前庭機能異常に関する調査研究

文献情報

文献番号
201231036A
報告書区分
総括
研究課題名
前庭機能異常に関する調査研究
課題番号
H23-難治-一般-020
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
鈴木 衞(学校法人東京医科大学 耳鼻咽喉科学講座)
研究分担者(所属機関)
  • 池園哲郎(埼玉医科大学 耳鼻咽喉科学講座)
  • 伊藤壽一(京都大学 耳鼻咽喉科学講座)
  • 柿木章伸(東京大学 耳鼻咽喉科学講座)
  • 北原 糺(大阪大学 耳鼻咽喉科学講座)
  • 肥塚 泉(聖マリアンナ医科大学 耳鼻咽喉科学講座)
  • 将積日出夫(富山大学大学院医学薬学研究部)
  • 高橋克昌(群馬大学 耳鼻咽喉科学講座)
  • 工田昌也(広島大学 耳鼻咽喉科学講座)
  • 武田憲昭(徳島大学 耳鼻咽喉科学講座)
  • 土井勝美(近畿大学 耳鼻咽喉科学講座)
  • 山下裕司(山口大学 耳鼻咽喉科学講座)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
14,154,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
メニエール病、遅発性内リンパ水腫、さらに難治性の前庭疾患の病態と治療法の確立を目的として、疫学的研究、基礎的研究、臨床的研究の三部門において研究を遂行する。
研究方法
1.疫学的研究:メニエール病の難治化、高齢化の実態とストレスなどこれに関与する因子を解明するため3年間継続した疫学調査を実施する。
2.基礎的研究:メニエール病の動物モデルを作成し、内耳障害の画像的評価法を確立する。内耳保護効果を持つ新規薬剤を選択・開発する。再生医学的手法による前庭細胞の再生を試みる。メニエール病の重症度に関係するストレス遺伝子を検索し、難病化の予測が可能な遺伝子診断法を確立する。これにはAll Japanの体制での遺伝子バンク構築を必要とする。
3.臨床的研究:メニエール病や他の前庭障害の診断、予後判定に必要な新検査を開発する。内リンパ水腫の画像診断を推進する。メニエール病に対する新規治療法、とくに中耳加圧装置の本邦独自の標準化を進める。また、ゲンタマイシン(GM)鼓室内注入療法、内リンパ嚢手術の適応について検討する。以上からメニエール病の診療指針作成に必要な基礎データを集積する。
結果と考察
1.疫学的研究:平成24年度調査では、有病率および罹患率は人口10万人対74人(本邦患者数推定9万4千人)、および人口10万人対9人(本邦新規発生患者数推定1万1千人)となり、女性優位、高齢新規発症増加の傾向が確認された。
2.基礎的研究:メニエール病の発症にはアクアポリン、バゾプレッシン(VP)が大きく関与することが前年度までの研究で明らかになった。24年度はマウス前庭器のすべてのアクアポリンの発現を免疫組織学的に明らかにした。また、高度の内リンパ水腫の発現にはVPの増加に加えて内リンパ嚢の機能不全が必要であることも判明し、メニエール病の実態に近い動物モデルが作成されている。Optical coherence tomography(OCT)を応用してメニエール病モデルモルモットの内リンパ水腫が観察できた。今後の臨床応用が期待できる。抗うつ薬の塩酸セルトラリンの慢性投与について検討し、海馬での神経栄養因子の検討からめまいに対する有効性が示唆された。側線器有毛細胞障害モデルを用いて有毛細胞保護候補薬物をスクリーニングした結果、抗酸化作用を持つケルセチンが同定できた。上皮系へ分化させたマウスiPS細胞と前庭組織との共培養の結果、間葉組織の存在下でiPS細胞から有毛細胞様細胞へ分化誘導できた。哺乳類の内耳組織にも分化誘導因子が含まれていることが判明し、再生医学的研究の新知見といえる。
3.臨床的研究:22年度からガドリニウム鼓室内投与後のMRIによる内リンパ水腫描出を試みてきた。24年度にはMRI所見から蝸牛型メニエール病の内リンパ水腫が評価できた。他の前庭疾患の病態解明にも応用できると考える。メニエール病関連遺伝子の相関解析を行い、1次解析では5個の有意なSNPを認めた。All Japanの体制でさらに遺伝子情報を蓄積していく。メニエール病の治療は各施設で特色ある治療が継続されてきた。有酸素運動はめまいを著明にコントロールするのみでなく、聴力も改善した。鼓室チューブ挿入療法のめまい抑制効果も高く、鼓室内GM投与の前段階の治療として有用である。これら個々の治療をパイリングすることがめまい発作の抑制に有効であった。ステロイドおよびGM鼓室内注入療法の難治性メニエール病への効果も明らかになった。鼓膜マッサージ機による中耳加圧療法のめまい抑制効果はMeniett○Rと同等であり、中耳加圧療法後の1か月単位の平均めまい発作回数が、めまい発作群発化終息の指標になる可能性が示唆された。精神疾患を合併しないメニエール病例は合併する例より内リンパ嚢手術後の予後が良好で、生活指導や精神療法の重要性が示唆された。また内リンパ嚢手術の効果がガドリニウムMRIで評価できたことも24年度の成果である。対側に無症候性内リンパ水腫がある場合、内リンパ嚢手術はメニエール病の両側化を抑制する効果があった。また、内リンパ嚢手術は2年以上経過したメニエール病の聴力悪化を防止することも判った。これはメニエール病の難治化や聴力悪化を防止するうえで重要なデータである。
結論
疫学調査と基礎的研究からメニエール病難治化の要因が明らかになってきた。メニエール病のモデル動物作成と内リンパ水腫の画像による評価、再生医学的手法によるiPS細胞から有毛細胞への分化誘導は新たな知見である。臨床研究では、各種治療法の適応と効果が明確になり、これらを段階的に組み合わせると治療効果が上がることが判った。これは作成予定の診療指針の骨子をなすものである。

公開日・更新日

公開日
2013-04-24
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201231036Z