬化療法,II型に対しては肝切除,III型に対しては肝移植が第一選択として妥当と考えられる.
2. バンキングした試料において,PRKCSH遺伝子の遺伝子変異は認められなかった. SEC63遺伝子については複数の遺伝子変異が認められ,特にSEC63遺伝子のエクソン18で多くの症例で同一の変異が認められ,これらの症例の中には免疫組織化学染色で陰性のものも含まれており,PCLDの原因となる何らかの異常を引き起こす可能性が示唆された.
3. PCLD診療ガイドラインを作成した.

公開日・更新日

公開日
2013-05-23
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201231060C

成果

専門的・学術的観点からの成果
日本の多発肝のう胞症患者の試料で原因遺伝子を解析した.PRKCSH遺伝子には変異を認めなかった.SEC63遺伝子には複数の変異が認められ,特にエクソン18の変異は患者特異的である可能性が高いことが判明した.遺伝子変異の認められた症例の中には免疫組織化学染色でSEC63タンパクの発現が認められなかった症例も含まれており,この変異が疾患の原因となる何らかの異常を引き起こす可能性が示唆された.
臨床的観点からの成果
本邦86施設の医療機関における202人の多発肝のう胞患者に対する治療の詳細をアンケートにて調査した.のべ281件の治療が行われており,治療の内訳は嚢胞内容穿刺吸引・硬化療法152件(54.1%),嚢胞開窓術53件(18.9%),肝切除44件(15.7%),肝移植13件(4.6%),その他19件(6.8%)であった.合併症発生率は嚢胞内容穿刺吸引・硬化療法,嚢胞開窓術,肝切除,肝移植の順に23%,28.3%,31.8%,61.5%であった.
ガイドライン等の開発
アンケート結果から判明した各治療の効果と合併症,およびこれまでの報告に基づいて,現時点での本邦における多発肝のう胞患者に対する治療適応,方法,結果についてまとめ,『多発性肝嚢胞診療ガイドライン』を作成した.病型別の治療方針については,多発性肝嚢胞I型に対してはオレイン酸モノエタノールアミンを併用した嚢胞内容穿刺吸引・硬化療法,II型に対しては肝切除,III型に対しては肝移植が第一選択として妥当と考えられた.
その他行政的観点からの成果
本研究では多発肝のう胞症を対象とし,患者の臨床情報および手術検体等の試料を収集し,個人情報を十分に配慮した上で,管理・保存するシステム(情報・試料バンク)を構築した.このシステムにより,研究者に対して,十分な情報と試料を提供することが可能となり,疾患原因の解明や治療法の確立に寄与すると考えられる.また,このバンクシステムは希少疾患の研究を効率よく行うことができる体制を整備するために有用であり,他の難治性疾患への応用も可能である.
その他のインパクト
多発肝のう胞症の治療である,嚢胞内容穿刺吸引・硬化療法と肝動脈塞栓療法については本邦の第一人者の治療経験を集積することができた.また,肝移植については本邦で行われたほぼ全ての症例の情報を集積することができ,現在の治療実態を詳細に検討することが可能であった.

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
1件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
1件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
小川光一,福永潔,大河内信弘 他
本邦における多発肝嚢胞症のアンケート調査
肝臓 , 52 (11) , 709-715  (2011)
原著論文2
Ogawa K,Fukunaga K,Takeuchi T etal
Current treatment status of polycystic liver disease in Japan.
Hepatology Research , 44 (11) , 1110-1118  (2014)
10.1111/hepr.12286

公開日・更新日

公開日
2018-05-22
更新日
-

収支報告書

文献番号
201231060Z