脳死ドナーにおける多臓器摘出に関する教育プログラムの確立

文献情報

文献番号
201229043A
報告書区分
総括
研究課題名
脳死ドナーにおける多臓器摘出に関する教育プログラムの確立
課題番号
H24-難治等(免)-一般-009
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
古川 博之(旭川医科大学 医学部外科学講座消化器病態外科学分野)
研究分担者(所属機関)
  • 後藤満一(福島県立医科大学 医学部医学科 臓器再生外科学講座)
  • 近藤丘(東北大学 加齢医学研究所 呼吸器外科)
  • 相川厚(東邦大学 医学部 腎臓学教室)
  • 高原史郎(大阪大学 大学院 医学系研究科 先端移植基盤医療学)
  • 仁尾正記(東北大学 大学院 医学系研究科 小児外科学分野)
  • 國土典宏(東京大学 大学院 医学系研究科 臓器病態外科学肝胆膵外科・人工臓器移植外科)
  • 福嶌教偉(大阪大学 大学院 医学系研究科 重症臓器不全治療寄附講座)
  • 上本伸二(京都大学 医学研究科 外科学講座 肝胆膵・移植外科学分野)
  • 剣持敬(藤田保健衛生大学 医学部 臓器移植科)
  • 伊達洋至(京都大学大学院医学研究科 器官外科学講座呼吸器外科学)
  • 小野稔(東京大学 医学部 心臓外科・呼吸器外科)
  • 江口晋(長崎大学 大学院 医歯薬学総合研究科 移植・消化器外科第二外科)
  • 嶋村剛(北海道大学大学院医学研究科 消化器外科学分野Ⅰ)
  • 谷口雅彦(旭川医科大学 外科学講座 消化器病態外科学分野)
  • 水田耕一(自治医科大学消化器・移植外科)
  • 上野豪久(大阪大学 大学院 医学系研究科 外科学講座 小児成育外科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(免疫アレルギー疾患等予防・治療研究)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
7,211,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
臓器移植法改正後、臓器提供数が急速に増加しており、提供側・移植側での医療体制確立が求められる。我が国では1ドナーから多くの臓器が摘出される傾向があり、心臓、肺、肝臓、膵臓、腎臓が同時に摘出される多臓器摘出となることが多い。このため手術の難易度が高く、現場での教育が困難であり、一部の経験ある術者にしか手術の遂行が難しい現状がある。これに対して、本研究では安全かつ的確な多臓器摘出に向けての教育プログラムを確立する。
研究方法
新しいドナーの適応基準の確立するために、臓器移植ネットワークより脳死ドナーについての情報を収集し、各臓器の担当者がグラフト機能に影響するドナーの危険因子を分析し、これより各臓器毎に新しいドナーの基準を確立する。多臓器摘出手術手技の3DCGアニメーション作成については、各臓器担当の分担者がブタを用いた臓器摘出のデモンストレーションを行い、2眼式の立体ビデオカメラで収録したものを参考にして、河合隆史研究分担者がクオリティ エクスペリエンス デザイン株式会社 (QXD)と連携して制作を進める。多臓器摘出理解のためのe-ラーニング作成については、
インターネット上にeラーニング用のwebサイトに、新しく作成したドナー基準ならびに臓器摘出の3DCGアニメーションをコンテンツとして組み込む。これにより、参加者はいつでも当該サイトにアクセスでき、コンテンツの閲覧が可能になる。当該サイトの閲覧を通した学習により、臓器摘出手術の理解が容易となり、大動物によるシミュレーション、ならびに実際の脳死下臓器摘出が円滑に実施できることが期待される。臓器摘出シミュレーションについては、平成24年度は肝臓摘出のみを行った。平成24年11月に、九州大学の動物実験施設で18人、自治医科大学のピッグセンターで33人を対象に行った。午前中講義を行い、午後から指導者がブタを用いた肝摘出のデモンストレーションを行った後に、参加者が5-6人毎のグループに分かれて、それぞれ3-4頭のブタを用いて肝摘出シミュレーションを行った。講義を行った際に確認テストを行い、終了時にアンケート調査を行った。
結果と考察
日本の脳死臓器摘出185例の以下のドナー・データの収集を終了しており、これを各臓器の分担者に分配してドナーの適応基準について検討しているところである。肝移植成人85例についての分析結果では、脳死肝移植レシピエントの3ヶ月生存を低下させるリスクとして冷阻血時間10時間以上、MELDスコア25以上、ドナー年齢55歳以上の3つが判明した。多臓器摘出手術手技の3DCGアニメーション作成に関しては、肝臓単独摘出ならびに肝臓膵臓同時摘出のアニメーションの作成に沿ったシナリオと同時に、3DCGによる臓器のモデリングを進めている。多臓器摘出理解のためのe-ラーニング作成については、各臓器とも次の7項目について、webサイトを通して閲覧・学習が可能とする。①解剖、 ②術前準備、③開胸・開腹の実際、④各臓器の評価、⑤血管・臓器の剥離・授動、⑥カニュレーション・灌流、⑦臓器摘出。将来的には、テスト機能を付加することで、移植認定医の資格試験の一部として運用することを目指す。臓器摘出シミュレーションの際の確認テストでは、ドナー適応・管理について(2問)、解剖学的異常に遭遇した時の対処法(3問)、術中の合併症が起きた時の対処法(2問)についてテストであり、正解率は35%と低迷していた。シミュレーション終了時のアンケート調査では、卒業年次は、6年目から15年目が多く、外科医としてほぼ独立して手術ができる年代であった。参加回数については、3分の1がリピーターであった。術者として手術ができたのは23%であり、4回参加しないと術者経験ができない計算になる。シミュレーションが医療技術習得・向上に関して役にたったと答えた人がほとんどであった。また、臨床で同様の手技を行う準備はできたかの質問に対して78%が思うと答え、全く思わないは0%であった。シミュレーション時間に関して、75%がちょうどいいと答え26%が短いと答えている。 シミュレーションの会場の広さについては、ちょうどいいが65%と多くさらに23%が広いと答えている。シミュレーションを続けて行くべきかの質問については、全員が続けることが必要と回答した。
結論
このプログラムにより教育を受けたドナー術者による的確な臓器の評価と正確な臓器摘出術の施行は、手術の安全性をたかめ、グラフト不全を減少させ、移植成績の向上につながる。転じて、再移植を減少させ、より多くの患者が移植の恩恵にあずかることができる。このような系統的なドナー手術の教育システムの構築は、世界には例がなく今後、モデル・ケースとなる可能性がある。

公開日・更新日

公開日
2014-06-04
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201229043Z