ベスレムミオパチーとその類縁疾患の診断と病態に関する研究

文献情報

文献番号
201231057A
報告書区分
総括
研究課題名
ベスレムミオパチーとその類縁疾患の診断と病態に関する研究
課題番号
H23-難治-一般-077
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
西野 一三((独)国立精神・神経医療研究センター 神経研究所疾病研究第一部)
研究分担者(所属機関)
  • 林 由起子((独)国立精神・神経医療研究センター 神経研究所疾病研究第一部 )
  • 樋口 逸郎(鹿児島大学大学院 医歯学総合研究科)
  • 米川 貴博((独)国立精神・神経医療研究センター 神経研究所疾病研究第一部 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
VI型コラーゲンをコードするCOL6A1,COL6A2,COL6A3遺伝子の変異によって発症するベスレムミオパチー(BM)とウルリッヒ型先天性筋ジストロフィー(UCMD)の患者データベースの構築、両疾患の病態解明・治療法開発研究を促進するためのデータを得ることを目的とした。また、実験的治療としてヒトリコンビナントトロンボモジュリン(rTM)のVI型コラーゲン欠損線維芽細胞に対する効果を明らかにする。
研究方法
本研究班で自然歴の解析対象としたUCMD33例のうち、遺伝子変異未解析の12例について、COL6A1,COL6A2,COL6A3の全エクソン、隣接イントロンを直接シークエンス法で解析した。遺伝学的に確定した19例について、遺伝子型表現型相関を解析した。BM症例の長期経過の解析を行い、根本的な治療法開発とは別に患者の機能予後を改善する方法を探索した。関節拘縮や過伸展を伴うミオパチー2例について次世代シーケンサーシステムを用いて遺伝子変異探索を行った。rTMをVI型コラーゲン欠損線維芽細胞に添加し、接着能と生存率の改善を解析した。
結果と考察
骨格筋VI型コラーゲン完全欠損は、recessiveかつVI型コラーゲン蛋白を形成できない変異によって起こり、運動機能は最重症の経過をとる。筋線維鞘特異欠損例はtriple helical domainのdominant de novo変異で起こり、COL6A1,COL6A2,COL6A3の各triple helical domainとそこに生ずる変異の種類によって多様な表現型異質性をとる。COL6A1 c.850G>A(p.Gly284Arg)変異は筋線維鞘特異欠損を呈するが、完全欠損に近い重症の例から14歳まで歩行可能な比較的軽症の例まであり、同一の遺伝子変異であっても広い表現型異質性を示す。遺伝子変異型から骨格筋におけるVI型コラーゲン蛋白発現パターンは予測可能であるが、臨床像を予測することは容易ではない。triple helical domainのどのような部位がVI型コラーゲンのアッセンブリーにより影響を与えうるかを明らかにすることで、臨床像の予測につながる可能がある。BMでは、リハビリテーションやアキレス腱延長術などの整形外科的治療の有効性を明らかにした。関節拘縮や過伸展を伴うミオパチー2例は、次世代シークエンサーによってそれぞれCOL6A1、COL6A2のヘテロ接合性変異が明らかとなり、遺伝学的にUCMDと診断した。劣性遺伝を呈するBMや軽症のUCMDは見逃されている可能性が高いと思われ、次世代シークエンサーシステムを利用した再検討を行うことで、効率的に新たな症例を発掘できる。rTMはVI型コラーゲン欠損線維芽細胞の細胞接着能を改善した。
結論
骨格筋VI型コラーゲン異常型と遺伝子変異型の間には相関が認められる。完全欠損例は筋線維鞘特異欠損例より少なくとも運動機能について重症である。筋線維鞘特異欠損はtriple helical domainのdominant de novo変異で起こるが、COL6A1,COL6A2,COL6A3の各triple helical domainとそこに生ずる変異の種類によって多様な表現型異質性を示し、運動機能の予測は困難である。UCMDやBMの非定型例は見逃されている可能性が高いと考えられたが、次世代シークエンサーシステムを利用した患者の再検討は遺伝学的な診断効率を向上する。rTMはCOL6関連筋疾患の治療に応用できる可能性がある。

公開日・更新日

公開日
2013-05-22
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201231057B
報告書区分
総合
研究課題名
ベスレムミオパチーとその類縁疾患の診断と病態に関する研究
課題番号
H23-難治-一般-077
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
西野 一三((独)国立精神・神経医療研究センター 神経研究所疾病研究第一部)
研究分担者(所属機関)
  • 林由 起子((独)国立精神・神経医療研究センター 神経研究所疾病研究第一部 )
  • 樋口 逸郎(鹿児島大学大学院 医歯学総合研究科)
  • 米川 貴博((独)国立精神・神経医療研究センター 神経研究所疾病研究第一部 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
VI型コラーゲンをコードするCOL6A1,COL6A2,COL6A3遺伝子の変異によって発症するベスレムミオパチー(BM)とウルリッヒ型先天性筋ジストロフィー(UCMD)の患者データベースを構築し、両疾患の病態解明・治療法開発研究を促進するためのデータを得ること。
研究方法
BM20例を対象に臨床情報を解析した。BM1家系のCOL6A1,COL6A2,COL6A3遺伝子変異解析を行った。遺伝学的に確定された2家系から長期経過を解析し、根本的な治療法開発とは別に患者の機能予後を改善する方法を探索した。
UCMD49例を対象にCOL6A1,COL6A2,COL6A3遺伝子変異解析を行った。そのうち33例の臨床情報、歩行、呼吸機能、脊柱変形の自然経過を解析した。さらに、遺伝子変異が同定された19例について遺伝子型表現型の相関解析を行った。
劣性遺伝形式を呈するBMや軽症のUCMDは見逃されている可能性が高いと思われ、疑い例ではCOL6A1,COL6A2,COL6A3と共に関連蛋白の各遺伝子群について次世代シークエンサーを用いた解析を行った。
UCMD患者由来線維芽細胞でmRNA監視機構を抑制すると、欠損していたVI型コラーゲンが一部合成され細胞機能が改善する。これらの治療薬とヒトリコンビナントトロンボモジュリン(rTM)との併用が有効な治療となりうるかどうかを明らかにするため、rTMをVI型コラーゲン欠損線維芽細胞に添加し接着能と生存率を解析する。
結果と考察
BM1家系についてp.Lys319Argヘテロ接合性変異を同定した。BMでは早期の足関節拘縮が特徴であり、歩行障害は筋力低下よりも尖足によって生じる。リハビリテーションやアキレス腱延長術などの整形外科的治療が有効である。BMの骨格筋VI型コラーゲン異常は筋線維鞘特異欠損で、1例では正常と見誤る程度の筋線維鞘特異欠損であった。
UCMDにおける骨格筋VI型コラーゲン完全欠損は、recessiveかつVI型コラーゲンを産生しない変異で起こり、運動機能は最重症の経過をとる。筋線維鞘特異欠損はtriple helical domainのde novoヘテロ接合性変異で起こり、COL6A1,COL6A2,COL6A3の各triple helical domainとそこに生ずる変異の種類によって多様な表現型異質性をとる。COL6A1 c.850G>A(p.Gly284Arg)変異は筋線維鞘特異欠損を呈するが、完全欠損に近い重症の例から14歳まで歩行可能な比較的軽症の例まであり、同一の遺伝子変異であっても広い表現型異質性がみられる。遺伝子変異型から骨格筋のVI型コラーゲン発現パターンは予測可能であるが、表現型の重症度を予測することは容易でない。triple helical domainのどのような部位がVI型コラーゲンのアッセンブリーにより影響を与えうるかどうかを明らかにする必要がある。また、その結果として起こるVI型コラーゲンの局在異常の程度が表現型の重症度と相関する可能性がある。
関節拘縮や過伸展を伴うミオパチー2例でそれぞれCOL6A1,COL6A2にヘテロ接合性変異を同定した。次世代シークエンサーシステムを利用した患者の再検討によって診断効率が向上する。
rTMをVI型コラーゲン欠損線維芽細胞に添加すると接着能と生存率が改善した。
結論
国立精神・神経医療研究センター内で遺伝子診断を行える体制を確立して、患者レジストリ確立の基盤を形成することができた。
COL6遺伝子変異と表現型の間には関連性が存在することが示唆された。特にBMでは、調べ得た全例でVI型コラーゲンの筋線維鞘特異欠損を示した。このことは、UCMDとBMが一連の連続したスペクトラムを形成する疾患であることを示唆する。すなわち、VI型コラーゲン局在異常は、完全欠損から正常に近い筋線維鞘特異欠損にまで遺伝子変異によって異なり、最重症のUCMD例から典型的なUCMD例、比較的軽症のUCMD或いは比較的重症のBM例、典型的なBM例まで異なる表現型を生み出す。
また、BMにおいては、臨床的に筋力低下よりも関節拘縮が早期に顕在化し、幼少期から足関節伸展拘縮を呈することが特徴であることが明らかとなった。

公開日・更新日

公開日
2013-05-22
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201231057C

成果

専門的・学術的観点からの成果
ベスレムミオパチー(BM)疑いの大きな家系で、COL6A1遺伝子にp.Lys319Argヘテロ接合性変異を証明した。COL6A1遺伝子のp.Gly284Arg変異は重症の表現型と関連する可能性があることを明らかにした。骨格筋VI型コラーゲン局在異常型と遺伝子変異型の間の相関を明らかにした。VI型コラーゲン完全欠損例は筋線維鞘特異欠損例より運動機能は重症であることを明らかにした。rTMのVI型コラーゲン欠損線維芽細胞に対する効果をin vitroで示した。
臨床的観点からの成果
遺伝学的に確定したBM2家系の長期経過を解析した結果、早期の足関節拘縮が特徴的であること、歩行障害は筋力低下よりも尖足によって生じること、リハビリテーションやアキレス腱延長術などの整形外科的治療が有効であることを明らかにした。
UCMD患者データ解析から歩行機能、呼吸機能、脊椎変形についての病状変化を明らかにした。本研究班の扱ったコホートは大きく、歩行機能と呼吸機能についての既報の経過を強く支持し、世界ではじめて側弯症の発症から進行まで時間的変化を明らかにした。
ガイドライン等の開発
なし
その他行政的観点からの成果
なし
その他のインパクト
本研究成果をまとめ発表した論文は米国医師向けサイトMDlinksで紹介された。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
6件
その他論文(和文)
1件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
2件
学会発表(国際学会等)
2件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Mitsuhashi S, Ohkuma A, Talim B, et al.
A congenital muscular dystrophy with mitochondrial structural abnormalities caused by defective de novo phosphatidylcholine biosynthesis.
Am J Hum Genet. , 88 (6) , 845-851  (2011)
10.1016/j.ajhg.2011.05.010.
原著論文2
Fujita M, Mitsuhashi H, Isogai S, et al.
Filamin C plays an essential role in the maintenance of the structural integrity of cardiac and skeletal muscles, revealed by the medaka mutant zacro.
Dev Biol. , 361 (1) , 79-89  (2012)
10.1016/j.ydbio.2011.10.008.
原著論文3
Hattori A, Komaki H, Kawatani M, et al.
A novel mutation in the LMNA gene causes congenital muscular dystrophy with dropped head and brain involvement.
Neuromuscul Disord. , 22 (2) , 149-151  (2012)
10.1016/j.nmd.2011.08.009.
原著論文4
Keduka E, Hayashi YK, Shalaby S, et al.
In Vivo Characterization of Mutant Myotilins.
Am J Pathol. , 180 (4) , 1570-1580  (2012)
10.1016/j.ajpath.2011.12.040.
原著論文5
Yonekawa T, Komaki H, Okada M, et al.
Rapidly progressive scoliosis and repiratory deterioration in Ullrich congenital muscular dystrophy.
J Neurol Neurosurg Psychiatry. , 84 (9) , 982-988  (2013)
10.1136/jnnp-2012-304710
原著論文6
Yonekawa T, Nishino I
Ullrich congenital muscular dystrophy: clinicopathological features, natural history and pathomechanism(s).
J Neurol Neurosurg Psychiatry. , 86 (3) , 280-287  (2014)
10.1136/jnnp-2013-307052.

公開日・更新日

公開日
2017-05-25
更新日
-

収支報告書

文献番号
201231057Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
13,000,000円
(2)補助金確定額
13,000,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 3,608,834円
人件費・謝金 6,028,889円
旅費 129,690円
その他 232,587円
間接経費 3,000,000円
合計 13,000,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2015-06-10
更新日
-