関節リウマチ患者の関節機能を再建する革新的な人工股関節の創出

文献情報

文献番号
201229035A
報告書区分
総括
研究課題名
関節リウマチ患者の関節機能を再建する革新的な人工股関節の創出
課題番号
H24-難治等(免)-一般-001
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
高取 吉雄(東京大学 医学部附属病院)
研究分担者(所属機関)
  • 中村 耕三(国立障害者リハビリテーションセンター)
  • 石原 一彦(東京大学大学院 工学系研究科)
  • 田中 栄(東京大学 医学部附属病院)
  • 村上 輝夫(九州大学 バイオメカニクス研究センター)
  • 塙 隆夫(東京医科歯科大学 生体材料工学研究所)
  • 宮本 比呂志(佐賀大学 医学部)
  • 茂呂 徹(東京大学 医学部附属病院)
  • 馬淵 昭彦(東京大学大学院 医学系研究科)
  • 伊藤 英也(東京大学 医学部附属病院)
  • 橋本 雅美(ファインセラミックスセンター)
  • 京本 政之(京セラメディカル株式会社)
  • 雑賀 健一(京セラメディカル株式会社)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(免疫アレルギー疾患等予防・治療研究)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
7,693,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 本研究の目的は、独創的な基盤技術に医療材料分野における最新の知見を取り入れ、三大合併症を抑制する「革新的な人工股関節」を創出するための基礎検討を完成させることである。
研究方法
 今年度は、MPC処理の至適条件の検索、多方向摩耗の基礎検討、摩耗抑制効果の応用検討、抗感染性の検討を行った。
結果と考察
 MPC処理の至適条件の検索では、MPC処理するための至適なビタミンE添加CLPEを得るために、分子量が異なるビタミンE添加PEを準備し、最大150 kGyのガンマ線照射を行うことで、各種のビタミンE添加CLPE試験体を準備した。機械的特性(引張り特性、衝撃特性、クリープ変形性、硬さ特性)、物理特性(密度、膨潤度、架橋密度)について評価し、ガンマ線照射による架橋効果について評価した。機械特性と物理特性から評価し、至適な架橋照射線量は100~150 kGy、至適UHMWPEレジンがGUR1020であることを明らかにした。ビタミンE添加CLPEへのMPCの至適処理条件として、紫外線照射強度、紫外線照射時間、MPCモノマー濃度について検討した。紫外線照射強度を制御することでPMPC層の密度が制御でき、5.0 mW/cm2以上に至適条件があることがわかった。紫外線照射時間を制御することで、PMPC層の被覆率を制御することができ、45分以上の重合によって、基材全体が均一なPMPC層で被覆されることが確認された。MPCモノマー濃度を制御することで、PMPC層の厚みを制御することができ、0.33~0.50 mol/Lが至適条件であることがわかった。以上の結果より、ビタミンE添加CLPEへのPMPC処理至適条件を確立できた。抗酸化性と耐摩耗性を併せ持つ人工関節の実現が期待される。
 多方向摩耗の基礎検討では、ビタミンE添加CLPEにおけるPMPC処理の摩耗低減効果を、pin-on-disk型摩耗試験装置を用いて、股関節おける摩擦摩耗動作を想定した摩耗特性(多方向摺動)試験によって評価した。この結果、PMPC処理により、その摩耗量は4分の1以下となり、耐摩耗性が向上することが確認された。また、摺動面の変形量を計測したところ、PMPC処理により最大変位は約75%に、変形体積は約60%に抑制されていた。ビタミンE添加CLPEは耐摩耗性と抗酸化性を併せ持つ新しい人工関節材料として期待されることが示唆された。
 摩耗抑制効果の応用検討では、MPC処理を施したビタミンE添加CLPEの耐摩耗特性を評価するため、手術後の歩行を再現する股関節シミュレーターを用いCo-Cr-Mo合金骨頭と組み合わせてISO規格14242-3に準じた試験を行った。まず、重量変化から摩耗量を計測すると、未処理のCLPEが重量減少を示し、摩耗しているのに対し、MPC処理を施したビタミンE添加CLPEではこのような傾向が見られず、摩耗は抑制されていた。また、試験終了後のライナー表面を三次元解析装置、レーザー顕微鏡で解析すると、MPC処理を施したビタミンE添加CLPEではほとんど摩耗がみられなかった。さらに、摩耗粉を抽出して解析しても、個数・面積・体積とも、MPC処理を施したビタミンE添加CLPEで顕著に抑制されることが明らかとなり、優れた耐摩耗特性を有することが明らかとなった。
 抗感染性の検討では、検討の前提として、タンパク質吸着に影響を与える材料表面の親水性と表面電荷を評価した。この結果、MPC処理ビタミンE添加架橋ポリエチレンの表面は、親水性の高い、電気的中性の表面を有していることが明らとなった。生体内においては、インプラント表面にまずタンパク質が吸着し、この吸着層に細菌が接着することから、細菌付着の抑制が期待できる。さらに、次年度以降の検討に備え、既にMPC処理方法を確立している金属試験片を用いて、「細菌付着抑制効果を検討するための実験系」の構築を行った。この結果、金属片を用いた検討ではあったが、MPC処理により、バイオフィルム形成の端緒となる「菌の付着」が顕著に阻害されたことから、MPC処理を施したビタミンE添加架橋ポリエチレンの表面においてもバイオフィルム形成を防止する効果が期待される。
結論
 以上の研究成果は、革新的な人工股関節の創出が十分に期待できる内容であった。

公開日・更新日

公開日
2013-05-31
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201229035Z